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第49話 プレイヤーキラー

「昨夜神話会議で決められたPKギルド『マーダーライセンス』への対応を報告するわね。『マーダーライセンス』のギルドメンバーを見かけた場合は即PK、また戦力的に無理な状況であれば即刻撤退することが推奨されたわ。フィールド上で赤ネームを見かけた場合も即PK、もちろん忍以外ね。掲示板でフィールド上にいる赤ネームは見つけ次第排除することを宣言しているから、忍のように手違いで赤ネームになった者ならまずフィールドへは出て来ていないと思っていいわ」


 なるほど、つまりフィールドに出ている赤ネームは俺たちと戦闘になることを承知で出てきているというわけか。


「相手を問答無用でPKすることに戸惑いを覚える人もいるだろうけど、相手は常に私たちや仲間の命を狙っているの。一人逃がせば次は自分が殺されるかもしれないし、自分の大事な人が殺されるかもしれない。そしてPKを殺す覚悟を持てない者はフィールドへ出ることを禁止されたわ。もちろん防衛戦も。PKを前にして戦えないんじゃPTを組んでいる仲間が危険に晒されることになるからね。さて、ここまでで質問はあるかしら?」


 殺す覚悟……か。


 ヴァルキリーヘイムには現実リアルのように刑務所のような施設はないのだから犯罪者プレイヤーをどうにかしようと思ったら確かに殺してしまうしかない。

 零の件では驚きが強くてすぐに行動を取れなかったが、俺は正直なところPKプレイヤーを殺すことに罪悪感はあまりない。

 レイモンド・チャンドラー氏も小説の中で言っていた。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだと。

 全くその通りだと思う。戦いが始まった時点でお互いに立場は対等であるべきだ。

 そしてPKが一般プレイヤーを手に掛けた時点で、俺たち一般プレイヤーとPKとの戦いが始まったと言える。

 今までだって俺たちは最も危険な場所で自分の命をかけて戦ってきたんだ。

 相手が犯罪者プレイヤーになったからといってそれが変わるわけがない。


「質問いいですか?」


 みっちーが手を挙げる。


「どうぞ」

「例えPKする覚悟を持ってフィールドへ出たとしても、私たち攻略ギルドには近づいて来ないんじゃないですか?」


 確かに最もな話だ。

 神話同盟はプレイヤー全体から見ればかなり突出した力を持っているといえる。

 わざわざPKが危険を犯してまで近づいてくるはずがない。


「ここまではあくまで心構えの問題よ。もしかすると防衛中に襲い掛かってくることもないとは言い切れない。もっともいくら防衛中とはいえ、防衛を放棄してPKの殲滅に乗り出すこともできるわけだから、よほどの馬鹿じゃない限り襲い掛かってくるようなことはないだろうけどね。さて、他には?」


 俺も特に質問はない。他の人も同じ様子だった。


「じゃあ次に『マーダーライセンス』の処理に関する話だけど、今私たちが打てる手は非常に少ない。それを踏まえた上で聞いて欲しいんだけど、忍に一任しようと思うの。もちろん忍がよければだけど」

「え、俺だけ?」

「そうよ。理由はただ一つ、高レベルのダッシュスキルを持っているから」


 どういうことだ?


「現状では防衛から戦力が抜けることはありえない。その点忍なら呼べばすぐに帰って来られるでしょう?」


 確かにダッシュスキルを駆使すれば、ある程度離れたところにいたとしても侵攻を察知して防衛が始まるまでに戻ってくることができるだろう。

 しかしそこで師匠が異論を挟む。


「だがそれだと忍の負担が厳しくないか?」

「何も忍に『マーダーライセンス』を殲滅しろなんて言わないわよ。ただ、適当に巡回してもらえればそれでいいの。安全のために『気配察知』の最上位スキルである『心眼』を同盟資金から出し合って購入することが許可さているし、もちろん作戦後もそのまま忍が使っても構わないことになっているわ」


 最上位スキルを成長じゃなくて購入って店売りのを買うとしたら50M……もしプレイヤーから売ってもらったとしても30Mは下らないんじゃないだろうか……。

 スキルは基本的に取引可能なアイテムではあるが、受け渡しをした時点でスキルレベルが最低値に戻ってしまう。例えば『心眼』の最低値は120だったはずだ。

 これを覚えれば委員長ほどではないとしても、よほど高レベルなステルススキルを持っている者がいない限り気付かれずに近づかれるようなことはないだろう。


「それに私ももう貢献度が10000ポイント貯まっているのよ?だから安心して死んでくれても構わないわよ?」


 そう言ってにっこりを笑いかけてくる。首を傾げた拍子に姫の柔らかいくせっ毛がふわりと動いてとても可愛らしいが……。


「ひどいっ!ひどすぎるっ!不当な扱いに断固抗議させてもらう!」

「そうです! PK如き何百匹かかって来ようが天地が引っくり返ってもお兄様が負けるわけがありません!というかお兄様が死ぬこと自体ありえないので、そのポイントは全くの無用の長物でしかありませんね。はい残念でした」


 いや、お前どんだけ俺のことを過大評価してるんだよ……。

 というか何でいつも姫に対して喧嘩口調なんだ?


