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第41話 童貞喪失

 ガルムの口から炎が迸っている。

 ファイアーブレスか?

 正面は危ないかもしれない。俺はガルムの側面に回って剣をなぎ払った。

 確かに攻撃速度は強化されているが、委員長の補助がないのは辛いな。

 現状だと『暴君のドラゴンデストロイ』がただのがらくたに成り下がっている。

 そういえば『チェンジウェポン』も当分使わないし、他のスキルに変えておけば良かったな……。

 今更言ったところで後の祭りだが。


「ガア!!!」


 想像していた通りガルムの口から炎が……いや、これは違う!

 雷を纏った炎が扇状に広がっていく。

 二属性の複合魔法!?そんなの初めて見たぞ……。

 そしてガルムが首を回してこちらの方へとブレスを向けようとして来る。


「やばいやばい!」


 俺は必死にガルムの背中を取るように逃げ回り、ガルムの首と鬼ごっこするような形になる。

 もちろんその間も攻撃の手は休めない。

 だが、全くHPが減っているように見えないんだが……、こりゃマジで倒せるのか?

 痺れを切らしたガルムがブレスを吐くのをやめ、尻尾でなぎ払ってきた。

 体勢を下げて尻尾を避ける瞬間、一瞬見えた尻の穴に向かって全力で牙突がとつを繰り出す。


「ギャンッ!」


 牙突がとつが穴を抉るとガルムは大きく悲鳴をあげて飛び上がり、そのまま倒れ伏せてしまった。

 まさかのクリティカルヒット!これは思わぬチャンスだ!


「おらおらおらおらおらおらおらおら!」


 俺はガルムが倒れているのをいいことに剣を何度も何度も振り下ろした。


「お兄様……まさか獣姦の上尻穴レイプとは……さすがにニーフェでもその性癖を受け止めることには戸惑いを覚えます…………」

「いや、これは戦闘行為であって性行為じゃないから!」

「分かっていますとも。こんなこと誰にも言いません。いえ、誰にも言えません。まさかお兄様が駄犬の尻穴で童貞喪失したなんてことは口が裂けても…………くっ!まさか駄犬に先を越されるなんて……そんな設定聞いたことがありませんよ!」

「ちょっ、おまっ!」


 そんな馬鹿なやりとりをしているうちにガルムがのそりと立ち上がり、目を赤く光らせた。


「咆哮来ます!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

「『ツバメ返し!』」


 咆哮による衝撃を『スキルクラッシュ』による逆袈裟斬りで切り裂くと、スキル妨害による衝撃がガルムを襲い掛かり、軽くノックバックして一瞬動きが止まった。

 そこへ一歩踏み込み、流れるように袈裟懸けに斬りつける。

『ツバメ返し』とは『スキルクラッシュ』により一瞬敵の動きが止まった隙を突く攻防一体になった我流奥義だ。

 きっと佐々木小次郎のツバメ返しもそんな感じだったに違いない。……よく知らないけど。


 それから日が落ちて再び登ってくるほど本当に長い時間……俺はその間執拗にガルムの尻穴を責めたて続けた。

 ガルムはクリティカルヒットを受け、倒れるたびにその警戒心を増していき、尻穴に牙突を突き込むのが難しくなっていった。

 しかし難易度が高くなればなるほど、登る山が高ければ高いほどやる気が出るというのがおとこという生き物だ。

 もう既にスタミナドリンクは底を付き、SPもあまり残っていない。

 対するガルムも既にHPバーがほとんど空になっており、一ミリも残っているようには見えない。

 恐らく次が最後の攻防となるだろう。

 敵の警戒心はマックスを振りきれている。

 どうすれば奴の尻穴に剣を突き立てることができる……考えろ……考えるんだ!

 ポクポクポク…チーン!

 確かとある本で中国拳法の師匠が言っていた。

 長椅子の下をくぐってみせろと。


「グアウ!!」


 ガルムが口の中に炎を溜め、こちらを撹乱しようと素早く左右に移動を始めた。

 こちらも何とかガルムについていこうと正面に捕らえつつ、ブレスのタイミングを見極める。

 スタミナの関係でダッシュの使えない状態だとスピードのアドバンテージは敵の方にある。

 しかし速ければいいというものではない。

 そしてついに俺たちは3メートルという短い距離を置いて正面に向かい合った。

 その瞬間を待ってましたと言わんばかりにガルムの口から炎が溢れはじめ、雷が迸る。

 距離はかなり近い。スキルなしで避けられるものじゃない!

