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第40話 ボス単騎

「ニーフェ、とりあえず赤ネームになったのを見られるのはあんまり良くないだろうし、人がいなさそうな狩場をどこか知らないか?」

「それならいいところがありますよ。この『ザイール遺跡』の東に広がっている『硝煙の森』を越えると、私と出会ったフヴェルゲルミルの泉に到着します」

「あそこは敵なんて大していなかったじゃないか」

「それがあのユグドラシルの根があった傍に女王『ヘル』の住んでいる『ヘルヘイム宮殿』へと続く『グニパヘリル洞窟』があるんですよ。そこはちょっとばかしレベルの高いボスが入り口を守っているので誰も中へは入って来ません。ボスを倒したとしても中の敵もレベル高いですからね」

「それってまさか……」

「お兄様の想像どおり!魔犬ガルムです!」


 聞いたことがある。どんなに高レベルのキャラクターから見ても赤ネーム(モンスターの場合はLV差が10以上開いていることを示している)に見える高レベルボスがいるという噂を。

 同盟の中でも明らかに現時点で太刀打ちできる相手ではないということで話は収まっていたはずだ。


「ちなみにレベルはいかほどでしょうか?」

「四次職のLv140で構成された討伐隊が適正でございます」


 相変わらずいいノリしてるな…って


「どう考えても無理じゃねーか!!!」


 今がLv88だから、52も差は開いているぞ……。


「大丈夫です。無問題もうまんたいです。お兄様も火力だけならそのレベルまで届いていますし、ガルムはそれほど高いHPと防御力と自然回復量を有しているわけではありません」

「そう……なのか?」

「はい、そのレベル帯のボスにしてはという話ですが」

「無理じゃねーか!!!」

「大丈夫です。お兄様のキャラクター性能ならソロでも半日くらいあればHPを削りきれる計算です」

「俺は浦○幽助かよ!」

「お兄様いけません!それは負けた方です!ちなみに浦○幽助が黄○と戦ったのは半日ではなく三日ですから」


 いや、そんなダメだしするような内容じゃないから。というかなぜお前が幽○白書を知っている……。


「ガルムの最大の特徴はその素早い移動速度と非常に高い攻撃力です。恐らく遠距離職であったとしても当てることが困難になるため、防御面は低く設定されているんです」

「素早いってどのくらい素早いんだ?」

「ダッシュLV80のときのお兄様くらいですね」

「マジかよ……」


 自分で言うのも何だけど、あんな速度で動き回られたらそりゃあ攻撃を当てるのだって難しいだろう……。


「ちなみに攻撃力に関しては、どうせお兄様は格下以外から攻撃を受けたら大抵一発か二発で即死してしまうので関係ありません」

「何その火力インフレゲー……」

「お兄様のHPと防御力が低すぎるんですよ」

「ごもっともで……」

「ガルムの持つ範囲攻撃はスタン付きの咆哮だけですから、それほど攻撃力は高くないのでお兄様の『スキルクラッシュ』で無効化できるはずです」

「そうなのか。というかどうしてお前そんなに詳しいの?」

「あそこの辺りは私の庭のようなものでしたから。設定的に」

「また設定かよ……」

「あの、忍さん……。何やら非常に危険な話が聞こえてきているのですが……」


 唐突に委員長の声が聞こえてきた。そういえばプライベートコールに繋ぎっぱなしだったんだ。


「い、いや。なんでもないぞ。安心してくれ、俺はそんな無茶なことはしないから」

「へぇ、今度はどんな無茶なことをするの?」


 今度は美羽だ。


「いや、だからしないって!」

「お兄様、これを倒せば一気に貢献度1000ポイント獲得できますよ?」

「え、マジで?ボスってMVPが500ポイントで討伐報酬が100ポイントじゃなかったっけ?」

「特別なボスを倒すとその倍のポイントが手に入るんです」


 そうなのか……。


「忍さん……今ボスっていう単語が聞こえてきましたが」

「あ、いや、行かないよ?ニーフェが一匹で馬鹿なことを言ってるだけだから。というか、何か都合が良過ぎないかそれは?まるで悪魔の囁きのようにしか聞こえないんだが……お前NPCだし」

