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第16話 パンツ

 防御力や耐久力がついでになるほど大切なことって一体何があるっていうんだ?

 ゴクリ……俺たちの間に緊張がはし…あれ、俺だけ?

 姫と師匠は何だか汚いものでも見るような顔でジークを見ている。


「パンツだ!」

「いいから早く作りなさい」


 姫は冷静だ。どこまでも冷静だ……。


「なっ!パンツの重要性を理解していないのか!想像してみるんだ!もし下半身がハイレグの鎧に、ドロワーズなんて設定されていたとしたらどうするんだ!完全にはみ出ちゃうぢゃないか!じゅるり……」


 ジーク……よだれくんだ。というか……、


「そもそもパンツの設定ってどうやってされてるんだ?」

「お前は自分のパンツを見たことがあるか?」

「フッ、俺をなめてもらっては困る。最初に宿屋へ泊まったときには一番に確認したし、ログインというもの一日たりとも確認を怠った日はない」


 むしろ日課と言っても差しつかえはないだろう。


「さすがだな。なら当然知っていると思うが、宿屋で寝るときは装備をわざわざ外さずとも、瞬時に鎧がパジャマへと変わる就寝機能が付いているだろう?思い返して見て欲しい。防具を変えた時にパジャマと一緒に下着のデザインも変わらなかったか?」

「そういえば、鎧を変えた時に変わっいた気がするな。確か皮の服が白い無地のパンツで、ブロンズブレストアーマーが白と黄色の横縞。アイアンブレストアーマーが白と青の横縞だったな」

「何で全部事細(ことこま)かに記憶してるのよ……」

「つまりはパンツとパジャマのデザインは鎧の方に設定されてるということになる。そして防具職人はそれを自由に設定することができるのだ!」

「なっ!何だって!?ということは、もしかして姫の……」


 その瞬間ぞわりと全身が総毛立そうけだつ。気が付けば身体中が警鐘を鳴らしていた。お前は今死の縁に立っているのだと……。


「私の、『何が』、何だっていうのかしら?」


 姫が低い声で問いかけてくる。

 駄目だ…本能が告げている。今姫の方を向いたら死ぬぞ、と。


「忍……」


 ジークがこっちを見て同情の眼差しを送ってくる。


「ジーク……」


 俺はジークに目で助けを求めた。


「好奇心、猫を殺す」


 そのとおりです。はい。


「…もう二度と考えません」

「ああ、お前が何を考えたのかは俺には全くもって分からないが、鎧やパジャマ、そして下着に関しては運営がある程度デフォルトのデザインを用意してくれている。そして、依頼者は『製作者に分からないように』その中から下着とパジャマを選択する機能もある。ただそれ以外にも、依頼者が製作者にオーダーメイドを依頼することができるようになっているんだ」

「な、なるほど」


 もしかしてジークは下着が設定できるから防具職人になったんじゃないだろうな。特に幼女からの依頼だったらタダで生産してあげてそうな予感がする……。

 まぁ、好きなのにしてもらえるというのなら遠慮なく俺の要望を言おう。


「それじゃあ、パンツは黒のレースでノーブラ、それからパジャマは黒いスケスケのベビードールで頼む」

「……さすが忍だ。俺がおとこと認めただけのことはある。迷わず自分の趣向を選択してくるとは……」


 姫と師匠が完全に引いている。え、何で?ごくごく一般的な下着を選んだつもりなんだけど……。ゲームとかアニメとかでも結構いるよね?そういうのを着ているキャラ。


「なら次は下着の次に重要な鎧のデザインに入るわけなんだが」

「はぁ……もうデフォルトのデザインでいいじゃない」


 姫が既にげんなりしてしまっている。でも、できれば俺もオーダーメイドがいいんだけど……。

 しかしその姫の言葉を聞いたジークが驚きの声をあげて否定する。


「デフォルト…だと!?パンツの重要性に引き続きデザインの重要性も理解していないというのか…!仮にセシリアが防御力と耐久力が滅茶苦茶高い防具を手に入れたとする。それがもしバニーガールの衣装だったらどうする!?着れるのか!着てくれるのか!」

「何よその極端な例えは……」

「着てくれるのなら俺が作る!タダで作るぞ!」


 バニーガールの衣装で高い防御力ってそんなさっき言ってたことを全部無視したような防具作れるのか?

