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第3話

「正直、遅刻するよ」

 誰かに身体を揺すられている。

「あと30分」

「何真面目な解答してるのよ。こういう時は5分でしょ。って2度寝しない」

「ぐはっ」

 腹部に強烈な圧迫感を感じて、俺は飛び起きた。

「おはよう、正直」

「おはようじゃねぇ、何乗せたんだよ」

 起こしにきた犯人は尊子で、俺の腹部に乗かかってきたのは、昔使っていた5キロのダンベルだ。

「内臓破裂したらどうするんだよ」

「ごめん、起こすのに必死で近くにあったもんだったから」

 いつか人殺ししかねんな。

 時計を見るとまだ7時半だ。

 なんだまだ余裕があるじゃねぇか。 

「それじゃあ下で待ってるからね」

「あぁ」

 やれやれ、朝から騒がしいったらありゃしねぇ。

 俺はハンガーにかかってある制服をベッドの上に置き、パジャマを脱ぎ始めた。

「あ、あ、あ・・・・ちょっと」

 そういえば和恵がいたんだ。

「もう起きてたのか」

 ゲージの扉を開け、和恵を中からだした。

「うん、芝地さんの声で・・・いつも起こしにきてくれるの?」

「そうだな、ほぼ毎日だな」

 既に日常茶判事だから、気にしてなかったけど、もしかして俺って結構いい身分かも。

 そうだ、学校に行く前にいろいろ決めとかなくちゃいけなかったんだ。

「岸本さんは今日も学校に行くのか?」

「うん。授業についていけなくなったら困るし」

 それって戻れることを前提にしてるだろ。

 まぁ、いつまでもこのままってことはないと思うしな。

「あとは名前だな。どういう名前がいい?和恵だからかーくんとか?」

「なんか男っぽいから嫌。クルルとかかわいい名前がいい」

「じゃあそれで」

 っという時間も時間だったからそれに決定した。

 その後、和恵には後ろを向いてもらってるうちに制服に着替え、和恵を肩に乗せて1階に降りた。


「尊子ちゃんいつも悪いね」

「いえいえ、好きでやってますから」

 1階に降りると尊子と母さんが朝食の片付けをしていた。

 テーブルの上に残ってるのは俺の分だけだ。

 妹二人は毎日部活みたいで、俺が起きる時にはいつもいない。

「ぼーっとしてないでさっさとお食べ。尊子ちゃんを待たせるんじゃないよ」

 いちいち言われなくても分かってるよ。

 俺はご飯に味噌汁をかけ、一気に口の中に流し込み、数秒で食べ終わった。

「早いね」

「男だからな」

 根拠もない返事をし、俺は尊子と一緒に家を出た。


「芝地さん、おはよう」

「松岡君、おはよう」

 背後から現れたのはハンサムボーイの松岡だ。

 こいつといると厄介なんだよなぁ。

「マリアも連れてきてるのか」

 っと俺の頭に乗っている和恵の頭を撫でる。

 和恵はただじっとしているだけだ。

 和恵はなんでこいつだと無抵抗なんだよ。

「あとマリアじゃねぇ。クルルだ。勝手に名づけるな」

「それは失敬」

 っとハンカチをポケットから取り出し、しらじらしく額の汗を拭いている。

 多分美男子だから絵になるのだろう。

 俺みたいな奴は服の袖で拭くのがお似合いさ。

「それにしても今日は暑いね」

「もう夏だからね」

 尊子は苦笑いしながら話を合わしてる。

「今日の昼休み屋上に来てくれ」

「え?」

 松岡が、尊子に聞こえないように、俺の耳元で耳打ちしてきた。

「それじゃあ、俺は急ぐから」

 っと俺の有無を言わずにさっさと行っちまった。

 俺を呼び出すとか、意味がわからねぇぞ。

 男が女を呼び出すなら、今の時期では大体見当がつくけど、同姓を呼び出すとか前代未聞だぞ。

 呼び出される覚えもないし、何か本能的に嫌な予感がする。

 まさか・・・・

「どうしたの?顔色悪いよ」

「いや、なんでもない」

 相当悪い顔をしていたのだろう。

 俺は生返事をし、再び松岡に呼び出されそうな理由を考えた。

 今、冷静に考えれば、思い当たる節は結構ある。

 あれだけルックスがよくて女子にもモテモテのくせに何故、具体的に特定の女子を作らないのか。

 その先に俺が思い当たる答えは1つだ。

 ガチホモ。

 嫌だ。俺はいたってノーマルだ。

 BLなんか喜ぶのは婦女子ぐらいだし、俺みたいな平凡な男が相手だと見栄えがわるいはずだ。

 考えてくるだけで気分を悪くするのでこの先はできるだけ考えないようにしておこう。



 できるだけ考えないようにしたのだが、授業中どうも松岡の言葉がひっかかい授業に集中できない。

 普段から集中できてないけど、今回は異常だ。

 外の景色とか眺めたり居眠りするのが普通だが、松岡の方に視線がいってしまう。

 あぁ、俺はめちゃくちゃ危険な橋を渡ろうとしていないか?

