第10話 ボス・ベルーガ決着
「ロングダッシュスラアアァァァァァッシュ!」
俺はすぐさまダッシュスラッシュで斬り込んで戦線への復帰を果たした。
そこからさらに身体で∞の字を描くように動いていく。
これぞ某ボクシング漫画のデ○プシーロールを見て編み出した技。
「我流奥義!インフィニティスラァァァァァッシュ!!!」
右上から左下へと袈裟懸けに斬りつけた剣を遠心力を利用して弧を描くように左上に振りかぶり、それを右下へと斬り払い再び遠心力を利用して流れるように右上に剣を振りかぶる。
インフィニティスラッシュとはこれを繰り返すことで秘剣風車ほどではないが高いダメージ効率を叩き出すことができる対ボスモンスター専用に編み出した技だ。
しかもスキルを利用しないため、SPが減ることはない。
「おらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁぁ!」
ボスのHPがついに四分の一に突入した。
「グオオオオオオオオオ!!!」
ボスが雄たけびをあげてこちらに振り返る。
どうやらタゲを俺に変えたらしい。
曲刀がこっちに向かって襲い掛かってくる。
しかし、俺はこれでも元闘技場常連者。
そんな大振りな攻撃なんて食らうわけがない!
「ターンスラッシュ!はぁ!たぁ!ターンステップ!おらっ!おらっ!」
『ターンステップ』で敵の攻撃を流れるように回避しながら通常攻撃で確実にダメージを積み上げていく。
「ははっ!そんな攻撃当たらないぜ!お前の強さはそんなものなのかよ!はっ!せいっ!おお、今の動きリプレイものだろ!」
リプレイとは自分の戦っている姿を第三者視点から撮影して後で見ることができる機能のことで、ヴァルキリーヘイムにも本来はあるはずだが、ログアウトできない所為か今は使うことができない。
ボスも避け続ける俺を見て通常攻撃では埒が明かないと判断したのか曲刀を大きく振りかぶった。
「範囲攻撃来るぜ!『ガードインパクト!』」
ボスの斬撃に合わせる。タイミングばっちりだ。
パリン!
また武器が壊れた。それにまた吹っ飛ばされた。
「『エクストラヒール!』」
しかしすぐに仲間からヒールが飛んでくる。
さすが精鋭だけあって対応が早い。宙を舞ってる間にもうHP全回だ。
「後は任せなさい。『こっちよ!』」
姫が『挑発』を使って再びボスの狙いを引き付ける。
俺もすぐに予備の武器を装備して戦線に復帰。
後ろからコンボに次ぐコンボでガリガリとボスのHPを削っていく。
そしてついにボスのHPが残り1割ほどに差し掛かった。
「ウォォォオオオオオオオッッッッ!!!!」
再びボスがどす黒いオーラを纏い雄たけびをあげてこちらに振り返ってくる。
どうやらまた俺がタゲをとってしまったらしい。
範囲攻撃か?
そう思っていたらボスが曲刀を振り上げた。
どうやら魔法攻撃ではないようだ。
物理系の範囲攻撃なのか?
「ガードインパクト!」
俺はボスの攻撃に合わせてスキルを繰り出す。
しかし俺の斬撃ではボスの繰り出す斬撃に耐え切ることができず、地面に叩きつけられるかのように下へと弾き飛ばされた。
「かはっ!」
HPが一気に四分の一へと突入する。
さらにボスの振り下ろした曲刀から発せられた衝撃波が地面を抉りながらこちらへ向かってくるのが見えた。
「「「『エクストラヒール!』」」」
3人のヒーラーから回復魔法が飛んでくる。
HPは完全に回復したが、俺はまだバウンド中でとても迎撃できそうにない。
目前に迫る攻撃を防ぐ術は俺には、ない。
俺はあの攻撃に耐えられるのだろうか?
いや、多分無理だろう。
単体攻撃に比べ威力が低いとされている範囲攻撃ですらガードインパクトで防いだ上であれだけダメージを受けたんだ。
ならボスのこの決め技のような単体攻撃が直撃したら……多分俺のキャラクターは耐えられない。
ここで……死ぬのか?
「『ダイアウルフを生贄に捧げる!サクリファイス!』」
俺の身体に半透明の狼が重なり、唸り声をあげる。これは一体……?
ボスの放った衝撃波は俺の身体をすり抜け、狼の幻影だけを吹き飛ばして消えていった。
助かった……のか?
「一体の召喚を犠牲にして一度だけ対象者を攻撃から守る召喚スキルだ。言っただろう?お前は俺たちが守るって」
この声は……。
「師匠!」
「ほら、まだ姫が戦っている。仕上げて来い!」
「はい!」
ボスは既に姫の『挑発』によって後ろを向いている。もうHPも残り僅かだ。
俺の中の最高威力のスキルで決着をつけよう。
念のため武器を予備の武器に交換し、ボスとの距離を取る。
そこからボスまで一直線に『ダッシュ』を発動させて走り込む。そして『ダッシュ』の勢いを維持したまま『ターンステップ』の回転力を利用して剣を大きく振りかぶる。
「一刀両断!『アースリッパァァアアアアアア!』」
両手剣の剣技スキル『アースリッパー』は、一刀の下敵を袈裟懸けに切り裂く高威力のスキルだ。もちろん技後硬直と再利用時間が発生するため反撃を食らう可能性があるときには使えない。
『ダッシュ』と『ターンステップ』のシステムアシストによって勢いに乗った俺の身体が剣技スキル『アースリッパー』のシステムアシストを受けてさらに加速する。
「斬り裂けええええええええええ!!!!」
クレイモアがボスを袈裟懸けに断ち切り、そのまま地面を切裂いて大地に深い傷跡を残した。これが『アースリッパー』と言われる所以……らしい。
ボスは『アースリッパー』のダメージに耐え切ることができず、残りわずかだったHPゲージが消滅し、光の柱となって消えていった。
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』を倒した》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からユニークアイテム『断鎧のシャムシール』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からユニークアイテム『リザードベルーガの皮』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からユニークアイテム『海賊の眼帯』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』からレアアイテム『生命のネックレス』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』から魔法スクロール『ハイドロエクスプロージョン』を手に入れた》
《忍はリザードマンジェネラル『ベルーガ』から198,373Gを手に入れた》
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐に参加したメンバー全員に貢献度100ポイントが送られます》
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐に参加したメンバー全員に『リザードマン討伐隊』の称号が送られます》
《リザードマンジェネラル『ベルーガ』討伐のMVPである『忍』には貢献度500ポイントが送られます》
システムログにボスのドロップが流れる。
このログはPTを組んでいる他の五人全員に流れるようになっていて、こっそり着服するといった行為はまずできないようになっている。
とは言え、PT全員がグルだったり、バレているの覚悟で持ち逃げする人も中にはいるらしい。
それにしてもすごい数のドロップだ……。しかもどれもレアっぽい。
これがボス狩りなのか。本当に凄かった。
そう思いながらインベントリを覗いていると、姫がニコニコと笑顔で近づいてきた。
あぁ、昔は何の役にも立てなかったけど、ようやくみんなの役に立てた。
ははっ、もしかしなくても褒めてもらえたりなんかしちゃったりして。
「この!馬鹿!」




