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居候は平穏を壊す。(6)

(まむし)、覚悟は出来ているのだろうな?」


信長(のぶなが)…殿…」


「まさか…これって…」


「ようやく、覚醒したのネェ。待ち()びたわヨォ…」


信也(のぶや)の豹変に、光秀(みつひで)秀吉(ひでよし)は目を見開き、道三(どうさん)は嬉しそうな声を上げた。

漆黒の魔王と化した信也は、巨大な大剣の()(さき)を道三へと向けて鋭い目つきで彼女を睨む。


「信長君、ワタシと一緒に天下を取りましょウ?君がいれば、武田(たけだ)上杉(うえすぎ)も何も怖くないワァ。」


「貴様と一緒に天下を取るだと?つまり、お前と俺が手を組むということか?」


今、道三の目の前に立って彼女を睨んでいるのは普通の高校生、織田 信也ではない。

戦国時代、本気で天下を取ろうとし、魔王とまで呼ばれた織田 信長の野望に燃えた瞳。

その視線に味方であるはずの光秀と秀吉でさえ恐怖を覚える。

そんな冷たく鋭い視線が自身に向けられでも尚、僅かにたじろぐのみの道三だったが、すぐに気を取り直して協定を持ち掛け彼に向けて手を伸ばした。


ズガッ!


「がっ…⁉︎」


「断る。蝮、貴様如きの謀略など俺には不要だ。生憎、貴様の所にいた光秀で間に合っておるのでな」


しかし、信長が短くため息をついた後、彼女の提案に対し出した答えは大剣を振りかざし彼女の腹部に容赦無く強烈な一撃を叩き込むことで示した。

戦装を纏っていなければ今頃上半身と下半身が真っ二つにされていただろう威力によって臓器が機能を停止し道三は一時的に呼吸困難へ陥る。

道三を斬り飛ばした信長はというと、吹き飛んだ彼女のすぐ側に一瞬で移動、彼女の綺麗な銀髪を鷲掴みにして乱暴に引き起こす。


「かっ…はっ…また…過去を繰り返すつもリ…?」


道三は苦しそうに無理やり言葉を絞り出すと信長を今までとは明らかに違う視線で睨む。

そしてその問いに彼が答えない様子を見て「下衆が…」と一言だけ漏らして彼の顔に唾を吐きかけると、信長は顔を拭い笑みを浮かべて大剣を頭上に振りかざす。


此度(こたび)の天下統一の最初の一歩は貴様の死に決めたぞ…ありがたく思え…そして我が剣の錆となれ」


「信長殿…!」


「信長さま…ダメ…」


限界の身体に鞭打ち、信長を止めようと手を伸ばす光秀と秀吉。

だが、それも虚しく夕陽に煌めく大剣は振り下ろされ、ズガンッ!という音と共に校舎全体が揺れた。

その衝撃で床に敷き詰められたタイルに放射状にヒビが入ったが、信長の大剣は道三の顔の数cm横に突き刺さり、彼女には運良く怪我一つ付いていなかった。

一瞬だが死が目前に迫ったことにより道三はすっかり失神してノビてしまっていた。

その直後、信長が苦しそうに呻きながら頭を押さえてフラつき始めた。


「馬鹿な…まだ抵抗するだけの意識が残っていただと…?ようやく俺を表に出せるだけの器を手に入れたかと思えば…」


ユラユラと覚束(おぼつか)ない足取りで数歩歩いたのち糸が切れた操り人形のようにバタリと倒れ意識を失った。

次に瞼を開いた信也の目に映ったのは見たことのない真っ白な世界だった。

上も下もない空間で、信也は浮くわけでも、落ちるわけでもなく、その場に固定されるように立っていた。


「あれ?俺どうしたんだっけ…道三が光秀を殺そうとして…それを止めたくて…」


「小僧、ようやく起きたか」


「誰だ…ッ⁉︎」


突然、頭上から信也を呼ぶ声がし、そちらの方向を見上げるようにすると漆黒の服を纏った少年、黒い髪に黒い瞳…至って普通の典型的な日本人の顔立ちで毎日のように見る顔、織田 信也…紛れもない彼自身が立っていた。