「何を言っていますかお兄様。私の半分はお兄様の強さに対する信頼によってできているんですよ!」

「残り半分は何だよ」

「それはもちろんお兄様へのA()I()です」

「AIか」

「お兄様へのAIって何ですか!?意味が分かりません!愛ですよ愛!それも愛欲の方です!」


 愛欲ってお前……駄目だこいつ……早くなんとかしないと…………。


「爬虫類というのもありえないしNPCというのもありえない。俺たちの想いは永遠に平行線だな」

「……『コイマス』でNPCにハァハァ言いながら話かけたお兄様のセリフとは思えませんね。確かお相手はクロビッチさんでしたか」


 なぜお前がそのことを……!?


「ふっふっふっ、既にお兄様がNPCに劣情を催すことは調査済みです!胸が大きいだけの腹黒女より私の方がよっぽどいい雌ですよ!」


胸が大きいだけ……それが重要なんじゃないか!あ、いや、小さいお胸も好きですが。

だが爬虫類、テメーはダメだ。


「……そうだな。人型になれたら考えるよ」


 何度も言うがいくら俺でも爬虫類を愛でる趣味はないのである。


「くぅ!私の外観をドラゴンにした開発者が怨めしい!この際お兄様を篭絡するのは一先ず置いておきましょう。今はガルムです!」

「何でそんなにごり押しなんだよ……」

「色々理由はありますが、あの犬っころいつも私の方を見てはワンワン吠えて五月蝿かったんですよ。だからお兄様が倒してくだされば私が清々します」

「私怨だったのかよ……」


 しかしボス狩りソロか……相手とのレベル差は異常に開きすぎているが、いつかはやってみたいと思っていたんだよな。

 とはいえ、いくら姫を蘇らせるためと言っても俺が死んでしまっては元も子もないしなぁ。


「大丈夫です行きましょう!お兄様があんな犬っころに負けるはずがありません!さぁさぁ!」

「わかった。わかったからそう急かすな……。というわけでちょっとニーフェが五月蝿いからちょっと行ってくる」


 そうだな、死ななければいいだけの話だ。ならば手がないわけではない。


「行くってボスにですか!?無茶ですよ!」

「そうだよ!いくらお兄ちゃんでも一人でボス行くなんて自殺行為もいいところだよ!」

「それが全く根拠がないわけじゃないんだ。さっきの戦闘で今までより戦い方が掴めてきたような気がするから」

「確かにあのときの忍さんは神がかり的な動きをしていましたが……」

「それに一つだけ負けても大丈夫な方法を思いついたんだ。死んだら蘇生させてもらえばいい、リザレクションで」

「ローズさんに頼むの?」

「ああ、もちろん断られたら諦めるよ」

「絶対だからね!保険かけずにカミカゼなんて真似しないでよね!」

「本当に心配ばかりかけさせて仕方のない人ですね……」

「この埋め合わせは絶対するから。じゃあ、今からちょっとメール送ってみるからミュートにするよ」


 システムウィンドウを操作して、プライベートコールをミュートにしてから、ローズさんへのメールを作成していく。



タイトル:ちょっと手伝ってもらえませんか?

内容 こんにちは、突然のメールで失礼します。実は今日色々あって姫が死んで俺が嵌められて赤ネームになってしまったので、とりあえずボスを狩って、貢献ポイントを貯めて姫を生き返らせようと思うのですが、ボスの単騎狩りを手伝っていただけないでしょうか?