 というか、ジーク。目が血走りすぎだ。幼女はどこへ置いてきた……。


「はぁ……あなた幼女が好きなんじゃなかったの?」

「何を馬鹿なことを……幼女が好きだからってじゅく…調子こいてごめんナサイ、どうかその剣を引いてクダサイ、美しきお姉サマ」


 いつの間にかジークの首筋にいつの間にか姫の片手剣が当てられている。

 全く見えなかったんだけど一体何が起こったんだ……まさか抜刀スキル?

 それにしてもジークの奴何って言おうとしたんだ?じゅく……。


「忍」

「ひゃい」

「さっきジークも言っていたでしょう?好奇心、ねこ惨殺する(コロス)って。余計なことを考えないほうが人って長生きできると思うの」

「ひゃい、ボクもそう思イマシュ」


 冷や汗が止まらない。ベルーガと戦ったときより遥かに命の危険を感じる……。

 あれ、今日ってそんなのばっかりじゃないか?


「ま、まぁ待ってくれ。デザインがいい方が愛着持てるし、手入れも頻繁に行うようになるんだ。鍛冶職人の俺が言うんだから間違いない」

「はぁ……分かったわよ。それでどんな感じにするつもりなの?」

「よし、ちょっと描くから待っててくれ」


 そう言ってジークはペンと紙を取り出してさらさらと絵を書いていく。

 うお、滅茶苦茶上手いな…。

 というかこの世界にペンと紙があったことに驚きだ。

 そんなことを考えているとあっという間にできてしまっていた。


「こんな感じでどうだ?」

「おぉ~~~~~!」


 その絵の防具は姫の装備とは対極的に太ももや二の腕を惜しげもなく曝け出したとても扇情的なものだった。腰鎧なんて太ももにかからないほど短い…。

 しかし俺には分かる。それはただエロいだけの鎧じゃない。

 エロい中にも野生的な攻撃性が滲み出ていて、その強烈な個性にどうしようもなく惹かれてしまっていた。

 ジーク……こいつは天才だったのか……!?

 しかし、実に惜しいかな。どうしてもこの絵の中には男の視線を引き付ける最も重要なところが足りていない。

 というわけで、最初の話に戻るわけなのだが……。


「ジーク…お前はまさしく万夫不当ばんぷふとうの天才だ……。しかし、この絵は残念ながらまだ完璧じゃない」

「ほう!この絵を見てまだ俺に意見できるのか。よし、聞こうじゃないか!」

「ここはもうちょっと胸の開いたデザインにした方がいいんじゃないか?」

「なっ、お前も……天才だったのか!?ふむ…それならいっそ胸の部分はチラリズムを刺激するようにこうやってプレートに切れ込みのようなものを入れで肌が隙間から見えるようにするっていうのはどうだ?」

「それイイ!エロ格好いいよ!あとダークエルフといえばやっぱり」

「「へそ出し!!!」」

「「だよな!」」


 俺たちの心は完全にシンクロしていた。もしかするとジークと俺は前世からの心友しんゆうなのかもしれない。心の友(こころのとも)と書いて心友しんゆう……実にいい響きだ。

 横で姫と師匠が呆れた目から諦めた目に変わってしまっているが、今の俺たちにとってその程度のことはほんの些細な問題だ。


「なら後は色だな」

「色?鋼鉄《鋼鉄》で作るなら、ちょっとくすんだ感じの銀色になるんじゃないのか?あれ、でも姫も白っぽい鎧に縁取ふちどりが金色だよな。もしかして好きな色に出来るのか?」