 俺は体をガルムに向かって横にし、足を最大限まで開いて膝を曲げ、上体を倒して全身をできるだけ低く屈め、スキルを発動した。


「ゴアアアアアア!!!」

「『ソニックドライブ!』」


 超低姿勢によるソニックドライブの発動。それでも軽く地面を蹴ることによりシステムアシストを受けて景色が高速で流れはじめる。

 俺の身体はガルムのブレスを掻い潜り、前足の間をくぐり、後ろ足の間を抜けて、ついに目的の場所へと辿り着いた。

 そこから剛脚で地面を蹴りつけて急停止をかけつつ身体を引き絞り、コークスクリューパンチの如く剣を回転させながら力の限り穴へと突き入れた。


「URYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

「ギャイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!」


 やがて剣から穴に突き立てる手ごたえが消えると、魔犬ガルムは激しく燃え上がりながら炎の中へと溶けていった。



 《地獄の番犬『ガルム』を倒した》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からユニークアイテム『魔犬の牙』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からユニークアイテム『魔犬の爪』×3を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からユニークアイテム『魔犬の毛皮』×4を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からユニークアイテム『死神の装身具』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からユニークアイテム『煉獄のネックレス』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からレアアイテム『神速のイアリング』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からレアアイテム『神速のリング』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からレアアイテム『ダマスカス鋼』×6を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からレアアイテム『オブシダン鉱石』×4を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』からExスキルスクロール『ヘルブレス』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』から魔法スクロール『ヘルフレイム』を手に入れた》

 《忍は地獄の番犬『ガルム』から14,671,810Gを手に入れた》

 《地獄の番犬『ガルム』討伐に参加したメンバー全員に貢献度200ポイントが送られます》

 《地獄の番犬『ガルム』討伐に参加したメンバー全員に『地獄の番犬』の称号が送られます》

 《地獄の番犬『ガルム』討伐のMVPである『忍』には貢献度1000ポイントが送られます》

 《ボスモンスターのソロ討伐を達成したため『忍』には『運命を超えた』の称号が送られます》



 システムメッセージに報酬の嵐が流れていった。


「つ、つかれたぁ~……」


 あまりの疲労にその場で座り込んでしまう。

 もはやSPもすっからかんだ。

 システムウィンドウの時計を確認すると既に15時間が経過していた。

 飲まず食わずで15時間って……そりゃあ、疲れるのは当たり前だな。

 そういえば、念願の魔犬を倒したと言うのに肩にいるニーフェは随分と静かにしている。


「ニーフェ、ずっとせっかくお前の嫌いなガルムと倒したって言うのにじっと黙ってどうしたんだ?」

「執拗に犬の尻穴を責め立てるお兄様に、ニーフェは恐怖を覚えました……」

「何を言っているんだお前は」


 ニーフェの方を見るとビクッと震えてすぐ顔を逸らされてしまった。

 なんだろう……ちょっとショックなんだけど…………。


「い、いや、早く倒せるようにウォークポイントを狙ってただけだろ?」

「何を言っていますかお兄様。途中から駄犬が起き上がっていると、身体を攻撃しようともせずに、ひたすら尻穴ばかり狙っていたじゃないですか。尻穴に固執せず身体も攻撃していたらもっと早く終わっているはずですよ。それをひたすら尻穴ばかり……いくら相手があの駄犬だったとはいえ同情を禁じえません……」

「そ、そうだったっけ……。ま、まぁそれより見てみろよこのドロップの数!この『死神の装身具』っていうのはファッションアバターみたいだな。さっそく装備してみるか」


 インベントリを操作して『死神の装身具』を装備するとキャラクターに付いていたネックレス、イヤリング、指輪が禍々しいデザインへと切り替わった。

 髑髏や骨を模したデザインで目のところにはブラックダイヤモンドがあしらわれている。

 骨や髑髏はシルバーアクセサリーのような素材で作られているが、現実の銀よりはかなり上品な色合いを放ちつつも、わざと硫化させたように節々が黒ずんでいて、一目見ただけでもデザインに力が入っていることが分かる。

 これはもしかすると『漆黒のガーターベルト』と同じで、どこかのブランドとのコラボアイテムかもしれない。

 これは最高にイカしたものが手に入った。ハイクオリティなビジュアルになりつつも凄みを増したように感じる。

 『魔犬の牙』は片手剣か。牙とかいう名前の割に全く牙には見えない。刃の部分が紅い光を放っている以外は至って普通の片手剣だ。これは姫にいいかもしれないな。

 『煉獄のネックレス』は筋力+3と炎攻撃・耐性+20%の効果か。って何だこれチートすぎだろ!

 筋力+2のアクセサリーすらまだ持っていなかったのに……ユニークアイテムだからか?

 まぁいいか。貰える物は貰っておこう。

 装備変更ぽちぽちっと。これで筋力は念願の30台に乗ったわけだ。


「お兄様、素敵です。尻穴さえ責めなければ」

「いや、頼むからもうその話は忘れてくれ……」

「そういえばさすがにもうローズさんから返事が来ているんじゃないですか?」

「あ、そういえばそうだな。もう倒しちゃったしそれも報告しておかないと」


 俺はシステムウィンドウを開いてメール欄を確認すると、ローズさんと師匠の二人からメールが入っていた。

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