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第43話 魔剣をこの手に

 振り返るとそこには……どこかで見たような人が……ああっ!!ローズさんのところのヒーラーさんだ。

 確か名前は……。


「ハルコさんでしたっけ?」

「いやいや、私は全国制覇を目指してる部活のマネージャーさんじゃないよ!?ハルカです、ハ・ル・カ」


 この人も大概ノリがいいよな。


「私もいるのであります!」


 ハルカさんの後ろからぴょっこりとマイスターが生えてきた。

 他にも何人か護衛のPTメンバーらしい人たちがいる。


「おお、クリスも連れて来てくれたのか!」

「それじゃあさっそくこれが頼まれてたグレートスタミナポーションね。これで24時間戦えますか!」


 トレードによりハルカさんからスタミナポーションよりさらに上のグレートスタミナポーションを200個ほど受け取った。いや、これ栄養ドリンクじゃないからね?


「後はクリスさんに武器を修理してもらえば私たちの任務も完了です」

「任せるのであります」

「あ、その前にボスから素材がドロップしたんだけど、これで新しい武器って作れないのか?」

「どれなのでありますか?」


 俺はクリスへトレード申請をして『魔犬の爪』と『ダマスカス鉱石』と『製作費1M』を受け渡した。


「ダ、ダマスカス!?初めて見たのであります!」

「はえ~……君ほんとにボス一人で倒しちゃったんだねぇ」

「15時間もかかったけどな」

「あれは恐怖との戦いでした……」

「これだけ鉱石があれば、多分足りるのであります。それにユニーク素材を混ぜればユニーク武器が出来上がるのであります。これを本当に私が作っちゃってもいいのでありますか?」

「もちろんだ。俺の刀鍛治マイスターはクリスただ一人だからな」

「光栄なのであります。それなら今からここで作るのであります」

「ここでできるのか?」

「はいなのであります。必要筋力は28でいいのでありますか?」

「いや、ついに30に到達したから30で作ってくれないか?」

「30ってすごいなぁ。私の3倍はあるよ?」

「本当に脳筋なのであります。了解したのであります。携帯溶鉱炉を出すので皆さん離れるのであります」


 クリスはシステムウィンドウを操作して溶鉱炉を取り出すとそこへダマスカス鉱石を入れ、インゴットを製作し始めた。鉱石一つに付きインゴットが二個~四個のインゴットが生成されていく。

 そしてそれを魔犬の爪と一緒に火にかざし、ハンマーで叩きあげていくと、次第剣の形へと変化していく。

 刀身はガルムの身体のように紅く染め上がり、その中心には紅い瞳が爛々と輝いていてまるで生きているかのように脈打っている。巨大である分、相手からもこの瞳を視認することができるだろう。

 鍔から柄にかけてまるで触手が手に絡み付いているようなデザインになっており、生理的嫌悪感を示す人もいるかもしれない。


「クリスって結構前衛的なデザイン好きだよな……」

「武器はやっぱり強そうな方が格好いいのであります。それにこれは完全に私のデザインというわけじゃなくて、ところどころユニークアイテム特有のデザインが盛り込まれたようなのであります」

「そうなのか」


 それにしても何で俺の手に入れるアイテムってどんどん禍々しくなっていくんだ?

 姫とは対象的すぎるぞ……。

 そしてひときわ大きな金属音が鳴り響くとクリスの手の中でついに剣が完成した。


「眼帯のおねーさんは本当に運がいいのであります。今度は攻撃力が上がったスペリオール武器ができあがったのであります。というかチート武器なのであります」

「マジで?」

「はいなのであります。恐らくダマスカス鋼の特性はその高い耐久性にあるのでありますが、重量・それにユニーク素材と相まってとんでもないことになってしまったのであります」


《クリスがトレードを申請しています。承諾しますか?Y/N》


 完成した武器を受け取ってみる。

 何だこれ……ダジャレか?


 魔剣ガルム[攻撃力154炎攻撃力20耐久力840/840必要筋力30]


 もしかして魔剣と魔犬を掛けてるとか?そんな馬鹿な……ははっ…………はぁ。


「この炎攻撃力ってのは何だ?」

「他のユニーク武器で同じような能力を見たことがあるのでありますが、その数値の攻撃力だけ炎属性のダメージを追加するらしいのであります」

「ええっと……つまり?」

「例えば炎属性の敵には攻撃力-20、水属性の敵には攻撃力+40、それ以外の属性の敵には攻撃力+20の効果を発揮すると考えるといいのであります。実際は属性耐性も関係するので誤差は出るのでありますが、大体そんな感じなのであります」

「なるほどな。というか普通にドラゴンデストロイより強くないか?」

「素材が違いすぎるのであります」

「本当に随分と景気のいい数字が並んでるねぇ。それだけ強かったらクリアまでいけそうな気がするよ」

「古来より凄腕の戦士にはそれに相応しい武器が手に入るものです。お兄様なら元々このくらいの武器は持っていて当然です。さぁ今すぐクリアしにいきましょう。年増ナイトなんて放置して今すぐに!」

「こらこら」


 ニーフェも姫のことになるとほんと口が悪いよな。姫と結婚したら設定上はお前の義理の姉になるんだからもうちょっと仲良くしても罰は当たらないと思うんだけど。姫が義理の……姉?…………じゅるり。

 う、羨ましくなんかないんだからね!