「ああ、ヴェルキリーヘイムには素材アイテムを染めることが出来る染料アイテムっていうのがあるんだ。少し割高になるが、それを使えば好きな色に染められるぞ」

「何だって!?そんな最高にイカしたアイテムがあるってのか!」

「ああ、ちなみに金はいくらあるんだ?」

「えっと、確か……250kあるな」

「ふむ、元々アタッカー用の軽装備は材料費があまりいらないからそれだけあれば足りるぞ」

「まじで!?それじゃあ頼む!」

「あぁ、じゃあ色は……」

あかで!」「黒だな」

「「え?」」


 ここで初めて俺たちの意見が食い違った。


「おいおい、アタッカーといえばエース、エースといえば紅、イージスのエースとして紅は外せないだろう?」

「いやいや、ダークエルフといえばエロ、エロといえば黒、ダークエルフの女として黒は外せないだろう?」


 た、確かに黒は女性の魅力を十二分に引き出す色だ。だから俺は下着を黒にした。

 ゴシックロリータを見ても分かるように、黒という色は女性の色気を最も体現している色ともいえる。(※注 主人公の妄想です)

 ロリータ衣装は確かに可愛い。しかしそれを黒く染めあげることで、少女は天使から小悪魔へと変貌を遂げるのだ。(※注 主人公の妄想です)

 これは決して俺の好みがどうとかいう次元の話ではない。黒が女性の色気を引き立てるというのはもはや世界の真理と言っても過言ではないのである。(※注 主人公の妄想です)

あの世界的に有名なモ○・リザでさえ黒い衣装を纏って、実に女性としての魅力に溢れているじゃないか。(※注 主人公の妄想です)


 しかし、しかしだ。あかだって黒には負けていない。こと色気の面においては勝てなくても、あかは最も攻撃性をつかさどる色であり、またリーダー色として世間一般からも認められてきた色である、しかも3倍そ……。


「どっちでもいいけど、あなたうちのエースじゃないわよ?」

「確かに、前のギルドでも一番の新人だったし、今のギルドでも昨日入ったばかりの新人だな」

「そうね。しかも碌でもない噂が流れているわけだから、今後のあなたの行動如何こうどういかんによってはエースになるどころかギルド全員に大きな迷惑をかけることになるわよ」


 あれ…言われてみると……。俺ってもしかしなくてもギルドに対してとんでもないリスクを背負わせてしまってるってことになるのか…?


「じ、自重します……」

「じゃあ、黒でいいな」

「く、黒でも…できればちょっとあかを入れてもらえたらなぁなんて……」

「仕方が無い。そのくらいは妥協しよう」

「あざっす!」

「それじゃあ、鍛錬に入るから、ちょっと待っていてくれ」


 そういうとジークは自分の防具を変えはじめる。もしかして鍛錬用のステータス上昇効果の付いた制服だろうか?

 一見ただの白いTシャツだが背中には『YES!ロリータ!NO!タッチ!』の文字。さらにダボっとしたカーゴパンツには服が半脱ぎになった幼女のあられもない姿がプリントされている。心なしかその幼女がクリスに似ているような気がするのは気の所為だろうか。さすがに気の所為だと思いたい……。

 装備を着替え終えると、クリスが鍛錬したときと同じように鋼鉄スチールのインゴットと染料素材を取り出し、ハンマーを振り下ろし始める。


「…オイサ!…オイサ!…オイサ!…オイサ!…オイサ!…オイサ!!ハァァァァァッァァ!ソイヤ!ソイヤ!ソイヨ!ソイヨ!ソウヨ!ヨウヨ!ヨウジョ!ヨウジョ!」


 なんて熱い奴なんだ……。しかしジークよ、それは祭りのときの掛け声じゃないのか?しかも途中から全く別の言葉にすり替わってしまっている。

 そしてすり替わった掛け声に合わせてハンマーがインゴットに激しく打ちつけられていく。

 物理的にはどう考えてもありえないが、ジークがハンマーでインゴットを叩くたびに金属は鎧の複雑な形へと姿を変えていく。しかも色付きで。

 そしてまさに先ほどデザインしたのと同じ形の鎧が出来上がってきた。

 こいつはすげーな…。


「ヨウジョ!……完成(ロリ・コンプリート)だ」


 その異様な製作風景に見惚れているうちに鎧が出来上がっていた。ヤバイ…これを俺が着るのか?


