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第13話 マイスター・クリス

 次の日俺は酷いバットステータスに苦しめられていた。

 二日酔いである。

 リアルでもほとんどお酒なんて飲んだことなかったから加減が分からなかった。

 というかこんなときこそ極意(笑)……おぇ……今は無理だ……。


「ほら、しっかりしなさい」


 姫が水を持ってきてくれる。というか……。


「何でそんなに元気なんだ…俺より飲んでいたのに」

「あなたの体力が低すぎるのよ」

「こんなところにまでステータスの弊害へいがいが…開発者め…」

「しっかりしなさい。外で晶も待ってるわよ」

「えっと…なんで?」

「呆れた……それも憶えていないのね。昨日あなたの装備を見繕いに行くって言ってたでしょう?」

「え…でも、これ以上いい装備なんて売ってないんだけど」

「どれだけNPCのお店を心酔してるのよ……、プレイヤーの作った装備に比べたら店売り装備なんてお金がないときの繋ぎでしかないのよ?」

「ああ、そうか。普通は職人プレイヤーに装備を作ってもらえるんだ」

「ほら、理解できたならもう行くわよ」


 手を引っ張られて無理やりベッドから起こされる。


「わっとっと…うぅ…きもぢわるい……」


 気持ち悪さが上回っているせいか俺のパーソナルスペースは発動しない…しかしそれ以上に吐きそうだ…。

 姫に引きずられながらも外で出ると師匠が待ってくれていた。


「酷い顔だな……、やはりどれだけ外見を弄ろうが、中身が伴わないとこうなるのか……」

「うぅ…師匠酷い……」


今の俺ってそんなに酷い顔をしているのか。


「まずはどこに行こうかしら」

「最初は武器がいいと思う。ボス戦で忍を見ていたが、剣がかなり破損していた」

「武器はクレイモアだっけ?店売りのアイアン装備は確か耐久度60だったわね」

「うん」

「あの戦いで何本折れたんだ?」

「えっと…、2本折れて残り一本も折れかけ」

「一体どんな使い方をすればそんなに折れるのよ……」

「与えるダメージは武器の攻撃力とインパクト時の攻撃速度によって決まっているはずだ。そしてそれに比例して武器の耐久度も落ちていく。忍の場合一発一発が普通の人に比べてかなり重い上、攻撃回数が異常に多い。だから剣が磨り減るのも早いんだろう」

「というか一体何本武器持ってるのよ?」

「11本……」

「「はぁ…………」」


 二人が呆れたような目で見てくる。何だろう。ものすごいデジャブだ。


「そういえば武器を選ぶなら筋力の必要制限を越えないものにしないとね。筋力はいくつあるの?」

「23です」

「全振り?」

「うん」

「「はぁ…………」」


 うぅ…一体にどうしろと……。


「とりあえず向こうにいってから決めましょう」

「はい……」


 俺は二人の為すがまま姫たちの知り合いがいるという武器職人さんのお店にへと向かった。

 中に入ると可愛らしいフェアリーの店員さんが出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは、リース。マイスターはいるかしら?」

「はい、セシリア様が来たら奥へお通しするようにとのお言葉を預かっています」

「そう、じゃあ案内して」

「かしこまりました」


 フェアリーが羽を羽ばたかせながらひょろひょろと飛んでいく。今のってもしかしてプレイヤーなのだろうか?


「マイスター。セシリア様たちがいらっしゃいました」


 フェアリーに案内されたのはまさに剣を作り出すための鍛治場で、そこには少し背の低いノームの女の子がいた。


「セシリアさん、晶さん、待っていたのであります」


 無表情だがとっても可愛らしい。もし俺にもこんな妹がいたらもうちょっとリアル人生頑張れたかも……。


「こんにちは、こっちが今日のお客さんの忍よ。で、こちらがウェポンマイスターのクリスちゃん」

「は、初めまして」


 二日酔いが覚めてきた所為か調子が戻ってきた。だから小さいとはいえ女の子、そして基本的に初対面の女の子に自己紹介をする俺はカチコチである。


「もっと怖い人なのかと思っていましたが、ずいぶんと色っぽいおねーさんなのであります」

「だよな!だよな!俺もこのアバター気に入っているんだよ。やっぱり女は色気がないとな!」


 外見を褒められ思わずテンションがマックスに振り切れた。

 あ……れ……もしかしてやらかした?なんでみんなジト目?


