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第54話 襲撃

 ちょ、ちょっとまってくれ!

 まさかこいつっ!ガッ、ガチホモだったのか!?

 思わず引いてしまう。いつでも逃げられるような体勢になりつつ。


「大将……さすがにそれはどうかと思いますぜ…」


 零の仲間たちもドン引きである。


「ん?いや、ちょっとまて。お前たち何を後ずさっているんだ。何か勘違いしていないか?」


 零は自分が何を言ったのか分かっていないのか?


「か、勘違いも何も大将がそんな趣味だったなんて…」

「い、いや、でも忍さんは女キャラだし…」

「なっ!?ち、違う!それは勘違いだ!その……恋人にいだくような愛情じゃない!親愛の方だ!そう、例えるなら親が子供を包み込むような深い深い愛情だ!」


 零が狼狽して必死に弁解?をしている。

 必死過ぎて逆に怪しさが増しているのは言わないでおいてあげるのが情けというものだろうか…。

 しかし親が子供に抱く愛情ってどういうことだ?

 普通に友情とは違うのか?

 違うよな……いくら友達が少ない俺でも、師匠やジークを愛しているなんて考えたことも……おぇ。

 となると……ま、ますます意味がわからない!


「俺とお前ってそんな関係だったっけ……?」

「そうだ。お前は覚えていないだろうがそうなんだ」


 ようやく落ち着きを取り戻した零ははっきりと口にする。

 俺が覚えていない?

 確かに覚えていない。だけど…


「何で俺が零のことを覚えていないことを知っているんだ?」


 零のことというか、零が昔のイージスにいたっていう記憶はあるんだが、零がどんな人物で過去にどんな話をしたことがあるかとかがぽっかり抜け落ちている。


「……理由は言えない」

「…え、何?もしかして凄い理由でもあるの?まさか俺って国家機密を知ったため殺し屋に両親を殺されたことがトラウマになって過去を失ったライトノベルの主人公みたいな奴だったりとか?」

「いや、全然、全く、これっぽっちも、1マクロたりともそんな設定は出てこない。というかその中二病的な思考は相変わらずのようだな」


 そこまで否定せんでも…。


「しかしそれで俺のことを子供のように深く愛して……ま、まさかとは思うが大人な身体で赤ちゃんプレイをしたいとかそういう……」

「違う!どれだけ変態なんだお前は!」

「え、いや、俺じゃなくてお前の話なんだけど…」

「お前のその発想が変態だと言っているんだ!」

「じゃあ、もしかして……父さん?」

「もしお前を教育できるチャンスがあったならもっとその変質的な性癖を……。いや、今からでも遅くは………うまく…マイン……ントロールでき……あるいは…」


 零が何やらぶつぶつとつぶやき始めた。

 何やら不穏な言葉が混じっているような気が……。

 だ、ダメだ!話を変えないと!


「そ、それで協力してくれるって言ってたけど、一体何をしてくれるんだ?」


 そうだよ。今はそんなことよりPKの話だ。


「奴らのアジトを強襲するなら手伝ってやってもいい」

「強襲って言われてもそのアジトの場所が分かったら苦労しないんだけど」

「それならば既に分かっている」

「マジで!?」

「ああ、二週間前からマーダーライセンスにはスパイを送り込んでいるからな」


 PKギルドにスパイって正気か?


「大丈夫なのか…?バレたらやばいんじゃないか?」

「あいつなら大丈夫だ。人一倍自分の欲望に忠実で、いつPKに走ってもおかしくないような奴だからな。一つ不安があるとしたらあいつがマーダーライセンスに寝返ることだが……まぁそれも大丈夫だろう」

「どうしてそんなことが言えるんだ?」

「マーダーライセンス程度ではお前を殺すことができないからだ」

「は?」

「あいつは妄信的なくらいお前のファンだからな」


 ファンってあれか?ファンクラブの……嫌な予感しかしないんだが。

 しかしそれで俺を殺すこととどう繋がるんだ?


「いつかお前を殺してお前の装備品を部屋に飾るのが夢だと愉悦の表情を浮かべながら語っていたことがある」

「おいいいいいっ!!!何そいつ!け、警察だ!警察を呼んでくれ!」


 PKどころか完全に犯罪者の思考だろう!

 それが男だったらキモすぎるが、女だったら……ヤンデレか。ヤンデレは実にいいものだ。あんなことやこんなことだって許してくれそう……じゅるり、おっと涎が。


「デーデン!突然ですがお兄様。恋人に言ってもらいたいセリフベスト3は?」

「『あなたの彼女は私でしょう?』『私だけを見て』『裏切らないで』かな」

「どんだけ愛に貪欲なんですか…。まさかお兄様がヤンデレ萌えだったとは…」


 ニーフェが驚愕の表情を浮かべている。しかしそこで零がとんでもないことを言い出した。


「ヤンデレ萌えというか、忍自身ヤンデレだしな」

「え?」


 俺が…ヤンデレ…だと…!?


「恋愛に対して幻想を抱いているというか、想いが重い」


 グサッ!


「あ~、確かにお兄様はそういうところありますね。恋人のためなら死んでもいいとか常々考えてそうです」


 グサッ!


「だから、相手にも同じくらい自分のことを愛して欲しいとなるわけだな」


 グサッ!


「しかし自分に自信がなく、それを口に出すことができないから重い愛情をくれるだろうヤンデレに憧れがある……と言ったところか」


 グサッ!


