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第53話 ピーケーケイ

 俺たちは酒場を出ると、ミッドガルドに向けて転移門を潜った。

 ミッドガルドと言ってもかなり広大だ。

 攻略ギルドってくらいだからビフレストの手前くらいを拠点に活動しているのかもしれない。

 メールで『レジェンド』のギルドマスターに連絡してみてもよかったが、あり得ないだろうけど万が一『レジェンド』が『マーダーライセンス』と繋がっていた場合に何か対策を取られるかもしれないため、直接フィールド上で押しかけてみることにしたのだ。

 ビフレストの手前の街『バルセイム』を中心に周囲を巡回していく。

 すると、『バルバロイフォレスト』という亜人種のアクティブモンスターが多く出る森で『心眼』がステルススキルの反応をキャッチした。

 いきなり白い点が6つ表れ、赤い点がいくつか消えたのだ。

 これはもしかすると『レジェンド』のギルドメンバーたちがステルスを使ってアクティブモンスターを倒したところかもしれない。

 俺はすぐさまその反応があったところに駆けつけた。

 駆けつける間にいくつかあった赤い点が少しずつ消えては現れていく。

 一体何が起こっているんだ?


 そしてその場所に駆けつけると信じられない光景が広がっていた。

 なんとプレイヤー同士が戦っていたのだ。

 既にいくつか青い魂がぼんやりと輝きを放っていて、何人かのプレイヤーが死亡していることが分かる。

 

「なんなんだお前たちは!」


 騎士風の男が叫び声を上げる。


下種げすが。死ね」


 そして斧槍を持ったダークエルフが白ネームのプレイヤーたちに襲い掛かっていく。


 ……強い!?


 凄まじいプレイヤースキルだ。動きが何となく俺と似ている気がする。もしかすると俺と同じ極意を使っているのかもしれない。


 そしてその男には見覚えがあった。


 …………零だ!


 赤ネームとなった零が白ネームのプレイヤーに襲い掛かっている。そして零を援護する一時的犯罪者を示すイエローネーム(一時的な赤ネーム状態)のプレイヤーたち。


 本来ならすぐに一般プレイヤーを守るべく動くところだが……手が出せない!


 なぜなら零が襲い掛かっているプレイヤーたちの中には白ネーム以外にも赤ネームが混ざっていたからだ。


「…一体どうなっているんだ?」


 やっぱり零はPKだったのか?

 これはPK同士で仲間割れでも起こしているのか?


「分かりません。ですが、零たちの方が優勢のようです」


 ニーフェの言うとおりだ。

 零が圧倒的プレイヤースキルで敵対している白ネームや赤ネームプレイヤーたちの命を刈り取っていく。

 今の俺ならさすがに負ける気はしないが、このデスゲームにログインしたばかりの頃の俺とならいい勝負かもしれない。


「リーダー、そこです」


 零の仲間の女プレイヤーが指をさすと、赤ネームのプレイヤーが何もないところから姿を現した。

どうやらディテクトイリュージョンを使ってステルススキルを見破ったようだ。


「『エンタングル』」


 そしてそこへ別の仲間が拘束魔法を使って敵対プレイヤーの逃亡を阻害し、逃げる敵から零が攻撃していく。


「大将、お客さんですぜ」


 見覚えがある。あのとき俺に殺されたはずのオークのプレイヤーだ。

 もしかして生き返ったのか?


「忍か」


 零がちらりとこちらを見たが、すぐに視線を戻した。


「今は捨て置け。目の前の敵に集中しろ」

「了解!」


 十人近くいたプレイヤーたちを次々と死亡し、青い魂へと姿を変えていく。

 そしてついには白ネームの女プレイヤー一人になった。

 名前を見ると『黒猫大使』と表示されている。

 確かこの名前はレジェンドのギルドマスターだったはず。


「畜生!一体何の怨みがあってこんなことを!」


 黒猫大使が零に向かって声を荒げる。


「怨みなどない。ただマーダーライセンスなどというクズ共と手を組んだ下種げすを処理しているだけだ。目的はお前たちと同じだよ」

「ひ、人殺しどもが!」

「そうだな。お前たちはPKプレイヤーキラーをして強くなろうとした。そして俺たちはPKK(プレイヤーキラー殺し)をして強くなる。ただそれだけだ」


 そう言って零は黒猫大使に斧槍の先を向けた。


「ひっ!」


黒猫大使の顔が恐怖で歪む。


「死ぬ前に一つ良いことを教えてやろう。一般プレイヤーをPKして手に入るのは全所持アイテムの20%だが、犯罪者プレイヤーをPKして手に入るのは50%だ。強くなるための一番の近道はPKじゃなくてPKKだったんだよ。しかしお前は残念ながら白ネーム……一般プレイヤーというわけだ。実に残念だよ」