「初対面の人にいきなり自分を全否定されたのであります……」


 いや、確かに目の前の少女に色気があるかと聞かれたらとても口には出せないけど、これはこれでいいんじゃないかな?


「あんた前からそんなにスケベだったっけ?」

「はぁ……少しは人間的に成長したのかと思ったら、成長したのはゲームの腕とスケベ心だけとは」

「ぐはッ」


 否定できないだけに心に突き刺さる……。

 でもみんな。もうちょっと俺に優しくしてもばちは当たらないんじゃないかな……。


「まぁいいのであります。それでどんな武器を作って欲しいのでありますか?」

「えっとね、まずはきんりょ…」「仲間を守るための剣を作ってください!」


 あれ、今姫の言葉を遮っちゃった?

 え、何この沈黙?


「忍」


 ひぃぃぃ、姫の後ろの龍が見える!


「は、はい…」

「今大事な話をして入るところだから黙ってなさい」

「はい…」


 俺はがっくりと項垂れた。


 それを見て無表情だったクリスが少しだけ表情を和らげて笑った。


「ふふ、気にしないのであります。でも眼帯のおねーさんは、剣でどうやって仲間を守るのでありますか?」

「…………」


 姫をじっと見つめる。しゃべっていいのかな?いいよね?許可してください。

 きっと今の俺はチワワのように愛らしい瞳をしているに違いない。


「ちょっと、さすがに気持ち悪いからその目はやめなさい。はぁ…もう答えていいわよ」


 気持ち悪いって……でも、本来の予定とはちょっと違ったけど何とか許可が下りた。


「ええっと、俺まだこの世界ではほとんどPT組んだことがないから間違ってるかもしれないんだけど、雑魚相手にはダメージによるヘイト蓄積とノックバックが役に立つと思うんだ。あと防御スキルに『ガードインパクト』っていう敵の攻撃とこっちの攻撃をぶつけ合って、ダメージの差分を押し負けたほうが食らうっていうのがあるんだ。これを範囲攻撃にぶつけたら俺以外の人が食らうダメージも下げることができるみたいなんだよ。だからできればそれを最大限に利用できるような武器が欲しいんだ」

「忍、それじゃあガードインパクトは『あなたの攻撃ダメージ』が『敵の攻撃ダメージ』を上回ったら自分はノーダメージで、さらに上回った分だけ敵にダメージを与えることができるってこと?」

「ああ、ただ敵の攻撃にタイミング合わせて武器や魔法を正確に切りつける必要があるし、結構武器の耐久度が減るんだ」

「なるほど、攻撃力の高いアタッカーならではのスキルってわけなのね」

「では攻撃力と耐久力を上げたうえで、重量を重くして欲しいってことなのでありますか?」


 クリスがこっちを見て人差しで口元に触れ、首を傾げる。天然なのか計算なのか……だが可愛いものは可愛い。可愛いは正義だって昔の偉い人も言ってた。


「それって全部じゃない。そんな武器できるの?」

「重量を上げずに攻撃力と耐久力を上げるのはとても難しいのであります。反対に、重量を上げて攻撃力と耐久力を上げるのはシステム的に簡単なのであります。でも眼帯のおねーさん、そんな細腕で重い武器を振り回せるのでありますか?」


 坦々《たんたん》と説明しつつも表情を変えない。本当に無表情な子だなぁ。しゃべり方も独特だしロールプレイなのだろうか?


「この馬鹿筋力極振りで23もあるから、重量はかなりいけるはずよ」

「23……とんだ馬鹿力ばかぢからなのであります。じゃあ、材料は何にするのでありますか?」

「忍、手持ちはいくらあるの?」

「ちょっと待って……」


 俺はシステムウィンドウを操作して所持金を確認した。

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