「よし、それじゃあ特別に200kでいいぞ」

「やっす!いいのかそれで?」


 頭、シャツ、身体、腕、足で五ヶ所もあるんだけど……。


「確かに安いわね。いいの?赤字にならない?」

「まぁ材料費とトントンくらいだな。だが気にしないで受け取ってくれ。この仕事をはじめてからと言うものの、みんな防御力重視の重装備ばっかり注文するもんだから、露出の多い装備が作りたくてうずうずしてたんだ。ただ、約束してくれないか。次に防具を作りなおすときも俺のところに来てくれ」

「もちろんだとも!」

「よし、じゃあさっそく着てせてくれ」


《『ジークょぅι゛ょ』があなたにトレードを申請しています。承諾しますか?(Y/N)》


 俺はイエスを押して200kを渡して、防具一式を受け取りその場で着替えた。

 ジークの店に置いてある姿見を見るとそこには随分ずいぶんと印象が変わった自分のキャラクターが立っていた。

 新しく作ってもらった防具は黒い眼帯と色合いがすごく合っている。頭は兜と言うよりサークレットという感じで額を守るようなデザインをしており、小手や具足もずいぶんとスリムか感じがする。黒を基調きちょうとしたデザインの中、俺の意見もきちんと組み込まれ、ふちの部分が紅に染まっていたり、紅い文様が組み込まれている。

 そして胸の部分にはいくつもの切れ込みが入り、そこから肌が覗かせており、腰鎧に当たる部分も短く、プレートとプレートの間に大きなスリットが入っていて男性のチラリズムを刺激するデザインになっている。

 一言で言えばとってもエロ格好いい。


「ど、どうかな?」


 何ていうか照れくさい。俺はちょっとうつむき加減で照れながらもみんなに聞いてみた。


「うおおおおおお!!!さすが俺の作品だ!エロい!エロ格好いい!」


 ジークはちょっとはしゃぎすぎだ。しかしこの出来栄えを見ればその気持ちは凄く分かる。


「確かに格好いいことは格好いいんだけど……」

「知り合いと思われるのはちょっと……な」


 酷っ!何その反応!

 助けを求めてジークの方を見てみると、満足げに汗を拭っていた。何かをやり遂げたときのおとこの顔だ。今はそっとしておいてあげよう。


「どんな感じなの?ちょっとステータス見せてもらってもいい?」

「あ、うん、はい」


 システムウィンドウを開いてステータス画面を表示すると、姫と師匠が顔を近づけて覗きこんでくる。いつまで経っても慣れないなこれは。


名前 忍

種族 ダークエルフ

性別 女

職業 ソードマンLv46

 HP 402/402

 SP 442/442

 MP 500/500

 筋力 23

 体力 6

 器用 11

 敏捷 14

 魔力 13

 精神 12

 魅力 5

スキル スキル 両手剣Lv39 剛脚Lv35 気配察知Lv32 ガードインパクトLv42 ターンステップLv35 ダッシュLv38

ストックスキル 回復魔法Lv4

装備

 両手 鋼鉄のグレートソード [攻撃力52耐久240/240必要筋力20]

 頭 スチールサークレット [防御力14耐久度40/40]

 シャツ メッシュシャツ(蜘蛛の銀糸) [防御力4耐久度60/60]

 体 スチールブレストプレート [防御力27耐久度40/40]

 腕 スチールライトガントレット [防御力18耐久度40/40]

 足 スチールライトプレートブーツ [防御力18耐久度40/40]

 マント なし

 リング なし

 リング なし

 イヤリング なし

 ネックレス なし

 ファッションアバター1 海賊の眼帯

所持金 53,342G

貢献ポイント 4254P

所持アイテム

 クレイモア [攻撃力32耐久60/60]×1

 キャンプセット

 下級ヒーリングポーション×10

 解毒ポーション×10

 麻痺消し×10

 眠気覚まし×10

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