旅行は、波乱の始まり。⑷
「さてと幸村ァ、まずはお前のところの報告を聞きたい。ヤツらはどんな感じだ?」
ホテルのとある一室、そこに晴信率いる武田・上杉陣営の転生者たちは集まっていた。
晴信の一声に槍を模したネックレスを首から下げた一見すると不良にしか見えない茶髪の少年が進み出る。
彼は見た目とは裏腹に丁寧な口調で話し始めた。
「ではまず織田の総大将から、名は織田信也。年齢はお館様と同じ17歳で、転生者として目覚めたのはほんの一ヶ月前ほどの事。実戦経験はまだまだ少なく、お館様の足元には到底及ばぬかと」
そこまで話し終えたところでメガネをかけて黒髪を三つ編みにし、落ち着いた雰囲気を漂わせる少女がスマホを片手に勝手に喋り始める。
「しかし、近年では珍しい事に初代の怨恨をすでに克服してるってのは要注意かもですな〜。その上取り巻きは更に厄介かもです。豊臣に明智はもちろんの事、あの美濃の蝮ですら今回は手篭めにしてるワケですし〜、おまけに何故か四国の長宗我部が本人自らとお供の人造転生者のセットで味方についてるって話なわけですよ〜」
「おい、佐助。お館様は僕の報告を聞きたいと仰ったのだぞ?勝手に喋らないで貰おうか」
「そーは言いますが幸村のダンナぁ、情報は大体あっしが集めたんすけどー?」
バチバチと視線をぶつけて火花を散らすヤンキーとメガネっ子を手で制する晴信、その威圧感に2人とも黙り込む。
「幸村、そうカッカすんなよ。佐助も得物はナシだ」
「お見苦しいとこお見せしやした」
「失礼致しました。報告は以上です」
「んじゃ次は景家、準備はどうだ?」
次に晴信が目を向けたのは体格の良い糸目の青年、柿崎 景家。
彼は静かに頷くと一言だけ発する。
「…滞りは無い…」
「オーケー、最後は景綱。悪いな、隠居してるとこ引っ張り出しちまって」
そう言って晴信が苦笑を浮かべた相手は白髪混じりの頭にに顎髭を蓄えた恰幅の良い初老の男性だった。
「ガハハ、武田殿お気になさるな。流石に突然東京に来いというのは些か驚いたものですが、あの織田と戦えるなど楽しみで仕方ないのですよ。しかし兼続がこの場におらぬ事、あの阿呆に変わりおわび申し上げる。誠に申し訳ない」
「構わねぇよ、必要な時に来てくれりゃ何の問題も無い」
「相変わらず面倒くさがり」
豪快に笑う直江 景綱だったが、輝虎に頼まれていた彼の養子である兼続の同席が叶わなかった事に対して晴信に頭を下げると、ようやく輝虎がカンペで会話に割って入る。
それを見て晴信は笑いながらいない兼続のフォローをする。
「ハハッ、輝虎まぁそう言うなってアイツの強さはお前も良く知ってるだろ。アイツの実力は折紙付きだ、相手が織田の誰だろうが引けをとりゃしねーよ」
自信に満ちた表情で立ち上がった晴信は高らかに宣言する。
「明日、俺と輝虎で織田に宣戦布告してくる。決戦は明日の夜、お前らそれまでに準備終わらせとけよ。武田の風林火山…思う存分味あわせてやる」
「輝虎頑張る。毘沙門天の加護ぞあらんことを」
甲斐の虎と越後の龍、2人の大将の号令に家臣たちも静かに拳を突き上げた。
「えーっと、チカさんに衣智さん…なぜアナタがたが俺の部屋にいらっしゃるんでしょうか?」
消灯時間が過ぎ暗がりの中、ベッドに横たわって眠っていた信也は左右からの圧迫感を感じ目を覚ましたのだ。
するといるはずの無い女子の千華と衣智が信也の顔を覗き込むようにしていたのだ。
いわゆる逆夜這い状態で2人にガッチリとホールドされ両腕に感じる柔らかな感触にあたふたとしていた。
