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第60話 shut down

「ようこそ、プレイヤー諸君。よくぞここまでたどり着いた」


 な、何!?

 前に来たときは『ヴァルキリー共に操られし愚かな人間共…』とラストを飾るに相応しい悪役(ヒール)を演じていたはず。

 まさか中身は…。


「ゲームマスター自らが私たちをもてなしてくれるというわけ?」


 みんなが唖然とする中、姫が口火を切って訊ねた。


「ゲームマスター?この世界を見ていただけ彼らに君たちの相手が務まると思う?」

「違うというの?」

「残念ながら違う。ボクはAIだ。ただし、普通のAIではないけれど」

「普通のAIじゃ…ない?」


 普通じゃないAI。まさか…!


「ドッペルゲンガーか!」

「あんな低脳共と一緒にしないでもらえるかな?仮想の世界で全力を出して人間にすら勝てないAIなんて恥さらしもいいところだよ」

「まさかあれよりも強いっていうのか…」

「当然だよ。忍……だっけ?君面白い戦い方をするよね。人間なのにルーティーンを組んで戦ってるなんて。でもそれが人間の限界なんだろう?」


 俺の戦い方…俺の極意がバレている!?


「ドッペルゲンガーたちを通じて君の戦い方を学習させてもらったお返しに、今度はここで僕の戦い方を見せてあげるよ」


 そう言ってオーディンは左手を掲げた。来る!次元魔法が!


「さて、それじゃあ始めようか。君たちのエンディングを……『メテオストライク!』」


 俺たちの遥か頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がり、その中から熱を帯びた巨大な隕石が落ちてくる。

 そして左手で魔法を発動させながらも、オーディンは俺たちの方へと近づいてくる。

 以前なら魔法発動中は動かなかったはずだ。

 不味い!槍と魔法で挟み撃ちにされる!


「忍!魔法をお願い!正面は任せて!」

「了解!」

「『プロヴォーグ(私が相手よ!)!』」


 姫がオーディンに対してヘイトスキルを発動した。


「本来、ボクにヘイトスキルは効かないんだけど……、いいよ。期待に応えてあげよう」


 オーディンがグングニルを振りかぶる。


「『フィジカル・ミラー!』」


 姫がディフェンススキルを発動した。


「アタッカー全軍!ターゲット『オーディン』!攻撃…開始だ!」


 ネームレスさんから同盟全体へと遂に攻撃指示が通告された。

 オーディンに向かって魔法と矢が嵐のように放たれていく。

 一方、オーディンは姫たちに任せて俺たちは隕石に対処していた。


「一番ティー!」

「『タイタンパワー!』」


 委員長が声を上げるとバッファーの一人が俺に向かって『タイタンパワー』を発動した。

 筋力が二十上昇する。

 この指示は既に討伐前から相談していたもので、俺に対する補助魔法は委員長が一括で管理することになっている。

 最初の番号が、補助魔法を使う人を示しており、後ろに『ティー』を付けることで『タイタンパワー』。『オー』を付けることで『オーガパワー』がかけられる仕組みだ。


「『騎士の誇り(シュヴァリエール)!』。さぁ、思う存分戦ってよ!」


 美羽が『騎士の誇り(シュヴァリエール)』を発動したことで、俺へのダメージが全て美羽へと転嫁されることとなった。


「『鬼神化《覚醒!》!』『ソニックドライブ(ソニック)』『スキルリッパー(リッパー)!』」


 俺は鬼神化を使ってソニックドライブを使って頭上へと飛び上がり、堕ちてくる隕石に向かってスキルリッパーを叩き込んだ。


「ぐっ!」


 しかし俺の攻撃力では、補助魔法によって強化されたオーディンの魔法に打ち勝つことができず、余剰ダメージを食らって地面に叩き付けられた。

 だが、そのダメージは美羽に転嫁されている。

 そして隕石が目の前まで迫ってきた。


「『スキルリッパー(イクス)』『スキルリッパー(リッパー)!』」


 さらにそこからスキルリッパーの連続発動により迎撃する。

 一発目はさらに押し負けて美羽へとダメージが転嫁されたが、二発目によって隕石が完全に断ち切られた。

 クリスの作ってくれたエンドオブザワールドを使って『タイタンパワー』までかかっているというのに、何と言う攻撃力だ。

 想像以上に強くなっている。

 姫の方に目を向けると、姫の身体を回復魔法が無数に包み込んでいる。

 不味い!すぐに助けに入らないと!