そんなもう1人の自分に対して信也は確かめるように問い掛ける。


「お前…俺か?」


「半分当たりで、半分ハズレだ。俺は織田 信長、今となっては貴様の持つ戦石(センゴク)と、貴様の身体に僅かに残った魂で生き永らえるだけのただの亡霊だ。この姿は話しやすいように貴様の姿を真似させてもらった」


「で、いきなり俺の前に現れて何の用だ?何かあるから俺を呼んだんだろ?」


「そう身構えるな、貴様に忠告してやろうと思って現れたまでだ」


信也の問いかけに彼と同じ容姿の少年は、彼の祖先である織田 信長と名乗った。

そして、信長は信也の頭上をグルグルと歩き回りながらニヤリと笑う。


「なんだよ、忠告って」


「俺の覚醒。そして、斎藤 道三の撃破。全国の転生者たちが貴様を脅威とこの一件で認識することになるだろう」


「それの何が問題なんだ」


「それは無論、貴様を脅威に感じるものは俺を恐れているということだ。故に、貴様を殺そうとする輩がこれから先、幾人も現れるだろう」


「なっ…⁉︎」


思わぬ信長の言葉に、信也は絶句する。

無理もない、身に覚えのないことで自分の命が狙われることになれば誰でも動揺するものだ。

ましてや信也は戦国時代の武将ではなく、無力なただの高校生だ。

しかし、それすらも(きょう)の一部とでも考えているのか、信長は更に口角を吊り上げた。


「余程、俺に天下を取って欲しくないのだと思える。だからこそ、その輩共には用心しておけ、運の良い事に光秀は今回、こちら側についているようだがな」


恐らく彼は本能寺での謀反のことを言っているのだろう。

いや、もしかしたらその後も何度か光秀と名乗るものによって討たれていたのかもしれない。

疑問の尽きない信也だったが、それを聞こうとする前に少しずつ信長の身体が透けていく。


「おっとそろそろ貴様の意識が戻る頃か、まだ喋り足りないが俺を抑え込んだ貴様が気に入った。貴様の覇道を俺に示してみせろ。織田 信也、我が子孫よ、その手に天下を掴んでみせろ!」