「前の武器はどうするのでありますか?」

「そうだな……とりあえず何があるか分からないから持っておくよ。修理してもらえないか?」

「任せるのであります」


 カンコンカンコンとエクスキューションの修理を受ける。


「1Mでよかったのか?」

「素材持ち込みなのに十分すぎるのであります。また今度おまけするのであります」

「そうか、また重量武器を作りかえるとき頼むな」

「はいなのであります」

「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るね」

「ああ、助かったよ」

「あ、それとローズ様から伝言です。『この恩は後でしっかり返していただきますわ。それまでは絶対に死なないでくださいませ』だそうです」

「ツンデレだな」

「ツンデレですね」

「ツンデレなのであります」

「ツンデレだよねぇ~、まぁそれじゃあ頑張ってね」

「おう!ありがとう!」

「それじゃあ、また。なのであります」


 そうしてクリスたちは去っていった。


「さて、後は師匠の指示どおり派手に逃げ回るだけだな」

「そうなのであります」

「クリスの口調が移ってるから」

「はっ!?いけないいけない。油断するとキャラが飲まれてしまっちゃいます」

「それにしても派手って言って言われてもなぁ」

「それならお兄様、こういうのはどうですか?ごにょ…ごにょごにょ…」

「…ふむ…ふむふむ。そうだな。ただ逃げるだけっていうのもアレだし、そのくらいしても大丈夫か。よし、いくぞ!」

「はい!お兄様!」


 それから俺たちはフィールドへ出た。

 とりあえず人の多そうな『マエルダの雪原』に行ってみよう。確かあそこは2次職の人たちに人気の狩場だったはず。

 雪原へと近づいていくが、やたら敵が多い気がする。

 武器が変わったおかげでこの程度の敵なら一撃で倒せるようになったけど、それにしても面倒だ。

 そういえば今日はまだ外で誰とも出会ってないよな。

 そして雪原に辿り着くも、やっぱり人がいない。


「今のうちにスキルと称号を入れ替えておくか」


 どうせ使わないであろうチェンジウェポンのスキルとあのスキルと入れ替える。どうせ攻撃しちゃいけないし、称号も変えよう。確か新しい称号をゲットしていたはずだ。



地獄の番犬 攻撃速度+10%、移動速度+10%

運命を超えた 与ダメージ-30%、被ダメージ+30%、取得経験値+30%



 ふむ……敏捷+2と速度+10%ってどっちが速いのかいまいち分からん……。

 何となくだけど速度+10%の方が速そうだから『地獄の番犬』にしよう。というか後の祭りだけどこんな称号が手に入ると分かっていたらみんなで倒したほうがよかったな。

 『運命を超えた』の方は今は使えないけど、レベル上げによさそうな気がする。とは言えPTで自分だけ弱くなって経験値いっぱいもらうとかちょっと寄生っぽいし、使うことないだろうなぁ。

 とりあえずこの辺りには人がいなさそうだし、ちょっとうろうろしてみようか。

 しばらく歩いていると遠目にモンスターを狩っている6人PTが見えた。

 もしかして彼らも俺狙いだろうか?

 とりあえず、剣を肩に担いだままテクテクと近づいていくと……。


「「「うわあああああああああああああああ!!!!」」」


 凄い勢いで逃げられた。


「……何でだ?」

「だってお兄様見た目がボスですし、名前は赤いですし、剣が凶悪ですし、一般プレイヤーからみたら最高ランクのPKにしか見えませんよ」

「そう……だよな。見た目のせいだよな…。決して俺がぼっちだからじゃないよな……」

「……童貞の腹いせに殺されると思ったとか、ぷぷっ。あ、そういえば今は非童貞でしたね」

「お前引っ張るねそのネタ……」

「まぁ何はともあれ、これからはオラオラ言いながらでかい顔して歩いて行きましょう!」

「ヤの付く業種の人か俺は……」

「おらおら道をあけろー!!忍様のお通りだぁ!」

「ちょっ、やめて!これ以上俺の印象悪くしないで!」

「これちょっと気持ち良いですね。病み付きになりそうです!」

「いいからお前インベントリに入って寝ろよ」

「NPCだから寝なくて大丈夫なんです」

「だったら何で仮眠の前に文句行ってたんだよ?!」

「ノリで」

「お前……いい加減にしろ」

「「どうも、ありがとうございました~」」

「じゃなくて!いつの時代の漫才だよ!何させるんだよお前」

「自分から振った癖に何をおっしゃいますか。ほらお兄様、そんなことを言っている間にあそこ」


 ニーフェがゆび指す方向を見ると今度は別のPTがいた。

 はぁ……また悲鳴をあげて逃げられるのか?


「いたぞ!忍だ!」

「指示通り全力でかかれ!」


 今度は襲ってくるのかよ!

 ギルドマークは……黎明だ!

 矢と魔法が次々と飛んでくる。


「ちょ!あぶなっ!」


 弓や魔法はステータスやスキルにより狙いがアシストされるため、遠くても避けなければ直撃を食らってしまう。

 とりあえず俺は左右へと回避しながら後ろへ下がって行く。

 派手に逃げるならこいつらを引き連れてもっと人がいっぱいいるところに行こう。

 よし、ちょっと町に近づいてみるか。

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