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第51話 防衛戦

「『チェンジウェポン(換装)!』『オーバードライブ(力とは何か教えてやる)!』」


 魔剣ガルムが殺戮のドラゴンデストロイへと姿を変え、『オーバードライブ』により次の一撃の攻撃力が飛躍的に上がっていく。


「『うおおおおおおおおおおおお!!!!(鬼神化(覚醒せよ)!)』」

「『オーガパワー!』」


 『鬼神化』が発動し獅子の亡霊が身体に纏わり憑き、『オーガパワー』がかけらたところで一気に前へと駈け出した。


「おおおおおおおおおおおおお!!!(我流殲滅奥義!『紫電一閃(クラウ)』『ソニックドライブ(ソナス)』!!!)


 覇王剣の広範囲高威力の単発ヒット技スキル『紫電一閃』が『ソニックドライブ』によって大きく攻撃力、攻撃範囲を広げ、敵軍勢を斬り裂いていく。

 さらにスキルの名前通り、敵を斬り裂いていく剣の後ろから青い稲妻が迸り、斬撃範囲以上の敵を焼き払っていく。

 今ので50匹くらいはれただろうか。

 敵の軍団を大きく切り取り、集団を突っ切ったところで技後硬直が始まるが、すぐに追撃できるものは周りにいない。

 そしてレイスによる攻撃魔法が襲いかかってくる頃には硬直は解け、『スキルリッパー』を使い、逆にその魂を刈り取っていく。


「うおおおおおおおお!!(チェンジウェポン(換装)!)」


 武器を再び魔剣ガルムへと持ち替え、敵のど真ん中へと突っ込み、中からかき回す。

 鬼神化状態の俺のステータスは委員長の補助魔法と合わせて以下のような状態になっている。


 魔剣ガルム [攻撃力154炎攻撃力20聖攻撃力20]

 筋力 23(+24)

 敏捷 14(+11)

 称号補正 攻撃速度+10%、移動速度+10%


 はっきり言って攻撃力もスピードも滅茶苦茶だ。その上、覇王剣・戦舞・ダッシュによるシステムアシストが加わるものだから剣を二振りするだけで三匹くらいは葬ることができる。

 まるでアクションゲームを倍速で再生しているかのような無双状態が続いていく。

 全身をバネのようにしならせて、反動を付けて剣を振り回しているため、視界は遊園地にあるコーヒーカップを全力で回しているとき以上に目まぐるしく回っている。

 これはインパクト時の斬速を上げるという意味もあるが、周囲の状況確認も同時に行うことも可能になっている。スピードに慣れてきたせいか、ぶれる視界を全て認識できるようになっているからだ。

 つまり今の俺には360度死角は存在しないということになる。


雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄(おおおおおおおおおお)!!!(我流殲滅奥義!無限旋風!!!)」


 旋風と言いながらも一方方向に回り続ける技ではない。『戦舞』による足運び、身体のひねりへのシステムアシストを受けながら剣を左右へと大きく切り払いながらただただ敵の中を突き進んでいく我流スキルだ。

 そして迫り来る攻撃魔法はスキルリッパーをもって迎撃する。

 しかし、そんな俺の攻撃もいつも同じようなところで終わりを迎えることになる。

 振りぬいた剣が火花を散らしながら大きく弾かれてしまう。

 俺の攻撃を弾いた存在に向かって何度も剣を振り下ろすが悉く防がれていく。

 黒い炎を纏う魔剣によって。

 目の前の敵の名前が頭上へと浮かび上がってきた。


 ユニークモンスター ドッペルゲンガーVer1.42


 そう、相手の姿と能力を真似る高性能AIを宿したあいつだ。


「お兄様!また黒いのが出てきましたよ!」


 肩に乗っているニーフェが目の前の敵に敵意の眼差しを向ける。

 これで何度目になるだろうか。

 防衛戦では必ずと言っていいほど現れるこいつ。

 しかもどんどんバージョンが上がり、バージョンアップを繰り返すごとに強さを増しているような感じがする。

 そしてなぜかこいつはいつも俺の姿で俺に向かって戦いを挑んでくる。


 まるで俺のために用意されたかのように……。


 しかしこの激戦の中いつまでもこいつに時間をかけているわけにはいかない。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!(クロス!インフィッ!返し!)」


 クロススラッシュから左右へ切り払い、逆袈裟斬りから袈裟懸斬りへと繋いでいくが全て正確に防がれてしまう。

 しかし、それでも手を緩めない。

 怒涛の連撃を繋いでいく。

 次の瞬間、敵が迎撃のために振りぬいた剣を俺の剣がすり抜けていき、敵の身体を大きく切り裂いた。


「おおおおおおおおおお!!!(『八艘跳び!』)」

「『満月斬り』」


 俺は『八艘跳び』を使って後ろの自分の胸の高さほどの位置へと足を掛けるように飛び上がる。

 そこで足の裏に感じる確かな感触。

 その感触を踏み台にしてムーンサルトジャンプ(後方宙返り+半ひねり)をしながら真下に向かって剣で薙ぎ払う。


「はあああああああああああああ!!!(月面斬り!!!)」


 腕に伝わってくるMOBを切り裂く感触。

 『幻影』を使って俺を背後から斬りつけようとしたドッペルゲンガーが黒い霧となって霧散していった。

 ベルセルクを使っているというのになんて軟らかいんだろうか俺は……。

 ステータス補正的には筋力の方が上がり幅が大きいからおかしくはないのか?

