第22話 スキルトーク
「ふぅ……、タフ過ぎだろコイツ」
クリスの作ってくれた剣も強いけど、ジークが作ってくれた防具も実に動きやすい。さらに『一匹狼の』の称号による敏捷補正によりいつもより身体のキレが増していて、バジリスク相手にもかなり余裕を持った戦いができた。
全く随分と強化されたものだ。
「嘘…ほんとに独りで倒しちゃったよこの人…」
「え、だって二人があんまり手伝ってくれないから」
「一応忍さんが一発食らったところで戦闘に割り込んでいく準備はしていたんですけどね。まさかノーダメージで倒してしまうとは思いもよりませんでした」
「そ、そうだったのか…」
くそう。そうと知っていればこんなに独りで頑張らなかったのに!
「ほんと凄いね。どうやったらそんな動きができるの?」
美羽が嬉しそうに聞いてくる。まるでクリスに続く妹二号だな。いや、弟になるのか?
「どうって言われても、口では説明が難しいな。自分の身体じゃなくてゲームのキャラクターを動かすような感じ?」
「なにそれ?そんなことができるの?」
「VRシステムの性質上そんなことが可能だとは思えませんが」
「うーん、俺も原理とかはよく分かってないんだ。ただ、一年間ずっと闘技場で訓練してたらできるようになっただけだから」
「一年間ずっと?」
「うん」
「一日も休みなく?」
「うん」
「一日にどれくらい?」
「時間の許す限り、かな」
「廃神だ…。廃神がいるよ…」
古来より現実の生活に支障が出るほど時間を忘れてネットゲームにのめりこむような猛者のことを人々は尊敬と嫉妬、そして侮蔑の意味を込めて廃人と呼んでいる。そして廃神とはさらにそれより一ランク上の存在だ。
「あなたのように現実での生活を捨てて、仙人の如くVR機に篭もっていればあるいはそのような術も身につくのかもしれませんね…」
「ゲームをしてただけで酷い言われようだ!」
いや、そのやっている時間が問題なのか。あれ、でもここにいるみんなは一ヶ月ログインしっぱなしなわけだから人のこと言えないんじゃないか?
「なるほど、つまりここヴァルキリーヘイムは廃神養成所というわけか」
「「……」」
「いや、あの、ごめんなさい。皆さん仕方なく…ですよね」
めちゃくちゃ白い目で見られた。お前と一緒にするなと言わんばかりだ。
「ともあれ、あなたが独りで戦ってくれたおかげで、大体の戦闘スタイルが分かりました。次はもう少し連携を強めていけると思います」
「そ、そうか。それなら一人で頑張った甲斐もあったかな?それにしても二人とも本当に凄いよな。美羽の『チェンジウェポン』だっけか?弓と槍を器用に使い分けるなんて簡単にできることじゃないだろ?」
「ボクはこれでも弓道部だからね。弓のシステムアシストって当たるようには補正されるんだけど、外れるようには補正されないんだ。だから腕前さえあれば、スキルレベルに関係なく当てることができるんだよ。槍の単純に隙を見つけて突いているだけだけどね。確かに使いこなせれば便利だけど、その代わり『槍』『盾』『弓』『チェンジウェポン』だけで四つもスキル枠が取られちゃうのが難点かな」
なるほどなぁ。それとヘイトスキルで五つも埋まっちゃうわけか。
それにしても弓道部だからってあんな正確な射撃ができるものなのか?美羽って実は凄い奴なのかも…。
「美月もさすが委員長だけあって的確な指示だったよ。最後に俺が駄目にしちゃったけどさ」
「委員長って呼ばないでください。後衛としてあのくらいは誰だってできます。何ですか急に私たちを褒め始めて。何か下心でもあるんですか?」
うぐ、鋭い。
「い、いや、全然ナイヨ?ただ、二人になら安心して背中を任せられるなぁ…なんて」
「あなたには全く任せられそうにありませんけどね」
「ぐはっ!」
「あはっ、確かにお兄ちゃんと一緒にいたら安定した狩りってできないかも」
「そ、そこはほら!まだPTハントになれてないからってことで」
「そうですか。では今日一日でどれだけ慣れることができるのか見てみましょう」
まぢで?これからテストですか?
