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第2話

「ただいま」

 家に着き、玄関で靴を脱いでいると妹の楓が後ろから抱き付いてきた。

「おかえり〜」

 まだ中学2年生だし甘えたい年頃なのだろう。

 因みに和恵にはブレザーのポケットの中に隠れてもらっている。

「鞄、お兄ちゃんの部屋に持っていっといてあげるよ」

 上機嫌に両手を差し出して、俺からカバンをひったくって行った。

「あぁ、ありがとう」

 いつもは持っていってくれないのだが、いいことでもあったのか?

 俺はリビングに向かい、一息つくためにジュースを一気飲みした。

「お兄、楓の奴またムゥと遊んでたよ」

 っと俺に告げ口をしてきたのは一番下の妹、中学1年の京子だ。

 また勝手に触りやがって、もしかして俺の部屋に入れさせないために、鞄を・・・

「おい、楓」

 俺は急いで階段を駆け上がり、自分の部屋に直行した。

 あいつはおもしろがって、虐待に近い行為平気でしやがるからな。

「あ、お兄ちゃん」

 部屋は荒れてないが楓の半泣きの声で絶対何かあると確信した。

 京子が言ってたことを思い出すと、何があったかすぐにわかる。

 案の定、ムゥが入ってるはずのゲージはもぬけの殻だった。

「また何かやったのか?」

「飛ばそうとしてたらどっかいっちゃった、アハ」

 アハじゃねぇよ、第一モモンガは鳥みたいに飛べないってこの前教えたばかりだろ。

「ここの部屋で飛ばしてたからこの部屋に絶対いるはずなんだけど」

「楓はもう下に行ってろ。あとはお兄ちゃんが探しとく」

「ごめんね」

 楓は両手を合わしながらドタドタとしたに降りていった。

「さてと・・・・おーい生きてるか?」

 今までポケットに入れっぱなしの和恵を取り出し、生存を確認した。

 でも和恵はピクリとも動かずグッタリとしていた。

「おい和恵、おい」

「ん〜?な〜にぃ」

 寝てたのかよ。動物化してたら寝てるのか死んでるのかわかりにくいぞ。

「とりあえずお前は今はこの中に入っとけ」

 っと和恵をムゥのゲージの中に入れた。

 その時ムゥのエサが全く減ってないのに気づいた。

 もしかして、俺が尊子らと一緒に学校に行った瞬間、ムゥを取り出したのか?

 どっかで餓死してなければいいが。

 そういえば和恵は何か食ったのか?

「お前、朝と昼は何食った?」

「学校近くの木の実をちょっとだけ」

 やっぱ人間の食い物は食べれないのかな。

 でも食える木の実なんか学校周辺にはないはずなんだけどな。

 リスだけが食える木の実とかがあったのか?

「なんかこの身体になって食べれるのと食べれないのが区別できるの」

 野生の特性みたいなのものか?

「とりあえず食べれそうなものすべて持ってくるから、そこからお前が選んでくれよ」

「うん、わかった」

 俺は冷蔵庫に向かいリスが食えそうな野菜全て、手のひらサイズに分けて、2階に持って上がった。

 その途中ムゥの泣き声が聞こえた。

 泣き声と言ってもほとんどの人はモモンガの鳴き声など聞いたことないだろう。

「グァ」

 これがモモンガの泣き声だ。

 耳を澄ませば俺の部屋から聞こえてきてる。

「おい和恵、近くにムゥが・・・・」

「ここにいるわよ。藤原君のムゥ」 

 ってなんか二人とも、いや二匹とも楽しそうに向かい合って話をしていたみたいだ。

「お前、ムゥの言葉わかるのか?」

「うん。なんか普通に言葉通じるけど、なんでかな?」

 俺にはグァグァ言ってるだけで、全くわからないがリスとモモンガは同じ仲間なのか?

 今度調べとくとしよう。

「とりあえず一通り持ってきたから、食えそうな物があったら食ってくれ」

「あ、別に良いよ。私これで十分だから」

 っとムゥのエサを食べていた。

 せっかく厳選して選んできた俺の努力は水の泡じゃねぇか。

 仕方なく、さっきとってきた野菜を元の場所に戻しに行った。

「楓、ムゥ見つかったからな」

 妹にそういって、日課のラッシュの散歩に行くことにした。

 前にも話したがラッシュとは俺ん家で飼っている犬のゴールデンレトリバーだ

 そういえば和恵も連れて行ったほうがいいかな?

