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第14話 念願のフレンド登録

 403,342Gか。

 眼帯を買ったからお金がほとんどなくなってしまったのかと思っていたけど、そういえばボス討伐の報酬を結構もらったんだった。


「ちょうど400kくらいあるかな」

「それじゃあ、防具も作りたいから鋼鉄スチールね」

「重量はどうするのでありますか?23で振ることのできる限界いっぱいまで重くするのでありますか?」

「いや、忍の戦い方を見た感じ攻撃速度にペナルティはつかない方がいい。必要筋力20相当の剣がいいと思うぞ」


 さすが師匠、俺のことを俺以上に知っている。……何だかちょっと恥ずかしいじゃないか。

 確か筋力制限ぎりぎりの装備をするとペナルティーが発生して剣速がほんの少しだけ遅くなるんだっけ。さらに必要筋力を越えたものなら装備はできるものの剣が格段に遅くなる。だから普通なら必要筋力内に収まっていれば気にする必要はないんだけど、俺の場合スピードいのちのプレイスタイルだから、剣速が遅くなるほど回避に入るまでの時間が長くなって危険度が増してしまう。

 だから多少武器の性能は下がってしまうが、必要筋力にして3だけ余裕を持たせることで、攻撃速度のペナルティーを全く発生せずに今までと同じように剣を振ることができるらしい。

 ちなみにクレイモアの必要筋力は13だったのでペナルティは全くなかった。


「それじゃあそれでお願いします」

「了解なのであります。それじゃあ材料費込みで200kなのであります」


 200kか。眼帯の半分で買えるんだから安いものだ。


「それじゃあ、おね…」

「高いわね……もう少しから無いの?」


 ええぇぇぇぇぇぇぇぇ。

 姫に言葉を遮られた。

 ま、まさか、値切るの?


「無理を言ったらダメなのであります。それだけ大きな剣を作るとなると材料がいっぱいいるのであります。これでもずいぶんと安く見積もった方なのであります」


だよね。こんなちっちゃい子が頑張って安くしてくれてるんだから、さすがに姫でもここから値切るなんて非道なことは……。


「まぁまぁ、そう言わずに。これからもギルドメンバーが武器を作るときはこちらに送りますから」


え……師匠まで何を?


「そういえば先日価格操作で高騰していた素材をマイスターへは適正価格で卸したことがあったわよね」

「これからも新しい鉱石が手に入ったときはマイスターに優先的に話を持ってこようかと思っているんですよね」

「私たちこれからもマイスターとは長い付き合いをしていきたいって思っているのよ」


 姫と師匠がクリスを両サイドから追い詰めていく。こえぇ…。商売ってこえぇ……。俺には絶対無理だ……。


「わ、分かったのであります。あんまり詰め寄られると怖いのであります。それじゃあ190kでいいのであります」

「あんたら鬼ですか……」


 俺の二人に非難の言葉を投げかけるが、姫のひと睨みでそんな言葉はすぐに退散してしまう。

 おぉ、恐ろしい。心の中でマイスター・クリスに黙祷を捧げておこう……。


「さすがマイスター。だからクリスちゃんのところが好きなのよ」


 そう言って姫が満面の笑みを浮かべる。

 あざといが可愛い。

 でもだからって何をしても許されるわけ……はい、さっきの出来事は完全に頭から消去しました。


「とんだ人たちに目を付けられてしまったのであります……。それじゃあ、ちょっとそこで待っているのであります」


 クリスはため息を付くとインベントリから鋼鉄スチールのインゴットを10個ほど取り出してハンマーで叩き始めた。

 インゴットは見る見るうちに大剣へと形を変えていく。

 これは…でかいな。

 クレイモアは刃の幅は精々《せいぜい》指一本分くらいしかなかったが、これはその倍以上ある……。

 何だこのロマン武器は……、こんな格好いいものが存在していいのか?

 形がほぼ出来上がりクリスが最後に力強くハンマーを振り下ろすと閃光エフェクトを放ち武器が完成した。


「む、スペリオール武器が出来たのであります」

「スペリオール武器?」

「プレイヤーが生産したときに10%くらいの確率で上質な武器ができるのよ。みんなそれをスペリオール武器って呼んでるの」


 姫、解説ありがとうございます!


「なるほどなぁ、それで何が変わるんだ?」

「それはランダムなのであります。今回は……どうやら耐久力が20%上がっているみたいなのであります」

「いいじゃない」

「よかったな」


二人から祝福の言葉を贈られる。でもこれって……。


「ええっと、これってタダでいいのか?」

「もちろんお店で販売する場合はお金を余分に取るのであります。でも製作依頼の場合はスペリオール武器が出来ればタダでおめでとう、できなくても文句を言うなでやっているのであります」

「なるほどな。ならありがとうだな」

「おめでとうなのであります。では、トレードするのであります」


《『クリス』があなたにトレードを申請しています。承諾しますか?(Y/N)》


 もちろんイエスで190kを渡して、武器を受け取る。


《『クリス』から『鋼鉄のグレートソード[攻撃力52耐久240/240必要筋力20]』を受け取った》


「つよ!ボスのドロップより強いんですけど!耐久も240もあるし……」

「ボスのドロップ?」


 クリスが首を傾げる。


「昨日ベルーガを狩ったらユニークアイテムの片手剣をドロップしたのよ。確か攻撃力45の片手剣だったかしら、素材は確かその武器と一緒で鋼鉄スチールだったはずよ」

鋼鉄スチールの片手剣で攻撃力45はチートなのであります」

「そうよね……マイスターにシルバーで作ってもらった私の片手剣でさえ攻撃力41なわけだし」


シルバーって確か鋼鉄スチールよりワンランク上の素材だったよな。それでも41くらいなんだ。


「え、じゃあこのグレートソードってチート級を越えてるってことなのか?」


それってすごくね?今日から俺もチーター(チート使い)デビューか?

