第15話 ジーク・ハイル!ジーク・ようじょ!
「ここはもうちょっと胸の開いたデザインにした方がいいんじゃないか?」
「なっ、お前も……天才だったのか!?ふむ…それならいっそ胸の部分はチラリズムを刺激するようにこうやってプレートに切れ込みのようなものを入れで肌が隙間から見えるようにするっていうのはどうだ?」
「それイイ!エロ格好いいよ!あとダークエルフといえばやっぱり」
「「へそ出し!」」
「「だよな!」」
完全に意気投合している俺たちは姫と師匠にドン引きされていた。
なぜこうなったかというと、話は防具専門の鍛冶職人のところへ来たところまで遡る。
「こちらが鍛冶職人のジークよ。名前と頭はおかしいけど腕はそこそこいいわ」
ターゲットしたら分かる。彼は真の漢だ。
「防具専門の鍛冶職人をやっている『ジークょぅι゛ょ』だ。気軽にジークって呼んでくれ」
「よろしく頼むジークょぅι゛ょ。いや、ジーク。俺のことも忍でいい。お前とはいい友達になれそうだ」
俺たちががっちりと握手を交わした。
「何だか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか」
「奇遇ね。私もよ」
何だか職人さんっていい人ばかりだな。もっと偏屈な人が多いのかと思ってたけど、これならもっと自分から関わりに行くべきだったかもしれない。
はぁ……とはいえそれが出来るなら苦労しない。
「それで、どんなものを作って欲しいんだ?」
「うーん、正直防具のことってあんまり分かってないんだよな。素材がよくなれば防御力が上がるってくらいは知ってるんだけど」
「ふむ、ならば講義してやろう」
「うす、お願いします」
「まず、忍がさっき言ったように素材がよくなれば防御力は上がる。しかしそれ以外にも防御力を上げる方法があるんだ」
「ほうほう」
「自分の装備とセシリアの装備を見比べて気づかないか?」
そこで姫がちょっと嫌そうな顔をする。
「何で私を引き合いに出すのよ」
「まぁまぁ」
姫と俺の違い……俺の防具は身体全体を覆っているというより、部分部分を覆っているって感じかな?それに比べて姫の防具は一片の隙間もないくらいガチガチだ。まさに鉄の要塞。本人の潔癖さが良く出ている。つまりそれの意味するところは……。
「俺のほうが露出が多い?」
「エクセレント!!!まさにそこなのだよ!つまり身体を覆っている部分が多いほど防御力が高くなる。確かにセシリア殿の装備は鉄壁だ。俺の自信作だけはある。これはこれで確かにいいのだ。でも!欲を言えば太ももくらいは出してほしかった……」
「そう、そうなんだよ……もったいない、実にもったいないんだ!世界の損失と言ってもいいっ」
「ふっ、さすがだな。そこまで分かっているならもう教えることは…ごふっ!」
「がふっ!」
ひ、姫の拳が俺とジークの無防備な土手っ腹にめり込んで……、こ、コークスクリュー…だと?
「真面目にしないと次は殺意を抑えられる自信がないわ」
「「は、はい…」」
俺とジークは蹲りながら答えた。
明らかに昔より威圧感が増し増しだ……。
「ゴホッゴホッ…はぁ…はぁ…、ま、まぁ話を戻すと、身体を覆う箇所を増やすほど防御力が高くなるんだけど、その代わりに行動にペナルティーがつくようになるんだ」
「ペナルティー?」
「そう、簡単に言えば移動速度や攻撃速度が下がったりする。とはいえ、攻撃速度の減少はたいしたことはない。問題となるのが移動速度の減少だ」
「そんなに下がるのか?」
「ああ、何なら重装備を装備してみるか?」
「いいのか?」
「構わんよ。客に装備ペナルティーを体感してもらうためだけに作った安もんだ」
「そっか、ありがたく試させてもらうよ」
俺はジークから受け取ったブロンズセットを装備した。
姫と同じように全身を金属が覆っている。
「付けた感じは、それほどでもないんだな。もっと重くて疲れるのかと思ってた」
「それはそうよ。確かにゲームは疲れるものでもあるけど、現実と同じように重装備を着ただけで身体が疲労するようなゲームだったらすぐにユーザーが離れていくわ。これはあくまでゲームなのよ」
「なるほどな~。じゃあ、ちょっと外に出て動いてみてもいいか?」
「構わないよ」
俺はジークの店から外に出て剣を振って『ダッシュ』や『ターンステップ』を試してみた。
結論から先に言うとまるでダメだった。
姫が言うにはタンカーにしては動きは早いほうだという話だが、それでもタンカーの域を出ることはない。
ジークは剣の振りには大したペナルティーがないって言っていたけど、それは腕で剣を振る場合に限ってのようだ。
全身をバネのように使いながら剣を振る俺には、物凄いペナルティーが発生していた。
身体を捻りにくいわ、しゃがみにくいわ、剣を翻すときにいちいち間接の動きが鎧に制限されるわ、挙句の果てにダッシュスラッシュがランニングスラッシュになってしまっていた。
それを見ていた姫たちは大爆笑。
こちとら必死なのになんて薄情な奴らなんだ……。
「さっぱりダメでした……」
「くくくっ、みたいだな。ぷぷ…」
「あんまり笑うなよぅ…」
「すまんすまん。動きを見ていて分かったが、防具は間接部分の動きを阻害しないものがいいだろう」
「でもそれだと防御力が低くならない?」
姫の心配ももっともだ。それじゃあ、防具を変える意味がないんじゃないか?
