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第8話 初めてのボス狩り

「さて、それじゃあPTを編成していこう」


 そこから討伐PTの編成とボスの説明が始まった。

 まずボスの狙い(ターゲット)を引き受け、攻撃を一身に受けるメインタンカーが姫、そしてそのPTはサブタンカー1人、ヒーラー3人、バッファー1人で編成される。また、同じような構成のタンカー班がもう一組組織され、残りの者達はアタッカー班としてアタッカー4人、ヒーラー1人、バッファー1人で組織される。

 結果的に今回の討伐は、タンカー班2PT、アタッカー班6PTの計48人で行われる予定らしい。ちなみに近接アタッカーは俺しかいない。きっとネームレスさんが掲示板であんなことを死ぬ確率が高いと書いたからだろう…。

 今回のボスであるリザードマンジェネラル・ベルーガは遠距離攻撃をしてこない代わりに範囲攻撃をしてくるらしい。敵が大きく振りかぶったときと、赤いオーラに包まれたときは要注意らしい。それとボスモンスターはHPが四分の一(レッドゾーン)に達すると行動パターンが変化するらしいのでそれも要注意だ。

 そして当然俺はアタッカーPTへと誘われた。


《『晶』からPTに誘われています。承諾しますか?(Y/N)》


 おぉ…苦節一ヶ月…。初めてPTに誘われたよ…。

 感極まって目から涙がこぼれそうになってしまうのも仕方がない。

 もちろんイエスだ!


「よっ!久しぶりだな。忍」

「え……え!?晶ってあのアキラさん!?」


 そう、彼は俺が旧作のヴァルキリーヘイムでぼっちだったとき、姫のギルドへと拾い上げてくれた最もお世話になった人だ。姫以上に頭が上がらない。


「そうだよ。まさか噂の忍が本当にお前だったとはなぁ…。そうと分かってたらすぐに誘いに行ったのに」

「それ、ずっと疑問だったんですけど、一体どんな噂が流れてるんですか?それ本当に俺ですか?俺今までずっとソロだったんですけど…」

「ああ、間違えなくお前の噂だよ。雄たけびをあげながら狂ったように戦い続けるお前が度々目撃されては掲示板に書きこまれてたよ。最初は戦闘狂とかバーサーカーとか呼ばれてたけど、生産職の人ですらお前と関わった人はいないし、いつの頃からか近づいた奴は皆殺しにされてるんじゃないかって噂が流れはじめてな。今ではこのデスゲームの世界でプレイヤーにすら刃を向ける『狂刃きょうじん』ってありがたくもない二つ名が付いている」


 狂ったようにって何だよ…。リプレイ動画を記録してせられるくらいに格好よく決めていたはずだったのに…。


「そのせいで俺はギルドにも入れずにこれまで……」

「まぁそのおかげでまた俺たちと組めるんだからいいじゃないか。それにしてもお前変ってないな」

「それ姫にも言われましたよ。師匠こそ、相変わらずエルフのサマナーじゃないですか」


 俺は昔からアキラさんのことをずっと師匠って呼んでいた。この人が初心者の俺に色々とネットゲームのことを教えてくれてたからだ。


「ああ、俺は後ろから高みの見物をしているほうがしょうにあってるからな」


 そんなことを言いながらも師匠は常にみんなから一歩から引いたところで死人が出ないように戦闘のバランスを取ってくれるような人だった。ただ、ときどきわざと周りの敵を巻き込んで大混戦にしてスリルを味わわせてくれたりするお茶目な一面もあったけど……。


「お前中身は変わってないけど…外見は完全に別人だな。違和感が凄いんだが」

「ああ、これ?めちゃくちゃ格好よくないですか?ダークエルフの女で露出の高い金属防具を身に付けて武器は両手剣!最強ですよ!!」

「一体何が最強なんだか。あの頃のお前はあんなにも初心うぶだったのに、こんなスケベに育ってしまうなんて……、俺の教育が悪かったんだろうか……」

「ひどいっ!」

「まぁいい。今回ボス狩りが初めてっていうのならとにかく死なないように気をつけろよ。今集まっているメンバーで蘇生魔法のリザレクションが使えるのは一人しかいない。もしアタッカーが死んだとしてもリザレクションの使用はタンカーが優先されて再利用時間の関係で恐らくアタッカーにはかけてもらえない可能性が高い。再開していきなりさよならなんてのはさすがにごめんだからな」

「任せてください!今度は俺の方がみんなを助けてせますよ!」

「ははっ、言うようになりやがって。楽しみにしてるよ」


 うおおおおお!テンション上がってきた!

 仲間のために戦えるなんて最高のシチュエーションじゃないか!

 最初からアクセル全開だ!ぶっ飛ばしていこう!




 PT編成と作戦の伝達が終わると俺たちは町を出てボスのいるフィールドへと出陣した。

 さながら凱旋のようである。

 これだけ人数が集まっていると、雑魚敵は全て遠距離アタッカーが瞬殺してしまい残念ながら俺の出る幕はなかった。

 うん、ボスで頑張ろう。負けるな俺!

