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第27話 我がPTに秘策アリ!

 それから残ったものたちで班編成が始まった。

 討伐隊は全部で姫のメインタンカー班、俺のサブタンカー班、黎明のサブタンカー班(ボスの取り巻き対応)、そしてアタッカー班7班の計60人で前回より多くなっている。しかし人数が多い分、個人の力量差も広がってしまっている。

 実際アタッカー班のアタッカーは遠距離職ばかり30人近くいる。これで攻撃をまともに当てることができるのかといわれたら、実は十分可能なのである。


 俺も委員長たちと組むまで知らなかったのだが、敵対意識を持っていないプレイヤーに対してはダメージが入らないシステムになっているらしい。

 これはそんなことでいちいち味方にダメージが入っていたら、ボス戦や集団戦で間違って仲間をPKしてしまうことで発生するPKペナルティーを恐れて、消極的な戦術しかできなくなり、ゲームとして地味なものになってしまうからだという話だ。

 かといって、攻撃が味方をすり抜けるかと言われるとそうではない。矢や魔法は味方に当たると消滅するし、武器が味方をすり抜けるようなこともない。しかし、範囲攻撃・範囲魔法は別だ。これは味方にダメージがないのは当然だが、範囲指定のダメージとなるので味方をすり抜けてダメージが発生する。

 しかしだからといって何でも攻撃を打ち込めばいいというものではないらしい。

 例えば今回の討伐では、ボスの目を見ることで範囲攻撃などを予測することができる。それなのにボスの顔に向かってエフェクトの激しい攻撃を行うと、例え近くにいるタンカーでもそれを確認するのは難しくなってしまう。もし範囲魔法でも使おうものなら、ボスの攻撃タイミングをタンカーが見失ってしまうような事態にもなりかねない。

 だから遠距離アタッカーが常に全力で攻撃できるかと言われると、厳しいのが現実だ。

 今回の作戦は前回と同じで、ボスの取り巻きの狙い(タゲ)を俺たちの班と黎明のサブタンカーの班で受け持ち、姫がボスの攻撃をしのいでいる間に殲滅。その後姫をメインタンカー、俺をサブタンカーとしてボスを集中攻撃する手筈になっている。


「望みのパーティー構成を希望したからには、今回の作戦何か考えがあるのかしら?」


 俺たちのPTに入ったローズさんが聞いてくる。

 そうだ。俺たちが死なないためにもローズさんたちには俺たちの作戦を知っておいて貰わないといけない。


「一応は…。ボスの取り巻きを倒した後、俺は多分一発か二発でボスの狙い《タゲ》を姫から奪います」

「そ、そんなことが可能なの?!」


 ローズさんが驚くのも無理はない。でも以前店売りのクレイモアを使っていた頃の俺と、クリスから新たに作ってもらったシルバーブレードでは威力が段違いだ。


「ああ、それでも攻撃中は完全に無防備になるから、師匠がこの前使ってくれた『サクリファイス』でボスの一発目の攻撃を凌いで、その後は姫がボスの狙い《タゲ》を取りかえしてくれるまで美羽の『騎士の誇り(シュヴァリエール)』で俺の受けるダメージを一時的に全て肩代わりしてもらう予定です」

「分かりましたわ。どうやってそれほどのダメージを出すのかは存じませんけれど、回復のことはわたくしたちに任せていただいて結構ですわ。わたくしたちがいる限りこのPTから死人が出ることはありえません」


 大した自信だ。それだけヒーラーとしてのプライドを持っているのだろう。

 これでいける。後は俺たちが華々しくみんなの度肝を抜くだけだ。


 準備を終えた俺たち神話連合はミルダ坑道へと向かって出発することとなった。

 そしてそのボスまでの道中、雑魚トロールを敵を倒しながらも姫が訊ねてきた。


「ねぇ、忍。あなた今回何か企んでるらしいじゃない」

「ええ!?なんでバレ…あ、いや、何も企んでなんてないよ?」


 俺は目を逸らしながらも何とか答える。

 くっ、一体どこでバレたっていうんだ。まさかローズさんたちか?


「お兄ちゃんさっきの会話周りの人たちにしっかり聞かれてたから。しかもその顔、何か隠してますって言っているようなものだよ」

「そうですね、忍さんは何でもすぐ顔に出てしまっています。とは言え内容まで知ってしまっては楽しみも半減するというもの。討伐隊にとってマイナスになるような内容ではありませんからマスターもあまり追及しないであげてください」


「ふーん。三人だけの秘密ってわけなの?」


 なぜかジト目で睨まれる。再び目を逸らして口笛なんて吹いてみる。しかし残念ながら空気が抜けるような音しか出なかった…俺に口笛スキルさえあれば!


「そうそう。『極々ごくごくしたしい』ボクたちだけの『秘密』なんだから、マスターと言えど詮索はダメだよ」

「む」


 いつの間にか姫と美羽が火花を散らしている。

 あれ、何でこんな流れになっているんだ?


「『たった二週間』で随分と仲がよくなったみたいね?」

「マスターはもう忘れちゃったかもしれないけど、『若い頃の』二週間っていうのは長いものだからね」


 なぜだろう。まだボスの所にたどり着いたわけでもないのに凄く緊迫した空気が流れている。指一本でも動いたら殺される…みたいな。

 しかしその横でなぜか委員長が我関せずといった感じでぶつぶつと何かを呟いている。


「委員長。一体どうしたんだ?」

「あ、少し考え事をしていまして」


 凄いなこの空気の中で考え事なんて。そんなに重要なことを考えていたのか?