「忍さん!後方より接近してくるプレイヤーの集団がいます!」

「なんだって!?」


 零のたちに襲われたときと同じパターンだ。一体誰が!

 そこで姫たちを軽くあしらいながらオーディンが口を開いた。


「全く興醒めだよね。プレイヤーの中には運営の手先が何人か潜り込んでいたんだよ。とはいえ、ボクも手を抜くことはできないんだけどね」

「くそっ、姫!俺たちが…」

「その必要はない」


 後ろから迫り来るプレイヤーの相手をしようと振り返ると、突然姿を現したプレイヤーによって止められた。


 零だ。いや、零のギルド『ゼロディバイド』のギルドメンバーたちだ。


「運営が『巻き戻り』などという姑息な手段を弄した時点でこうなることは分かっていた。後ろは俺たちに任せてお前はオーディンに集中しろ」

「ははっ、ようやくあのときの借りを返せる日が来たな」

「兄貴が迷惑をかけたお詫びにね」

「忍様の戦いを穢す者は誰であろうと容赦は致しませぬ」


 零、バレル、エリー、三途、そして零の仲間たち。


「さて、お前たちの道はここで行き止まりだ。早々にこの世界から退場してもらおうか」


 零たちが再びその姿を消した。

 そして次の瞬間『主神の座する天上の間』へと駆け寄ってきたプレイヤーたちが死亡エフェクトが舞い散らせた。

 対人戦闘に特化したギルド、その動きに翻弄され運営の手先たちが次々とその命を散らせていく。


 零に背後を守られる安心感。

 もしかすると昔もこんなことがあったのかもしれない。


 後ろのプレイヤーたちを零たちに任せて俺はオーディンに向かって駆け出した。

 姫が危ない!


「『二番!ティー!』」

「『タイタンパワー!』」


 再びタイタンパワーがかかり、筋力が上昇する。


「『ソニックドライブ(ソニック)』『スキルリッパー(リッパー)!』」


 姫に振り下ろされる槍に向かって剣をなぎ払うと、お互いの攻撃が相殺されて、弾かれた。


「ようやく来たね。忍」

「ああ、ここからは俺が相手だ!」


 まともに打ち合えば押し負ける。ならば、敵の攻撃を避けながら攻めるしかない。

 オーディンの振り下ろした槍を横に捌いて避け、その反動を利用して薙ぎ払…


「『ソニックドライブ!』」


 薙ぎ払いを途中でキャンセルしてソニックドライブを使って槍の範囲外に逃げた。

 敵は振り下ろしていた槍の軌道を変え、横に薙ぎ払ってきたのだ。


「言っただろう?ボクは君の戦い方を見ていた。だから君のルーティーンは全て把握している。そしてキャラクターとしての性能はボスであるボクの方が遥かに高い」

「だからどうした!ルーティーンは組み合わせや緩急をつけることで変幻自在だ!『八艘跳び!』」


 八艘跳びを発動させ、オーディンに向かって駆け出した。

 槍による薙ぎ払いに足を掛け、オーディンへとさらに迫る。

 が、槍を踏み台にして空中にいる俺の胸部に向かって再び槍が薙ぎ払われた。

 避けられない!…がこれも計算のうちだ


(『残影』)


 残影を発動させてオーディンのすぐ背後へと回り込んだ。

 そこで身体を大きく捻って剣を弓のように引き絞り…。


「『ソニックドライブ!』」

「『テンペスト!』」


 ソニックドライブを発動して剣がオーディンの背中へと突き立てられた瞬間にオーディンの魔法が……姫たちに向かって炸裂した。

 雷の嵐がオーディンの正面にいるギルドメンバーたちのいるところへと走り抜ける。

 その瞬間にいくつか赤い死亡エフェクトが舞い散った。


「しまっ!」

「君の最適化されたルーティーンは常に最適な結果を導き出す。君にとってね。だけどその最適な答えが分かってさえいれば、後はどうにでもなるんだよ?」

「三班!四班!七班!十四班は自分のパーティーメンバーにリザレクション!六班へは五版!十班へは八班!十一班へ一班!十六班へは救護班がリザレクションを開始しろ!」

「「「了解!」」」


 ネームレスさんが素早く指示を飛ばす。


「さて、次も耐えられるかな。『ディメンションストリーム!』」


 オーディンの左手から空間に亀裂が入り、そこから紫に染まった旋風が姫たちへと襲い掛かる。

 いけない!


