第50話 狂戦士
実は既に20Mで『心眼』スキルを売ってもらうという話がとあるプレイヤーとついていたらしく、解散してから一時間もしないうちに姫からスキルを渡されることとなった。
何でも初期スキルの非戦闘スキルを成長させて販売することでお金を稼いでいるプレイヤーというのが何人かいるらしく、そこから手に入ったとのことだった。
俺は『心眼』をセットしてステータスを確認する。
名前 忍
種族 ダークエルフ
性別 女
職業 地獄の番犬ベルセルクLv135
HP 1466/1466
SP 1466/1466
MP 1630/1630
筋力 23(+9)
体力 6
器用 11
敏捷 14
魔力 13
精神 12
魅力 5
スキル 覇王剣Lv139 轟脚Lv134 スキルリッパーLv133 戦舞Lv140 ダッシュLv149 心眼Lv120 Cs鬼神化
ストックスキル Exチェンジウェポン Exヘルブレス 回復魔法Lv4
装備
両手1 魔剣ガルム [攻撃力154炎攻撃力20耐久力840/840必要筋力30]
両手2 殺戮のドラゴンデストロイ [攻撃力202耐久770/770必要筋力50]
頭 漆黒のミスリルサークレット [防御力30耐久度40/40]
シャツ 剛力の襯衣 [防御力6耐久度60/60筋力+2]
体 漆黒のミスリルブレストプレート [防御力46耐久度40/40]
腕 漆黒のミスリルライトガントレット [防御力26耐久度40/40]
足 漆黒のミスリルライトプレートブーツ [防御力22耐久度40/40雪上移動可能]
マント ギルドマント [防御力6耐久度40/40防寒]
リング 剛力のリング [筋力+2]
リング 力のリング [筋力+1]
イヤリング 力のイヤリング [筋力+1]
ネックレス 煉獄のネックレス [筋力+3炎攻撃・耐性+20%]
ファッションアバター1 海賊の眼帯
ファッションアバター2 漆黒のガーターベルト
ファッションアバター3 煉獄の剣気
ファッションアバター4 死神の装身具
ファッションアバター5 大悪魔の角
ファッションアバター6 真紅の魔眼
ファッションアバター7 地獄の足枷
所持金 18,934,421G
貢献ポイント 3945P
所持アイテム
上級キャンプセット
グレートヒーリングポーション×40
グレートスタミナポーション×150
解毒ポーション×30
麻痺消し×30
眠気覚まし×30
思えば随分と成長したものだ。
俺も他の人と同様に四次転職を終え、『ソードマスターLv120』から『ベルセルクLv120』になっていた。どこをどう転職したら剣聖が狂戦士になるのかさっぱり分からないが、もしかすると受けるクエストを間違ってしまったのかもしれない。
しかも、『ラッシュ』に代わって新たに取得した『ベルセルク』のクラススキル『鬼神化』は非常に使い勝手が悪い。
『鬼神化』は自分にだけかけられる補助魔法のようなもので、効果時間は十分間。SPやMPの消費と再使用時間がないため、常時使用し続けることが可能だ。
そして『鬼神化』すると身体に血で創られたような獅子の亡霊が身体に纏わり憑き、筋力、体力、敏捷、精神に1.5倍(アイテム補正は除く)の補正がかかる上、全てのSP消費がゼロとなるのだ。
これだけ聞くと完全にチートスキルであるが、当然『鬼神化』にはペナルティーがあった。
まず魔力と魅力が0となり、アイテムと魔法が使用不可能となるのだが、正直そんなことはどうでもよかった。
致命的に問題となってくるのが、人の言葉を話せなくなる…というペナルティーだ。
ただこれは決してしゃべれないということではない。
なんと俺本人としては普通にしゃべってるつもりの言葉が全て雄たけびへと変換されるのだ。
これはかなりショックだった。
そう、俺のアイデンティティーが崩壊してしまいそうなほどに。
例えば俺が「ヒャッハー!汚物は消毒だ~!!」なんて言いながら切り込んでいったり、「生まれてきたことを後悔させてやる!我流神滅奥義!『ダイン』『スレイブ』!!!」なんて熱いセリフを言ったとしても、他の人には「うおおおおおおおおお!!!」や「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!」と聞こえているらしい。
もちろん他人にそう聞こえていたとしてもスキルは発動する。
しかし!だがしかし!それでは俺の最高に格好いい勇姿をみんなに魅せることができないじゃないか!
