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再会 Sideセシリア

 それはデスゲームに囚われてから一週間後のできことだった。

 デスゲームに囚われた私はLVを上げながらも、以前のゲームで仲間だったギルドメンバーたちを探し、ギルドに勧誘していっていた。

 なぜ過去にギルドを勝手に去っていった私がそんなことをしているかというと、晶たちに頼まれたからだ。

 いや、頼まれたからというのは少し違うかもしれない。

 イージスの盾が再結成されたのは何も攻略を目指したからではない。


 晶は私を前にして言った。

 当時のギルドメンバーたちが突然デスゲームに囚われたことで不安に駆られている。例え攻略を目指さなくても、気心の知れた当時のギルドメンバーたちで再びギルドを結成すればみんなの不安も少しは紛れるのではないかと。


 それには私も大賛成だった。

 なぜなら、あまり面識がない人とこのデスゲームの世界で一緒にパーティーを組むことに不安を感じていた私にとっても渡りに船の話だだったからだ。


 とはいえ、私がギルドマスターである必要はない。

 だから、勝手に辞めていった私より晶か、もしくは他の誰かがギルドマスターをすればいいんじゃないかと提案をしたが、その場にいた全員に却下されてしまった。

 やっぱりギルドマスターはセシリアでないと、と。

 何がやっぱりなのかさっぱり分からなかったが、無理やり多数決で押し切られてしまい、再びギルドマスターをする羽目になった。


 それから私たちは掲示板でも元イージスのメンバーに呼びかけ、少しずつ数を増やしていった。

 当時のギルドメンバーはかなりの割合でこのデスゲームにログインしていたようで、みんな不安を感じていたのか、すぐに集まってきた。

 呼びかけても来なかったのは当時ギルドの斬り込み隊長だった零、そしてあのお調子者だった初心者の忍、その他数名。


 その人たちは幸運にもデスゲームにログインしなかったのか、もしくは別の仲間たちと攻略を始めているのだろうと思っていた。


 そう、この日までは。



 私と晶はポーション等を補充するために、日が沈み薄暗くなってきた街中を歩いていた。

 周りにはすれ違っていくプレイヤーたち。もう既に慣れてしまった光景で普段なら気に留めることない。

 しかし私は一人のプレイヤーとすれ違ったとき、違和感を覚えた。

 それは何かを感じたとったというわけではない。その逆だ。

 全く何も感じなかったのだ。


 普段隠しているが、私のパーソナルスペースは人よりもかなり広い。

 それはゲームの中でかなり親しい晶に対してでさえ、3メートル以上近づかれると不安を覚えるほどだ。

 それが今すれ違ったプレイヤーには全く働かなかった。

 僅か五十センチもない距離をすれ違ったにも関わらずだ。

 私は思わず振り返った。

 すると、そのすれ違ったプレイヤーも足を止め、こちらへと振り返って目を見開いている。


 私がそのプレイヤーを意識することで、ターゲット機能が働き、名前が頭上へと表示される。



 プレイヤー名……………………零。



 以前のヒューマンだった外装とは違い、ダークエルフとなっている。

 しかしその手に持つ斧槍。そして何より私のパーソナルスペースに入っても不快に感じない者の中でヴァルキリーヘイムにログインしている可能性のある人物。

 間違いなくあの零だ。


「零!」


 私は嬉しくなって零の元へと駆け寄っていった。


「セシ……リア……」


 零は驚きの表情で私を見ている。


「そう、セシリアよ!今まで一体どうしていたの?てっきり零はゲームにログインしていないものとばかり思っていたわ」


 後ろから晶も駆け寄ってくる。


「零、久しぶり。晶だ。覚えているかな?」


 晶が気さくに話かけると零は無言で頷いた。


「お前たちまた一緒にいるのか?まさか……」

「うん、また昔の仲間たちとギルドを作ったのよ。大吾や忍はいないけれどよかったら零もまた一緒に…」


 私は当然零も一緒に来てくれるものだとばかり思っていた。

 だって彼は…。

 しかしその瞬間零の表情が変わった。


「また……ギルドを作った……だと!」


 突然零に鎧の襟元を掴まれ、すごい力で引き寄せられる。

 私は咄嗟の出来事に何も反応することができなかった。


巫山戯(ふざけ)るな!お前の無責任な行動がどれだけ……あいつを……」


 無責任な行動?それってもしかして私がゲームをやめたこと?それにあいつって……誰?