「えーだってノブちゃん久し振りに会ったら可愛い女の子いっぱい連れてるんだもん。そりゃ僕だって嫉妬しちゃいますよーだ」
「私はお嬢様に頼まれて仕方なく…です。決してマスターを困らせようとしたワケじゃなくて…」
他の部屋の男子たちを起こさぬよう耳元で囁く2人に信也は更に悶絶してしまう。
「いっ…衣智…頼むから離れてくれ、マスターからの命令だぞ…」
「いくらマスターの命令とはいえ恩人であるお嬢様の頼みは断れません、諦めてください」
頼みの綱だった衣智でさえ、千華に協力して顔を真っ赤にしながら抱き着いていた。
いつまで経っても離れようとしない2人に信也も諦めたのか大きく息を吐くと抵抗するのを止める。
「分かったからもう離してくれ、流石にこのままじゃ寝難くてしょうがない」
「ねー、ノブちゃん一つ聞きたいんだけど良いかな?」
信也の言葉に返事する代わりに相変わらず抱き着いたままの千華が質問を投げかける。
「何だよ突然…」
「ノブちゃんは私たちの中で誰が一番好きなのかな?」
「マジでいきなり何…ムグッ⁉︎」
「しーっ!ヒロくんが起きちゃうよ…!」
まさかの質問に思わず大声を出してしまう信也の口を千華が慌てて手で塞ぐが、よほど大声が耳障りだったのか既にグッスリと寝ていた浩和がムクリと上体を起こして信也の方を睨む。
すんでの所で布団に潜り込む千華と衣智、浩和もまた千華と幼馴染で千華の帰国を知っている人間の1人であり、流石に2人の幼馴染が同衾している姿を見られてしまっては騒ぎになること間違い無しなので必死に息を殺す。
「うっせーよノブ…今何時だと思ってんだ…?」
「わり、起こしちまったか。ごめんな、もう騒がねーから」
「おう…頼むぜー…おやすみー」
信也の謝罪に満足したのか、またすぐに眠りに落ちた浩和を見て安堵する。
千華と衣智もそれを察知したのか再び布団から顔を出す。
「危なかったーギリギリだったねー」
「お前らがいなけりゃこんな事になってないけどな?」
「で、ノブちゃんは誰が好きなんだい?」
せっかく逸れかけた話題を無理やり引き戻してくる千華に信也はまた大きな溜息を吐く。
「あのなぁ、別に誰が好きとか誰が嫌いとかそういうのはねーって。秀吉に光秀、道三や衣智、もちろんチカだって大切な仲間だろ、それに優劣なんて付けられねーし付けちゃいけねーって思ってる」
「………」
「俺、何か間違った事言った?」
信也の言葉を受けて千華はキョトンとしている。
反応の悪さに慌てる信也だがそれを見た千華がプッと吹き出す。
「何だよ」
「ゴメンゴメン、ノブちゃんらしいなぁってさ。今はそれで正解だと思うよ、でもいつかはノブちゃんのお嫁さんになりたいなー…なんてね」
「は?ちょ…チカ」
「んじゃおやすみノブちゃん、明日も修学旅行楽しもーねー。行くよ衣智」
「はいお嬢様、ではマスターおやすみなさい」
話を早々に切り上げてしまった千華ははにかむように笑うと、ベッドから立ち上がりくるりと背を向けて衣智と一緒に部屋を出て行った。
残された信也は先ほどの彼女の発言を反芻しながら顔を赤く染めて声にならない声で悶えた。
翌日、目の下にクマを作った信也が朝食の場に現れ千華と衣智を含む全員がギョッとしたという。
約1年、まるまる放置状態で申し訳ありませんでした。
短いですがようやく旅は、波乱の始まり第4話が完成致しました。
これからはなるべく3作品とも同時に進行できたらと思います。
今月中には『RANK.D』の続きを投稿しようと考えています。
宜しければそちらも読んでいただけたら幸いです。