俺はこの事実を知ってようやく魅力が0になった理由に納得した……。
しかも戦いが終わっても効果が持続している十分間は人の言葉をしゃべることができない。
というわけで『鬼神化』スキルを封印して普通に戦っていたら委員長から、『ラッシュ』スキルがなくなった分、前より弱くなりましたね、なんてことを言われてしまった。
ほんと、何でベルセルクになんてなったんだろう……。きっと違うルートがあったはずなのに……。
あと、『覇王剣』は『破城剣』の上位スキル、『轟脚』は『神脚』の上位スキルで、前より攻撃速度や攻撃力に補正が付くようになり、技スキルも増えた。
ちなみに黎明の攻撃を乗り越えるときに使った『八艘跳び』はダッシュLv100で覚えた技スキルで、使用してから全ての当たり判定|(攻撃、壁など)を八回踏み台にできるという超性能のスキルだ。
これを使えば、相手の振り上げた剣を踏み台にしてもダメージ受けないため、振り上げた剣の上に立って「遅い。その程度の腕前、ハエが止まるぞ」なんてことを言えたりする。
これはボス戦でやると超目立つから気持ちがいいうえ、後で姫からお叱りを受けることができるという一粒で二度美味しいスキルなのだ。あれ?
『ダッシュ』はLv50、Lv100で技スキルを覚えたので、Lv150になったときも何か覚えるんじゃないかと睨んでいる。
『スキルリッパー』は『スキルクラッシュ』の上位スキルであるが、何が変わったかと言うと、一つは相手のスキルをキャンセルしたときに、高確率で相手がそのスキルを1分間使用できなくなるという点。そしてもう一つが、詳細な設定ができるようになった点だ。
例えば、『スキルリッパー』の言葉で余剰ダメージ有+スキルキャンセル+ノックバック+スキル使用不可を設定して、『ブレイク』の言葉で余剰ダメージ無+スキルキャンセルの効果が発動するようにできるようになった。
もしこれを零に襲われたときに使えたら、余剰ダメージ無+スキルキャンセル+ノックバックを使って赤ネームになるのを防げたかもしれない。
そして『ムーンウォーク』は『戦舞』といういきなり漢字の回避スキルになって、横回避だけではなく、上下回避にもシステムアシストが加わるようになった。
ここまで来るともうほとんど全ての行動にシステムアシストが加わっているようなものだ。まさに超人的な動き。身体能力が上がるほど俺の極意と噛み合ってくる。
『戦舞』を覚えた俺はきっと戦場で華々しく舞えていることだろう。
そして『戦舞』を覚えてようやく回避系の技スキルを一つ覚えることができた。
それが『残影』である。
『残影』は『ステルス』スキルのように『心の声』によって発動するタイプの技スキルで、『残影』を発動させると、例え攻撃途中であってもこちらの攻撃判定が全て消え失せる。
そして俺の攻撃が相手に当たるか、もしくは相手の攻撃がこちらの当たることによって効果が発動し、そのときの俺の残像を残しながら敵の後ろへ瞬時に周り込むことができるのだ。
ただこれには最大移動距離が4メートルほどで設定されているため、遠距離職の背後へと回り込むようなことはできない。そして再使用時間が5分と結構長い。
とはいえこのスキルのおかげでみんなの憧れの的でもあるあの『残像だ』が使えるようになるというわけだ。
これが最高に楽しい。楽しすぎて再使用時間が回復するたびに使っていたら、いきなりタゲが外れて補助魔法がかけにくいと委員長にお小言をもらう羽目になってしまった。
でも悪いのはこんな素敵スキルを作った素敵開発陣だと思うんだ。
