第5話
和恵の家は学校から駅まで歩き、そこから電車で30分というかなり遠い所にある。
しかも駅から更に20分近く歩かなければならない。
「これがお前の家か・・・・」
入り口は大手門みたいな感じで、そこから木々に囲まれた道を更に歩くこと5分ちょい。
その木々の道を抜けると、木に囲まれた東京ドーム並の高原が広がり、その中に白い屋敷がドーンとあった。
「ここから先はセキュリティシステムが働くからここで待ってて」
っと和恵は俺の肩から飛び降り、屋敷へと走っていった。
俺の足でも屋敷まで歩いて5分くらいかかりそうなのに、あんな小さい和恵が一人で行くとしたら、かなりの時間を要するだろう。
それに屋敷の中を回る時間も含めば、軽く1時間は超えるだろう。
「どうするかな」
遠くからは犬の鳴き声が響いてくるわ、門が勝手に開くわって・・・・え?
「藤原君〜逃げて」
ちょっと待て待て、かなりの数のドーベルマンに追われて、逃げ帰ってくる和恵。
俺も瞬時にこの場から立ち去りたかったが、和恵を置いていくわけには・・・・
和恵を待つより迎えに行く方が、明らか早いと判断し、瞬時に和恵を拾いに行き、全速力で走った。
しかし、ドーベルマンは諦めずに追ってき、ようやく大手門を抜けた所で、振り切った。
「大丈夫だと思ったんだけどな」
「何が大丈夫だ。捕まったら不法侵入で訴えられる所だったぞ」
捕まってなくても立派な不法侵入だったけどな。
でもこれでこっそり入るのはままならなくなったってわけだ。
正攻法で真正面からいっても、和恵本人がいないのに、家の中に入れてもらえるわけもないしな。
「結局何を調べたかったんだ?」
俺の肩にしがみ付いている和恵に問うた。
「・・・・・」
「言いたくなかったら別にいいさ。それじゃあ家に帰るぞ」
っと俺が駅の方へ足を進めた時、和恵が口を開いた。
「鞄がないか調べたかったの」
「学校のか?」
ほんの微かだが首が縦に動いた。
俺もさっきそれは気にはなっていたんだけど、全くわからない。
本人がそのリスの姿に変わってしまったのなら、持ち物は残るはずだ。
それがないってことは和恵の本体と一緒にあるのは明確だ。
でも本体が行方不明だからこんな大事件になってるんだけどな。
そんなこんなで、今日は帰路についた。
「ただいぃ・・。」
家に入たとたん、黒い煙に襲われた。
「ゲホゲホ、なんだよこれ」
煙に出所は台所のようだ。
「お兄、フライパンが」
「はぁ?」
見るとフライパンとその横にあった鍋が一緒に業火のごとく燃え上がっていた。
瞬時に判断した俺は、水道の蛇口の指で出口を抑え、炎の方に水が出るようにして、鎮火させた。
そのあと当然ガスも切ったが・・・
「これは一体どういうことだ?」
フライパンの上には炭化した魚のようなものに、鍋の中身は空で取っ手がドロドロに熔けていた。
聞く話によると、今日は母さんは主婦たちの集まりで、いないらしく晩飯の出前代を置いていたのにも関わらず、
でしゃばって料理をしようとしてこうなったらしい。
「まぁ、過ぎたことはしょうがない。今からピザでも頼んでやるから、金」
「材料費に全部使っちゃった」
そんなにかかるはずないだろ。
どうせ残りのお金でお菓子でも買ったに違いない。
その証拠に、机の上に食べ散らかしたお菓子に、ゴミ箱の中にもお菓子の包み紙、それプラス菓子棚の中にもまだまだ豊富にお菓子が残っていた。
そんなに在庫を置いとくような家じゃないため、すぐにわかった。
ざっと、材料費500円、お菓子1500円という内訳だろう。
「私お腹いっぱいだから、今日の晩御飯はなしでいいよ」
「私も」
という徹底的な証言まで残して二人は2階に上がっていった。
そりゃこれだけ菓子ばっか食ったら充分だろ。
「っておい片付けぐらいしていけよ」
しょうがない、お金は後で母さんに別に貰って、俺は家にある残り物で何か作るとするか。
冷蔵庫をとりあえず開けてみたが、いろんな物がありすぎて、逆に何を作るか迷った。
少なかったら、適当に全て使って炒めたり、揚げたりできるんだが、こう種類が豊富だとかえって困るし、作る気もなくなる。
それにまずは台所の片付けという試練が俺には待っている。
「これじゃあ逃げ出したくなるよね」
和恵がブレザーのポケットから顔を出して言った。
「でもほったらかしにしてたら、俺にも雷が落ちてきそうだしな」
そう呟きながら、とりあえず焦げを取るためゴム手袋をし、金たわしでこすり始めた時、ベルがなった。
準備万端でさぁこれからってときに、何で誰か来るかな。
めんどくさい、居留守だ居留守。
「出なくていいの?」
何度も鳴り響くベルを気にし、和恵が俺に聞いてきた。
因みに和恵は掃除を始める前にブレザーの中から、机の上に移動させた。
「こんな時間に来る奴はどうせ、どうでもいい奴なんだよ」
そう言った瞬間玄関のドアが開いた。
「こんばんはー」
尊子だ。
「へぇ〜どうでもいい人ねぇ」
普段はどうでもいいんだよ。
「うわ、なにこれ?こげくさっ」
入って来た途端、第一声がそれか。
「なんか用か」
「うん、ちょっとね」
ん?なんか歯切れが悪いな今日は?