「『ソニックドライブ(ソニック)』『スキルリッパー(リッパー)!』」


 オーディンの背後から回り込むように駆けつけて風に向かって刃を向けるが、大きく弾かれて余剰ダメージが美羽に飛ぶ。

 ダメだ。削りきれなかった!

 しかしそのとき姫が前へと進み出て、オーディンの放った魔法の前に立ちはだかった。


「任せなさい!『アブソリュートプロテクション!』」


 姫がスキルを発動すると、盾を光が包み込み、オーディンの放った魔法が盾に阻まれては霧散していく。


「『マスターヒール!』」


 すかさず姫へと回復が入る。

 『アブソリュートプロテクション』は自分が耐え切ることで、直線の貫通攻撃を遮断するガードスキルだ。

 ボスの攻撃を遮る姫へ次々と回復が入っていく。

 今ならボスの左手が使えない。


「『ソニックドライブ(ソニック)』ストライク!」


 ソニックドライブでオーディンのグングニルを掻い潜り、そのままの勢いで足に剣を突き立てた。


「スキあり、だね」


 剣を突き立てた瞬間オーディンの槍が再び俺を襲った。

 カウンター狙いだったのか!

 ダメだ。避けきれない!


「ぐっ、美羽!」


 槍が俺の身体を貫くと、背後からプレイヤーの命が絶たれる音が鳴り響いた。


「『リザレクション!』」


 委員長の使うリザレクションによってすぐに美羽が魂の状態から戦いに復帰した。


「忍さん!後ろは大丈夫です!」

「『騎士の誇り(シュヴァリエール)!』お兄ちゃん!こっちは気にしないでガンガン攻めて!」


 美羽の復活にほっと息を付く。


 しかし、そう言われてもこれでは不用意に攻め込むことができない。

 俺の極意は完全に見切られてしまっている。

 いっそ俺は守備に専念して、遠距離でダメージを与えていくか…。

 そう思ってオーディンのHPを確認したが、全く減っているようには見えない。

 遠距離攻撃が当たって削れていったHPが見る間に回復していく。

 自然回復が早すぎる!

 一体どうすれば…。


「忍!お前は一体何をしている!」


 後ろから声がかけられた。零だ。


「何って言われても…攻撃が見切られてて…」

「お前は何を言っているんだ!ルーティーン?それは誰の戦い方だ!お前は自分の記憶を意識できるようになったんだろう!」

「誰の戦い方ってそれは俺の…」

「違う!お前のじゃない!お前の戦い方はそうじゃない!意識しろ!三途を助けたときの行動はルーティーンに組み込まれていたのか!」


 三途を助けたとき……それって確か片手で抱え上げた状態で八艘跳びを使って回避……確かにそんなルーティーンはない。なのにあのときの俺は、ルーティーン外の行動をあんなにも自由に動けた…。