「『大好き』『私の方が大大好きだもん』『いや、俺の方が大大大好きだって』『そんなことないよ。私の方が大大大大好きだもん!』っていうやり取りに憧れてたりして(笑)」

「もう止めて!心がしんぢゃう!」


 俺はニーフェと零に最上位土下座スキル『土下寝』を発動した。


 しかし途中までニーフェと共に俺を分析していた零が何やら苦虫でも噛み潰したような顔をしている。

 もしかして今の会話の中に何かトラウマでもあったのだろうか?

 まさかニーフェが今言ったやり取りを過去にしたことがあるとか…。

 まさかな……ははっ。畜生、羨ましいぜ。


「というか、居場所が分かっていて零たちがそこまで強いなら俺いらないんじゃないか?さっきの戦いぶりなら余程の相手じゃない限り負けることはないだろう」

「……」

「それに零たちはドロップ目当てでPKKしているんだろう?俺がいたら稼ぎが下がると思うんだけど」

「……」

「忍さん、見損なってもらっては困ります。リーダーはこれでも…」

「エリー。黙れ」

「でも!」

「黙れと言っている!」

「……」


 零の鋭い眼光にエリーは言葉を詰まらせた。


「忍、何を勘違いしているからは知らないが俺はすぐにマーダーライセンスを狩るつもりはない。お前らが防衛をしている間にマーダーライセンスがPKを繰り返して装備を強化したところを刈り取った方が収穫量は増えるからな」

「零……」


 嵌めたギルドメンバーから未だに慕われている様子から何となく分かる。多分零は心の底から悪人というわけじゃない。だから多分これも本心じゃないんだろう。


「だが、お前が今から狩りにいくというのなら協力してやろうと言っているんだ。他ならぬお前の頼みならな」


 なんて素直じゃない奴だ。

 ただ一緒にPKを倒しに行こうと言えばいいだけなのに……こいつ!まさかツンデレか!

 ツンデレならば仕方がない。


「じゃあ、遠慮なく頼む。手伝ってくれ」


「あ、あなたのために手伝うわけじゃないんだからね!」


 なんでそこでお前がツンデるんだよ爬虫類…。いや、まぁ零にそんなことを言われても気持ち悪いだけだけど…。

 いいんだ……きっとこの事件を解決した暁には、姫のデレが待っているはずだから。



 そこから俺たちの行動は早かった。

 マーダーライセンスの連携能力は非常に高く、常時プライベートコールで連絡を取り合っていたため、零がレジェンドのギルドマスターを殺したことは既にバレていた。

 しかし赤ネームとなった犯罪者プレイヤーは一般プレイヤーの多い街へと近づくことが出来ないため、フィールドに寝食を済ませることが出来る拠点が必要となるらしい。


「奴らは今回の件で拠点を変えるために、今まで拠点にしていたアジトへと戻ろうとしている。ベッドや調理道具等の生活アイテム、それに持ちきれないアイテムなんかはアジトへ置きっぱなしにしているからな」


 ということらしい。

 拠点は洞窟になっているらしく、その入り口を零の仲間たちで固め、俺と零がステルスを使って中に侵入し敵を一網打尽にするという作戦だ。

 そのために零の仲間から『神隠れ』のスキルを借りることができた。これを轟脚と入れ替えて敵のアジトへと向かう。

 アジトはミッドガルドの中央付近にあるエルセダの森の端にあり、そこに近づくにつれて敵の量がどんどん減ってくるため、普通にプレイしていたら休憩以外ではまず近づくことがない。しかも端と言っても北から南までかなり広く、予め知っていなければ場所を特定するのはかなり困難であるといえる。


 心眼を使って前方を確認すると、どうやら二人の犯罪者プレイヤーが洞窟の入り口で警戒を行っているらしいことが分かる。


「おそらく見張りは索敵持ちだ。『ステルス迷彩』を発動させ、50秒経過してから敵の視界に入らないように近づいて『バックスタブ』を利用して見張りを殺す。その時点でステルススキルの再使用が可能になっているはずだから、素早く『ステルス迷彩』を発動させ、中の敵を殲滅する。準備はいいか?」

「おう!」


 バックスタブとはステルススキルによって姿を消した状態で敵の背後から攻撃することでダメージボーナスを得ることのできる機能らしい。

 さらに『暗殺』スキルを持っていれば、このバックスタブによるダメージボーナスを何倍にも増やすことができるが、俺たちは『暗殺』を持っていないので、そこまでダメージの伸びは期待できない。しかし…。


((『ステルス迷彩』))


 俺と零は左右から見張りの視界に入らないように『ダッシュ』を発動させて一気に近づき、勢いに乗ったまま剣を大きく振りかぶった。


「ッ疾」


 魔剣を横一文字に薙ぎ払い、鎧と兜の隙間を縫ってプレイヤーの首を両断するように正確に切りつけると、太刀筋が一瞬光を放った。


「なっ……」


 それだけでHPバーがゼロに到達し、一人のプレイヤーが赤い死亡エフェクトを撒き散らせながら消えていった。

 やはりヴァルキリーヘイムの対人でも弱点部位によるクリティカル判定は健在らしい。

 いや、戦争ゲームがベースとなっているヴァルキリーヘイムだからこそプレイヤーにも弱点部位が作られているんだろう。


 零の方を見ると、あちらも見張りを倒せたようで、青い魂がひとつたたずんでいた。

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