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04 雨窯実聡

すいません忙しかったです。


―――今日は雨だから昼寝できないな。

などと思いながら銀瀬は校門をくぐった。銀瀬が通うのはそれなりにいい公立学校だ。特にこれといった全国的な部活はなく、勉学のレベルも平均的である。窓際に座席がある銀瀬は外を眺める癖がある。別に外を眺めてどうということもなく、ただ単にボーっとしているだけである。今日は雲行きを見たりして過ごした。もちろん板書もそれなりにやる。午前中の授業を終了した銀瀬は昼食を入手するために食堂に行った。母親が忙しい銀瀬は自分で弁当をつくるか、朝買うことにしている。今日は妹の分だけ作り、自分の分は学校で買おうということだ。焼きそばパンを二つほど買う。教室に戻るのも面倒なので、銀瀬はグラウンドの軒下で雨を眺めながら昼食を済ませた。食べ終えた後はグラウンドから図書室へ向かう。基本的に静かに待ったり過ごすのが彼のモットーなのだ。雨の日ということもあり、図書室にはいつもより人が多かった。そのなかに銀瀬は雨窯うかま 実聡みさとの姿を見つけた。昨日の一件もあり、銀瀬は声をかけようとした。だが、実聡は女子のグループの中心に居てどうも声を掛けづらかった。そのまま適当な本を手に取り声をかけるタイミングを待つことにする。しかしなかなかその集団は解散しない。そろそろ午後の授業が始まろうとする時、ほかの女子等が先にいなくなり実聡だけが図書室に残った。銀瀬はここぞとばかりに、文庫本を手に取ったまま彼女に話しかけた。「雨窯さん」と呼びかけると彼女は振り返った。その拍子に彼女の長い黒髪ががふわりとして、良い匂いが鼻をついた。

「ああ、鋼野君… 昨日はどうも。どうしたの?」実聡は何食わぬ顔でそういった。

「いえ、その。どうも昨日の話が頭から離れなくて。それに雨窯さんに相談したい事が…」そう言ってズボンのポケットをごそごそと探る銀瀬。そしてお目当ての物を見つけて、実聡に見せた。それを見たとたん、一瞬だけ彼女は表情を硬くした。その反応を見て銀瀬は何かあることを確信した。

「その手紙は… わかったわ。放課後に校門のところで待ってるから」彼女はそういうと立ち去った。

(またもや、急展開だな…)そんな事を思ってるとチャイムが鳴った。あわてて教室に戻る。幸いまだ教師は来ていなかった。胸をなでおろし、午後の授業の準備をする。そんなこんなで午後の授業を終わらせた。長ったらしい終礼を聞き流…、と思ったら今日は日直だった。適当に報告をする。よし、帰ろう!とした途端、掃除だったことを思い出し掃除をしてたらすっかり遅くなってしまった。

(もしや、雨窯さん帰っちゃったかな…)

そう思いながら、足早に教室を出て校門まで走る。校門のところに水色の傘を差した実聡が待っていた。

「すいません。諸用があったので遅れました」どうしても遅れたので口調が固くなってしまう。相手は同級生だがそれ以上に大人びている風格があるのという理由もあるが。

「そう。じゃあ急ぎましょ」この反応はどう受け取ってよいかわからないがとりあえず銀瀬は実聡と並んで歩きだした。道中でなかなか会話が発せられずに、非常に困った状況になった。そんなこんなで実聡の家についた。彼女の家はマンションだった。心なしかドキドキする銀瀬。もちろん昨日の一件から、今日もそれ関連だといことはわかっている。だが、しかし、けれども!美少女をの自宅にお邪魔するというのはなかなかない経験だ。そういうシチュエーションは男子学生誰しもが一度は夢見る状況であるのが一般的な意見である。そんな状況下におかれている銀瀬がドキドキするのは必然といえよう。エントランスをくぐり、彼女はポストを確認し二人はエレベーターに乗った。彼女が8階を押し、エレベーターが動き出す。その間も沈黙が二人の間を支配する。チーンという涼しい到着音が鳴り、廊下に出た。実聡の部屋は、7つある部屋のうち真ん中だった。鍵を開けて中に入った。