 玄関で叫ぶこともできなく、わざわざ自分の部屋に行き、和恵を誘った。

「岸本さん、今からラッシュの散歩に行くけど、一緒に来る?」

 相変わらず、情けなく本人の前では名前を呼べず苗字で話しかける。

 一回名前で呼んでもいいか聞いてみようかな。

「うん、行く」

 和恵の返事は即答で、俺の手からつたり肩の上に乗った。



 今思えば音楽を聴きながら散歩してるだけだし、和恵を連れてきても意味なかったな。

 こんな道端で喋ってるのを誰かに見られたら、間違いなく変人扱いだしな。

 まぁ、和恵にとってはいい息抜きぐらいにはなるだろう。

 チョコンと俺の肩に乗っているだけだが・・・・。

 散歩コースの半分を終え、のんびりと歩いていると急にラッシュが吠え出した。

 っということは近くにあいつがいるってことだ。

「よぉ藤原、今日も会ったな」

 同じクラスの松岡清治(まつおかせいじ)だ。

 身長が180近くもあるかなりの美男子で、毎日女の子から告白されている事で有名だ。

 あとラッシュがほえているのは松岡じゃなくて、その足元にいるブルドックのジョンだ。

 当然ジョンのほうもラッシュに向かって吠えまくってる。

「おや、それが今日女子達が話してたリスか」

 っと松岡は俺の肩に乗っている和恵に手を伸ばしてきた。

 バ〜カ、和恵は俺以外には触れないんだよ。

 既に尊子と正通で実証済みだ。

 でも和恵は逃げもせず、松岡の手のひらでじっとしていた。

「どうして・・・」

「ハハ、かわいいじゃないか」

 松岡は一指し指で和恵の頭を撫でながら、可愛がっている。

 なんだこの苛立ちは・・・。

 俺以外の奴の手に渡ると無性に腹が立つ。

「もういいだろ、返せよ」

 っと和恵を強引に俺の手のひらに乗せた。

「名前はなんていうんだい?」

「まだ、決めてない」

「それじゃあ、マリアはどうだい?」

「断る」

 俺ははっきりと言いきって、敵意むき出しにしてるラッシュを引っ張りながら家に帰った。


 名前か、確かに和恵じゃあ世間的におかしいから、もうひとつの名前を用意する必要があるな。

「あれ?あれ?私今までなにを・・・?」

「おい」

 自分の部屋に戻る途中、急に俺の手の上で和恵が暴れだし、落とさないように手を胸に引き寄せた。

 そういえば松岡に触れてから硬直状態になってたけど、一体どうしたんだろ。

「あ、私松岡君に・・・・恥ずかしい」

 そう言って、俺の手から机に飛び乗り和恵はムゥのゲージの中に入っていった。

「お〜い、どうした?」

 どうやら閉じ篭もってしまったみたいだ。

 なんだあいつ、変な奴。

 俺はそのまま飯を食いに下に降りるため、自分の部屋の電気をつけっぱなしでリビングに下りた。




「さてとそろそろ寝るとするか」

 あれから和恵はずっと閉じこもってるが大丈夫か?

「岸本さん、もう寝るけど寝る場所はそこでいいのか?」

「ここでいい」

 生きてはいるみたいだ。

 俺は電気を消し、布団の中にもぐりこんだ。

 今日はいろんなことがありすぎたが、明日からどうしよ。

 一応和恵を学校に連れて行くべきか。

 その前になんで和恵がこんな姿になったのか、あと戻る方法とかあるのか調べないといけないしな。

 そういや、和恵本体はどこいったんだ?

 そのまま人間がリスの姿になったとか考えにくい。

 冷静に考えると、山のような疑問があふれ出してきた。

 とにかく考えるのは明日からにしよう。

 それに俺一人でどうこうできる問題じゃないしな。

 あ、その前に名前・・・・

 明日、学校に行く前に和恵と話し合うことにするか。




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