「ちょっと待てよ!俺はまだアンタに聞きたいことが山ほどあるんだぞ!」


そんな信也の訴えも虚しく信長の姿は真っ白な世界に溶けるように消えてしまった。

それと同時に彼のいる世界は真っ黒に暗転した。


「ん…」


信也が再び目を覚ますと、まず最初に目に入ったのはいつも見慣れた天井、信也の部屋の天井だ。


「どうして、ここに…?」


思い出そうと思考を巡らせる信也だが、道三が双剣を光秀に振り下ろした辺りからの記憶がすっぽり抜け落ちていた。

それに先ほどまで誰かと話していた気がするが頭痛がするばかりで全く思い出せない。

そして、信也は体を起こすとそばにいる少女に気付く。


「光秀…?」


光秀は痛々しい程に身体を包帯で巻き、静かに寝息を立てていた。

ここには居ないが秀吉もほとんど彼女と同じ状態だろう。

彼女たちがボロボロの身体でありながら自分をここまで運んでくれた上に自分たちだって辛いはずなのに彼に付きっきりで看病してくれていたに違いない。

そんな居候2人に思わず「無茶しやがって…」と信也は呟きながらそっと光秀の黒髪を撫でる。

そこで彼女は少し身じろぎした後、気が付いたのかゆっくりと瞼を開く。


「悪い、起こしちまったか?」


「信也殿…?」


「おう、俺だよ」


「よかった…目が覚めたんですね…もう…起きないんじゃないかって…心配で…」


しばらく寝ぼけ眼でボーッとしていた光秀だったが、自分の目の前にいる人が信也だと確認すると安堵の息を漏らす。

それと共に信也が目を覚ましたことで余程安心したのか、言葉を少し詰まらせながらポロポロと涙を零しはじめる光秀。

そんな彼女の突然の涙に慌てて言葉をかける信也。


「そんな大袈裟な…「大袈裟なんかじゃないですよ!」


慌てたままなんとか泣きやませようと適当な言葉を取り繕うとする信也だったが、光秀の怒りの混じった反論の勢いに遮られてしまい思わず口を噤んでしまう。


「だって…織田の転生者(リバイバー)の…殆どは、覚醒する前に殺されて…しまうか…覚醒したとしても…本物の信長公の念に意識が取り込まれてしまう事が前例としてあったんです…。でも…信也殿が無事で良かった…う…うぅ…ふぇぇぇ…」


織田の転生者のリスクを詰まりながらも何とか言い終えた光秀だったが、信也の顔を見て再び安心して先ほどよりも大声で大粒の涙を流しながら泣き出してしまった。


「ごめんな…光秀…」


そんな光秀の泣き顔に耐えられなくなった信也は無意識の内に彼女を抱きしめていた。

彼の鼻に入ってきたのは消毒液や湿布のツンとした匂い、そして少し混じる血の匂いと、ほのかに香る彼女自身の甘い匂いで意識が戻ったばかりの信也は少しクラっとしてしまう。


「のっ…信也殿…///⁉︎」


突然の信也の行動に目を白黒させる光秀。

流石の光秀も年頃の女の子、ましてや、消毒液や湿布の匂いを振りまく自分を信也に嗅がれたくないという想いがごちゃ混ぜになって少しビクッと体を震わせる。


「はっ…何やってんだ俺…ごっ…ごめん///!」


震える彼女を見てハッと我に返り、顔を真っ赤にして離れようとする信也だったが、光秀は彼の背中にガッチリと手を回して彼を離さまいとホールドする。

逃げ場を失われた信也はすでに離していた両腕を今更彼女の背中にまた回すわけにもいかず空中で固まらせていた。


「あのー…光秀…さん…///?」


「あのっ…信也殿///!」


「はっ…ひゃい///⁉︎」


黙り込んだまま信也に抱き着く光秀の小さくも柔らかい胸が自分の胸に押し付けられ、先程とは違う理由でしどろもどろになる信也だったが、突然、光秀に呼ばれて素っ頓狂な声で返事してしまう。


「その…ですね…信也殿が私たちを庇ってくれた時に言っていた事って…本当…ですか…///?」


「へ⁉︎え…あ…んーと…何て言ったんだっけ…?あん時は2人を助けるために無我夢中であんまり覚えてなくて…」


「だからっ…その…私の事を…えっと…すっ…」


「す?」


「その…すっ…」


「す、がどうしたんだ?」


「だからっ…すk「夕食が出来たわヨォ!」


光秀がようやく最後まで言いかけた所で、信也の部屋のドアが吹き飛びそうなほど勢い良く開き、何故かエプロン姿の斎藤 道三が入ってくる。


「ハァ⁉︎何でアンタがここにいるんだよ!」


「あラ?もしかして、聞いてないノォ?」


まさかの乱入者に信也は指をさして冷や汗を浮かべるが、彼の問いかけにキョトンとした表情で質問を質問で返す道三に彼は更に聞き返す。


「聞いてないって、何をだよ」


「一騎打ちの敗者は、勝者の配下に付くのヨォ」


「何そのルール‼︎初耳なんだけど⁉︎」


「と・り・あ・え・ズゥ…これからワタシは君のモノ…好きにして良いのヨォ…?」


なんて、艶っぽい声で信也のベッドに四つん這いで乗ってきた道三の豊満な胸と、それを強調するような胸元のパックリ開いた扇情的な服装に、信也の心臓はバクバクと音を立てて周りに聞こえてしまうのではないかというほど早鐘を打っていた。


