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第28話 決戦兵器ドラゴンデストロイ

「それではこれからヘルガイズの討伐を開始する!タンカー班前へ!」


 姫を先頭に俺たちは大広間へと足を踏み入れた。

 そこで俺たちに気付いたヘルガイズたちがこちらに向いて咆哮をあげる。

 姫はタンカーの発揮できる最高のスピードでヘルガイズへと接近してスキルを発動する。


「ヘルガイズ!『あなたの相手は私よ!』」

「ほらっ、『こっちだよ!』」「お前は『こっちだ!』」


 姫のヘイトスキルに追随する形で美羽ともう一人のサブタンカーがヘルガイズの取り巻きであるトロールサブリーダーたちの狙い(タゲ)を取る。


 俺はその間に『ダッシュ』を発動させてヘルガイズの後ろへと回りこみ、頭上へと剣を高く掲げ上げてスキルを発動した。


「世界を断ち切る力をこの手に…『オーバードライブ!』」


 『オーバードライブ』とは両手剣の剣技スキルの一つで、次の攻撃に備えて力を貯めるスキルだ。最大で5秒間力を貯め続けることで次の攻撃ダメージを1.5倍に増幅することができるが、貯めている間は一歩も動くことができない。

 肩に担ぐように構えなおした俺の両手剣が徐々に赤い波紋エフェクトを帯びはじめる。


 その間にも、サブタンカー班が狙い(タゲ)を取っているトロールサブリーダーたちがアタッカー班の集中砲火に合い、HPをガツガツと減らしていく。


 ここは我慢だ。既に『オーバードライブ』を使って5秒を経過しているが、俺はネームレスさんの突撃指示をじっと待った。


 そしてさらに数秒が経過したところでタッカー班がついにサブリーダーたちを倒し切った。


「ターゲット変更!ヘルガイズ!」


 ネームレスさんの指揮が飛ぶ。

 よし、ついに来た。視線を委員長の方へと向けると、委員長がこちらを見て頷いた。

 準備は完全に整った。

 俺たちパーティーのデビュー戦を華々しく飾ろうじゃないか!


ッ!」


 俺は『ダッシュ』を使って一気にヘルガイズの背後へと迫る。そして『俺たち』はスキルを発動した。


「『オーガパワー!』」「『換装かんそう!』」


 委員長の魔法を受けた瞬間俺の筋力は跳ね上がり、手に持っている武器が一瞬にして摩り替わった。

 PTの結成により委員長は細剣さいけんを覚醒魔法へと入れ替えることができたが、俺も気配察知を委員長に任せて他のスキルへと入れ替えていたのだ。

 それも美羽が得意とする『チェンジウェポン』へと。

 今の俺は『パワーブースト』と『オーガパワー』を受けて筋力が35にまで跳ね上がっている。だから俺は『これ』を扱うことができる。クリスに作ってもらった必要筋力35の両手剣『銀のドラゴンデストロイ』を。

 初めてこの剣を目にしたとき、俺は自分の目を疑った。それくらいにでかかったのだ。

よく自分の身の丈ほどの剣というものが漫画の世界には出てくるが、身の丈なんてものじゃない。刃渡り二.五メートル、刃幅五十センチがこの化け物ソードの大きさだ。そして俺は『オーガパワー』のかかっている5秒間だけほとんどペナルティーを受けずに振り回すことができる。

 だから俺は斬りつける。『オーバードライブ』と『オーガパワー』そして『ドラゴンデストロイ』によって発揮される絶対的な暴力という名の力で。


要塞破壊斬フォートレスブレイカー!!!」


 最高の力を込めたダッシュ斬りだ。ドラゴンデストロイが凄まじい斬撃エフェクトを撒き散らせながらヘルガイズの背中を切り裂き、目に見えてボスのHPが減少する。それに伴いボスの狙い(タゲ)が俺の方へと移った。

