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情報戦 Side晶

 それはこのレスから始まった。



254 :名も亡き囚人:108日目 10:17:54 ID:??????

仲間が硝煙の森で狂人に殺されました。殺されたのは『バレル ID:023619』というプレイヤーです。神殿で確認してもらえば分かると思います。

速過ぎて何をされたのか分かりませんでしたが、あいつは一瞬で『バレル』を殺して凄い速さでどこかへ走り去っていきました。

だから狂人は今赤ネームになっているはずです。

なぜ彼が殺されたのか理由は分かりません。もしかするとどこかで狂人と面識があったのかもしれないし、無差別でたまたま彼が選ばれただけかもしれません。

思い当たる節をあえてあげるとすれば、それは彼がよくこの狂刃情報スレへの書き込みを行っていたことです。だけど、まさかそんなことで殺されたなんてことはさすがに信じられません。

俺はフィールドへ出ようとするとあの時の恐怖を思い出して足が竦んでしまい、とてもじゃないが戦える状態ではなくなってしまいました。

フィールドには出られないのだからこの書き込みをしたとしても狂刃に殺されることはないはずです。

だから今回のレスに踏み切ることができました。

お願いです。誰か『バレル』を生き返らせてやってはいただけないないでしょうか。




 先手を打たれた、既に零たちは書き込む準備をしていたようだ。


「これは……不味いな」


 俺は今黎明のネームレスとローゼンクロイツのギルドマスターローズとプライベートコールで繋いでいる。


「先手を打たれてしまいましたね。相手はかなり巧妙だ。PKされた原因をぼかすことでリアリティを出しつつ考えられる原因の範囲を大きく広げ、その上で一般人が掲示板に以降書き込みできないように牽制している」


 確かにその通りだ。もしここで具体的な理由でも挙げられていたら、作為的な感じに見えるし、もしかしたらそこから忍の無実を証明する状況証拠を得られたかもしれない。

 さらに、無差別という言葉をあげることで、この掲示板を読んだ人全員の深層意識にフィールドへ出ることへの恐怖が植えつけられてしまった可能性もある。

 げんにもう一時間このレスを最後に書き込みが止まっている。

 恐らく忍が本当に赤ネームになったかどうか確認するされるまで一般人による書き込みはないだろう。

 いや、それでもし白ネームであったなら書き込みがされるだろうが、実際に赤ネームとなっているわけだから、書き込まれることはないかもしれない。

 幸いだったのが、既に街中からフィールドへ出ないことを決め込んでいる人たちが書き込みをしていないことだ。

 ここで余計なレスがついてより具体的な話に入っていっていたらより信憑性が増していったかもしれない。


「それで……セシリア様が殺されて忍様が嵌められたというのは信じてよろしいのかしら?」

「もちろんだ。こういっては何だが、鉄壁を誇る姫と飛びぬけた攻撃力を持つ忍が一般人をPKする意味がない。二人とも金には不自由していなかったし、あの通り正義感に満ち溢れた姫と天然の忍が一般人をPKして、それを同盟に庇ってもらうなんてこと起こりえるはずがない」

「そうではありませんわ。わたくしが言っているのは、あなたがイージスを掌握するために今回の事件を裏から操っていたんじゃないか……と言う話ですわ」

「それこそありえない話だ。イージスは姫のカリスマと正義感に引かれた者たちが集まってきたギルドだ。知っているとは思うが、イージスではギルド資金集めに関しては個人の裁量に任されている。だから結果的に金に余裕のある者が資金を出し合い、必要経費やレアアイテムの購入に充てているのが現状だ。だから例えギルドを掌握してギルドマスターを継いだところで、ギルドマスターに利益が集中するようなことはありえないし、姫のいないところで俺がルールを変えたとしても、ギルドメンバーはついて来ることはないだろう」

「そうですわね。黎明ならともかく、イージスを掌握したところで甘い汁にはありつけそうにはありませんわよね」

「その言い方は酷いなぁ。くくっ、まぁ確かにうちを掌握することができれば甘い汁にはありつけるかもしれないね」

「まずお二人に聞きたいのだが、忍を切り捨てるべきと考えている人はいるのか?」

「ありえないな。それくらいに彼は強すぎる。正直な話をすると、これが君たちのギルドを切り捨てるかどうかだって話だったとしたらボクも悩んだだろう。けど、彼には攻略ギルド一つ以上の価値がある。彼を狙っている存在というリスクを抱えてもお釣りが来るほどにね」

