夕闇罰ゲーム
Kesukeさんから頂いたお題
『夕闇とマンション』です。
若干お題からずれた気がしなくもないです……
すいませんでしたー!!
でも、書いてて楽しかったです。はい。
Kesukeさんのみ書き直し受け付けてますー!
新しくもなく、古くもないマンションの最上階で
世界に夕闇が訪れるのを待つ。
風が、深く被ったフードを揺らしてみせた。
「太陽が沈んで、月が登るまでの間」
それは、全ての『光』が無くなる時間帯。
『僕』が、自由でいられる時間帯。
「さぁて、今日は誰が来るのかな?」
すっかり暗くなった世界を見下ろして
私は、これから起こる出来事を
想像して嗤った。
ーーあぁ、夜が。闇が。
お祭りの始まりを告げる。
「それじゃあ始めよう!」
僕は両手を大きく広げ
眼下に広がる『世界』にむかって叫んだ。
「あるところに、いじめられている少女がいました。その少女は、いたいのもくるしいのも嫌で、死んでしまおうとしました。でも、そんなかわいそうな少女に、神様がとあるキセキをプレゼントしたのです」
カンカンと音を立てて、マンションの階段を下っていく。
2階の隅にひっそりとある、424号室を目指して。
「午後八時三十分、夕闇と共に現れる理想郷……そして、仕返しの為の『僕』を」
異様に古びたドアを開けて、中に入ると
そこには、不思議な空間が広がっていた。
淡い紫や赤で彩られた、不思議な部屋。
唯一ある窓からは、深い闇が差し込んでいる。
そして、部屋の中心にはーーーー
怯えたように座り込む、三人の女の子達が。
この子達は、11回目の『加害者』だ。
あと何人いるんだっけ、忘れちゃったなぁ。
「やぁこんばんは、悪者の諸君。僕はこの部屋の主だよ、よろしくしないでね?」
口元に笑みを浮かべて言えば
一人は泣きじゃくり
一人は怒鳴り狂い
一人は呆然とした。
様々でバラバラな反応を見るのは、ちょっとだけ面白い。
「じゃあ、積もる話なんてのもないし……早速始めよっか。
その名も、『夕闇罰ゲーム』!」
「はぁ!?……あんた、私達にこんなことして、許されるとでも……」
騒ぎ出す雑音を無視して、ワタシは敬礼して見せた。
後ろから見学してるはずの、かわいそうな少女の為に。
その瞬間、
「きゃあああああああああ!!?」
甲高い悲鳴を上げて、怒鳴り狂っていた女の子が壁へと吹き飛ぶ。
勢いよく壁に衝突した彼女はズルズルと座り込むと、恐怖に満ちた目を『僕』に向けた。
「そんな顔しないでよ?これはただの罰『ゲーム』、殺したりはしないからさ」
他の二人の女の子達は、彼女を助けようとはしない。
薄情なものだよね、仲間だったくせに。
「それにホラ……『僕』だって君らと同じ女の子なんだから、返り討ちにしたっていいんだよ?できるならね。できないなら
月が登るまでの間、楽しんでいって」
僕はそう言って嗤い、怒鳴り狂っていた女の子にむかって歩き出した。
一歩近づくたびに、彼女は「ひぃっ」と身をよじって逃げようとする。
ーーまったく、逃げられるわけないのにね。
彼女の顔を覗き込みながら、そんなことを思った。
「な、なんなの……?私が、あんたに何したって言うの……?」
「さぁねぇ。それは、『僕』も知らないんだよ」
僕が軽く手を振ると
身を寄せ合っていた他の二人の女の子が左右に吹き飛ぶ。
そして、
目の前にいる女の子の右腕が、人形のものへと変わり始めた。
球体関節、セルロイドの肌。
部屋が、少女達の悲鳴で満ちる。
「ここはね、本来あるはずがない424号室。かわいそうな少女の居場所として作られた、神様のマンションの一室なの」
「か、神様の……?」
「そう。夕闇罰ゲームの執行場所。
君たちはあの子に嫌われちゃったんでしょ?だからこのマンションに招かれた……自業自得ってやつだよ」
くるりと振り返れば
女の子達が、苦しげにもがいていた。
「僕は執行者。被害者の味方で加害者の敵。424号室の、住人でもあるんだけどね。
被害者のあの子が選んだ
罰ゲームをうける加害者が、君たちだったってだけ。
だから僕は、君たちを恨んだりしてないよ。安心して?」
女の子の腕が完全に人形へ変わったのを確認して
僕は指を鳴らす。
すると、人形の腕が
女の子の肩から、ゴトリと床に落ちた。
「ひっ……!いやあああっ!?私の腕っ、腕がぁ!」
その腕を踏み潰して、他の女の子の元へむかい
彼女たちの腕や足も人形へ変える。
だって、血とか気持ち悪いじゃない?
「さぁ、夕闇罰ゲームを続けよう?月が登るまで、時間はまだあるから」
それから、僕はずぅっと
彼女たちを蹂躙し続けた。
窓の外から、光が漏れるまでの間
ずぅっと。
「今日は三人かぁ。いつもより少なかったね」
僕はマンションの屋上へと戻り
月が照らし出した世界を見下ろす。
さっきの女の子達は放心状態で立てそうもなかったから
僕が責任を持って家に送り届けてあげた。
ここまでが、執行者たる『僕』の仕事。
「明日は誰が選ばれるのかな?
見て見ぬふりした教師
悪口言ってたクラスメイト
……あぁ、悪者は有り余ってる!」
僕は手すりに腰掛けて、綺麗な満月に手を伸ばす。
この月が沈んで、太陽が登って、また太陽が沈んだら
夕闇罰ゲームが幕を開けるんだ。
加害者をやっつけるヒーローの擬似体験。
かわいそうな少女の行く末は、わかりきってるんだけど
『被害者』が『加害者』に変わるまでに
あと何回、このマンションの424号室にあと何人の、人間が招かれて
夕闇罰ゲームが行われるのかなぁ?
「とても、とても」
嫌だなぁ。
「楽しみだねぇ」
屋上の扉から僕を見ている少女のために
僕はいつだって笑顔で、夕闇罰ゲームを執行する。
そのたびに、424号室は開かれるだろう。
不思議で不気味なマンションの
あるはずがない424号室で
月も太陽も無くなった、僅かな期間
不思議で不気味な執行者が
哀れで愚かな被害者のために
夕闇罰ゲームを、開始する。
毎日、毎日
飽きもせず。
次の『加害者』は……
君、かもね?