手伝いと言っても、離れていたところで待ってもらって、俺が死んだら生き返らせてくれるだけで構いません。戦闘時間は多分半日くらいになりそうです。

死んで失敗してしまったら何も出せませんが、もしボスを倒せたらドロップ品から好きなアイテムを取ってくれて構いません。

無理を承知でお願いしていることなので、断っていただいたとしても気にしません。

それではあなかしこあなかしこ。



 これで送信と。


「それではお兄様。ちょっとあのワン公の様子でも見に行きませんか?」

「そうだな。どんな奴かちょっと見てみるか」


 それから俺たちは硝煙の森の敵を蹴散らしながら横断し、昼前にはフヴェルゲルミルの泉へと到着した。


「それで魔犬ガルムってのはどこにいるんだ?」

「こちらですお兄様」


 ニーフェと出会った泉をぐるり左側からぐるりと回り込み、ユグドラシルの木の根元へと近づいて行くと、巨大な大穴が一つ空いていて、その入り口には燃えるような真っ赤な毛を生やした超大型の犬が唸り声をあげていた。


「でかいな……」


 全長4mくらいありそうだ。


「あの馬鹿犬はあの辺りのエリアから出てくることはありません。一応は『グニパヘリル洞窟』の入り口を守っているという設定の何の役にも立たない駄犬ですから」

「お前らの間に一体何があったんだよ……」


 こいつどんだけガルムが嫌いなんだ。


「だからここから文句を言っても全然大丈夫なんです。……おーい、駄犬!駄犬ガルム!お前みたいな糞の役にも立たないニート犬は生きてるだけで酸素の無駄なんですよ!」


 それ以上はやめて、心の古傷トラウマが!


「すぐに忍精肉所へ連れて行って挽き肉にしてやるから覚悟するがいいです!」


 結局やるのは俺なわけね。まぁいいけど。


「ガウウウウウウウウウウ!!!」


 ガルムが突然鳴き声をあげて怒りを顕にした。


「おい……あれ、めちゃくちゃ怒ってないか?」

「おかしいですね。ガルムの索敵範囲にはまだは入っていないはずなんですが」

「おい……あれ、こっちに向かって走って来てないか?」

「おかしいですね。ガルムはあの入り口から離れないはずなんですが」

「おい……もしかしなくてもこのまま戦闘に突入するんじゃないか?」

「おかしいですね。私もそう思います」

「おいおい!破っ!!!」


 ガルムの突進を避けつつ横一文字に斬りつけた。


「ふっふっふ、所詮畜生は畜生ということです。自ら死にに来るとは」

「言ってる場合か!せいっ!」


 迫り来る爪を咄嗟に身を伏せて回避しながら、逆袈裟に腹を切り裂く。

 全然ダメージを与えているような気がしない!

 とはいえ、やはり思った通りだ。ガルムの動きや攻撃は確かに素早いが、『ソニックドライブ』を使った時に比べたら止まって見える!……というのはさすがに言いすぎた。

 結構ギリギリかも。


「くそ!覚悟を決めるしかねぇ!」

「あ、ちなみに持久戦になるのでSPを使う『ムーンウォーク』や『ダッシュ』の使用はできる限り控えてくださいね。咆哮は『スキルクラッシュ』でしか潰せませんからSPが尽きてしまったらおしまいです」

「何その無茶振り!?初耳なんですけど!?」

「お兄様ならきっとこの糞犬を殺してくれると信じています!頑張ってくださいね!」

「責任丸投げかよっ!たあっ!はぁっ!」


 右爪を回避しながら右手を切り裂き、左爪を回避しながら左手を切り裂いていく。

 ダメだ硬すぎる!


「ガルルルルルルルルッ!!!」


 ガルムがこっちに向かって唸り声をあげている。

 あちらさん完全に怒り狂っちゃってますね。


「今日は死ぬにはいい日だ!|(訳:戦い抜いて必ず生きて帰ってやる!)」

「今度はゲ○ルですか。結構余裕がありますねお兄様」

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