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02 運命

一日で、連続2話投稿です。

昨晩の騒動もあり良く眠れなかったせいで、だるい。他人の話が全くと言っていいほど頭に入ってこない。

「おい、鋼野こうの!ちゃんときいてんのか!」コワモテの社会教師が吠える。それに対し適当に対応してはまた、ぼーっとする。なんとなく板書ばんしょをとり、なんとなく問題演習をしたりして午前中の授業はほぼ記憶がないまま終えた。昼は昼で半分寝つつ、焼きそばパンを頬張る。ラップを丸めてポケットに入れて中庭に向かい、ちょうどいい日影を探す。そこでゴロンと寝っ転がる。ときとおり吹き抜ける風が心地よい。時間はたっぷりあるので、銀瀬ぎんせは目を閉じた。



ぉーぃ、おーぃ、おーい



「起っきろーーーー!!」耳元で、これでもかというほどの大音量で叫ばれた。グワングワンする耳え抑えて、銀瀬は目を開けた。そこには、にこにこしながらしゃがんでいる女子生徒の姿が。彼女は、「花房なはぶさ香枝かおり」銀瀬の幼馴染だ。性格は一言で表すと天然。顔も可愛いく、全体的にハイスペックなやつだ。

「もう授業始まるよー あたしが見つけてなかったらどうするつもりだったの?もー」そう言って、無理やり銀瀬を教室まで引っ張っていく。中庭から教室へ向かう途中にチャイムが鳴ったが、香枝は速度を上げずに歩いていく。そして、教室のドアを堂々と開け放った。銀瀬を席に引っ張っていき、それから自分の席に座った。この光景を見慣れているクラスメイトはいいが、先生はキョトンとしている。これのせいで入学当初は周りからの視線や、根も葉もないウワサに困った。それも紆余曲折を経ておさまったが…

昼の後の授業も寝ないようにするのに精一杯で、午前と同じく全く内容がわからなかった。唯一しっかりと聞けたのは、最後の理科の授業の物理についての話だけだった。かったるい終礼を聞き流し、少ない荷物をかばんに詰め込み、銀瀬は学校を出た。頭上を見上げると灰色がかった雲が点在していた。銀瀬はかばんの中の折り畳み傘をチェックすると帰りだした。


--you get a mail-- --you get a mail--


バイブレーションしているケータイの液晶にメールの通知が来ていた。知らないアドレスからだった。とりあえず内容をチェックしてみる。すると内容は以下のようだ。


E組の鋼野くんですよね?あたしB組の雨窯うかま実聡みさとと言います。話があるので駅前の「MEMORIE TIME」というカフェまで来てください。お願いします。


文章の最後に「Misato」という絵文字と“Fatum est determinata”という謎の文字列。彼は中二病か、こいつ?と思いつつも行く事にする。駅は家と反対方向だが今日は特に用事もないので時間のほうは心配ない。駅までの道のりに顔を思い出そうと頑張る。


B組はたしか、実習科目で一緒だったはず。それに雨窯という変な名字にも覚えがある。確か、確かそれは…  B組の学級委員か!


思いだした彼は同時になぜ自分に話があるのか、と疑問を抱いた。相手は、成績優秀で眉目秀麗な人物だ。話の内容に検討がつかない。



(ま、まさか…  告白ぅぅぅぅぅ!?)



一瞬浮かんだ妙な考えを頭を振り追い出す。それはありえない。なんたって銀瀬日頃の態度を見てもわかると思うが、ほとんどかったるい雰囲気を醸し出している。おまけに、髪はボサボサで清潔感がない。顔も十人なみだ。少しだけいいところを上げるとしたら、優しいと背がちょっと高いくらいだ。悲しいほどいいスキルが備わっていない。だがやはり、その期待は捨てられない。あれこれ考えを巡らせていたら駅の周辺に着いた。彼女が指定したカフェは少し目立たないところにあり捜すのに苦労した。小ぢんまりと、だが洒落た雰囲気のお店だ。おもそうな木製のドアを開けるとチリンチリンと涼しい音がし、コーヒーのいいにおいが漂ってきた。彼女は店の奥の席に座り本を読んでいた。ドアの音に気がつき、本に栞を挟みこっちをむいて会釈をした。カウンターでは初老の男性がカップを磨いていた。二人以外に客はない。彼女の対面の席に腰かける。どうもさっきのやましい考えが頭の隅に残っており、顔を直視できない。

「鋼野君は、なに飲む?」とい割れ適当にラテを注文する。彼女の方のカップはすでに半分ほどになっている。 銀瀬の分のラテが来るまで二人とも喋らなかった。先に口を開いたのは銀瀬のほうだった。

「今日などんな用件で…」相手は同級生だが、面識も少ないのでどうも口調が固くなってしまう。

「ええとね 少しあなたにお話ししたい事があってね。鋼野君は‘運命’って信じる?」その言葉は少し予想外でもあり、違う意味で想定内でもあった。たじろいで言葉が出ない銀瀬を見て、彼女は言葉をつづけた。

