第30話 これは酷い
俺たちは前回と同じように黎明の借りたギルドホールへと集合した。
ニヴルヘイムは今までの街とは全然雰囲気が違い、街全体がとても神秘的なデザインで統一されており、ギルドホールひとつにしても全く雰囲気が違っていた。
「すごいな……さすがに女神が治めている国だけはある」
「本当、綺麗ね」
横では姫たちがその光景に見蕩れている。
「あっ、そういえば俺ドロップが一つも入ってこなかったんだけどボスドロップ品ってあったのか?」
「ええ、多分忍はボスが死んだときドロップ権外に出ていたんでしょう」
そうだったのか……まぁ別に俺に入ってくる必要もないからいいんだけどね。
今回のボスはまさかドロップがないのかと思った。リザードマンのときと違ってほとんど裸だったし。
「それじゃあ、今回のドロップ品の目録を読み上げていくよ」
ドロップリスト
ユニークアイテム『血塗れた布』×3(繊維素材)
ユニークアイテム『漆黒のガーターベルト』(ファッションアイテム)
レアアイテム『力のアミュレット』(筋力+1)
レアアイテム『力のリング』(筋力+1)
レアアイテム『治癒の指輪』(回復魔法の効果+20%)
レアアイテム『プラチナ鉱石』×7(鉱石素材)
レアアイテム『オニキスの原石』×4(宝石素材)
Exスキルスクロール『高速再生』(HP自然回復+200%)
魔法スクロール『リジェネレーション』×2
「色々あるな。あのユニークアイテムの繊維素材って何に使うんだ?」
よく分からないことは師匠か委員長に聞くに限る。というわけでちょうど隣にいた委員長に尋ねてみた。
「あれは、シャツやマントの製作に使うことが出来ます。実際に作ってみるまで効果は分かりませんが、ユニーク素材から作られた装備は何かの特殊能力が付くそうです」
なるほど、まさに一品物ってことだな。
「筋力の上がるアクセサリーも高そうだね。タンカーとしては体力の上がるアクセサリーの方がいいけど、数はほとんど出回ってないし、弓職なんかも筋力上がるとダメージが増えるしね」
「どれも高そうだな……、どれを狙うか?」
一応俺の持ち金が800kで三人とも同じくらいのお金を持ってる。
何で装備を揃えた上にこんなに持ってるかというと3人で狩ってたというのもあるけど、ジークやクリスの護衛で結構お金を貰えたからだ。とは言え、敵のドロップするお金やアイテムも良くなってきてるから、他のみんなも前よりお金を溜め込んでいるはず。
「個人的にはガーター…」
「「死ね」」
「ですよね……」
くぅ!なんでトロールがガーターベルトなんて持ってるんだよ!いや、本当は分かってる、これはきっとあのボスの私物だ。俺だって男だ。過去に○○○を通販でこっそり注文したこともあるからその気持ちはよく分かる!
「でも、一つ疑問なんだがアレのどこがユニークアイテムなんだ?この眼帯はデザインでユニークだって分かるけど、あれくらいなら生産職の人が作っても一緒じゃないか?」
「分かってないね、お兄ちゃん。アレはフランスの高級ブランド『レクサ』のデザインだよ。素材の質感もレースの上品さも完璧に再現されてるね。VRMMOは著作権がめちゃくちゃ厳しいからブランド品のデザインはゲーム内で作れないように規制されてるんだよ。まさか『レクサ』と提携を結んでるとは思わなかったけどね。実際あれを現実で買おうとおもったら……ごにょごにょ」
美羽が耳元へ口を近づけて値段を耳打ちする。
「そ、そんなにするのか!?」
値段を聞いてびびった。何だよそれ……、それだけあれば俺の普段着てるもの一式買ってゲームに課金してもお釣りが来るじゃないか……。
「そりゃあそうだよ。下着は女の戦闘服だよ?」
戦闘服か……。それならその値段も納得だ。
「それにしてもやけに詳しいな」
「うん、お姉ちゃんがああいうの買いに行くときにボクもついていったりするからね」
え、委員長があんなガーターを……やばいな、似合い過ぎぢゃないか。
「美羽!息を吐くようにしれっと嘘をつくのはやめなさい!」
「あはっ、今頃お兄ちゃんの頭の中ではどんな妄想が繰り広げられてるんだろうね」
「う……」
委員長が身を庇うようにして俺から遠ざかる。
「あ、いや、そんな妄想なんてしてないですよ?」
すいません。嘘です。ばっちり想像しちゃいました。委員長のあられもない姿を。
「とにかく何がユニークなのかよく分かった。よし、買おう」
「何が『買おう』ですか!どや顔で言わないでください!そんなものより私たちが必要としているのは筋力のアクセサリーです!」
「いや、あれを買うのにはちゃんとした理由があるんだ」
「……何ですか?一応聞きましょう」
「あれがあれば俺のテンションが上がる。モチベーションも上がる。結果的に俺の戦闘能力が当社比1.2倍に上昇するんだ」
「1.2倍って微妙にありえそうな数字だよね」
「何がちゃんとした理由ですか。聞いた私が馬鹿でした」
「じゃ、じゃあ俺の個人資産で買えたらでダメかな?あんまり高くなるようだったら降りるからさ」
「はぁ……もう好きにしてください」
よし!認めてもらえた!(※注 諦められただけです)
「それじゃあ美羽、私たちは筋力アクセ狙いますよ」
「ええ~、それ買ってもどうせ『下着を買おうとしてる忍』が使うんでしょ?高速回復とか魔法とかは?」
「その二つは多分私たちでは手が出ないほど釣り上がると思います。それに買ったアクセサリーは『下着を買おうとしている忍さん』に使ってもらいますがが、買うのにかかった費用は利子を付けて返してもらいますから大丈夫です」
「それなら異論はなしだね」
言葉に棘があるように感じるのはなぜだろう?