松岡に告られて、まだ迷ってるのか。
でもそんなこと今、聞いたら駄目だ。まずは・・・
「え?何これ?」
俺は有無を言わさずにゴム手袋と金たわしを渡した。
「ゴミ袋はそこな?っで雑巾はそこの戸棚の中」
そう言って、また焦げ取りの作業に戻った。
「しょうがないわねぇ」
ぶつぶつと文句を言いながらも、掃除を手伝ってくれた。
おかげで、母さんが帰ってくるまでに片付けることができた。
「や〜悪いな、わざわざ手伝いにきてもらって。しかも飯まで作ってもらって」
「別にいいよ、ってこんなことしに来たんじゃないの」
あぁ、そういえば何しに来たんだ?
「きっと松岡君のことですよ」
和恵が俺にそっと教えてくれた。
「松岡のことか」
「え、あ、う、うん」
どうやら図星のようだ。
図星をつかれたぐらいで、慌てるとはまだまだ子供だな。
しかも急におとなしくなりやがって、話づらいじゃねぇか。
「藤原君が単刀直入に言うからでしょ」
そんなこと言われてもなぁ。
「正直はどう思う?」
最初に口を開いたのは尊子だった。
「何が?」
「私と松岡君と付き合うの」
また変なことを聞く女だな。あの松岡と付き合えるんだったら尊子にとってもラッキーじゃねえのか?
それとも他の女を敵に回すのが怖いからこんなことを聞いてるのか?
その前に・・・・
「なんでそんなこと俺に・・ってイテッ」
急に和恵が俺の耳たぶに噛み付いてきた。
「そんなこと絶対に言わないで。相談してくる方の身にもなってあげなよ」
和恵に注意された。
確かにそんなこと聞く必要ないな。
「どう思うとか関係ないんじゃねえのか?自分がそれでいいんだったら俺もいいと思う。
松岡と付き合ったことで、俺たちの仲が悪くなるとか考えてたのか?だったらそんなの気にするな」
そのまま自分の考えを口にした。
「うん」
なんか元気のない返事だけどこれでよかったのか?
でも俺に期待通りの返事をしろっていうのが、難しいだろ。
ってか期待通りの返事ってなんなんだよ。
「送らなくていいか?」
帰る際、俺は玄関まで見送った。
「うん、大丈夫・・・岸本さん」
「え?」
「岸本さんの気持ち、今ならすごいわかる気がするよ」
「?」
そう言い残して、尊子は帰っていった。
「藤原君、ってもしかして鈍感?」
ん?・・・あーーーー
俺はやっと今まで忘れてたことに気づき、家を飛び出した。
「やっと気づいたのね。だったら・・・」
「ラッシュの散歩忘れてた」
ガブ
「いって〜〜〜」
さっきの数倍の力で耳たぶをかじられた。
「何するんだよ」
「もう知らない」
一体なんだっていうんだよ。
約215日の期間を経て5話を投稿という見事なサボリっぷりから脱出した作者だが、もうこの作品読んでる人はいないだろうなぁw一時は作品自体削除させようと考えましたけど、初の恋愛モンなんで完成させたいと思いますので、暖かい目で見守ってください。