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雑品食堂   作者: SiviA
2/3

宴会

◆1◆

夜…

「ある程度は片付いたかな。まぁ、東京に未だに荷物を置きっぱなしだし、持ってきたものも少ないしなぁ」

波瑠はダンボールをたたみながら独り言を呟く。

「ああ、だいぶ片付いたね料理長!」

吉加が中身の入った皿をもって現れる。

「吉加…もう夜なんだけど」

「細かいことは言わんでええよ。そろそろみんなも来るし」

「…来る?」

そう言われて耳を澄ませてみると、なんだか外が騒がしい…

「あぁ、波瑠ちん…これから宴会するから!」

「ナンデ!?」

そう言って、張り切って入ってきたのは三國だ。

「島に人が来るのは久々でねぇ…人が来るたび、宴会三昧なんだよねぇ。ま、いつものことだから楽しめばいいと思うよ」

「なーんでうちでやるん…」

三國が笑う。

「このうちがこのあたりでいっちばん、広いからだよ」

「…テーブル出せばいいんでしょ?」

波瑠は諦めて折りたたみのテーブルを出した。

みんながぼちぼち集まってきて…30分後。

「もう…テーブルがないですよ!」

乗り切らないほどの料理と酒が並んだ。

「少しは遠慮してくださいよ!」

「いやぁ、みんなこんなに用意するとは思わなかった」

吉加が苦笑いする。

「というか、私も料理人なんだけど…」

「みんな昼間のお礼がしたくて飢えてるのさ」

どうやら、カレーのお礼らしい。ここまで用意されてしまった以上…断る理由はどこにもなかった!