「止めろ、零!一体どうしたんだ!」


 晶が零の手から私を解放しようとするが、ビクともしない。


「そのお前がまたのうのうとお友達ごっことは……本来ならこの場でズタズタに切り裂いてやりたいところだ!」


 零の目を見て息を飲み込んだ。彼から感じるのは……明確な敵意。

 信じられない……あの零が……。


「はっ、もういい」


 そう言うと零は私を突き放した。


「零……なんで……」


 訳が分からなかった。


「一つだけ良い事を教えておいてやろう。お前のことを恨んでいるのは俺だけじゃない」


 恨んでいる?あなたが……私を?


「勝手に仲良しギルドでも作って偽善者ぶってるがいい。精々《せいぜい》PKには注意することだな!」


 それだけ言うと彼はきびすを返してこの場を去っていった。


 どうして……零。

 私の唯一の幼馴染にして親友だった彼……いや、彼女……。


 そう、彼女とは生まれた頃から現実リアルで付き合いがあった。

 家が近く、親同士も親友で、同い年だった私たちは当然のように気がつけば姉妹以上に仲良くなっていた。

 私がこの旧作のヴァルキリーヘイムを始めたときも、彼女は仕方なく付き合ってくれていた。


 しかし私がゲームを辞めた頃から次第に疎遠となっていく。

 理由は……多分男ができたからだと思う。

 私がヴァルキリーヘイムを辞めても彼女はずっと続けているみたいだった。

 しかしあるときから外出が目立つようになりはじめる。

 彼女の家に行っても逢えないのだ。

 私たちには二人とも門限があったため、夜遅くまでというわけではないみたいだったが、それでも心配になって聞いてみた。


 すると彼女はこう答えた。支えてあげたい人がいる、と。


 これはいい人ができたんだなと思い、嬉しくなってその人がどんな人か聞きだそうとしたけれど、彼女は言葉を濁すばかりで答えてはくれなかった。

 それからだったろうか。次第に彼女から避けられているように感じるようになったのは。


 そして月日が経ち、春が来て、私たちは新しい生活へと切り替わるに従い、一気に疎遠へとなっていった。

 それから何度か彼女と連絡を取ろうとしたが、向こうの両親も困ったような笑みを浮かべながらも教えてはくれなかった。


 ヴァルキリーヘイムがリメイクされて始めようと思ったのは、確かに懐かしさによるものもあった。

 だが、もしかすると彼女とヴァルキリーヘイムで出会えるかもしれないと思ったからだ。

 彼女と再び交友を取り戻す。その願いがこのときもろくも崩れ去ってしまった。


 何が彼女をあそこまで変えてしまったのか……私がゲームを辞めてしまった所為?それとも支えたいと言った人の……。


 分からない……だからこそ私は今日も戦い続ける。


 いつの日か再び彼女と分かり合える日が来ることを信じて。


 私はインベントリを開いて不備がないことを確認すると、宿屋の自室を出た。


 するとそこにはひまわりのような笑顔を咲かせたあいつがいつものように待っていた。



「姫!今日こそビフレスト攻略だ!」


「こら、らないの。仕方ないわね……死なないように守ってあげるわ」




 支えたい人……か。私にはまだ少し分からないけど、守りたい人はたくさんできたんだよ。

IDに関しては色々悩んでいたので、前に書いたものを一部そのまま載せてしまっていました。

指摘ありがとうございます。

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