「それでは、オークションを開始する。まずはユニークアイテム『血塗れた布』。10kからスタートだ」
そしてとうとうオークションが開催された。まず血塗れた布が一つ700k前後で落札された。何でもこれで作られた装備は自然回復能力を持つんじゃないかという話だ。そしてさっそく目当ての物の入札が開始された。
「次はユニークアイテム『漆黒のガーターベルト』。10kからスタートだ」
よし、前回は失敗したからな。まずは20kで様子を見よう。
「にじゅ……」
「100k!」
え……今のは俺じゃないぞ?一体誰が?
声のした方を振り向くとそこには手を上げたローズさんが座っていた。
まさか彼女もガーターベルト狙いなのか!
ローズさんがこちらを見てにこりと笑った。
「今回の討伐の成功……忍様の力によるところが大きいのは承知しておりますが、それとこれとは別問題。『レクサ』のランジェリーを忍様に渡すことはできませんわ」
なるほど、そういうことか。
「他に入札者はいませんか?」
ネームレスさんが明らかに俺の方へと向いて言っている。ふっ、その期待に応えよう。
「120k!いや、俺たちの方こそローズさんたちがいたからこそあんな無茶が出来たんだ。ここにいるみんなの間に手柄の差なんてないさ」
「140k!さすがは忍様。謙虚なお言葉ですこと。その謙虚さをここでも見せていただきたいものですわ」
「160k!だが断る。漢には退いてはいけない瞬間がある」
「180k!それは女性から下着を取り上げる瞬間ですか?」
「200k!ちょっ、その言い方にはちょっと語弊が…」
公衆の面前でなんてエロいことを言うんだ!その言い方じゃ完全に俺が変態みたいじゃないか!
「220k!忍様は私からそこまでして(その)下着を取り上げたいのですか?」
「240k!え、いや、あの、別にローズさんの履いてる下着が欲しいわけじゃなくて……あっ!いや!欲しくないわけでもないけど!」
「260k!つまり私が付けようとしている下着が欲しいと?」
「280k!いや、そんなつもりは!あ、でもそう言われると何だかますます欲しくなってきた」
「300k!逆効果……ですって!?まさかそこまで欲望が強い方だとは思いもよりませんでしたわ」
「320k!ローズさんの下着か…ふひ」
「340k!さすがに背筋が凍りますわね。これは別の意味でも絶対負けられなくなってしまいましたわ」
「360k!いや、俺の方こそ負けない!(ローズさんの)下着は俺のものだ!」
「380k!さすがに今のはハラスメント行為じゃありませんの?!どうして警告が出ませんの?!」
「400k!(心の声だから)大丈夫だ。問題ない」
「420k!(こちらからしたら)問題大アリですわ!」
「440k!無駄無駄無駄無駄!残弾はまだまだあるんだぜ?ワイルドだろ?」
「460k!私だってまだまだいけますわ!」
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「700k!ハァ……ハァ……、お前はよくやった。本当によくやったよ。しかしいい加減諦めたらどうだ?」
「720k!あなたのような気持ちの悪い人に『レクサ』を渡すことはできませんわ!」
「740k!くっ、まさかここまで粘ってくるとは……そこまでして俺の下着が欲しいのか!」
「760k!気持ちの悪いことを言わないでくださいまし。あなたの下着ではありませんわ!」
「780k!しかし俺は諦めん!諦めんぞ!」
「マスター!それ以上はいけません!」
この激闘の中、PTにローズさんと一緒に俺たちのPTへと入ってきてくれたヒーラーさんが止めに割って入ってきた。
「でも!」
「ここは前衛で命を張っている仲間たちのためにどうか我慢してください!ヒーラー用のアイテムを入札するお金がなくなってしまいます……」
「…………分かりましたわ。ここまで……ですのね」
この時点で勝負は決したようだ。
「いいか?それではカウントダウンを始める。5……4……3……2……1……0。780kで忍君に決まりだ」
「っしゃああああああああああ!!!!」
俺は意気揚々と780kを支払い、漆黒のガーターベルトを受け取って頭上へと掲げた。
「天は我に在り!」
その瞬間ギルドホールが割れるような歓声に包まれた。
そしてところどころに聞こえてくる声。
ローズさんが可哀相!何でローズさんに着けて貰わないんだ!お前なんかが着けて誰得だよ!と。
あれ?これってもしかして歓声じゃなくてブーイングじゃないか?
「これは酷いわね……」
「ああ、『相変わらず』予想を上回る酷さだ」
姫や師匠たちが耳に入る。
そしてローズさんの方を見ると涙を貯めならがこっちを睨んでいる。
え、もしかして俺って女の子の欲しがってたものを無理やり奪っちゃった感じになってるのか?
《忍は我に返った》
や、やっちまったああああああ!!!!
途中から何だかオークションの熱に煽られて色々と変なことを言っちゃってた気がする。
「い、色々ごめんなさい」
俺はそれだけ言うと小さくなって委員長と美羽のところまでこそこそと戻っていった。
そして戻ってみるとなぜか委員長が美羽に口を手で押さえられた状態で羽交い絞めにされている。
なぜだ?
「あはっ!やっぱりお兄ちゃんはそうじゃなくっちゃね。これで邪魔な羽虫が寄ってくることもないよ」
邪魔な羽虫?なんのことだ?
「ん、ん~~~~!」
委員長は拘束されたまま、何かを言おうとしている。目は完全に汚物眼だ。
「あ、そうだ。もういいよ」
美羽が手を離すと開放された委員長がこちらを見てそっとつぶやいた。
「下種ですね」
《忍は心にトラウマを負った》