 最初の一撃で『オーバードライブ』の効果は切れてしまったが、『オーガパワー』が切れるまでまだ時間がある。



「はぁっ!たぁっ!」


 袈裟懸けに切り裂き、右へと薙ぎ払ったところでボスの殴り攻撃が俺に襲いかかる。


「『ダイアウルフを犠牲に捧げる!サクリファイス!』」


 しかしその攻撃は師匠の召喚を身代わりにする『サクリファイス』によって防がれた。



「イクスリッパァァァッ!!」


 さらに俺は切り上げから袈裟懸けへとエックスの文字に斬撃を繋げるが、ボスは少しもひるむことなく腕を大きく振り上げる。



 そしてボスの腕が俺に振り下ろされるより早く美羽がスキルを発動した。


「『騎士の誇り(シュヴァリエール)』」


 美羽の幻影が俺の正面に立ち、振り下ろされたボスの攻撃ダメージが全て美羽へと転嫁てんかされる。

 俺の役目は少しでもダメージを稼ぐことだ。ここは美羽とローズさんたちを信じるしかない。


「『サイクロンスラアァァァァァァッシュ!!!!』」


 俺はボスの攻撃に構わずその場で『ターンステップ』を発動して回転力を付け、剣技スキルの『サイクロンスラッシュ』を発動した。

 このスキルは我流奥義秘剣かざぐるまと同じように、自分を中心に駒のように剣を振り回しながら回るというものだが、システムアシストによりその性質は全く異なったものとなる。

 なぜならこの『サイクロンスラッシュ』は低威力多段ヒットの範囲攻撃だからだ。

 ゆえに本来であれば雑魚に対してもそれほど大した威力は得られるものではない。ただし、相手が巨大で、こちらの攻撃力が敵の防御力を圧倒的に上回るという条件に限って飛び抜けたダメージが期待することができるのだ。

 なぜなら巨大な敵には範囲攻撃が複数ヒットするのだから。



 俺はシステムアシストに促されるままひたすらコマのように回り続ける。俺の斬撃に巻き込まれたボスは複数ヒットの攻撃が多段ヒットしていくことでガリガリとHPを削られていった。

 そしてボスはそんな激しい攻撃を受けながらも腕を再び振り上げた。



 『オーガパワー』が切れた瞬間、俺の必要筋力を超えた両手剣の重みがずっしりと腕に加わってくる。

 さらに『サイクロンスラッシュ』が発動を終え、俺は技後硬直を受けて無防備な状態のまま動けなくなってしまう。

 そこへボスの強烈な一撃が振り下ろされた。

 俺は回避することもできずボスの直撃を受けてしまうが、ダメージは美羽に転嫁され、隣から苦悶の声が聞こえてきた。


「くっ!」

「「『エクストラヒール!』」」

「『こっちよ』。ダメ!まだ狙い(タゲ)がうつらないわ!」


-1


 さらに動けない俺をヘルガイズは手で掴み上げた。


-2


 ここで硬直が解けるがその力から逃れることが出来ず、そのまま地面へと叩き付けられてしまう。

 そしてそのダメージも美羽へと転嫁する。


「かはっ!」

「「『エクストラヒールオール!』」」


 『エクストラヒール』が再使用時間の関係で使えないため、パーティー全員を回復する『エクストラヒールオール』で代用しているようだ。

 ということはまだ美羽は無事なんだな。

 ダメージのない俺はすぐに起き上がりながらスキルを発動した。


「『換装かんそう』!」


 今まで持っていたドラゴンデストロイが掻き消え、必要筋力22のシルバーブレードが再び俺の手元へと戻ってきた。


「目が光っています!」


 委員長の叫び声が聞こえた。

 ボスに目を向けると目を光らせ腕を広げて体を大きくひねらせていた。

 これは…俺の『サイクロンスラッシュ』と同じような範囲攻撃か!