 席が一番端の一番後ろのおかげで、誰にも気づかれず和恵にはノートを書いてもらえてるが、他人の目もあまり気にすることがない。

 もし俺が真ん中の席だとしたら、世間の目を気にして、松岡などを見つめると言う行為など絶対しないだろう。

 もう一度言っておく。ってか自分に言い聞かせておこう。

 俺はいたってノーマルだ。

 その言葉をおまじない代わりにし、なんとか昼休みまで耐え抜いた。

 飯はいつもの正通と尊子と食べた後、松岡と目が合い、アイコンタクトを交わしてきた。

 多分いまから屋上に来いと言ってるのだろう。

 俺が立ち上がると、松岡も立ち上がり、先に屋上の方へ向かって行った。

「悪い、ちょっと用事があるから」

 2人にそう言い残して、俺も屋上に向かった。

「一体なんだろうね」

「俺が知るか」

 頭に乗っていた和恵が肩まで降りてきて、話し掛けてきた。

 和恵は話し掛けてくるときと、授業の時以外は、常に俺の頭の上に乗っている。

 そう言えばこいつ、昨日松岡に抱かれてから様子が変だったよな。

「岸本さんも松岡のことが好きなのか?」

「・・・・・」

 答えは無言。

 まぁたいていの女子はあいつの甘いマスクで落とされてるだけだけどな。

 でも松岡のせいで俺が和恵にフラれたとなるとすごいムカツク。

 告られてもきっぱりと断ってやる。

 っと俺は屋上の重たいドアを開けた。


 太陽の暑い日ざしが身体全体を照り付けて、何もしなくても汗が吹き出そうだ。

 もっと場所を選べよな。

 俺でも校庭の木陰という、マシな場所を選んだっていうのに。

「待ちくたびれたよ」

 待って1分程度のくせによく言うぜ。

「それでこんな所に呼び出して何のようだ?」

 早く教室に戻りたいがため、俺はぶっきらぼうに言った。

「うむ、実は俺も意中の相手に告白しようと思うんだ。俺は今まで真剣に付き合ったことがないからさ」

 お前が相手だと断る女なんか一人もいないはずだ。女だったらな。

「そこで君に1つ聞きたいことがある。君は本当に和恵のことが好きだった、いや今でも好きなのか?」

「お前には関係ないだろ」 

 失敗したのはクラス全員知っていることだが、それ以降の俺の気持ちに干渉してきたのはお前だけだぞ。

「俺は真剣なんだ。はっきり言ってくれ」

 っな、これって遠まわしに告白してるのか?

 もしかして本当に俺の予感が的中したってことないよな?

 いや、ここでまだ俺が和恵のことを好きだと言っとけば、こいつは諦めるかもしれない。

「あぁ、今でも俺は岸本さんのことを想っている」

「そうか、それを聞いて安心した」

 っと微笑みながら屋上から立ち去ろうとした。

「おい、話してそれだけかよ」

 俺がそう言うと、松岡は振り返らず

「今日、俺は芝地さん、いや、尊子(たかこ)に告白する。君が尊子(たかこ)を狙っていないのなら、文句は言わせない」

 ッとだけ言って去っていった。

 なんだ、あいつは尊子(とうこ)ねらいだったのか。

 俺は安心しきって、その場に尻餅を着いた。

 そうだよな、同姓相手に告白するわけないよな。

 ってか流石に地面も熱いや。

 俺は教室に戻ろうと立ち上がった瞬間、頭から何か落ちた。

 それは今まで頭の上に乗っていた和恵だった。

「岸本さん、大丈夫か」

 熱射病にでもなったか?

「大丈夫。大丈夫だけどちょっと一人にしてほしいの」

 一人にしてって、こんな所に置いといていいのか?

「ちゃんと6時間目が終わるまでに戻るから」

 っと俺より先に学校の中に入っていった。

 やっぱりあいつのことが好きだったんだな。

 俺は一人、教室に戻ったが尊子は既に女子達の輪の中にいて正通一人だった。

 俺は仕方なく正通の後ろの席に座った。


 席に戻った瞬間一番最初に出た名前は松岡の名前だ。

 もう早速放課後に会う約束をしたらしい。

「おい正直、これってもしかしたらもしかするんじゃねのか」

 正通が振り返り、嬉しそうに話しかけてきた

「俺が知るわけないだろ」

 尊子が松岡とかぁ。

 微妙な関係だ。

尊子(そんこ)が断るか賭けないか?俺は断る方に賭けるから、お前はその逆な」

 バカだこいつ。松岡に告られて、断る奴がいるはずがない。

 ここでもう一回忠告しておくが、あいつの本当の名前は尊子(たかこ)だ。

 俺と正通がわざと違う呼び方をしているだけだ。

 そろそろ正通も尊子と呼びたいだろうけど、恥ずかしいのだろう。

 俺もその一人だからな。

「その賭け乗ってやろうじゃねぇか。勝ったほうが1週間の昼メシ奢ることな」

 俺は快くその賭けを乗った。

「いいぜ」

 っとガッツポーズ。

 何がしたいのか本当にわからん奴だ。

 っとここで昼休み終了の予鈴がなった。

 

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