「ふふっ、そうかもしれないわね」


 姫は姫でいつもニーフェの発言を笑って受け流す。

 そして二人の間には一瞬電気が走ったように錯覚した。なんだろうか一体……。


「それでどうする?無理なようなら私の方から断りを入れておくけれど」

「ちなみにその巡回はいつまで続けることになるの?」

「ヘルヘイムの攻略が終了するまでになるわね。当然私たちも日々強くなってるから防衛戦に余裕が出てきたらその分人間を回すことになっているわ」

「なるほど」


 つまりそれまでの間PKたちを牽制すればいいってわけか。


「しかしそれではいくらなんでも忍さん一人に頼りすぎではありませんか?」

「そう言われると痛いんだけどね。実際忍のネームバリューと視覚効果ほど威圧効果の期待できる手段がないのよ。まさか彼を見て襲い掛かってくるPKはいないだろうし……ね」


 姫がそういうと周囲の目が全て俺に集まった。


 流れるような黒く長い髪と白く輝くような青い肌をしたグラマラスなボディ。そしてクロスボーンの入った眼帯に髑髏のアクセサリーと漆黒のガーターベルト。さらには黒い炎の宿る魔剣を持ち、紅い血管が這わされているかのような黒い鎧を身に付け、血が飛び散った跡の付いたような盾の紋章の入った黒いマントをなびかせている。その上新たに加わったやや頭部前方から生えて後ろへと流れる黒い悪魔の角と闇の中でも紅い輝きを放つ瞳。極め付けには左足首に付けれてた足枷から伸びる鎖の先に付けられた鉄球がとてもいいアクセントになっていると思う。


 コンセプトはエロ格好いいこと。


「あはっ、確かにこの上なく威圧的だよね」


 言われてみるとそう見えなくもない……かな?


「お兄様はもう魔王を名乗っていいと思います」

「いやいや、そんなもの名乗ってどうするんだ」

「忍……お前なら一人でも大丈夫そうだな」


 師匠!?さっきまであんなに心配してくれてたのに……。


「忍さん、お願いですからオーディンを倒した後に敵として出てこないでくださいね」


 ちょ、どんだけだよ!俺だっていちプレイヤーですよ!?


「ほんと、何でこうなったのかしらね」

「「「「はぁ…………」」」」

「え、何?俺が悪いの?」

「少なくともあなたを見て戦いを挑む人がいたとしたらそいつはきっと自殺志願者ね」


 姫をはじめみんなが呆れたような顔で俺を見る。


「いやいや、そうは言うけどみんなだって大概たいがいおかしいぞ!姫なんてプレートの一つ一つに細かな装飾が施されてるし何か輝いてるし、師匠だってソウルテイカー(ネクロマンサーの四次職)の癖にそんな聖職者みたいな装備してどうみたって詐欺師だし、委員長だっていたるところにシースルーが使われたような超エロいローブ着てて超エロいし、美羽なんて鎧に獅子の顔なんか入れちゃってお前どんだけ肉食系なんだよ!それにニーフェだって…………あ、いや、お前は何一つ変わらないな」

「お兄様酷いです……」


 すまん……何となく勢いで話を振ってしまった。


「忍さん、そんな目で私のことを……」


 委員長が久しぶりに汚物眼を開眼して身体を隠すような仕草をする。生ゴミを見るような目とはまさにこのことだ。


「「「「最低」」」」


 そして女性陣(なぜか爬虫類含む)から辛辣なお言葉をいただいてしまった。

 うぅ、俺はおとこの心情を代弁して言っただけなのに……。でも、委員長に蔑んだ目で見られてちょっと嬉しい俺もいる。

 いや、ちょっと待ってくれ。違うんだ。決して俺が蔑んだ目で見られたいというわけじゃなくて、メガネを掛けたきつめの美人って冷めた表情が絵になるというかなんというかごめんなさい。

 ここは汚名を挽回しないと……。


「お兄様、汚名を挽回してはいけません。汚名は返上です。そしてそのような使い古されたネタでは残念ながら失笑すらもらえませんよ」


 勝手に人の心の声を読むんじゃないよ。

 しかもダメだしするんじゃないよ。

 と思いながらも耳元の言葉を黙殺して話を元に戻す。


「分かった、巡回は任せてくれ。目に付いたPKには全員地獄を見せてやる」


 そう言ってにやりと笑って見せると全員が一斉に後ずさった。


「忍……、そういう台詞はハマリ過ぎるからやめなさい」

「ごめんなさい……」


 そして会議は解散となった。

感想や励ましの言葉ありがとうございます。

皆様のお言葉を励みにこれからも楽しく書いていけたらと思います。

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