 ボスのスキルの発動に合わせてスキルを発動する


「『ガードインパクト!』『弐連ニレン!』ぐっ!『参連サンレン!』『肆連シレン!』『伍連ゴレン!』『陸連ロクレン!』『漆連シチレン!!』」


 思った通りだ。二回目はダメージ発生タイミングが分からず食らってしまったが、あとは二回目のダメージ発生タイミングと同じ間隔でダメージが発生している。

 それに上手く『ガードインパクト』を合わせていけば一発一発のダメージが小さい分、完全にダメージを打ち消すことができている。

 そして7回目のダメージ判定をしのぎきってそのまま攻撃に繋げながら美羽に声をかけた。


「美羽!大丈夫だったか!」

「うん、さすがローズさんたちだね。ボスのダメージも凄かったけど全然死ぬ気しなかったよ」

「そいつは大したもんだ」


 実際その通りである。なにせ『騎士の誇り(シュヴァリエール)』のダメージ判定は俺の防御力が適用されるわけだから、かなりのダメージを受けていたはずだ。

 ボスのHPを確認すると既に半分を切ろうとしていた。


「すごいね。この調子なら次でケリがつくよ」

「ああ、それまで凌がなきゃな…っとそんな大振り当たるかよ!」


 ヘルゲイズの殴り攻撃を『ターンステップ』で華麗に避けながら剣を薙ぎ払い、そのままコンボを繋いでいく。


「いいかげんに『こっちを向きなさい!』」


 そして姫の何度目かの『挑発プロヴォーグ』によってようやくヘルゲイルは姫へと狙い(タゲ)を移した。

 姫のヘイト値が俺のヘイト値を上回ったのだ。

 よし、これで遠慮なく攻撃を叩き込むことができる。

 遠距離職により攻撃の雨が降り注ぐ中、俺も必死になって剣を振り回した。

 俺たちの激しい攻撃によりボスのHPがジリジリと僅かながら減っていく。


「忍君!さっきのはもう一度できるのかい!」

「ああ!『オーガパワー』の再使用時間は3分だ!それが使えるようになり次第いける!」

「分かった!それでは次に使うタイミングは僕に任せてくれ!」

「了解!はぁっ!たぁっ!パワーブレイクッ!」


 左右へと切り払い、『ダッシュ』で一歩踏み込んで袈裟懸けに切りつける。


「目が光ったわ!」


 ヘルゲイズが両腕を大きく振り上げる。単体攻撃か!


「忍!これは任せなさい!『ファランクス』」


 ヘルゲイズの両腕が姫の盾とぶつかり合い、激しく火花を散らしながらそのまま地面へと叩きつけられた。

 破砕音とともに地面が大きく砕け散る。

 しかし姫は軽くノックバックするだけで踏みとどまっていた。


「私の役目は仲間を守ること!この程度どうってことない。『さぁ、かかってきなさい!』」


 さすが姫だ。敵の攻撃を一身に受けるその気高い姿はまさにヴァルキリーそのものだ。

 これは負けていられないな!


「其の血を咲き散らせ!我流奥義!百花狂乱ひゃっかきょうらん!!!」


 敵を横切るようにダッシュ斬りで駆け抜け、通り過ぎた直後に剛脚を利用した地面蹴りで切り替えし、『ターンステップ』で方向転換そして再びダッシュ斬りで駆け抜ける。

 このルーティンを素早く繰り返すことで激しくダメージエフェクトを飛び散らせ、あたかも血で花が咲いたように見える威力と格好よさを兼ね備えた技だ。


「うおおおおおおおおおおおお!!!!」


 何度も何度も切り返すことでガツガツとSPが減っていく。しかし今回はSPポーションを自分で用意しているから問題ない。

 ダメージによるヘイト値の上昇によりボスの狙い《タゲ》が俺へ移る。

 しかし…


「『どこを向いてるの!』」


挑発プロヴォーグ』によりすぐに姫へと狙い《タゲ》が戻った。


 その隙にSPポーションを飲みまくるとSPが完全まで回復した。

 これでまた戦える!

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