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第29話 神殺奥義ダイン・スレイブ

「目が光ったわ!範囲よ!」

「了解!もうその攻撃は完全に見切った!『ガードインパクト!』『弐連ニレン!』『参連サンレン!』『肆連シレン!』『伍連ゴレン!』『陸連ロクレン!』『漆連シチレン!!』。フッ、俺に同じ攻撃は通用しない」


 タイミングさえ分かっていればこの程度のこと造作もない。ゲーマーなのは伊達じゃない!


「どこの剣客よそれ……」

「忍君!とどめを頼む!」


 ネームレスさんから指示が飛んでくる。ボスのHPを見ると既に1/3を切っている。うまくいけばボスの攻撃パターンが変化する前に倒しきれるかもしれない。


「分かった!姫、あとは任せる!」

「言われなくても!そのつもりよ!」


 片手剣でボスを斬りつけつつも答えてくれた。

 俺は『ダッシュ』を使って委員長の下へと駆け寄り、再びSPポーションを飲んでSPを回復する。


「忍さん、『アレ』を使うんですね」

「ああ、一気に決めるなら『アレ』しかない」

「失敗したらマスターがまた3分耐えてくれますよ」

「死ぬほど怒られそうだけどな。それじゃあ合わせてくれ」

「分かりました」

「神をほうむる力を我が手に……『オーバードライブ!』」


 俺は力を貯め始める。

 1……2……3……4……5秒!


「破壊の力に飲み込まれろ!『換装かんそう!』」

「『オーガパワー!』」


 俺の手に再びドラゴンデストロイが戻り、『オーガパワー』により筋力が跳ね上がる。

 そして俺は『スキル』を発動した。


神討滅殺しんとうめっさつ!『ダイン』『スレイブ』!!!」


 『両手剣』に剣技スキルがあるように、『ダッシュ』にも走技スキルがある。

 とはいえ、『ダッシュ』がLv50になりようやく一つ覚えることができた程度だ。そしてその覚えたスキルというのが『ソニックドライブ』だ。

 しかし、このスキルは使い勝手がいいかと聞かれると、とても微妙だった。三秒も発動を続ければ俺のSPは空になるし、俺の極意をもってしても自分の位置が認識できなくなるほど速いのである。ソニックというくらいだから音速くらいのスピードは出ているのかもしれない。しかも使用後の硬直もない。

 だから俺は何とかこのスキルを利用できないものかと考えた。


 まず最初に試したのが当然ルーティーンを組むことである。

 しかしそこで問題が発生した。なんと『ソニックドライブ』中は早すぎて剣技スキルを発動する暇がないのである。ならばと普通の斬撃を繰り出してみたが、そのためにはまず敵とかなりの距離を確保する必要があり、さらにルーティーンを組んでしまうと一定の距離からしか当てることができないし、その上強いには強かったが普通の剣技スキルとそれほど大差があるわけではなかった。

 一番いいのは範囲スキルを『ソニックダッシュ』と組み合わせることだ。それならば攻撃範囲が広がり、タイミングを合わせるのが少し楽になる。

 そこで考えたのが剣技スキルを発動させてから斬撃中に『ソニックドライブ』を使って敵を斬りつける方法である。

 ここでネックとなるのが長い技名である。最初そのままの技名を使っていたため、剣技スキルの発動が終わって『ソニックドライブ』が発動するという情けない結果になってしまった。

 ヴァルキリーヘイムでは『両手剣』『ダッシュ』『ターンステップ』などスキルが持つ基本動作はプレイヤーの意思を読み取りにより無言でも発動することができるが、剣技スキルや走技スキルといった技スキルの発動は言葉が引き金となっている。これは技術的な問題ではなく、ゲームの仕様ルール的にそうしているだけらしい。そしてその言葉は三音以上という縛りを除けば無制限に登録することができるようになっている。

 例えば姫や美羽はヘイトの技スキルである『挑発プロヴォーク』に『かかってきなさい』や『こっちよ』などと言った言葉を登録している。当然発動にはスキルの基本動作と同じくプレイヤーの意思も引き金となるため、会話中にその言葉を発したとしても発動するようなことはない。

 そして意思をって登録した言葉を発しはじめたところからスキルの発動は始まり、仮に言葉を途中で中断してしまえば、スキルはキャンセルされ、SPやMPを消費し、再使用時間のカウントが始まり、技後硬直のあるスキルは硬直が発動してしまう。


 だから俺は先に発動する剣技スキルを3音で登録することにした。

 『ラインスラッシュ』を『ダイン』。

 『ソニックダッシュ』を『スレイブ』

 『ダイン』の言葉で『ラインスラッシュ』を発動し、ダメージ判定が発生する直前に『スレイブ』で『ソニックダッシュ』を発動する。

 このタイミングが本当にシビアで、昔やった格闘ゲームでのフレーム単位での攻防を彷彿とさせられた。

 そして俺はそれを組み合わせてルーティーンを組んだ。


 俺の言葉と意思に反応して斬撃にシステムアシストが加わろうとする。

 しかしそれより一瞬早く『ソニックドライブ』が発動し、世界が後ろへと流れ始める。

既にボスの位置は認識できていない。

 そして『ラインスラッシュ』のダメージ判定が発生し始めた。

 自分からは見えないが、このとき俺の剣が通り過ぎた後から真紅のエフェクトが敵を切り裂くように発生しているらしい。

 俺は『ラインスラッシュ』のダメージ判定が終わるまで世界を置きざりにして駆け抜ける。

 なぜならこのスキルは『縮地』と違ってスキルの発動を終えたとしても、自分の足でブレーキをかけない限り勢いが止まらないのだ。


 しかし次の瞬間目の前が真っ暗となり、強い衝撃が身体中を駆け巡った。

 なっ!『ソニックドライブ』中に攻撃されたっていうのか!?