「信也殿、ご飯だそうです、とっとと行きましょう」


「イテテ…光秀、まだ俺体のあちこち治ってないんだからもっと優しく…」


しかし、信也と道三に挟まれる形になっていた光秀がグイッと2人を左右に押しやって遠ざけると、信也の手を握ってベッドから降りて部屋を出て行く。

部屋からの去り際、道三がこう言い放った。


「抜け駆けは許さないワ。これは宣戦布告よ、覚悟しておいてね光秀ちゃン」


「上等です。貴女がなぜ心変わりしたのかは分かりませんが、私も負ける気は無いんでよろしくお願いします、道三殿」


「何、2人で喧嘩してんだ?秀吉はもう目覚ましてるんだろ?アイツの事だから1人で食い始めちまう。早く行こうぜ、光秀、道三」


2人の間に火花が散っているような気がするが、そんな事を意にも介さない信也はただただ首を傾げるだけだったが、彼の言葉に返事しようとした光秀を遮って道三が口を開く。


「はい、信也…「道三って呼ばれるのあんまり好きじゃないノォ。だから、普段は気軽に道由紀(みちゆき)って呼んデェ?」


「は…?…道由紀…?」


「なぁに、ダーリン?」


「何でダーリンなんだよ、つか付き合ってるわけでもないのにやめろ!」


「……」


信也と道三の会話に割り込もうと光秀は表情一つ変えず、信也の脇腹にズドンと鈍い音がする勢いでパンチを浴びせる。


「痛ぇ⁉︎光秀さん⁉︎どうして俺は脇腹を殴られたんでしょうか⁉︎」


「自分の胸に手を当てて良く考えてみてください。あ、考えるまでの脳みそがありませんかね。でしたら、カニミソをぶち込んで差し上げるので、頭割ってもいいですよね?」


笑顔のまま信也に対して毒を吐く光秀、その笑顔が怖く見えるのは気のせいではないはず。

そして、彼女がいつの間にか持っていた(なた)を見て信也の表情が引き攣る。


「光秀が俺に初めて猛毒を吐いたぁ⁉︎つか、そんないい笑顔で、どっから持って来たのその鉈!振り回さないでェェェェッ!怖いっ!怖いからぁ!」


「あ、信長さまおはよー。早くご飯食べよー」


猛ダッシュで逃げる信也とそれを無言のまま笑顔で鉈を振り回しながら追い掛ける光秀、それを面白そうに眺める道三、マイペースに2人で鬼ごっこしてるなんてずるーいと混ざる秀吉。

これから、彼の周りは更に騒がしくなりそうである。

かくして、天下を取る為の戦いに巻き込まれていく信也、そして、彼の周りで起こるであろう戦いに身を投じた光秀と秀吉、道三。

彼らはどんな歴史を作るのか、それは神のみぞ知る。

えー、初めましての方は初めまして。

お前のことなどとっくに知っておるわぁ!という方は、またお会いしましたね。



どうも、煉獄です。



今回のテーマはですね、「現代 戦国武将 バトル ラブコメ」というわけで、書いてみました。



正直、今まで投稿していたサイトとは勝手が違ったので、何かと不便な事が多く、それでも何とか、第一話に相当する「居候は、平穏を壊す。」が無事に完成致しました。



このサイトで書きながら思ったのは、いつものところと書き方が変わってくるということでした。



今までは、情景表現が少なく、セリフを多くということでやっていました。



しかし、ここでの活動をするにあたり、その真逆じゃないと人を引き込む作品は出来ないのではないか、という結論に至りました。



それがまさかの原点回帰ということでやっていたのですが、まだ表現が下手くそなので、中々伝わりにくい場面が多いと思います。



それはここで活動していくうちに上手くなれたらなぁと思います。



ここでの活動といいましたが、今までやっていた方も勿論、続けて行くつもりです。



まだまだ未熟者ですが、これからもお付き合い願えたらと思います。



感想など頂けたら泣いて喜びます。



余談ですが、この作品は、「なろうコン」の応募作品として書いています。



では、また第二話の後書きでお会い出来ることを楽しみにしております。

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