 うーむ……。


 実はさっき敵を切り裂いたように見えたの、『戦舞』の技スキル『幻影』を使って俺の背後に回り込んでいたからだった。

 しかしこの『幻影』というスキルは完璧に相手の意表を突けるというわけではない。

 攻撃判定と接触した瞬間にそのときの残像を残して背後へと一瞬でワープするが、残った残像から次の太刀筋が読みやすく、しかも俺の方も『残影』が残っている。

 恐らく俺が『残影』を使ってドッペルゲンガーの背後に回っても殺せるように敵は三百六十度範囲攻撃の『満月斬り』を使ったのだろうが、AIが読み合いで俺に勝とうなんて百年早いってんだ。

 こうして俺は『残影』を使うことなく、『八艘跳び』で相手の攻撃を踏み台にして撃破した。


「お兄様おめでとうございます、これで四十三連勝ですね」


 俺の肩の上で悠々と観戦していたニーフェが声をかけてきた。


「おおおおおおおおおおおお!!!(ああ、後は残った敵をみんなと殲滅するだけだ)」

「そういえばお兄様、まだ野生化が続いていらしたんですね」

「うおおおおおおおおおおお!!!(野生生物のお前に言われたくないよ)」

「野生化してるお兄様も素敵です。今すぐ孕ませて欲しいくらい、かっこはぁと」

「おおおおおおおおおおおお!!!(断固拒否する!!!)」

「残念です。仕方ありませんからそれは次の機会まで取っておくとして」

「うおおおおおおおおおおお!!!(仕方がないのはお前の思考回路だ!)

「とっとと残った雑魚共を虐殺していきましょう。仲間に死人が出る前に」

「おおおおおおおおおおおお!!!(そうだよ!急ごう!てか何でお前だけ『鬼神化』状態で話が通じるの?野生だから?)」

「失敬な。これは仕様です」

「うおおおおおおおおおおお!!!(さいですか……)」


 それから俺は迫り来る敵を千切っては投げ千切っては投げ、ほどなくして敵を殲滅することに成功した。

 ボス戦も確かに面白いが、防衛戦はそれ以上に面白かった。

 これがデスゲームの世界じゃなくてプレイヤー同士の戦争だったらどんなに楽しかったことだろうか。

 こんなことを言ったらネームレスさんに怒られそうだが、乱戦になったときが一番熱い。

 常に直感的な判断力が求められ、戦略はなくなってしまうが完全なパワーゲームになるわけじゃない。ひとりひとりの動きが確かに戦術へと繋がっていく。

 そして俺の防衛戦での役目は押されているところへ斬り込み、活路を開くことだ。

 なんて美味しい役割を割り振ってくれたんだろう。


 一方でNPC相手の防衛戦は敵から経験値やドロップは入るが、何か特別なものが手に入るわけではない。

 もしどこかの街や城を統治していたなら税収などが入ってくるらしいが、デスゲームではその機能が未実装であるため防衛戦の旨味は少なくなっている。

 そして一日で二度三度と繰り返されるため、ドロップしたアイテムやお金は全てギルドマスターに預けて、一日の最後に分配されることとなっていた。

 これはダメージを与えた者に優先的にドロップが入るという仕様上、回復職や補助職にドロップ品が入りにくくなっているからだ。


 俺は再び『チェンジウェポン』を『心眼』へと入れ替え、周囲に敵がいなくなったことを確認すると、姫たちの下へと戻った。


「あんな無茶な戦い方ばかりしててよく身体が持つわね。疲れないの?」


 優勢になってからは『鬼神化』を使わなかったため、既に人間の言葉をしゃべることができるようになっていたので、俺はいつもどおりの調子で答えた。


「全然、まだまだおかわりいけるよ。楽しいし後10時間くらい戦い続けられるかな」


 特にレベル上げのような単調さがないのがいい。


「どんだけ戦闘狂バトルジャンキーなのよ……。アドレナリン分泌過多で脳味味噌が馬鹿になってるんじゃないの?」

「ひどっ!」

「まぁまぁ、姫なりに忍のことを心配してくれてるんだよ」

「晶……あなたねぇ……」


 姫が師匠に責めるような眼差しを向ける。

 そうか。姫も俺のことを心配して……全く素直じゃないなぁ。むふ、むふふ。


「ほら、忍が人に見せられないような顔になっちゃったじゃない」

「いいんじゃないか?あれはあれで幸せそうだ」

「確かに妄想中のお兄様は見られたものではありませんが、生きてきた中で一番幸せそうな顔をしています。ただ気がかりなのは一体どんな妄想をすればあんな顔になるのか、ということですが」

「そんな大胆な……ふひ……ひめのましゅまろ……」

「何を考えてるのよ!!!」


 突然顔面に心臓が止まったかと思うほど激しい衝撃を受け、目の前を星が舞い散る。


「なっ!?て、敵襲!?」

「……そうね。もしかするとあなたは私の敵なのかもしれないわ」


 徐々に視界が戻ってくるとなぜか手に鉄扇|(鋼鉄で造られたハリセン)を持った姫が幽鬼のように佇んでいた。

 全身から殺意のようなものが感じ取れる。

 俺のシックスセンスが警鐘を鳴らしている。生きるために逃げ出せと。

 なぜだ。確かついさっきまで俺は姫のましゅまろ……を?


「……もしかして思考が漏れてた?」

「お兄様、見事なくらいダダ漏れでしたよ。あの言葉から一瞬で『ピンク色の妄想』へと繋がる思考回路はまさに神速と言えるかもしれませんね」

「ははっ、そんな馬鹿な。ラノベの主人公でもあるまいし」

「残念ですがそんな馬鹿なお兄様には、撤退することを進言致します」


 まじで?


 師匠の方を見ると、何かを諦めたような顔をして十字架を切っている。


 その諦めたものが俺の命でないことを祈るばかりだ。


 ふぅ……どうやら現実は非情らしい。



「……それじゃあ、次の防衛戦で!」



俺は現状を理解すると脱兎だっとの如くその場から逃げ出した。


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