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学校は危険だらけ。⑸

時は少し前に遡る。


「すみませんマダム。少しお(たず)ねしたいのですが、お時間よろしいでしょうか」


閑静(かんせい)な住宅街、その一角(いっかく)にて(あき)らかに場違いなスーツ姿の人物が道行(みちゆ)く買い物帰りの主婦の女性に声を掛ける。


「ええ、構わないわよ…?」


その人物の雰囲気に不信感を露わにする主婦の女性だったが、断る理由もないのでとりあえず話を聞くことにしたようだ。

女性から許諾を得られたと分かると懐から一枚の紙切れを取り出す。


「ありがとうございます。それでお聞きしたいのはここへの道順を教えていただきたいと思いまして」


そう言ってスーツの人物が見せたのはどうやらこの辺りの地図で、スーツの人物はその中の一点を示すように指でトントンと叩く。

それには目的地らしきところに赤い印が付けられていた。


「あぁ、そこね。それならこのまま真っ直ぐ突き当たりまで行って、そこを左に曲がって道なりに行けば着くはずよ。もういいかしら、子供たちのアイスが溶けちゃうわ」


謎の人物が尋ねた場所の近くをよく通る女性は簡単に説明するとそそくさとその場を離れようとする。

謎の人物は去ろうとする女性の手を掴んで引き留めると何かをそっと握らせる。

そして教えられた道をスタスタと歩いて行った。


「メルシー。ご親切にありがとうございました。ほんの些細な感謝の気持ちですが良かったらお受け取りください」


「本当になんだったのかしら…?」


茫然(ぼうぜん)としていた女性が握っていた手を開くと、そこには数枚の一万円札が乗せられていた。


「ちょっ…⁉︎居なくなっちゃった…何だったのかしら…」


現金を渡された為、慌てて謎の人物を呼び止めようとした主婦だったが謎の人物は気付くと既に女性の視界からいなくなっていた。



「社長代理…こんな辺鄙(へんぴ)なところへ来られて何をなさるおつもりで?」


道を歩く謎の人物に、何処からともなく同じような黒のスーツを着た男が現れて話し掛ける。


西園寺(さいおんじ)か…僕の第二の故郷(ふるさと)に辺鄙だなんて言わないで欲しいな。なに、久しぶりの帰郷(ききょう)だからね、ちょっと足を伸ばして幼馴染(おさななじみ)挨拶(あいさつ)しようと思ったんだ」


「左様でございますか…これは失礼致しました…。しかしながら、あなた様は命を狙われる身だということをお忘れにならないでください、元親(もとちか)(じょう)様」


「西園寺はその心配性を治した方がいいよ。僕がそこらへんの雑魚(ざこ)に負けるとでも思っているのかい?それに命を狙われるのは恐らくあの人も一緒さ。いやむしろあっちの方が大変かもね」


そう言って、長宗我部(ちょうそかべ) 元親(もとちか)はどこか楽しそうに、そして不敵に笑うのであった。



光秀(みつひで)さん!」


唐突に校庭から聞こえてきた声に信也(のぶや)は戦いの最中(さなか)であるにも関わらず、敵である北条(ほうじょう) 氏政(うじまさ)こと氏音(しおん)に背を向けてしまう。


「光秀⁉︎」


余所見(よそみ)してんじゃねぇよ!」


「がっ…!」


氏音はその隙を見逃すことはなく信也の背中に向けて槍を()り出す。

そしてその刃先(はさき)は信也の戦装(せんそう)によって突き刺さることは無かったが、威力までは殺せずに信也の身体は弓形(ゆみなり)になってガシャンッと大きな音を立てて屋上のフェンスまで吹き飛ばされる。


「うっ…ぐっ…」


そして、ダメージを受けて痛む身体を無理やり立たせて校庭を見下ろした信也の目に飛び込んできたのは血塗(ちまみ)れで横たわる光秀と彼女に駆け寄る衣智(いち)、そして彼女たちに刀を振り下ろそうとしている風魔(ふうま) 小太郎(こたろう)だった。