「同じく忍様を切り捨てるという選択肢はありえませんわね。私たちの同盟が他のギルドに先駆けてボス狩りへ乗り出せるのは彼の存在によるところが大きいですわ。無茶なことすら可能にしてしまう彼の存在が今後の攻略に欠かせないことくらい同盟に所属している者なら誰だって理解しているはず」

「その忍だが、いいんちょ……いや、ギルドメンバーの話によると今回の事件でさらにプレイヤースキルを増しているらしい」

「今まで以上ですか……。それはさすがに想像がつきませんね」

「フフッ、ぞくぞくしますわ」

「それじゃあ、忍がこれからも攻略へ参加できるようにするために俺たちがどう出るかだが……」

「正直にあったことを書くというのはどうかしら?」

「それを書いたとしたら姫が死んだ腹いせに忍がPKへと走ったことにされてしまう可能性がある。そうなってしまえば水掛け論になって、忍への疑惑は拭えないだろう」

「ふむ……それならいっそ相手の思惑に乗ってみるか?」


 …………………………………………………………。


 それから俺たちの情報戦が始まった。




255 :ネームレス:108日目 11:24:32 ID:000013

今回の件に関してギルド『黎明』は『イージスの盾』が匿っている可能性のある忍の引渡しを要求している。もしPKしたことが真実であるとするならば同盟ギルドとして処罰することで我々は身の潔白を証明しなければならない。

しかしもしこの広いフィールドにいるのだとすれば、我々だけで捜索するというのは困難を極めることになるだろう。

そこで我々『黎明』は忍に懸賞金をかけることとした。

『忍を最初に発見し、我々に知らせてくれた者に500k』

『忍を発見し、捕縛した者に5M』

なお、本人が抵抗した場合、捕縛が困難であると判断されるため殺してもらっても構わない。

その場合『忍を殺した者には3M』を支払う。

連絡は『ネームレス』までメールで送信してくれ。

また、ここに我々が知る忍の情報を公開する。


Lv88ソードマスター

HP660

筋力28

攻撃力102

防御力120

スキル 破城剣 剛脚 スキルクラッシュ ムーンウォーク ダッシュ Exチェンジウェポン Csラッシュ

HPは非常に低いがダッシュとムーンウォークを駆使した動きは非常に素早く、回避に入った彼が敵から攻撃を受けたところは見たことがない。もし並みのメイジが範囲攻撃を打つようなことがあれば、ガードスキル『スキルクラッシュ』により勢い余って殺される可能性もある。そして攻撃力はアタッカー数人分に相当するため、彼を見かけたときは細心の注意を払って欲しい。


彼の居場所が現在不明なため、フィールドへ出るのは各自自己責任であることを認識しておいて欲しい。

また原因も分かっていないため、これ以降原因が判明するまで>>254の言うとおり掲示板への書き込みは控えていただきたい。

我々の意志を示すために懸賞金を掛けはしたが、並みのプレイヤーでは彼に触れることすら困難である言える。

懸賞金目当ての者もくれぐれも自分の命を粗末にするような真似は慎んでもらえることを期待する。

それでは我々ギルド『黎明』はこれより『忍』の捜索を開始する。




 これが今回零に対抗すべく考えられた作戦だ。

 零によるレスを否定するのではなく、それを受け止めて行動する姿勢を示すことで神話同盟の正常性を示しつつ、情報戦の舞台を掲示板からフィールド上へと移行させることができる。

 なぜなら誰も零のレスを否定しなければ、零は反論することができないため、これ以上みんなの疑心を煽ることができないからだ。

 そして零のやり方を逆手に取り、一般人のレスも封じる。

 誰にも聞かれないのに、一人で書き込みを続けたところで怪しさが増すだけだし、この状況で第三者を装い書き込みをしたとしても、後から一般人が冷静になってレスを読み返したとき、自作自演で忍を嵌めようとしていることを表している一つの根拠にもなってくれることだろう。

 イージスは今回のことで一時的に疑惑の目を向けられることとなるが、それも忍を無実に持っていくことができれば同時に払拭することができる。ギルドメンバーのみんなも忍と一蓮托生になってくれることを認めてくれた。

 どうせどうやったところで相手に嵌められたという証拠も忍が故意にPKをしていないという証拠も挙げることはできない。

 ならば問題は忍が悪質なPKとして人々に認識されるかどうかという一点のみ。


 あとは全て忍の今後の行動にかかっていると言えるだろう。


 さぁフィールドを舞台にした盛大な鬼ごっこの始まりというわけだ!

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