「運命っていうのは“人の意思をこえて幸・不幸を与える力や元から定められている巡り合わせ”とか、“成り行き”って意味なの。類語としては『宿命』や『命運』があげられるわ。科学的な観点から言うと、物理的なほうになる。それは特殊相対理論や、一般相対理論につながってくる。つまりいうと、未来は決定されているか否か、という事」

実聡はそこでいったん言葉をきり、カップの中身を口に運んだ。銀瀬は話の内容を理解するのに必死で質問をする余裕もない。

「つまり何が言いたいかというと、あなたにこれから訪れる‘運命’について話しておこうと思うの。さっきも言った通り、運命は変えられない。基本的に未来を本人に教えるのはタブーなんだけどこれは上の判断だからあなたに伝えるわ」実聡はそこでしばらく言葉をきった。わざとなのか、実聡の真意はわからなかった。そして、こう言った

「あなたはこれから死ぬよりも苦しい未来・・・・・・・・・・が待ち受けている。感じ方は人それぞれかもしれないけど、客観的に言った結果よ。どうとらえるかはあなた次第。」黒ぶち眼鏡の奥にあるまなざしが真剣な事に銀瀬は喉まで出かかった茶化し言葉を飲み込んだ。その代わり、慎重に次の一言を考えた。

「…じ、実際にはどんな事が起こるんですか?」何とか顔を合わせて、ようやく絞り出した声は少し震えていた。ほとんど何も事情を飲み込めていないが、実聡のあまりにも深刻な表情を見るうちに、水に垂らしたインクのように不安が広がっていった。なにしろ、実聡はそういう冗談を言うキャラじゃない事は、容易に想像がつく。

「それこそ言ってはいけない。それを言うと世界が変わる可能性がある。それは運命が変わるっていう事じゃなくて、運命は最終的な終着点の事を言うの。だから多少の誤差は運命が変わった事にならない。だけど、あなたは違う。あなたの運命は世界を変える。鋼野君は世界とシンクロしている。いや、正確に言うとこれからシンクロするの。だからあなたには‘覚悟’を持ってもらいたい」そこまで言うと実聡はふぅ吐息をつきカップの残りを飲んだ。銀瀬のカップは一滴も減っていない。運ばれてきた時に湯気が立ち上っていたラテはすっかり冷えていた。

「…一応確認しますけど冗談ではないですよね」返すべき言葉がわからなかったので、とりあえずベターなセリフを使う。すると、さっきまでとても深刻な表情で聞いていた実聡が微笑んだ。

「じゃあ証拠でも見せようか。鋼野君はここに来るまでに、なんで呼び出されたんだろ?って思ったでしょ。そして、もしかして告白!?・・・・・・・・って思った。来る前からわかってたよ」実聡はさっきまでの堅いイメージと違い、いたずらっぽく笑いながらそう言った。もちろん銀瀬はあまりの恥ずかしさに机に突っ伏した。すると聡美はまたさっきの硬い表情に戻って言った。

「これは一種の能力。正式名称はないけど私たちの間では‘時読ときよみ’と呼ばれているわ。さっきまでの内容を信じるかどうかは任せる。だけど最後にこれだけ言っとく、絶対に、なにがあっても逃げちゃダメ」聡美はそう言って、眼鏡のフレームを直し店を出ていった。一人取り残される銀瀬。

「絶対に何があっても逃げちゃダメ…か」一人でボソッと呟いてみる。奇妙な感覚だけが残っている。まるで狐に包まれたみたいだ。するとまたケータイに着信。今度は電話で、液晶画面に「美由佳みゆか」とある。妹だ。

「もしもし」

「お兄ちゃん今どこ?あたしおなかすいた!塾からかえってみたら何もないじゃん!早く帰ってきてね。途中でなんか買ってこないとお兄ちゃんの大事なコレクションがどうなっても知らないよ~ じゃーね~」一方的にまくしたてられ、一方的に切られる。どうも母といい、妹といい、雨窯実聡といい彼は女性に弱いようだ。席を立って、店を出ようとしたその時、マスターに肩をたたかれた。振り向くとにこにこしながら伝票を持っている。額にはうっすらと青筋。


(にゃろー うまくおしつけやがったな!)


心の中で雨窯に対し地団駄をふみつつ、財布を取り出し笑顔で代金を払う。彼は笑顔がひきつらないように全神経を注いだ。会計を済ませた後、財布の中身をチェック、笑顔がそのままひきつる。残金97円。脳をフル回転させお菓子のムラオカがあったかどうかを思い出す。霧雨が降ってきた。ようやく思い出した銀瀬は傘をさしお菓子のムラオカへ向かう。彼は、どうすれば最も効率よく妹へ差し入れができるかで頭がいっぱいだった。

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