01 夢
初投稿です。よろしくお願いします コンセプトとしては、王道物です。
「ただいまー」
――はドアを開けた。
なぜか返事がない。
「ただいまー」
もう一度声に出して見るが、返事がない。今日はみんな家に居るはずなのに。
奇妙なことにリビングへのドアが閉まっている。いつもは大々的に開け放たれているドアが。
何の疑いも持たずに、―-はリビングへのドアに手をかけた。そして、左にスライドさせる。
白色蛍光灯が照らすリビングに転がっていたのは死体だった。
死体と、もうひとつ奇妙な生物。その生物は―-に背を向けている。それは―-の気配に気づいたのか、後ろを振り向いた。ねじれた体の向こうから貪られているもう一つの死体が見えた。
その生物は―-の姿を見るとニィと嗤った。その生物は手元の死体を放り投げ―-のほうへ跳躍してきた。
―-にはそれがスローモーションに見えた。ゆっくりと近づいてきたその生物は、肩に腕を、腰に足を巻きつけた状態で顔を―-の前まで近づけた。吐息から血のにおいがする。その生物はもう一度嗤うと、大きな口をガバッと開けてきた。―-には鋭く生えた牙の白さがまぶしかった。
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突然、心臓がドクンと脈打ち鋼野銀瀬は目を覚ました。体に何らかの圧迫感を感じる。
なんとなく嫌な想像が頭をよぎる。
恐る恐る視線を下にずらしてみる。自分の体の上に何かの影。
だんだん闇に目が慣れてくる。影の輪郭もはっきりしてくる。
「ってお前かい!あっついから下りろ!」
上にの乗っかてたのは、今年で10歳になる銀瀬の妹だった。これはネタとかではなく、不可抗力なのだ。彼の妹はなぜか寝相が悪い。まるで計算されているかのように、月に数回の頻度で銀瀬の上にうつ伏せになるか、隣で腕にしがみつく。そのたびに彼は起きて妹をひっぺがす。
今日は特にひどい。上に乗っかりうつ伏せになるに加えて、手や足が抱きつく形になっている。いや、正確に言うと抱きつきそうな形だ。さっきの嫌な感じはこのせいだったのかもしれない。
我が家は電気代を節約すべし、という母のお触れにより鋼野家では夏は数日に一度しかクーラーを使わない決まりになっている。その上、扇風機までが規制の対象なのだ。毎朝、慎重なあみだくじのもと今日の扇風機使用権が決められる。さらにクーラーの使用は、前日の天気予報と翌朝のコイントス。それで表が出た場合あみだくじに入る。というさらに厳密な規定が設けれられている。
賢明な読者諸君はここで察したと思う。
何が言いたいかというと、今日は扇風機もクーラーも付いていないということだ。
そんな状態でくっついて寝たら死ぬ。加えて銀瀬にそういう趣味がない。(ここでもし一部の人間が「なんとうらやましい」という感情を抱いた場合、その人は天に召される事を推奨する)
つまり結論から言うと、ただうっとうしいだけだ。
引っぺがされてもなお寝ている妹をほったらかし、リビングに行く。なぜなら同じ部屋で3人も寝るのは、冬はともかく夏は地獄だからだ。リビングの窓を全開にし、ソファに寝そべる。ようやく彼に安眠が訪れた瞬間だった。まだ少し重たい感覚の余韻を残しながら、快適な眠りの世界へと入った。
雲が少ない、二十七月ノ夜はそんな騒動を起こしながらもひっそりと更けていった。
不気味なくらいの静寂に包まれながら。