「神崎さん、ビール大丈夫ですか?」

ようやく座れた波瑠にひとりの女性が近づく。

どうやら、同い年…26歳くらいの女性だ。

「ああ、波瑠ちゃん。この子は有沢真名。(ありさわまな)島に嫁いできたんだよ」

「どうも、有沢です。…本当は私の旦那も呼びたかったんですけど…漁に出てしまっていて…」

有沢さんは美しい、という言葉がよく似合う人だと、波瑠は思った。

「神崎さんは結婚…とか」

「してないしてない。いい相手がいなくてねぇ」

そう言いながら波瑠は有沢から受け取った缶ビールを開ける。

酒は強くないが人並み以上には飲めるタイプだ。

「ビールなんて飲むの久々…いっつもワインばっかだからね」

「フランス料理にはワインって感じだよな」

「ビールでないことは確かだよね」

波瑠は適当に料理をつまむ。

なにかの煮物のようだ。

「どうですか?それ、私が作ったんですけど…」

「うん、美味しい。有沢さん、料理の才能あるよ」

「良かったぁ…結構有名なところで働いてたって聞いたので…」

有沢が笑う。

「有名なとこ…まあ、島に来るまではリストランテ・フィリシテの料理長だった」

「ええっ!?あの…フィリシテですか!」

有沢がとても驚いた顔をする。

「嫁ぐ前に一度行ったことがあります。…とても繊細で美しい料理でした」

「へぇ…意外とすげえんだな、波瑠ちん」

「意外とってなんだよ!一流料理店で一流料理人だっつーの!」

波瑠が三國を締め落とした。

◆2◆

「ん?なんか騒がしかったから寄ったんだけど、何?」

質素でナチュラルなメイクの女性だ。

「お、おかえりーシキねーね」

シキ…彼女はファイルや筆記具の詰まったカバンを置く。

「新しい住人。シキねーねと同じ料理人なんだってさー」

玄関に座って裂けるチーズを食べていた吉加が答えた。

さて、失礼ながら、私から解説させていただこう。

彼女…シキのことについてだ。

名は山城四季。(やましろしき)歳は二十歳。

九州本土にある専門学校の生徒であり、料理の道を究めんとする若人だ。

「島に人かぁ…出てく人はいっぱいいるけど、入ってくる人は久しぶりだね」

「せやねぇ…中で宴会やっとるけん、料理たかってきたらいいんじゃない?」

「OK、であんたはなんでこんなとこにいんの?」

吉加は炭酸のコップを傾けた。

「中、酒臭くてさぁ…空気によった」

「なるほど、理解」

◆3◆

「っと、波瑠。うちの教え子が帰って来たわ」

「え?さらに人?」

玄関につながる大広間の襖戸があく。

「人、人、人、人、多ッ!」

四季が呆れ戸惑い驚く。

「おい、四季。こっちだこっち」

三國が手を上げて四季を呼ぶ。

「三國先生…?なんで?」

「えっと、四季ちゃん?」

波瑠が立ち上がる。

「どうも、新しくこの島にやってきました。神崎波瑠といいます」

「あ、どうも…山城四…ええっ!?神崎波瑠ゥ!?」

「ん、そうだけど」

四季がスマホを取り出して、1枚とった。

「あの、レストランテ・フィリシテの料理長の!」

「う、うん…怖いよ君?」

「お、お会いできて光栄です!」

ものすごい勢いの握手だった。

「三國先生…」

「山城は根っからの料理バカだ。ほれ、離れろ!」

三國が四季を引き剥がした。

「ていうか、三國先生知り合いなの!?」

「昔のよしみだよ」

「私よりも三國の方が先輩だよ」

波瑠がビールを飲み干した。

「前から思ってたけど、三國先生なんでそんなにすごい知り合いが多いん?」

「ん?そうでもないって」

「…それはすごいことを否定してるわけじゃないんだよね?」

波瑠が怪訝な顔をする。

「で、四季ちゃんも料理人志望なんだっけ」

波瑠が四季に聞いた。

「はい!まだどこで働きたいとかそういうのはないけど…」

「そ、頑張って。努力は人を裏切らないと思うから」

◆4◆

約、二時間後。

「…はっ」

四季が起きると、皆が帰る支度をしていた。

「よう、起きたか?四季、お前慣れん酒なんて飲むから…」

「あ、れ…波瑠さん…は?」

「知らん。部屋で寝てるのかもな?」

四季が立ち上がる。足元が少しフラフラしていた。

「私…ちょっと探してきます…」

「大丈夫か?気をつけろよー。倒れんよーにな」

四季は一人で廊下に出た。

「うう、夜風が寒…あ、あれは?」

夜風を身に受け、見つけたのはもうひとむねのお店。

その窓にうっすらと明かりが灯っていた。

「絶対あそこだ、間違いない」

四季が入口の戸をガラガラと開ける。

「おや、四季ちゃんどうしたの?」

「あ、波瑠さんはどこにいったかなぁって」

「ふうん、ま、座って」

波瑠が丼を2つだす。

「久々にビール飲んだらそばが食べたくなった。ゆでただけ、スープもこってこての市販品だけど…せっかくだから食べてきな」

そばにはかまぼこ、スープにはネギと鶏肉が入っていた。

「うちの年越し蕎麦ではさらに海老天が入る。家庭の味ってやつだね」

「へえ、美味しそうですね」

「今でも年越しそばにはエビが入ってないとね。物足りない感じだよ。…フランスにはそばがなかったから、なんか懐かしい」

波瑠がそばをすすった。ずずっといい音を立てて。

「えと、その…どうやったら、波瑠みたく、フランス行ったりできますか?」

「…料理人に必要なことを学ぶこと」

「それは、知識ってことですか?」

波瑠は笑った。そして言った。

「な訳無いじゃん。そんなん、レシピ本だって知ってることだ」

「えっと、じゃあ?」

「自分の料理で、誰か、ひとりでもいい。楽しい顔、嬉しい顔。時には泣き顔も…見てみたいって。ボクが思ってるのはそれだけさ」

波瑠がそばをおいて言った。

その目はほかのどんな時よりも違って、凛々しく見えたという。

「波瑠さん…」

「あ、ごめん。酔っ払いのたわごとだから、きにしないで」

「なんか、波瑠さんって…」

真面目じゃない…と四季は言いかける。

「おう、私ら帰るんだけど、なんでそば食ってんの?」

「三國か、そりゃあ、うどんよりそばが好きだから、に決まってるでしょう」

「そうじゃねえよ。…四季もそば食ってないで帰るぞ」

波瑠が立ち上がる。

「三國、近くまで送ろう。四季ちゃんはそば食ってていいよ。私が帰ってきたら片すし」

