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第33話 俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ!

「はぁ……、はぁ……、はぁ……、なんだ…夢か」


 酷い夢を見た……。まさかギルドの仲間たちに揉みくちゃにされて貞操を奪われそうになった夢を見たなんて知られたら一体どんな目に合うことか。


「どんな夢だったの?」

「それは言えなうわああああああっ!」


 振り返ると姫がいる


「むにゃむにゃ……五月蝿いのであります……」


 なぜか足にはクリスがしがみついている。


「ちょ……え……?」

「すぅー……すぅー……」


 そして姫の反対側では委員長が気持ちよさそうに眠っている。

 どうやら俺は、いや俺たちはキングサイズのベッドの上にいるらしい。


「これは…一体どういうことでしょう?」


 恐る恐る姫に聞いてみる。


「さぁ、どういうことかしらね?」


 そう言って姫は首を傾げて笑みを浮かべている。

 よく分からない。よく分からないがこの状況が非常に不味いということだけは分かる。

 他の人に知られないうちに戦術的撤退を計らねば…

 しかし次の瞬間無情にも部屋の扉が音を立てる。

 ドアノブの動く金属音とともにそれは訪れた。


「おはよ……う………、お、お姉ちゃん!?」


 美羽だ。

 俺たちを見て、いや自分の姉の様子を見て酷く狼狽した様子だ。

 そりゃあそうだろう。俺だってびっくりだ。

 しかもよく見ると委員長も姫もクリスも俺もパジャマになっていて、かなり着崩れているというか乱れてしまっている。

 どうでもいいけど、このガーターベルトはパジャマのときまで反映されてるんだな。


「まさかこんなことになろうとは……」


 そして美羽の後ろでは師匠が頭を抱えていた。


「いや、あの、これは違うんだ。誤解なんだ」


 とは口にしたものの果たして本当に誤解なのだろうか?

 正直昨日の記憶がさっぱりない。

 もしかして俺は姫や委員長……あまつさえクリス(ようじょ)にまで手を出してしまったんじゃ……。

 いや、まてまて俺!今の俺は女の身体だ。そんな女が女に手を出すだなんて百合じゃあるまいし……ありだな。


「忍がスケベ面になって……やっぱりお姉ちゃんは?!」

「ちょっ!美羽、声が大きいって!そんなことはしてない!してない……はず…」


 もしそんなことをしてその時の記憶を失っていたとしたら悔やんでも悔やみきれん!


「うみゅ……ふぁわ……あしゃからうるしゃいのでありましゅ」

「ん…………何?」


 そしてついに俺たちの声により二人が起き出してきてしまった。


「……何ですか?この状況は」

「どうやら私たち三人は忍の毒牙にかかったらしいわよ」


 目が覚めた委員長は突然システムウィンドウを操作しはじめた。

 すると次の瞬間パジャマがローブへと変わり、レイピアが右手に姿を現す。


「つまり忍さんを殺せばいいんですね」


 何その理論跳躍!?


「やっぱりそれしかないのね……」


 いや、他にもあると思いますよ?!

 布団がずれ、あらわになった姫の右手には姫愛用の片手剣が握られていた。

 そして足にはクリスがしがみついてそのまま二度寝しようとしている。

 どう考えても逃げ場はない。

 ……これは悪い夢だ。よし、俺も寝よう。

 俺は全てを忘れるべく布団に潜り込んだ。


 これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ。


「それは寝た振りかしら?それともネタ振りかしら?」

「分かります。命を捨てたネタ振りですね」


 捨ててない!分かってないから!

 そして次の瞬間俺はボロ雑巾のように部屋を転がることとなる。

 なんでセーフティーゾーン(プレイヤーの攻撃を受けないエリア)でこんなに痛い思いをする羽目になっているんだ……。

 これは不具合……報告を……がくっ。


 そして俺の意識はそこで途絶えてしまった。



「というどっきりだったんだけど面白かった?」

「面白くも何ともないわ!」


 ドッキリ看板を持った美羽にツッコミを入れる。

 はぁ……酷い目にあった。


「それにしてもセーフティーゾーンで攻撃食らって気絶するってどういうことよ?」

「え、いや、ダメージはなかったけど普通に痛かったし」

「そうなの?えいっえいっ」


 姫が軽く剣で突き刺してくる。


「いてっ、ちょ、痛いから」


 実際の痛みに比べたら全然だけど、それでもダメージを食らうときくらいの痛いはある。


「ほんとに?美月、ちょっと私を突いてみて」


 姫を……突く。なんてエロい言葉なんだ。お願いします録音させてください。


「それでは失礼して…」


 委員長がレイピアで姫を突き刺すが、その攻撃は肌で止まった。


「……痛みなんか全くないんだけど」


 そんな馬鹿な。


「それって単に姫が不感症ないえ何でもありません」


 姫の剣が俺の首筋に振り下ろされる寸前で停止した。口は災いの元らしい。


「ほんとだって。ほら」


 そう言って姫は師匠に剣を突き立てる。するとやはり師匠の肌に刺さる寸前で停止した。


「ああ、痛みは全くないな」

「でもなぜか忍だけ斬った感触もあるのよね」


 そう言って姫がまた剣でちくちくと突いてくる。

 ちょ、痛いから、あ、でもちょっと気持ち良いかも。

 そんなことを考えているといつの間にか姫の攻撃が止んでいた。そして嫌そうな顔をしてインベントリから布のようなものを取り出し、剣を拭きはじめる。

 自分で突いておいてバイキン扱いですか……。

 それにしてもこれは一体……?

 委員長や美羽やクリスにも試してもらったがやっぱり痛みはないようだ。


「なんで俺だけダメージも受けてないのにちょっと痛みがあるんだ?」

「あはっ、きっとアレだよ。痛みがないとツッコミが入れられないからお兄ちゃんだけゲームマスターが特別仕様にしてくれたんだよ」

「そんな特別いらないんですけど!」

「まぁ、大した痛みはないんでしょ?どうせGMコール(GMとの緊急回線)できないんだし、気にするだけ無駄ね」

「今度ツッコミ用の武器を作っておくのであります」


 知ってる?ハリセンって意外と痛いんだよ?


「さてと、それじゃあ私たちは私たちで狩りに行くけど、後をつけてくるような怪しい連中を見つけたら教えてね」

「分かりました」


 委員長が答える。

 怪しい連中って昨日ボス狩りの後に後ろからこっちの様子を伺ってた奴らのことだよな。確か結局どこのギルドだったか分かってないんだっけ。


「そっちも頑張れよ」

「今日中にこの辺りの敵を狩りまくってやりますよ!」

「ははっ、その意気だが、俺たちの分くらいは残しておいてくれよ」

「ほら、馬鹿言ってないで行くわよ」

「了解、既にパーティーメンバーには連絡しているからすぐにでも出られる」


 さすが師匠、手際がいい。


「クリスはどうする?もし店を空けても大丈夫なら、せっかく新マップに来たんだし観光がてら俺たちに付いて来ないか?」

「いいのでありますか?私は戦力にはならないのでありますよ?」

「もちろんですよ。マイスターにはいつもお世話になっていますから」

「ボクも異議なしかな。いつも効率ばっかり求めてたら疲れちゃうしね」

「よし!それじゃあ新マップ『ニヴルヘイム』に向けて出発だ!」


 そう、俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ。

 これからも多くの困難が立ちふさがることだろう。

 それでも俺たちは負けるわけにはいかない!このデスゲームから逃れるまでは!

 さぁ、続けよう!俺たちの物語を!







 ―――――――――完―――――――――











 なんてな。

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