第39話 ハリセン
ようやく落ち着いた俺たちはこれからのことについて話し合うこととなった。
「今の貢献ポイントが9021だから後1000くらい貯めたら姫を生き返らせることができるはずだ」
「すごい量だな……。ボス狩りで後2回MVPを取ればいいだけか」
「今まで忍さんがMVPを取っていますし、それならすぐに溜まりそうですね」
「いや、多分無理だと思う。零の狙いは俺を赤ネームにすることだった。姫が死んだのはボスにやられそうになった俺を庇ったせいだから、姫まで狙われていたかどうかは分からない……。それに俺まで殺すつもりがなかったみたいだ。もしそのつもりなら俺がボスに殺されてから姫をボスに殺させていたはずだから」
「零か……」
「俺を赤ネームにした理由……俺をPKにでも仕立て上げようとしているのか?」
「恐らくそうだろうな。現状では赤ネームを直す方法は分かっていない。忍をPKにして孤立させようとしたのか、イージスへPK疑惑をかけようとしているのか向こうの出方を見るまでは判断できないが」
「何で零があんなことを」
「忍は零とこの世界で会うのは初めてか?」
「ああ、零がいることもさっきまで知らなかった」
それに彼がもしこのゲームにログインしていたらイージスに入ってただろうと思っていたから、ここにいない時点でゲームには囚われていないだろうと思い込んでいた。
「そうか……。実は俺と姫はゲーム開始直後に零と会っていたんだ。当然ギルドにも誘ったんだが断られたよ。そのとき姫に対して激しい敵意を向けていたことを覚えている」
「それじゃあ……」
「ああ、恐らく姫も狙われていたに違いない。もしかするとこの機会をずっと狙っていたのかもしれないな……。あれから零がどこで何をしているか話を聞くこともなかったから、どこか別のギルドで俺たちと関わることなくやっているものとばかり思っていた」
なぜ姫のことを……。
当時二人の仲が悪かったという覚えない。
しかし、これで方針は決まったな。
「さてと!それじゃあ、師匠!俺をギルドから外してくれ!」
「…………」「忍さん!?」「お兄ちゃん!?」
「師匠なら分かっているだろ?イージスは確かに攻略ギルドだけど全員が全員最前線の狩場に立てるほど強いわけじゃないし、俺が残ったら取引している商人たちとの関係が悪化してしまうかもしれない」
「忍……、いいのか?」
「お兄ちゃんが出て行くなら僕も付いていくよ!」
「私もです。私たちはずっと三人でやってきたんですから」
委員長と美羽の提案は素直に嬉しい……だけど。
「姫がいない今お前たちまで抜けてしまったらイージスが弱体化してしまうだろう。誰が姫の代わりにタンカーができるっていうんだ?それに美月だってタンカー班には欠かせない存在だ。俺は絶対に帰ってくる。だからそれまでイージスを守っていってくれないか?」
「どうしてこんなときだけシリアスになるのさ……」
「そうですよ。いつもみたいに『うひょー、女の子がついてきてくれるなんて最高だぜ』とでも言えばいいんです」
え、俺そんなキャラだっけ……違うはずだろ……ほら、もっとこうクールな……。
美羽がちらりと委員長のローブのスリットを持ち上げる。
!?
一瞬下着が見えた!…………気がした!
「美羽!!」
「うっひょーーーー!!!!」
「うん、…………そんなキャラだよね」
「お兄様……」
みんなが哀れげな視線を送ってくる。
あれ、違うだろ?ここはもっとこう別れを惜しんで涙を濡らす場面じゃないのか?
「ご、ごほん!『換装!』」
仕切りなおして、『暴虐のドラゴンデストロイ』を右手に召喚し、頭上に掲げて高らか声を上げた。
「よし!宣言しよう!俺は姫を一週間で生き返らせて魅せる!だから一週間後にニヴルヘイムの神殿にいるヴァルキリー前に集合だ!!!」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
「そしてそのまま姫と式を挙げる!」
そう、復活を果たした英雄が、復活させた勇者と結婚をするというのはおかしなことではない。いや、むしろそうすべきだ。それが自然な流れと言うものだろう。
「「「「BUUUUUUUUUU!!!!」」」」
広間にブーイングの嵐が飛び交う。
「忍……」
「忍さん……」
「お兄ちゃん……」
「お兄様……」
「「「「寝言は寝て言え!!!」」」」
4人(3人と1匹)にハリセンで頭をどつかれた。
ツッコミアイテムを既に完成させていた……だと……。
クリス……やるな!
「とりあえずこちらも同盟に連絡を取って忍が無実になるよう情報戦を仕掛けてみる。できるだけ早く忍がギルドに戻ってこれるよう働きかけるつもりだ」
「淋しくなったらいつでもいつでもプライベートコールかけてきてよね。別に繋ぎっぱなしで狩りしてもいいんだからね」
まじで!それは正直……というかメチャクチャ助かる!精神的に。
「そうですね。例え邪魔に感じたとしてもそれを表には出しませんし、忍さんの寂しさを紛らわせることくらいならできるかと思います」
あの、いつも思うんですけど言葉の端々に悪意が感じられるのですが……。
あ、天然ですか。はい、分かりました。グスンっ。
「ふふっ、私がいる限りお兄様が淋しいなんて感じる暇ありませんよ。つまりあなたたち姉妹は用無しというわけです。どうもありがとうございました」
「お前うるさいよ」
「お兄様!セリシアさんの前で盛大に結婚式をあげましょう!私と!」
「まず鏡を見るところから始めろ。お前爬虫類だろ……。しかも妹って言う設定だったんじゃないのか……」
「大丈夫です!この世界なら同姓はダメですが種族を超えた結婚が認められていますから!血縁設定も無問題です!」
「まじで?」
「まじです!」
「でも、お前はないけどな」
「がーん!!!」
「よし!それじゃあ面倒なことは全部師匠に任せて、俺は早速姫を生き返らせるために敵を狩りまくってくるぜ!『換装!』」
俺は武器を『断罪のエクスキューション』へと持ち替え、走り出そうとしたところで身体を止めた。
「あ、その前にプライベートコール繋いでもいいですか?」
俺は委員長と美羽にプライベートコールの申請を送り、承諾を受け、二人と通話状態になった。
「よし!それじゃあ、みんなも気をつけてな!」
「忍の方こそ、一人なんだから無理するなよ」
「プレイヤーが何人来たところで負ける気しませんよ!もちろんモンスターにもね」
「忍さん、絶対に一般プレイヤーへは手を出さないでくださいね。今回の敵が来ても関わってはダメですよ」
「了解!俺も噂を広げるような真似はしないよ」
「お兄ちゃん、風邪ひかないようにね」
そして肩へとニーフェが飛び乗ってくる。
「お兄様、車に気をつけて走ってくださいね」
「お前ら……俺は子供か……。よし、それじゃあ一週間後に会おう!」
「「「「おお!(はい!)(うん!)」」」」
俺は首を横に向け肩に乗っているニーフェに向かって話しかけた。
「ニーフェ、しっかり捕まってろよ」
「任せてくださいお兄様。いつでもニーフェはお兄様と赤い糸で雁字搦めです」
「ははっ、そういうセリフは美女になってからなら大歓迎だ」
「相変わらずつれないですねお兄様は」
「よし、いくぞ!『ソニックドライブ!』」
今の俺ならダンジョンの中でも進むだけなら『ソニックドライブ』で移動することができる。
貢献ポイントを多く稼ぐことのできる美味しい狩場まで急ごう!姫のために!
そして俺は6秒後スタミナ切れでへばる事になってしまった。