 ザルツベルグの沼の奥へと行くと今回のボスであるリザードマンジェネラル『ベルーガ』が遠目で見えてきた。これはかなりでかい。三メートルを越えるような長身。ずんぐりとした太い腕。さらには金属製の鎧で身を固め、見るからに硬そうだ。手は大きな曲刀シャムシールとタワーシールドを持っている。そしてその横には二匹のリザードマンガードが守りを固めていて、そいつらもそこら辺にいる雑魚に比べたら断然強そうだ。


 俺たちは作戦通り姫たちタンカーのPTを中心に横長の陣形を組む。

 姫がボスに近づいていく。ボスも姫に気付き、リザードマンガードたちも槍を手に構え始めた。

 ボスまでもう10mと迫ったところで姫がボスに剣を突きつけスキルを発動した。


「『かかってきなさい!』」


 ボスが頭に赤いもやもやのエフェクトが発生する。

 タンカーが自分に敵をひきつけるヘイトスキルの一つ『挑発プロヴォーグ』が発動した証だ。

 本来PT狩りでは、敵に与えたダメージ、味方を回復した回復量によって敵愾ヘイト値が蓄積し、最も敵愾ヘイト値を稼いだプレイヤーに敵が襲い掛かってくる仕組みになっている。

 しかしそれだと、防御力が高く攻撃力の低いタンカーは自分に敵の攻撃を向けることができない。

 『ヘイト』とは、そんなタンカーが自分へと攻撃を向けるために使うスキルである。『ヘイト』は持っているだけで、各行動に対する敵愾ヘイト値の上昇率が上げることができ、少ない攻撃ダメージで多くの敵愾ヘイト値を稼ぐことができるようになる。

さらにヘイトスキルのLvを上げると、『挑発プロヴォーグ』などといったダメージは与えないが敵愾ヘイト値を飛躍的に上昇させる技スキルを憶えることもできる。

 そのため『ヘイト』のスキルを持つタンカー次第でPTの安全度が格段に変わってくるといっても過言ではない。

 そして『挑発プロヴォーグ』を使われたボスは姫の方へと一直線に歩みはじめた。


 作戦の第一段階は、まず姫がボスの攻撃に耐えている間にリザードマンガードを倒すことである。

 そのため、姫とは別のPTのタンカーたちが『挑発プロヴォーグ』を使ってリザードマンガードたちの狙い(ターゲット)を取る。


 俺たちアタッカー班の仕事は、少しでも早く雑魚を倒して姫のところへと駆けつけることだ。


「ダーッシュゥゥスラァァァァァァッシュ!」


 俺はサブタンカーが挑発プロヴォーグを使ったのを確認すると、『ダッシュ』で一気に敵の懐まで飛び込むとそのまま勢いに乗せて袈裟懸けに斬りつけた。

 リザードマンガードが少し仰け反る。

 しめた。コイツ相手ならノックバックである程度で動きを止められそうだ。


「はっ!せいっ!トライスラッシュ!」


 ただの逆袈裟斬ぎゃくけさぎりからの三回斬りである。

 しかし、さすがに『ダッシュ』の勢いがなければなかなかノックバックさせることができず。敵が攻撃を受けながらも槍を突き出してきた。


「当たらないぜ!ターンスラッシュ!」


 『ターンステップ』で避けながらその回転力を利用したただの横一文字よこいちもんじである。


「はっ!はっ!おらっ!ていっ!リィープアタァァァァック!」


 これも飛び上がってからのただの兜割り。ジャンプのスキルなんてないから大したジャンプ力はない。

 ここでようやく敵のHPが半分を切った。

 さすがにボスの取り巻きだけあって硬い。姫が俺を待っているっていうのに!(※注 主人公の妄想です)

 俺はそのままコンボに次ぐコンボで一気に敵を切り伏せた。

 そしてもう一匹のリザードマンガードの方へ目を向けると弓と魔法の集中砲火で一瞬にしてHPが吹き飛んでいた。さすがボス狩りメンバー、まさか取り巻きを瞬殺とは……。

 姫の方へと目を向けるとちょうどボスが姫に向かって曲刀シャムシールを振り下ろそうとしているところだった。


「『ファランクス!』」


 姫がスキルを発動させると全身が一瞬青く輝き、ボスの攻撃を大きくはじき返した。

 さすが姫。まだまだ余裕そうだ。


「取り巻きの殲滅は終わった!ターゲット変更!ベルーガ!」


 ネームレスさんの指揮が飛ぶ。

 作戦通りこのままボスに集中砲火を行うらしい。姫以外のタンカーもボスに向かっていく。

 俺も作戦通りボスを背中から強襲だ。


「ダーッシュゥゥスラァァァァァァッシュ!」


 もう俺の十八番になっているダッシュ斬り。しかしボスは全く怯んだ様子を見せない。

 さすがはボスだ。闘技場で格上装備のプレイヤーを相手にしていたときのことを思い出す。これは面白そうだ。


「はっ!切り返し!せいっ!クロススラッシュ!」


 袈裟懸け!なぎ払い!なぎ払い!逆袈裟!兜割り!

 ボスが姫を狙っているおかげでここぞとばかりに後ろから切りまくる。敵は完全に無防備だ。

 これならあの技が使える!


「我流奥義!秘剣!かざぐるまぁぁああああああああっ!」


 今まで使う機会がほとんどなかったダメージを与えるためだけの技。

 自分の身体を軸に『ターンステップ』の連続使用によるシステムアシストで回転力を増し、両手剣の遠心力を駆使してひたすらコマのように回転して切りまくるだけの、まさに『ぼくのかんがえたさいきょうのわざ』である。

 とは言えこれが意外に難しい。ボスのような硬い敵に使う場合は、切りつけるたびに衝撃を受けた両手剣が剣筋を変え、その都度つど修正しなければならない。

 この馬鹿みたいに現実離れしたアバターの筋力があってこそできる技だ。一撃一撃は大したダメージにはならないが、一秒間に3回切りつけることができる。システムアシストのある剣技スキルを除けば現在最もダメージ効率の高い攻撃だ。

 もちろん『ターンステップ』の連続使用により俺のSPもゴリゴリ削れるが、ボスのHPも目に見えて削れていく。


「ヒャッハァァァァァ!!!」


 ははっ、すっげぇ。俺ボスと戦えてるよ!


「この馬鹿!馬鹿力ばかりょく!自重しなさい!タゲが飛んだわよ!」

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