しかしそんな俺の妄想はクリスによってあっさり覆されることとなる。


「両手剣でその重量なら普通なのであります」

「そうなのか?」

「ヴァルキリーヘイムでは盾を持てるかどうかで受けるダメージがそれこそ倍くらい変わってくるからな。だからそれだけ両手武器の攻撃力が高くても愛用している人は少ない」

「でも盾の防御力って受けるダメージが倍も変わるほど高くなかったような……」

「装備品自体の数値はな。しかしそれに盾スキルの補正がかかって、さらに補助魔法の中には盾のみを強化する防御魔法がある。その上両手武器と違って、右手で攻撃しながらも左手で守ることができるわけだから結果的にそれくらい変わって来るものなんだ」

「なるほどなぁ。じゃあこれをもう一本作ってくれないか?」


「「「は?」」」


「何言ってるの?馬鹿なの?死ぬの?」


「い、いや、ほら俺いつもクレイモア11本を簡単に使い切っちゃうからさ」

「それなら大丈夫なのであります。素材が鋼鉄スチールになってさらに重量も増えたおかげで、店売りのアイアン武器に比べたら耐久度の減少は格段に下がりにくくなるのであります」

「そ、そうなの?」

「店売りの量産品は修理費が滅茶苦茶安いけど、耐久度の減りも早いのよ。それに攻撃力が大幅に上がってると思うから、その分少ない攻撃回数で敵を倒せるしね。だからそのクレイモアは予備に一本残してあとは全部マイスターに売っちゃいなさい」

「買い取ってインゴットにするのであります」

「えっと、あ、はい、お願いします」


 10本40kで買い取ってもらうことができた。

 さらばクレイモアよ。そしてこんにちはグレートソード。

 ためしにグレートソードを振ってみる。


「はっ!せいっ!せいっ!たぁっ!クロススラッシュ!」


 袈裟懸け!切り払い!切り払い!袈裟懸け!切り払いからの兜割り!

 うん、悪くない。いや、悪くないどころじゃない。細身の女キャラが巨大な大剣を軽々と振り回すなんて最高の組み合わせじゃないか!


「馬鹿なのでありますか!ひとの店の中でスキルを使うななのであります!」


 クリスが両手を振り上げて怒りをあらわにしている。お、無表情が崩れた。

 ちっちゃい子が怒ってるのは姫と違って可愛いなぁ…じゃなくて!


「ご、ごめんなさい!一応スキルは使ってないんだけど……」

「今のでシステムアシストがかかっていなかったのでありますか……。噂は伊達じゃないのであります……」


 それにしても惚れ惚れする出来できだ。剣を振ったら怒られるので色々とポーズを取ってみる。やばい、マジ惚れる。

 あぁ…なんで録画機能が使えないんだ……。デスゲームの馬鹿野郎…運営の馬鹿野郎……。


「あんたは最高の鍛冶職人だ。マイスタークリス!」

「いきなり大声を出してびっくりするのであります。突然何なのでありますか?」

「細身の身体で大剣を振り回すなんてのはおとこのロマンだ!あんたはヴァルキリーヘイム(いち)のマイスターだ!」

「そ、そんなことは眼帯のおねーさんに言われなくても分かっているのでありますよ!」


 頬を赤くして照れている。やっぱり子供だなぁ。褒められて照れるなんて可愛すぎるぜ!


「確かに俺の眼帯は他にるいを見ないほど個性的で格好いいけど、俺のことは忍でいいぜ。マイスタークリス」

「分かったのであります。『眼帯のおねーさん』」


 分かってねーじゃん……。あっ、しかもまた無表情に戻った。


「仕方がないから次に武器を新調するときも来るのであります。私が作ってやるのであります」

「おう!」

「それじゃあ、フレンド登録するのであります」

「フレンド登録?……ああ!フレンド登録な!」


《『クリス』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?(Y/N)》


 イエス!


 フレンドリストを開くとそこにはクリスの名前があった。

 俺はきっと初めてフレンドリストが機能したこの瞬間を永遠に忘れないことだろう……。


「眼帯のおねーさんは何を泣いているのでありますか?」

「多分初めてのフレンド登録だったのよ。あいつずっとぼっちだったから」


 そうだ。よくよく思い返してみればギルドに入ってフレンドになった人がいっぱいいるじゃないか!


「姫!師匠!フレンド登録しよう!」

「ギルドメンバーには既にフレンドと同じ機能がついてきてるのに、登録する意味がないじゃない」


 そうなのだ。ギルドメンバーはフレンドリストに登録していなくても、プライベートトーク(携帯電話のようなもので相手がどこにいても通じる会話機能)が使用可能なのだ。


 でも!それでもだ!


「まぁまぁ、いいじゃないか。俺たちで少しでも忍のフレンドリストを埋めてやろう」

「はぁ……仕方がないわね」


《『セシリア』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?(Y/N)》

《『晶』があなたにフレンド申請をしています。承諾しますか?(Y/N)》


 イエス!イエス!!!イエス!イエス!イエス!イエーーーーーーーース!


「今日はデスゲームが始まって以来最高の一日だ……」

「ほら、馬鹿言ってないで次いくわよ」


 姫に無理やり手を引っ張られる。だから俺のパーソナルスペースは3メートルはあると……。しかも綺麗な女性が相手になると5メートルに拡大するわけで……ぞわぞわ!

 あれ、そういえばいつの間にか完全に二日酔いが治ってるな。


「クスッ、また来るのであります。眼帯のおねーさん」

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