 俺は空中を舞いながら信じられない思いで自分のHPを確認する。

 HPゲージは見る見るうちに減少していき、その色を緑から黄色、黄色から赤へと変化させ、残り1ミリといったところでようやく止まった。

 やばい…ここで追い討ちをかけられたら死ぬ!?

 俺はそのまま地面へと打ちつけられたが、直ぐに起き上がって回避スキルを発動する。


「ターンステップ!」


 『ターンステップ』を使いながらも周囲を確認するが…あれ?

 周りには敵どころか人ひとりいない。みんな俺とは少し離れたところにいた。

 そしてその中でボスらしき者の死亡エフェクトが今にも消えようとしていた。

 もしかして、倒した…のか?



《トロールボス『ヘルガイズ』を倒した》

《トロールボス『ヘルガイズ』討伐に参加したメンバー全員に貢献度100ポイントが送られます》

《トロールボス『ヘルガイズ』討伐に参加したメンバー全員に『怪力殺しの』の称号が送られます》

《トロールボス『ヘルガイズ』討伐のMVPである『忍』には貢献度500ポイントが送られます》



 討伐完了のシステムログが流れる。

 それを俺は見てほっと息をついた。

 しかし随分と遠くまで飛ばされてきたものだな。これじゃあ雑魚の攻撃がかすっただけで死んじゃうじゃないか。

 一人こんなところにいるのも何だし、俺はみんなの方へと戻るべく歩きはじめた。

 あれ、なぜかみんな俺の方をみてポカーンとしている。あれか?ボスに吹っ飛ばされすぎたせいか?

 俺はポリポリと頭を掻きながら言った。


「いやー、まさか最後の最後でボスの直撃を受けるとは思わなかったよ」

「忍…あなたボスの攻撃なんて受けていないわよ…」

「え?」


 ならなんでHPがこんなに減ってるんだ?


「忍さんはボスを倒した後、すごい勢いで壁に突っ込んでいって地形ダメージを受けたんです」


 と、委員長。


「あははははっ、あんなに見事なカミカゼは見たことないよ。」


 その横にお腹を抱えて笑う美羽。


「そうだったのか。俺からは忍に何が起こったのかさっぱり分からなかったんだが」


 そして呆れたような顔をする師匠。


「あれはあらかじめ知っていないと見えるものではありませんから」


 なん……だと……地形ダメージ!?カミカゼ!?

 そういえば、完全に失念してた……、ダンジョンで『ソニックドライブ』なんて使えばそりゃあ壁にも当たるよな。

 それにしても普通地形ダメージって高いところから飛び降りたりすると食らうものだろ。どんだけスピード出てるんだよ……。

 実戦で使ったのは初めてだけど、これは使いどころが難しいかもしれない。


「というかあの巨大な剣は何?最後のアレは何?一発でボスの残りHPが全部消し飛んだわよ!」


 うお、質問攻めだ。


「ええっと……その話をする前に回復をかけて欲しいなぁと」

「「「「「「『エクストラヒール』」」」」」」


 ヒーラー全員から『ヒール』をかけられた。

 う!エフェクトが重なりすぎて前が見えん!


「さて、話は後にして先に次の町へ抜けてしまおう。ほら、みんなあと一踏ん張りだ」


 しかも俺の話は後回しにされてしまった。

 ネームレスさんの指示にしたがってボスの間を奥へと進んでいくと、やがて坑道を抜けてフィールドに出た。


 新しいフィールド……そこには一面に雪景色が広がっていた。

 さむっ!それほど体感するわけじゃないけど、気分的に寒すぎる!


「次は雪原フィールドってわけね。立っているだけで移動速度とSP減少のペナルティーが発生しているわ」


 うお、ほんとだ!ちょっとずつだけどSPが減っていってる!これは厳しい戦いになりそうだ。


「よし、街は目の前だな。急ごう」

「待ってください、忍さん!後ろから何ものかが追跡してきます」


 何だって!?一体誰が。


「みんな!後ろから追跡者がいるらしい!」


 俺はネームレスさんたちがいる方へと向かって注意を呼びかけた。


「何だって!?バッファーは念のためすぐに全員へ補助魔法をかけなおせ!」


 ネームレスさんの指示に従い全員に補助魔法がかけなおされていく。


「今のは本当なのかい、忍君」

「ああ、委員長がスキルで察知したらしい」


 委員長は頷いて答える。


「はい、私たちが止まったことで向こうも足を止めているみたいです。数は確認できるだけで50人以上。恐らくプレイヤーです」

「他の連合のものたちかもしくは…」

「ハイエナってわけね。向こうがこっちに接触する気がないというのならこのまま後方を警戒しつつ街へ入ってしまいましょう」


 結局そのプレイヤーたちは街の中へ入るまで接触しては来なかった。

 しかもそのまま街に入ってくることもなく、正体が分からないまま終わってしまった。


 街へ入るとシステムログが流れ始めた。



《『ニヴルヘイム』の女神『ヘル』により入国が許可されました》


《今後全てのプレイヤーが転移門を使用して『ニヴルヘイム』へ転移することが可能となります》



「ここがニヴルヘイムか。確か北欧神話に出てくる氷の国だったっけ」

「そうね。とうとう北欧神話に出てくる国にまでたどり着いたのね」

「ここに来るまでまだ二ヶ月も経過していない。つまりここからがようやく本番ってことになるのかな」

「それにしても寒いな」

「よし、みんな新しい街を観光したいのは山々だろうけど先に恒例のオークションといこう」

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