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一体、誰が私の……モモカさまの靴にこんな嫌がらせをしたのでしょう。
まだデビューしたての『春告娘』のイベント会場は、大型商業施設の広場であり、控室はあると言っても、それほど警備が厳しい訳でもありませんので、外部から侵入することも可能ですが、衣装を運び込んでからは関係者が絶えず出入りしている以上、やはり怪しいのは内部の者です。
今日の段取りを確認している、小田原と愛に目を向けます。
すでに衣装を着ている愛の足元は、変りがないようです。
それにしても、なぜ愛のイメージカラーがピンク……桜色で、モモカさまが黄色、もとい、山吹色なのかしら?
モモカさまは桃香なのですから、桃色、ピンクがイメージカラーであるべきなのに、愛が桜色ということで、ピンクを獲られてしまったのです。
おまけに、愛はフワフワのミニ丈のスカートなのに、モモカさまは長ズボンなのです。
おかしい。絶対、おかしいですわ!
アイドルと言ったら、ミニスカートのはずなのに!
細身のズボンはモモカさまのスタイルの良いおみあしに似合ってはいますが、私は裾を翻して踊りたいですわ!
ちなみに、もう一人いる『春告娘』の一員、藤野千草のイメージカラーは藤色です。
ショートカットのクール枠。ホットパンツが似合っています。
自己紹介はローテンションで『あなたの心を絡め取ります、千草です』。
返すコールは『君の蔦にがんじがらめ! チーちゃん大好き!』です。
それにしても、クールを通り越して、やる気の無い子。
今も椅子に座って、スマホを弄っています。
練習もソツなくこなしますし、ダンスの技術はメンバー一ですが、まったく熱が感じられません。
なぜアイドルになろうと思ったのかしら?
そんな千草の足元も普通そう。
つまり、嫌がらせを受けたのは私だけ……きぃいいいい!!
犯人を見つけたら、只では置きませんわよ!
……ぜいぜい。
『イベントが始まる前に余計な体力使わないの』
肩に乗ったモモカさまが、やんわりと諌めて下さいました。
『本当に二人しかいないのでしょうか、観客?』
せめて、三人以上は居て欲しい。
こんな嫌がらせを受けた上に観客が二人なんて、千草以上にやる気が失われる気がします。
『何度やっても二人だったわよ』
『ちょっとだけ様子を見に行っても?』
舞台に出て二人しかいない観客席を見るよりは、予め確認した方が衝撃が少ないと思いモモカさまに提案してみると『おススメはしないわよ』と言われながらも止められなかったので、ぬちょぬちょする足元に顔を顰めながら控室を出て、舞台袖に向かいました。
――と、『久』の姿になった白加賀久延に出くわしてしまいました。
あれから顔を合わせていませんでしたが、あまり元気そうではありません。
挨拶しようかと思いましたが、制汗剤は手放さないものの、あちらが『久』になりきっているとすれば、モモカさまは彼の正体が久延さんだと言うことを知らないはずです。
こちらも、それほど関わりたくないこともあって、無視することにしました。
脇を通り過ぎようとしたら、「やっぱりモモカってそういうキャラだよな」と据わった目で吐き捨てられました。
「なんですって! モモカさ……が、なんですって?」
あのエンディングを見た私が白加賀久延を忌み嫌うのは分かりますが、相手がモモカさまをそこまで憎む理由が分かりません。
まだゲームも序盤ではないですの。
靴の中はナメクジまみれだし、久延さんは陰気臭いし、まったく、気分が悪いですわ。
「しらばっくれるつもりなんだ? 自分の目で見てみれば?」
舞台袖の覆いをめくられました。
そこには、観覧スペースを覆い尽くす人、人、人。
『えええ!!! どうして!? モモカさま! ……モモカさま!?』
『う、うちの……梅花谷グループの社員達だわ。
胸に、社章が……梅の、バッチ……』
苦しげに言うモモカさまの言葉通り、よく見れば、ほとんどの人間に梅花谷グループの社章である梅鉢紋がついていました。
若い人もそれなりにいますが、大半がアイドルには興味がなさそうな中年から壮年の男性で、家族で来たのか、子供連れもちらほら見えます。
『どういうことでしょう?』
ここ数日、分からないことばかりで、頭痛がしてきます。
「実家の力を使うなんて卑怯だよね。
こんなことして恥ずかしくないの?」
冷やかな声で、久延さんがモモカさまを追いつめて行きます。
そう、モモカさまはこんなことをするアイドルではないのです。
でも、私は正直、安心しました。
たとえ、金で雇った人間だろうが、いないよりはマシですわ。
モモカさまも久延さんも、恋に猪突猛進な上に潔癖すぎます。
「どうしたんですかぁ」
そこに愛の呑気な声が響きました。
「め……愛ちゃん!」
先ほどまでの陰険さをひっこめ、久延さんは愛を前にデレデレ……ではなく、オドオドしています。
あらら??
そう言えば、偽久延さんは当初、かなり積極的に愛にアプローチしていて、久に変装するような性格ではなさそうでしたのに、いきなり豹変したものですわ。
これまた分かりません。
『それは分かるでしょう。
この間、恰好悪い姿を見られたから、恥ずかしいのよ』
『――そ、そうなんですか!!!
さすがモモカさま、人間の機微に通じていますのね』
『いや……普通、想像つくと思いますわよ。
あなた、恋をしたことありませんの?』
『恋……??? 現実の男に?……ですか?』
『そうよ』
そんなの、ただの一度もありませんわ!
だって私、アイドル志望ですもの!!