「衣智、()けろ!」


その光景を目にした信也は背中の痛みを押し殺して声を張り上げる。

それに気付いた衣智は光秀を抱きかかえす飛び退く。

すると、風魔の刀が(わず)かに衣智の服の(すそ)(かす)めるが、何とか回避した2人に胸を撫で下ろした信也は再び氏音の方へと向き直る。


織田(おだ)ァ…テメェ、他人の心配してる場合かよ」


「確かに…そうかもな…」


信也の意識が僅かの間でも自分から離れていたことに憤慨している様子の氏音が苛立たしげに彼に向けて拳を握りしめる動作をする。

その数秒後、信也の寄り掛かっていたフェンスが突如爆発する。

予期せぬ場所からの攻撃に信也も対応できず激しい爆風と炎に身を焼かれる。


「アガッ!」


「お前じゃアタシには勝てんよ。アタシのこの能力がある限りな」


そう言って氏音が笑うと、彼女の周囲の空間が不気味に歪みだした。

その様子に即座に危険を察知した信也が大火傷した背中の痛みに顔を(しか)めながら跳び上がった瞬間、屋上にある物全てが真っ二つにされる。


「何だよ…あのデタラメな力…」


「アハハハッ!逃がさねぇよ!」


「クッ…なっ⁉︎」


氏音は信也を追って跳び上がると、何故か次の瞬間には信也の目の前に現れた。

咄嗟に大剣で氏音を袈裟斬りで斬りつけると接近していた彼女に直撃のはずが、あるはずの手応えが全く無かった。


「残念だったな。ジ・エンドだ!」


そして氏音の槍が信也の心臓を貫くべく迫り来る。

正直、戦装がどれほどの威力まで耐えられるかも分からない以上、避けるのが得策なのだがあまり身動きの取れない空中である事と、信也の身体が少しずつ跳び上がった勢いが落ち始めている事を考えると、どうやっても逃れることのできぬ状況に、最悪の場合を覚悟した信也。


紅鬼(こうき)、対象の攻撃を無力化。藍鬼(らんき)、紅鬼に続いて対象を撃墜せよ」


しかし氏音の槍が突然2人の間に割り込むように現れた信也の背丈よりも遥かに巨大な赤い鬼の様な機械人形によって受け止められ、不測の事態に驚愕(きょうがく)する氏音。

そんな彼女に生まれた僅かな隙を逃さず現れた青い鬼の機械人形によって叩き落とされる。


「グハッ⁉︎な…何が起こりやがった…」


予想外の攻撃に受け身を取ることができずに屋上に叩きつけられた氏音は苦しそうに呻きながら立ち上がる。

フラつく氏音に対して新たな声が投げ掛けられる。


「氏政さーん、油断大敵だよー?」


その方向に信也と氏音の2人が視線を移すと、いつの間にかスーツ姿の人物が貯水タンクの上に立っていた。

その人物の傍らには先ほど信也を護った赤と青の鬼が浮遊して機械の瞳を怪しくギラギラと輝かせていた。


「グッ…機巧式(きこうしき)…ゲホッ…ということはテメェが今の長宗我部(ちょうそかべ)か…」


「さすが風魔を傘下に置いているだけはありますね…我が社で極秘に開発していた機巧式のこともご存知(ぞんじ)でしたか…確かに僕が長宗我部(ちょうそかべ) 元親(もとちか)です」


信也は何とか無事に着地して長宗我部と名乗った人物の方へ視線を移すと何かに気付いたようにポカンと口を開けたまま唖然とする。

理由は彼にとってその声と顔は忘れられない親友のそれに瓜二つだったからである


「その声…もしかして…チカ…なのか?」


「久しぶりだね、ノブちゃん。もう10年ぶりくらいかな?」


「お前どうしてここに…フランスに行ったんじゃ…?」


「数日前、長宗我部重工の四国本社の取締役に任命されてね。そのために久しぶりに帰国して、丁度いい機会だと思ったからノブちゃんに会いに来たんだ。そしたら近所で騒ぎが起きてるってのを耳にしたから見に来たらノブちゃんが居たってわけ」


そして、元親の登場によって頭の片隅に追いやられていた四人のことを思い出す。


「そうだ…衣智と光秀…秀吉と道三は…」


「心配要らないよノブちゃん、秀吉君と道三君は救出済みだし、衣智は僕の最初の人造転生者(リバイヴロイド)にして唯一の完成個体…その彼女の相手が伝説の忍の風魔とはいえ遅れを取るとでも思ってるの?」


