第45話 買収
「利用ってお前……」
「いいですかお兄様。例え利用したとしても相手が幸せならそれでいいんですよ」
「お前それ詐欺師の論法じゃないか?」
こいつ思考が結構黒いよな。
「大丈夫です!無問題!私にドンと任せてください!ちょいとそこの娘さん方」
「な、なによ」
「お兄様の強さはもう分かっているでしょう?ここでお兄様を殺したら攻略が1年は遅れますよ」
おいおいそれは言いすぎだろう……。
「う……」
お前も信じるのかよ……。
「それよりももっといい話があります。と、その前になぜお兄様が赤ネームになったかその顛末を語りましょう」
そこからニーフェは、姫が殺されそうになって俺が嵌められた顛末、そして姫が俺を庇って死んでしまった顛末、さらには俺が今姫を生き返らせようとしているところまでを女の子たちに話してきかせた。
「本当にそんな話が……」
「何なら俺のステータス見てみる?もう貢献ポイントは貯まってるよ。ほら」
俺はシステムウィンドウを操作して女の子たちにステータスを見せてあげた。
「うわ、なにこのレベル……スキルも見たことないのばっかり…」
「すごっ!攻撃力152ってうちらアタッカーの合計と同じくらいじゃん!」
「HPは私より低いけど」
「あ、私もHPとSPなら勝ってるよ!」
「筋力極振りの筋力装備ってどんだけ脳筋なの!?武力100でも目指してるつもり?!」
「あははっ、ヴァルキリーヘイムの呂布だよねぇ」
「ユニークアイテムのファッションアバター四つってどんだけ…」
「所持金とか私たち全員の総資産より多いんだけど…」
ステータスを食い入るように見られる。
分析とかされるとちょっと恥ずかしいんだけど……。
「こ、攻略ギルドってこんな人ばっかりなの?!」
リーダーが愕然としながら声をあげる。
というかお金も装備もガルムを倒したおかげなんだけどね。
「まぁまぁお気を落とさず。お兄様が特別なだけですから」
愕然とする女の子たちにニーフェが慰めるように声をかける。
まるでするりと心の隙間へもぐりこんでいく詐欺師にようだ。
「そ、そうよね……」
「それでですね。実はあなたたちを見込んで頼みたいことがあるんですよ」
「「「「…………」」」」
「お兄様がPKになった顛末と、お兄様が今年増ナイトを生き返らせようと奮闘している話を美談にして広めてください」
年増ナイトって姫に聞かれたらお前殺されるぞ……飼い主の俺が。
「…それなら掲示板を使えばいいんじゃないの?」
リーダーが疑問を口にする。
確かにそれはもっともだな。
しかし、ニーフェはすぐにそれを否定した。
「掲示板なんて信憑性がありませんからね。あなたたちみたいな普通の女の子たちが広めてくれたほうが本当っぽくていいんですよ」
「「「「普通………」」」」
普通と言う言葉にショックを受けているみたいだ。
いや、そんな個性的だからっていいわけじゃ…ない……から……うぅ。
「前金1M成功報酬2Mの合計3Mでどうでしょう?」
「「「「3M!?」」」」
「それにあなたたちさえよければイージスに入るための口ぞえをしたって構いませんよ」
「私たちが……攻略ギルドに……」
女の子たちは目を見開き、まるで信じられないような出来事が目の前で起こっているかのように言葉を反芻する。
いやいや、イージスって割と来るもの拒まずだから。利己的で和を乱しそうな人はダメだけど。
というかお前もギルドメンバーじゃなくてただのマスコットだろ。
そんな俺の思いとは裏腹にどんどん話は進んでいく。
「ちなみにどうなれば成功なの?」
「それはもちろん四日後に年増ナイトを復活させて、その後にまだお兄様がイージスで攻略を続けられるようになれば成功です」
「「「「やるわ!」」」」
「簡単にはいきませんよ?」
「多分今回のことは私たちだけに頼りっきりってわけじゃないんでしょう?高レベル帯は『イージスの盾』が動いているだろうし、私たちのレベル帯って臨時募集とかも多いから結構横の繋がりが広いのよね。だからきっと役に立てると思うわ」
「それからもう一つ。お兄様の美談を流すとともに、『(年増ナイトを)生き返らせようとするなんてそこまで一途な人って素敵ね。童貞だからかな?童貞も悪くないね』という風に童貞を肯定する噂も広めてください。ここでお兄様が非童貞だったということは聞かなかったことにして」
「そ、それには何か意味があるの?」
「当然ですとも!MMOプレイヤーは童貞率が高いという統計が2XXX年に国から出ています。もしそんな噂が広まれば、一途に年増ナイトを生き返らせようとするお兄様は童貞のイメージを塗り替えた英雄的存在となり、童貞の方々を心情的に味方につけることができるかもしれません。さらにはそんな一途なお兄様を応援する気の違った女性ユーザーも出てくる可能性もないわけではありません。実際はただのスケベだったとしても」
何その統計……俺も童貞だから否定はできないけど……。というかどうしてお前はいちいち一言余計なんだ。それは挑戦か?俺に対する挑戦なのか?