「か、金ならやる!だから…」


 そこで黒猫大使の言葉は途切れた。

 零が斧槍を振り下ろしたからだ。

 そして黒猫大使は死亡エフェクトを散らせながら消え去っていった。


「零……これは一体どういうことなんだ」


 ようやく戦闘が終わったらしく俺は零に疑問を投げかけた。


「レジェンドはマーダーライセンスと繋がっていた。お前たち神話同盟の所為でな」

「俺たちの所為…?」


 どういうことだ?


「世の中には色んな奴がいる。戦いに明け暮れる奴、出るために攻略を目指す奴、支援することに喜びを見出す奴……そして、頂点に立ちたい奴だ。特に攻略ギルドにはそういったプライドの高い奴が多いんだろう。しかし、お前の強さについていける者などいはしない。置いていかれたことが余程ショックだったんだろうな。PKに身を落とすほどに」

「そんな…」

「だからこいつらは『マーダーライセンス』と手を組んだ。再びトップ集団へと返り咲くためにな。しかし気にすることはない。それは結局理由でしかない。PKになることを決定したのは理由ではない。こいつらの意思だ」


 そういって零は魂の点在しているフィールドを見渡した。

 …もしかしてこれは気を使ってくれているのか?

 理由は分からないが、何となくそんな気がする。


「それで……零たちは何をやっているんだ?」

「見ての通りPKKだ。うちはそういうギルドだからな」


 PKK……プレイヤーキラーキラー。つまり犯罪者プレイヤーを殺す者ということか。


「……俺とも戦うのか?」

「そんなつもりはない。お前がPKをしていないことなど最初から分かっていたのだからな」

「……………………は?」


 最初から分かって……え?


「え、でもそっちのオークの人……前に会ったときは人を殺せそうな眼差しを俺に向けてたぞ?」


 そういって死んだはずのオークの男に目を向ける。


「ははっ、あの時はすまねぇな。大将にすっかり騙されてたんだわ」


 謝り方が軽っ!

 しかも全然意味が分からないぞ!

 零が自分のギルドメンバーを騙してただって?


「つまり、マーダーライセンスがそこにいるオーク『バレル』の妹『エリー』を殺したことは分かっていた。そしてそれを忍がやったように見せかけていたことも。だが俺は全部を知った上で『バレル』の復讐心を利用してお前に殺させて赤ネームにしたと言うわけだ」


 ちょっとまて。色々と聞き捨てならないことを言った気がするぞ!

 マーダーライセンスが俺をPKに仕立てあげようとした?

 しかもそれを知って零は俺を赤ネームに……なんで?


「そういうことだ。うちの大将も全く人が悪いぜ」

「兄が迷惑をかけたみたいですいません!ほら、兄貴もちゃんと謝って!」


 オークの後ろにいたエルフの女の子が膝に頭が付きそうおな勢いで謝ってきた。この子がどうやらエリーって子らしい。隣の兄貴の頭を無理やり下げさせている。

 しかし…。


「は?え!?ちょ!意味分からないんですけど!?なんでそんなこと?!」

「理由を語るつもりはない。尤も、結局俺の計画は失敗したがな。さらに言えばセシリアが死ぬところまでは計画になかった。あのときは死んだほうが計画に好都合かとも思ったが、今にして思えばアレが失敗の原因だったのかもしれないな」

「ますます意味が分からん!」

「それでどうする?マーダーライセンスを叩くなら協力してやっても構わない」

「な、なんで?」


 俺を嵌めて赤ネームにまでした奴がどうしていきなり友好的なんだ?


「信じられないかもしれないが、俺は全プレイヤーの中で最もお前のことを愛していると言えるだろう。だから協力してやってもいいと言っているんだ」

「はっ!?あ、あい!?」

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