「何を考えていたんだ?」

「忍さんと知り合って二週間が経ちますが、仲良くなったかと聞かれるとまだ『知人』くらいの関係かなと」


 ばっさりだ。


「ひどっ!せめて友達くらいにはしてください!」

「友達…ですか。そうですね。確かにその方がしっくり来るかもしれません」


 おお!


「忍さんってまさに妹の友達みたいな感じですね」


 ガクッ!

 え、俺ってそんなに委員長と距離があったの?ちょっとショックなんだけど…。


「って、妹?委員長って妹もいるのか?」

「妹もって美羽の…あ」

「お姉ちゃん!現実リアルのネタバレは禁句タブーだよ!」

「ご、ごめんなさい。つい忍さんの口車に乗ってしまって」

「そこ!何気なにげに俺を悪人にしようとしないで!」


 しかし美羽の奴やっぱりリアルは女だったのか。

 何となく分かってはいたんだけど現実リアルネタは自分から言い出さない限り基本的に禁句タブーだから今まであえては聞かなかった。

 それに俺は現実リアルの性別が男だろうと女だろうと気にはしない。

 問題はプレイヤーとしての中身だ。

 例えば俺のように女キャラを使いつつも男のように振舞う人は男にしか思えないし、女キャラを使いつつも女のように振舞う人は例え現実リアルが男だろうと女にしか思えない。

 そして美羽は男キャラを使いつつも中性的になるよう振舞っていたのだから、現実リアルの性別を知った今でもそういう風にしか思えない。

 だから例え姫や師匠、委員長が現実リアルの性別と違っていたとしても、俺は全く気にすることはないだろう。

 だって現実リアルでずっとぼっちだった俺にとっては、彼らは唯一この世界でのみ触れることのできるVRMMO(夢の世界)の住人なのだから。


「忍、どうしたの?」


 少しぼーっとしてしまっていたみたいだ。美羽が心配そうに聞いてくる。


「もしかしてボクの中身が女だって知って発情した?」


 訂正、心配は全くしていないらしい。


「するか。断っておくが俺にショタ趣味はないぞ」


 …多分。


「ふーん。そっかぁ。忍をそっちの道に目覚めさせるのも面白そうだね」


 そう言ってまるでいい獲物を見つけたといわんばかりに舌なめずりをする。

 なんて恐ろしいことを考えるんだ!美羽…恐ろしい子!

 そんな馬鹿話をしていると、いつの間にか姫と美羽の間にあった緊迫感が霧散していた。

 ほっ。


「ほら、そろそろボスの間に着くわよ。気合を入れなさい」

「おう!」


 俺たちはトロールボス『ヘルガイズ』のいるという大広間の手前までやってきた。

 扉があるわけじゃないので、ここからでもヘルガイズがよく見える。

 緑色の肌をしたでっぷりとした身体に長くて太い二本の腕、ろくに装備を付けていないその姿からは弱弱しさを感じるどころか、逆にそのむき出しになった筋肉が威圧感さえ与えてくる。

 さすがに大型モンスターのボスだけあって、身体の大きさはリザードマンのボスよりさらに大きい。まるで腕の長い巨大な関取のようだ。


「それでは作戦を開始する。補助魔法を始めてくれ」


 ネームレスさんの指示に従い全員が補助魔法をかけ始めた。

 道中でもかけられていたが、ここに来るまでの間一度かけなおし、さらに効果時間が残り僅かになってしまっているからだ。

 しかし委員長は俺たち全員に補助魔法をかけなおすことはない。なぜならそんなことをする必要がないからだ。

 なぜそんなことになっているか言われると、これはボス狩りに限ったこと話ではない。


 委員長は俺たちの中でヒーラーも兼任していたこともあり、MP管理はかなりシビアに行っていた。そのために一つ一つの補助魔法をかける間隔をずらすことにしたらしい。

 一体どういうことかというと、もし補助魔法を一度にかけていたら、かけ終えた直後にはMPが一気に減少してしまっている。さらに補助魔法をかけるためだけに少しではあるが、バッファーはまとまった時間を完全に補助魔法に取られてしまう。

 それを一つ一つの補助魔法を一分置きなどに間隔を空けてかけ続けることで、まとまった時間を必要とせず、コンスタントにMPを確保することができるようになるというわけだ。


 しかし理屈は簡単であるが、これがめちゃくちゃ難しい。まず俺には不可能だ。

 完璧な時間管理とかけ忘れを起こさない委員長だからこそできる芸当である。

 しかも委員長はその上で『オーガパワー』やら『ヒール』やらで俺たちを援護していたというのだから凄い。

 そしてそれはPTの人数が6人に増えたというのに、全く問題がないらしい。というかむしろヒールを考えなくてよくなった分楽になったそうだ。

 だから俺には既に『エンチャントウェポン(持続時間20分)』『アーマーブレス(20分)』『パワーブースト(10分)』『スピードブースト(10分)』『タフネスブースト(10分)』がかけられていて、それぞれの残り効果時間が全くバラバラになっている。


 全PTが補助魔法をかけ終えたことを確認すると、ネームレスさんは連合に向けて開戦指示を出した。

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