後で覚えてろよ……。
「そういうことなのね。分かったわ!」
え、今ので分かっちゃうの?!
どう考えても後半部分の童貞の件はおかしいだろう!
「でも、後4日しかないのに大丈夫なのか?」
「多分美談だけだったら割とどうでもいいので広まる速度も遅いですが、童貞の話が加わったら電光石火の如く広まっていきますよ。主に男性プレイヤーの中で」
「お前それはさすがに男を馬鹿にしすぎだろう」
「もしお兄様がそんな噂を聞いたらどうしますか?」
「そりゃあ、もちろん速攻で姫と委員長とローズさんに話しにい……あれ?」
「そこでするりと三人もの女性の名前が出てくるなんてさすがお兄様です!とはいえ、その中に私が入っていないことに関しては後で糾弾させてもらいますが」
「リアルでハーレム狙いとかさすがにちょっと引くわ……」
女の子たちが一斉に後ずさった。
あれ、何この流れ?
「……もしかして出会い厨ってやつ?何でそんなにスケベなのに女キャラなんて使ってるの?」
何だろう。物凄く蔑んだ目で見られているような気がする。
そしてその目に懐かしさを覚えるのは委員長のせいだろうか。元気にやってるかな、ギルドのみんな。
「ふっふっふ、それは素人の浅知恵というもの。お兄様ほどのプレイヤーになると、スケベだからこそ女キャラなんです!基本的にお兄様はドエムですから、虐げられることに性的興奮を覚えます。しかしその虐げられているのが男キャラだとしたら客観的に見たとき興ざめしてしまうんです。そこで女キャラを使うことによって、主観的にも客観的にも美味しい。つまり一粒で二度美味しいという状態を味わえるからこそ女キャラを使っているというわけなんです!」
「そ、そこまで変態だったなんて……」
すごい勢いでドン引きしている。みんなの顔から余裕が消えたのがはっきりと分かる。
「違うから!ちょっ、おまっ!全国の女キャラ使ってるユーザー様に謝れ!」
「何を言っているんですかお兄様。私は世界でただ一人お兄様にだけ限った話をしているんですよ?」
「なお悪いわ!そんなこと考えて大事な大事な自分のキャラを作るか!そもそも俺は恋人だのなんだのいう以前にともだ…ち…だ……って……ともだち……だって……」
あれ、姫たちに会えなかったら今でもソロしてたような気が……か、考えちゃいダメだ!思考を止めろ……心がダークサイドに落ちる前に……。
………………そうだ。鬱死しよう。こんな辛い世界が現実はわけないや。早く次の世界に行かなきゃ。ははっ……はははははっ…………。
「お、お兄様!お気を確かに!ニーフェが言い過ぎました!そう、冗談です!イッツジョーク!全部冗談ですから!」
「そ、そうよ!ほ、ほら!今は仲間がいっぱいいるんでしょ!私たちもこれから仲間になるんだし元気出して!」
何だろう。今日はやけに優しさが目に染みるな。視界がぼやけて仕方がないや。
「俺、生きてていいのかな」
「もちろんですよお兄様!お兄様は生きて私と愛の結晶をこの世に残すと言う重大な使命があるんですから!」
「いやそれはない」
「ちょ……いきなり冷静にならなくても…」
いや、だってお前NPCだし爬虫類だし。
「こ、こほん!そういうわけで噂の方はお願いしますね」
「ええ、任せて!忍さんが攻略を続けられるように全力で頑張るわ」
「それじゃあ、とりあえず1M渡すよ」
俺はリーダー……ええっと『みっちー』にトレード申請をして前金の1Mを手渡した。
「それじゃあ、期待しててね!」
それから女の子たちは手を振って去っていった。
念のため関係者であることを知られないために、フレンド登録はしてない。
忍は優秀な?手ごまを手に入れた。
「ふふっ、ちょろいもんでしたねお兄様」
「お前…………」
とんでもない奴だ。
とはいえ、きとんと報酬を支払ってるんだから利用っていうより契約って感じがする。
もしかすると口が悪いだけで、そういうところはきっちりしているのかもしれない。
「しかしあれだな。姫や委員長を見ているとそうでもないけど、女の子が大勢集まると結構騒がしいもんなんだな」
「そうですか?お兄様だって今は女の身体なんですから、あの中に入っていくくらいじゃないと」
「この姿でか?……ちょっと試してみるか」
声色を変えてしなを作りながらステータスを見られていたときの会話に混ざる演技をしてみる。
「あははっ、ここまで強くなるのにぃ、凄く頑張ったんだよぉ?」
「「………………………………」」
「しかしあれだな。女の子が大勢集まると結構騒がしいもんなんだな」
「そうですね、私もそう思いました」
10秒前の自分を思い出すと思わずぶち殺してやりたい衝動に駆られたが、そのときの記憶を抹消することで俺は何とか心の平穏が保つことができた…。
今日の教訓
己を知らずして、身の程を知ざれば、戦うごとに必ず爆死