「が、頑張らせていただきます」
それから俺たちは夕方になるまでバジリスクを狩りに狩りまくった。
時には俺が敵をリンクさせてしまい、委員長に怒られることもあったが、概ねいい感じだったと思う。
格下とはいえタフな敵を相手にしていると、戦っている時間が長くなってその分スキルを多用するからスキルレベルがもりもり上がるし、元々六人で狩る敵を三人で狩ってたわけだから経験値も大量に入ってきて、委員長と美羽は2つもレベルが上がっていた。
とはいえ、さすがに俺の場合は敵がLv15以上も格下になるため、職業Lvが上がるようなことはなかったけど、それでもいい稼ぎになった。
「武器の耐久度がそろそろ30を切ってきたな」
「そうですか。それではそろそろ狩りを切り上げて町へ戻りましょう」
「そうだね。今日はもう十分過ぎるほど稼いだよ」
「さて、それじゃあ、帰るか」
俺たちはそこでようやく狩りを終えた。
それにしても本当にクリスの言っていた通り武器の耐久度が全然違う。
今日はソロのときに比べて明らかに攻撃回数が増えていたのに、半日近く武器が壊れないなんてさすがに思わなかった。クレイモアならもう10本は折れていてもおかしくない。
そして町に帰る途中、美羽たちとスキルの話になった。
「お兄ちゃんって、『両手剣』『ガードインパクト』『気配察知』『ダッシュ』『ターンステップ』のスキルを入れてるよね。あと一つって何を入れてるの?」
「『剛脚』っていうキックの上位スキルかな」
「え?でもお兄ちゃんが蹴り技を使ってるところって見たことないんだけど」
「蹴り技スキルは発動してないけど、『剛脚』はちゃんと使ってるぞ?」
「嘘?!いつの間に?」
「ボクシングには蹴り技がない。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」
「何ソレ?」
「知らない…だと?!」
くっ、古いけど有名な格闘漫画の有名なセリフなのに!それを思い出してパクった技なんだけどなぁ…。
「ええっと、ジャンプするときとか、ステップするときとか、地面を蹴るんだ。蹴り技スキルじゃないただの蹴りはSPも使わないし硬直もないから、それに利用して急な方向転換をしたり、少しだけジャンプ力が上がったりするんだ」
「なるほど、そんな使い方もあるんですね」
「もちろんただ走ったりするだけじゃ意味がなくて、地面をしっかりと蹴りつけないとスキル補正は発動しないけどな。これが使ってみると結構重宝するものなんだ。そういう美羽は何を入れてるんだ?」
「ボクは『片手槍』『騎士盾』『長弓』『チェンジウェポン』『ヘイト』『ガードスタンス』だよ」
多分『騎士盾』は『盾』、『長弓』は『弓』の上位スキルなんだろうな。
「『ガードスタンス』ってのはときどき使ってた防御系のスキルってことになるのか?」
「そうだよ。30秒間防御力を上げる『アイアンスキン』とか、防御体勢を解除するまで飛躍的に防御力を上げる『ファランクス』とかが使えるようになるタンカーの必須スキルだよ」
「なるほどなぁ。委員長は何を入れているんだ?」
「委員長って呼ばないでください。私は『神聖魔法』『付与魔法』『詠唱速度UP』『MP回復量UP』『気配察知』『細剣』のスキル構成です」
「『神聖魔法』っていうのが『回復魔法』の上位スキルだよな。『付与魔法』っていうのは『補助魔法』の上位スキルなのか?」
「確かに『神聖魔法』は『回復魔法』の上位スキルですが『付与魔法』は少し違います。『補助魔法』はランクアップすると、装備を一時的に強化することに特化した『付与魔法』と肉体を一時的に強化することに特化した『覚醒魔法』に分岐するんです。スキル枠が余っていれば両方覚えることもできたのですが、現状ではその余裕がありませんから『付与魔法』だけを入れています」
「『気配察知』っていうのは俺もソロ狩りのために覚えてるけど、常に周囲に目を配っている実に委員長らしいスキルだな」
「だから、委員長って呼ばないでください」
「す、すまん。それにしても『細剣』なんてどうして入れてるんだ?」
「元々は美羽と二人で狩りしていましたから、火力不足を補うために私も攻撃に参加していたんです。今回は無理に攻撃に参加するより、少し下がって回復と補助に徹したほうがPTの安全を確保できると判断しましたから使いませんでしたけど」
なるほど、確かにヒーラーが前線に出てもし自分が攻撃を受けるようなことになったら、自分にも回復をかけないといけなくなるから、MP消費も増えるし、前衛への回復が疎かになってしまう可能性もある。
「なるほど。あ!それじゃあ俺が入ったら『細剣』を外して『覚醒魔法』を入れられるんじゃないか?」
ちょ、ちょっとわざとらしかったか?
いや、でも間違ったことを言っているわけじゃないし…。
「そうなりますね」
美羽がイタズラっ子のような笑みを浮かべて委員長の方を見る。
「お姉ちゃん、どうする?」