そう言って空を見上げる元親の視線の先には赤鬼と青鬼に抱きかかえられた秀吉と道三が居た。

そして、校庭からは光秀の凛とした声が響いてきた。


「衣智殿…ありがとうございました…完璧です…。黎明縛鎖(れいめいばくさ)超錠(こじょう)(いと)!」


そういって光秀が印を結ぶと、風魔の動きが止まる。

一瞬何が起きたかは光秀以外誰も分からなかったが、風魔の言葉で理解することになる。


「貴様…あのナイフ…我を捕らえる糸を張り巡らせる為の(くさび)か…」


忌々しそうに糸を振り解こうとする風魔だが、それが更に彼の身体を締め付け自由を奪ってゆく。


「衣智殿、今です!」


「御意!無限紅閃(インフィニット・スカーレット)!」


「グォォォ!」


身動きできない風魔に衣智が無数のナイフを放ち、その軌跡はまさに赤い流星群、風魔は襲いくるナイフの雨に堪らず意識を手放した。

彼の声にさすがの氏音も表情を強張らせて校庭の方へと視線を移す。


「風魔!」


風魔が敗れ、初めて驚きの声を上げる氏音に信也は刃を向ける。

その切っ先と瞳には彼女を斬ってでも止めるという覚悟を宿していた。


「形勢逆転だ…これでも続けるか?」


「チッ…クソが…織田、次会った時こそお前を斬り伏せてやる…」


自身の劣勢に氏音は軽く舌打ちをしてそう言い残すと、自ら造った次元の裂け目に飛び込み、跡形もなく消え去った。



そして、信也たちは屋上で、光秀と衣智が倒した風魔を囲むように立っていた。

一応、風魔が変な気を起こさないように元親の背後には機巧式と呼ばれる機械人形の紅鬼と藍鬼を待機させていた。

因みに先の戦いで大怪我を負った光秀は元親の応急手当を受けた後、誰もいない保健室で休んでいた。


「風魔さん…だっけ?良かったら俺の仲間にならないか?」


そう言って手を差し伸べる信也の手を風魔は叩き払うと、屋上のフェンスの外に飛び移る。

それを取り押さえようと動き出す紅鬼と藍鬼を信也が手で制する。


「悪いが、俺はお嬢一筋だ…貴様らの仲間になる気は毛頭ない」


そう突き放す風魔に信也は頭を掻いて、道三に尋ねる。

以前聞いたはずの話と何か食い違っているように感じたからである。


「あれ?敗れたら勝者に従うんじゃなかったけ?」


「あぁ、あのことなら(くち)デマ。つまりウソですワァ♪」


悪びれる様子もなく答えた道三に信也は軽く目眩を覚える。

相変わらず何を考えているのか理解できない相手だと彼は再認識させられた。


「だが、俺に敗走など無い…」


そう言った風魔は懐から短刀を取り出す。

彼からの攻撃に備えて、秀吉、道三、衣智の3人は信也の前に躍り出る。

しかし、風魔の次にとった行動は誰も予想だにしない意外なものだった。


「ふんっ…!」


「なっ…」


刃を自らの腹部に突き立てたのである。

つまり切腹をすることによって氏音への絶対的な忠誠を示したのである。


「バカ!何やってんだ!」


慌てて駆け寄ろうとする信也に風魔が殺気を放ちながら吼える。

それは信也が対峙していた氏音のものよりも遥かに恐ろしく感じるものであり、信也だけでなく他のメンバーでさえその殺気に当てられて硬直してしまった。


「敵に情けなど無用!貴様らに負けた時点で俺はお嬢のものではなくなった。それは俺にとって死んだも同然、ならば再び生まれ変わり、お嬢に仕えるのが俺の望みだ!」


そう言い放つ風魔の姿は堂々としたものであり、信也はそれに男としての何かを見た気がした。

そのまま後ろに倒れるように屋上から落ちていった。

急いで屋上から信也たちが顔を出すと、その姿は最初から無かったようにどこにも無くなっていた。

お久しぶりです。煉獄です。



前回の投稿からほぼ四ヶ月、本当にお待たせ致しました。



無事に第2話、「学校は、危険だらけ。」完結致しました。



中々時間の都合がつかず、これ程までに完成に時間を要してしまったこと、お詫び申し上げます。



次回からはもう少しペースを上げられたらと思います。



次回は、舞台が変わり、新しい武将も登場させるつもりです。

よろしければ、次回もお付き合い願えたらと思います!



それではまた次回の後書きでお会いしましょう!

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