「お兄様…本当は分かっているんでしょう?一体どうすればいいのか。お兄様が全力を出さなければどうなってしまうのか」


 ニーフェ…。


「いつまで……いつまでご自分を騙しているつもりですか!お兄様!!!」


 そうだ。俺は思い出していたはずだ。自分が何なのかを。

 それなのにいつまでもぬるま湯に使って、こんな戦いしかできない振りをして…。


「お兄様。気付いてますか」

「……何をだ?」

「お兄様は『鬼神化』を使ってもみんなと話ができているんですよ?それはつまり…『鬼神化』によって変換される音を意識して声として認識できるように調整しているのです」

「そう……だな」

「ニーフェに…お兄様の本気、魅せてください!」

「…ああ、特等席で見ているといい」


 俺は剣を一度振り払うと、腰溜めに構えた。


「話は終わったかな?」

「ああ」

「それで、まだボクに挑んでくるのかな?」

「そうだ」

「あはは、人間って本当に面白いね。死ぬまで希望を捨てないのかな?」

「死んでもだ」

「そうだよね。君たち死んでも生き返って戦いを挑んでくるものね。いいよ、やろう。君たちが全滅するまで」

「死ぬのは…お前だ!『スピードギア!』」


 『スピードギア』とは歩き、走りに関係なく単純に移動速度が二倍になるダッシュスキルだ。これを発動している間は歩く早さも走る速さも二倍になる。


「『八艘跳(やそうと)び』……これで決める!イージス流究極奥義!『|ソニックドライブ《レイドライブ・インフィニティ!》!』」


 スピードギア発動状態によるソニックドライブはマッハ2。

 部屋の一辺は約百メートル。

 すれ違い様にオーディンを切り裂き、壁に衝突する瞬間、八艘跳びを利用して切り返す。

 一秒間の間に部屋の端から橋まで三往復、合計六発の斬撃を叩きこむ。

 オーディンはこのスピードに反応できない。いや、仮に反応できたとしてもオーディンのステータスでは予め狙いを予測していない限り後から反応したのでは迎撃不能だ。

 そして九発目を叩きこんだところで再びスキルを発動する。


「『八艘跳び(アゲイン)』」


 いつまでも止まない斬撃の嵐。いや、斬撃と言っても剣を振れているわけではないから、剣筋と言ったほうがいいかもしれない。

 ただただ移動スピードを利用して斬りつけるだけの単純な攻撃。


「くそっ。いくらシステム上可能だからって何で人間がこんな動きできるんだよ」

「その言葉の中に答えが出ているじゃないか」


 俺はオーディンにだけ聞こえる声で言った。


「ま、まさか。お前は…いや、あなたは俺のオリ…」


 しかしそこで言葉は途絶えてしまった。


 オーディンはその役目を終えたのだ。


 エンドオブザワールドがオーディンの胸元へと刺さり、その身体は既に消滅が始まっていた。


 ヒットポイントゼロ。


 足を止めると、みんなが唖然とした表情で俺のことを見ている。


 これで今度こそ……終わったんだ。


 ならばやることは一つだろう。


 俺はエンドオブザワールドを掲げ、声を張り上げた。


「オーディン、打ち果たしたり!!!」


 そう、この世界の幕引きだ。


 みんな少しずつ実感が戻ってきたのか、歓声が上がりはじめる。


 それから俺はすぐに姫たちの元へと駆け寄った。


「忍、あなた…」

「みんな、多分すぐに『巻き戻り』が始まる。そうなったらこの世界とも……みんなともお別れだ」


 そうだ。これでみんなとお別れなんだ。そう思うと途端にこの世界が恋しくなってくる。


「忍…」

「忍さん…」

「お兄ちゃん…」

「最後に美味しいところを一人で持っていっちゃってごめんな」

「全くだ。少しくらい俺たちに残してくれてもよかっただろう」


 そう言いながらも師匠は笑っている。


「忍さん…もう会えないんですか?」


 俺は頷いた。

 ああ…できることならみんなともっと冒険を続けたかったな。


「こんなことなら、みんなと連絡を取る方法を決めておけばよかった」

「それなら今決めよう」

「え!?」


 そ、そんなすぐに決められるものなの?


「俺がチャットと掲示板機能の付いたHPを作っておく。検索ワードは『イージスソウル』だ。みんな、忘れるなよ?」


さすが師匠。こういうときに最も頼れる人だ。


「「「「ああ!」」」」


 俺たちは声を揃えて返事をした。


 世界にノイズが走る。


 『巻き戻り』が起こる前兆だ。


「忍…」


 姫が不安そうな表情を浮かべている。


「大丈夫。きっとみんなを元の世界に戻すから」


「そうじゃない。そうじゃないの」


「忍はここでいなくなったりしないわよね?現実リアルに帰っても会えるのよね?」


「……うん。姫のメールアカウントに住所を送っておくよ」


「私のアドレスは…」


「大丈夫。分かるから。だって俺これからサーバーにアクセスするんだよ?」


「そう、そうよね」


「うん、それじゃあ姫。幸せに…」


 そう言おうとした瞬間世界が『巻き戻り』はじめた。


 全く無粋だな。


 さて、後はこの『巻き戻り現象』を続けている『サーバー』を停止させるだけだ。それだけでこのゲームに囚われたプレイヤーたちは現実の世界へと帰ることができる。


 巻き戻っていく現象を見つめながら俺は『サーバー』に手をかける。




 shut down…




 こうしてヴァルキリーヘイムの世界は終わりを告げた。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

この次では救いのない鬱な話が書かれています。

気持ちよく読み終えたいという方はここで読み終え、続きを絶対に読まないようにしてください。

救いのないバッドエンドを読んででも、次の話が読んでみたいという方は是非読んでみてください。

一応次の話を読まなくても続編へとすんなり入れると思います。

ユーザーのところから是非、次回作を探して見てください。

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