前にも思ったけどヴァルキリーヘイムの開発者は本当にユーザーのツボを心得ている。
何でこれでデスゲームなんて始めたんだろう。普通のVRMMORPGだったら全財産投資してもよかったのに……雀の涙ほどしかないけど。
そんなことを考えながらも俺は転移門を使って巡回へと繰り出した。
『ダッシュ』による移動はレベルが上がることにより尋常じゃない早さになっている。もしこれが現実ならオリンピックで金メダルどころの話じゃない。
G1に出て優勝してしまえるくらいの早さだ。
ある有名騎手は、クラシック三冠を達成した伝説的駿馬ディープインパクトについて『走っているというより飛んでいる感じ』と評しているが、体感的にはまさにそんな感じである。
「こちらベータ。小人の国周辺はオールグリーン。オーヴァー」
「こちらアルファ。こっちも今のところは侵攻の気配なし。引き続き警戒にあたって。オーヴァー」
美羽の声がプライベートコール機能を通して聞こえてくる。なかなかにいいノリだ。
しかしそんな俺たちに水をさす人物がいた。
「何ですかそのやりとりは……。忍さん、相手はPKなんですから真面目にしてください。いいですか、セシリアさんを生き返らせるときにしたような無茶は絶対にしないでくださいね」
姫を生き返らせるときにした無茶ってなんだろう。ボスと一人で戦ったこと?それとも黎明の防衛線に突っ込んで行ったことか?……両方かもしれない。
「分かってる。俺、この巡回が終わったら結婚するんだ。委員長と」
「あ、黎明の斥候が侵攻してくるヘルの軍勢を確認したそうです。すぐに帰ってきてくださいね」
「それはすぐにでも俺と結婚したいということかい?」
「…………忍さん、一ついい事を教えてあげます。しつこい男は女性には嫌われていくものなんですよ?」
「すいませんでした!」
俺はグレートスタミナポーションを飲みながら急いでニヴルヘイムへと戻った。
いつも防衛ラインの敷かれているところにいくと既にみんな臨戦体勢に入っていた。
「『ホーリーウェポン』『アーマーブレス』『パワーバースト』『タフネスバースト』『スピードバースト』『レジストバースト』」
委員長から魔法を使うとパーティー全員に補助魔法がかかっていく。
さすがに死者が出そうになる戦闘で、技の名前を叫べないからという理由で『鬼神化』しないわけにはいけないが、まだ突撃する時じゃない。
俺はスキルの『心眼』を『チェンジウェポン』と入れ替えると、迫り来る敵の軍団を見据えてじっと待機した。
やはり今回もアンデッド集団……その数は500ほどいるだろうか。
対するこちらは150人くらいだ。
アンデッドたちが近づいてきたところで姫たちギルドマスターがスキルを発動する。
「『サークルオブブラッドプレッジ、フォースシールド!』」
スキルが発動すると、姫を中心に直径25メートルほどの白い魔法陣が地面に刻み込まれる。
これは魔法陣の上にいる全てのギルドメンバーの防御力を上げるギルドスキルの一つで、あのギルドクエストをクリアしたギルドマスターにのみ使用が許されるものだ。
そしてそれに続いて遠距離職のプレイヤーから敵の軍勢に向かって一斉に攻撃が放たれていく。
そう、これだけ数の差があれば近づいてくるまでに少しでも敵の数を減らさないといけない。
「じゃあ、ちょっと俺も行ってくる」
「分かりました。十分に気を付けてくださいね」
「その言葉だけでご飯が、いや、敵を百匹はかき込める」
「食べてどうするんですか……」
呆れたように答える委員長を見ると僅かに微笑んでいるように見えた。