「おじゃましまーす」とりあえず挨拶だけしておく。

「ああ、大丈夫よ。この家、私の一人暮らしだから」実聡の発言を聞き、銀瀬はぽかんとした。余計に気まずくなる。

「ま、驚くのは無理もないわ。とりあえず上がって」そう言って彼女はスリッパを差し出してくれた。飼いならされた犬のようにシュンとしながらリビングに通された。

「ちょっと着替えてくるからまってて」そう言い残し彼女はどこかに行ってしまった。そこで銀瀬は、カチコチにかしこまっていた気持ちや振る舞いを緩めた。リビングを観察してみる。テレビ、ソファ、棚と質素といえるほど少ない家具の数。流し台は綺麗に使い込まれている。銀瀬は一人暮らしの女性の暮らしには詳しくないが、もう少し華やかなイメージを持っていた。きょろきょろしていると実聡が戻ってきた。制服の時とは違い、なんかゆったりとしたイメージだ。どことなく銀瀬の母と似た雰囲気を漂わせている。彼女は慣れた手つきでコリコリするタイプのコーヒーメーカーをまわし始めた。その間も会話がない。実聡はテーブルを進めてくれた。リビングに正座していた銀瀬はいい加減足もしびれてきたのでありがたかった。

「それでね、今日はさっき見せてくれた2通の手紙であなたに話さなくちゃいけないことがあるの。それとね…」実聡は秘密めいた口調でこう告げた。

「ちょっとやらなきゃいけないことがあるの」実聡はグイッとい顔を近づけ澄ました顔でそう告げた。それでさらにドギマギする。銀瀬の中でジェニィーが騒ぎ出す。それを理性で懸命に落ち着かせる。コーヒーを一口口に運ぶ。ブラックだが口の中に広がる酸味は薄くも、しつこくもなく、程良かった。味の引きも綺麗だった。つまり、それほどに上手いというわけだ。コーヒーのうまさに銀瀬(とジェニィー)は驚いた。インスタントじゃなく、ちゃんとコリコリつくってるからであろうか。そんな銀瀬の驚いた様子を実聡は微笑みながら見ていた。

「じゃあ鋼野君、その手紙を出して」銀瀬は制服の胸ポケットに移し替えた二通の手紙を彼女の前に置いた。赤い手紙と黒い手紙。黒い手紙のほうはすでに開封済みである。

「これ、もう開けちゃった?」

「いえ、その何というか… 黒い手紙のほうは勝手に開いてました。赤のほうはなんか気味悪くて開けてないです」その答えに実聡は無言で頷いた。心なしかその表情は少しさえない。そしてひどく重たい声でこういった。

「その、赤い手紙を持ってついてきて。黒い手紙は私が預かるから」コーヒーを啜った実聡はそう言って、席を立った。銀瀬はそのあとをついていく。彼女の部屋はリビングのすぐ隣にあった。パチンと電気がつき部屋の中があらわになった。コーヒーの味の衝撃よりさらに驚いた。なん瀬彼女の部屋の大半は木製の祠のようなもの占められているからだ。そして実聡は残りの半分の空間の壁にあるクローゼットを開けた。そしてそこから、和服のようなものを出す。いや、和服というのは正しくない。正確に言うと継ぎはぎだらけの巫女服といったほうが正しい。紅白が基調のその巫女服の背中の部分は大きく円形の穴が開いており、そでの部分は振袖状になっており胴体部分と何本かの黒い糸のこよりでつながれている。下の部分は、丈が異様に長く彼女の足まですっぽりと入りそうな長さだった。そこで実聡はいきなり服を脱ぎだした。

「ちょ、ちょ雨窯さん…!」あまりに突然の出来事にあたふたがさらにます銀瀬。そして再びジェニィーが騒ぎだす。彼女は涼しい顔で服をどんどん脱いでいく。それをただ茫然と眺める銀瀬。最終的に彼女は下着姿になった。綺麗な体のラインや、白い肌があらわになる。銀瀬はそれを直視せまいと顔をそむけている。

「あなたに見てもらいたい、いやあなたはこれを見なくてはいけないわ。ちゃんとこっちをむいて」そういう彼女には恥じらいの表情はなく、真摯な眼差しが銀瀬を捉えていた。その真剣な言葉に銀瀬は何とか彼女のほうを見た。そして、実聡は振り返った。銀瀬は、その白い背中に刻まれたモノに驚いた。衝撃のあまり時が止まる。


―――窓の外では、冷たい雨が街を包んでいた。

題名がなかなか思いつ書きませんでした。次回に続きます。


追記:最近『東のエデン』を見ました

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