「あ、すいません、お願いします」

◆5◆

「今日は星がきれいだね、三國」

「そうだなぁ…波瑠、すまんな」

「気にするなよ、三國。昼も言ったが、私の意志だ」

ああ、いやと三國。

「四季のことだよ。あいつ、昔からああでさ。お前にまとわりつくことになると思うけど…」

「別にかまわないよ、私はね」

三國はくすりと笑う。

「変わったな、波瑠。昔のお前は無気力なやつだった」

「えー…そうかな?」

「ああ、少なくとも、ガキは嫌いなタイプだったな」

三國がニヤニヤしながらいう。

「フランスで何かあったのか?…ま、今度聞かせてもらうよ」

「ん?大したことはなかったよ」

波瑠が笑う。

「フランスは割といいとこだった。正直、二年しかいなかったのが惜しいくらいだ」

「私はあの波瑠がフランス語を勉強したことが驚きだよ」

「難しくはあったけど、やり始めたら早かった」

三國が立ち止まる。

どうやら、いつの間にか付いていたようだ。

「んじゃあ、また明日。じゃね、波瑠ちん」

「うん、じゃあね三國」

時刻は九時半を少し過ぎた頃だ。

もちろん、いつもならまだ少しわがままな客のリクエストに応えるべく、奮闘している時間だ。

「…暇だな。忙しかった頃はまあ、充実してたってことなんだな」

夜道を歩く波瑠のめに入ってきたのは神社の鳥居だ。

「へえ、こんなところにも神社があるんだな。…よってみるか」

ちょっとした段差の長い道が続き、石の畳が月光に光る。

神社の中には誰もいなかった。

どうやらここは無人のようだ…いや。

違う。一人いる。

「ん?ああ。客か…珍しいな」

巫女が一人。黒い髪を長く垂らした…少女だ。

「ようこそ、別にここは神聖なとこでもない。神社だけど」

「んと、宴会にはいなかったよね」

「うん。…ああ、失礼。人ごみは嫌いでね。そもそも、人が嫌いだ。…君は?」

波瑠が手をひらひらと振る。

「人さ。名は神崎波瑠。今年27になる」

「そうか。私は葛切古都。(くずきりこと)このあたりの山の地主の娘でね。…学校はいってない。人は嫌いでね」

「葛切?あの、葛切財閥の?」

古都の顔に影が差す。

「父のことは私には全く関係ない。ほっておいてもらおうか」

「…私はただの料理人。そんな大きなことにも、親子の関係にも口を出すつもりはない」

「…それならいいけど」

波瑠は笑った。

そして、首から何かを外し、古都にほおり投げた。

「ん?なんだこれ」

「お守り。もっときな。私がこれ以上大物になったとき用に」

「はぁ…」

古都は手の中のものを見る。それは、縦に大きくひびの入ったペンダントだった。

「それは私からのプレゼントってことで」

「いや、受け取れない。悪いけど」

「そう言われても返却は認めない」

やだ、この人話通じない。

そう思われている表情だ。

「…めんどくさいな。これだから人は嫌いなんだ」

「ま、そう云いなさんな。人も割といいもんよ?」

「なーんにも知らないくせに…知った口をきくんだな」

古都はため息とともに吐き出す。

波瑠は古都に近づいた。

「来るな!」

「ネタばらしの時間だよ」

波瑠は少女をまっすぐに見る。

「…葛切英四郎、あんたの父親にはフランスで随分せわになったものでね。そのペンダントは英四郎からもらったもんなんだ」

「…私の父が?にわかには信じられない」

「そのペンダントの裏に私の名と…君の名が入ってる」

確かに、ローマ字でCOTOと名が入っている。

「はあ、人の縁というのは奇妙なものだな」

「別に探し出して届けてくれってわけでもなかったけどね。せっかくだ、プレゼント」

「…といえど、私はこの島から出るつもりはないし、妹が家を継ぐことになってる」

古都が箒を置いた。

「…まあ。お菓子でも食うか?」

「うん、食べる、いただきます」

柿ピーが渡された。

「…」

「…好きなんだ柿ピー。もしかして、高価なお菓子を期待してた?」

「いや、仮にもお嬢様が柿ピーをくれるとは…流石に思わなかった」

古都は自分の分の柿ピーを開けた。

「のんびりとお茶を飲みながら柿ピーを食べる。そんな暮らしが合ってるのさ」

「じいさんみたい」

「あんたより若いから、私」

波瑠も柿ピーを開ける。

◆6◆

「お嬢様、先ほどの方は?」

あれから少し後のこと。葛切の前にスーツの男が現れた。

「さぁ、人嫌いの私にわかるわけがないでしょう」

「あぁ、私の方でそこは、把握しております。レストランテ・フィリシテの元料理長。三ツ星シェフの称号も持っている有名な方です」

「へえ、そうなのですか。タダの変な人かと思っていました」

男性が冊子を閉じる。

「まあ、変な人なのは間違いないでしょう。英四郎様の友人なのですから」

「若いのに、大変ですね」

「ええ、本当に」

古都がお茶を置く。

「…あの人なら、私の料理人にふさわしいと思います」

「お声をおかけになってはいかがですか?」

「嫌です」

古都はすぐに断った。

◆7◆

「さてと」

ひとりの男がいた。

「待っていたまえ、神崎君」

ひとりの男がいた。

「今、そちらに向かうからな」

ひとりの男がいた。

「僕がいなくてさみしいと思うが、もう少し耐えてくれ」

ひとりの男がいた。

「さ、いこうか」


あとがき 雑談食堂2nd

波瑠「柿ピー…か。辛いのはあんま好きじゃないんだよなぁ」

古都「そうなのか?悪いことをしたな」

波瑠「ああ、きにしないで。食べるには食べるから」

古都「そうか。…昔はこのピーナッツこそ不要。そう思っていたんだがな」

波瑠「うん」

古都「でも、ある日気がついたんだ。このピーナッツこそ、至福なのだと」

波瑠「う。うん…」

古都「辛さとしょっぱさのコントラスト、これこそ、最高の味だよ」

波瑠「…」

古都「理解できてないのは理解したから、その顔早めてくれないか…」

波瑠「あ、えっと、うん、努力はする…」


どうも、SiviAです。あとがきって好きなんですが、書く事がないです。あと、料理してるシーンがなくても気にしないでください。そういう小説ですし。

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