「そこは腕の見せ所だな。多分今しているNPCの店売り防具より防御力が高く、動きやすいものに仕上がると思う。何より量産品とは材料も腕も違うからな。みんなは金属の延性《靱性って聞いたことがないか?」
金属のじんせい……なんだそりゃ?人生なら分かるんだけど……。
「確か靱性っていうのは金属の粘り強さだったような気がする」
やっぱりこんなときは師匠だな。大抵のことは聞けば返ってくる。
「さすがはイージスのブレインと言われているだけのことはある。その通りだ。通常、『焼入れ』した直後の金属は非常に硬い反面粘り強さがなく、大きな衝撃を受けると曲がりもせずに簡単にぱっきりと割れてしまうんだ。しかしその金属をさらに『焼戻し』することによって、硬さは低下してしまうが粘り強さのある金属へと仕上げることができし、そのの際に『焼戻し』の温度によって硬さと粘り強さの配分を決めることもできる。そして鍛冶職人っていうのは金属が簡単に割れてしまわないだけの粘り強さを持った範囲で最大となる硬さを求めるものなんだ。これはこのゲームにおいては防御力と耐久力で表されている。つまり耐久力を下げることによって防御力を上げることができるってわけなんだ」
「なるほどね~。あれにはちゃんと理由があったのね」
え、姫今の話理解できるの?俺には前半ちんぷんかんぷんなんだけど……。
「と、とりあえず最後の部分は分かった!」
「ふむ、それだけ分っていれば十分だ。つまりタンカーのように敵の攻撃を一手に受ける場合は防御力も耐久力も必要になるが、本来であれば敵の攻撃を受けることの少ないアタッカーは耐久力が低くても大丈夫なわけなんだ」
「本来であれば?」
「そう、もしこれがただのゲームだったならな。だがこれはデスゲームだ。忍は耐久力の低い防具に命を預けられるのか?防具が砕けたら間違いなく次の攻撃で死ぬぞ」
「「「…………」」」
誰もが黙り込んでしまった。
確かにその通りだ。ちょっと外に狩りに出るくらいだったらそれでもいい。でも、もし長期戦を強いられるダンジョンがあったとしたら?タフなボスと出会ったら?防具の耐久力と自分のHPを気にしながら戦えるのか?仲間を守れるのか?
姫や師匠にしたってそうだ。そんな装備を俺に薦められるわけがない。
店内を沈黙が支配する。
「すまんすまん、ちょっと脅しすぎた。誰もそんな滅茶苦茶極端な装備なんて薦めるつもりはない。というか、忍がいきなり『なら耐久度10の防具を作ってくれ!』みたいな馬鹿を言い出さないように釘を刺しただけだ」
やっべぇ……防御力と耐久力の話を聞いたときに考えてたよ、そっくりそのまま……。
ジークさんマジ感謝っす……。
「というわけで耐久度を40くらいまで下げてみないかって話なんだけど、どうだろう?」
「どうしようか……ちなみに姫はいくつあるの?」
「200あるわ」
「たっかっ!え?なにそれ?そんなに高いものなの?」
「だって私は敵の攻撃を受けるのが仕事よ」
攻撃を受けるのが仕事……え、なにそれ?どこのお店?ねぇそれどこにいけば客になれるの?ごふぅっ!
気づいたときには姫の拳が俺の腹に突き刺さっていた。
え、本当に重装備なんですか?早すぎて見えなかったんですけど……。
「あなた何か変なことを考えていたでしょう!」
「す、鋭い…」
勘も、攻撃も…。はい、俺は姫の攻撃を受けるのが仕事です……がく…………。
しかし当然のごとくすぐさま叩き起こされる。世の中は無情である。
「馬鹿やってないで早く作ってもらいなさい」
「イエス!マム!じゃあジーク、作ってくれ!」
「すごいな…完璧に躾けが行き届いているのか……。なら作るけど、その前に一番大事なことを決めないと」
「一番大事なこと?防御力と耐久力のことじゃないのか?」
「いや、それはついでみたいなもんだ。一番大事なこと…それは……」
「それは……?」




