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6 「夜景の見えるホテルでディナー」

 「ホテルでディナー、夜景の見えるホテルでディナー」

 さっきから彼女は上機嫌に繰り返している。

 彼女の旦那はあまりこういうところに連れてこなかったのか?

「なにいってるの。来たことないのは遼クンでしょう。私はいっぱい連れてきてもらったわよ。彼、すごく優しいんだから」

 何故俺はここでノロケを聞かなくてはいけないんだろうか。艦長、教えてください。

 

「でもねぇ、遠距離恋愛を10年も続けたのよ」

 そいつは凄い。

「だから普通に会社帰りのデートっていうのにあこがれてたなぁ。会社の帰りに待ち合わせて、っていうの一度もなかったもんね」

 そんなもんですかね。一介の学生にはわかりません。

「ふふふ、遼クンは相変わらずね。……ま、いいか、お願い事、何もかも叶ってしまったら却って面白くないかもね。さ、行こう」

 もう俺は彼女に腕を組まれるのにも慣れてしまった。

 

 初めて入った高そうなホテルだった。絨毯がふかふかして歩きにくいこと、この上ない。

「何か負け惜しみ考えてるでしょ、うふふ」

 艦長、やっぱりこの女は妖怪サトリです。

 

 ホテルでディナー、はさすがにおいしかった。フォークは外側から使っていけばいいのよねぇ、なんて彼女がつぶやいてくれたから、マナーにまごつくこともなかった。

 

 肉料理の皿が下がり、後はデザートだけとなったとき、彼女がおもむろに切り出した。

「ねぇ、さっきの指輪はめてくれない?」

 紙袋を差し出される。

 

 いやいや、ソレはさすがにまずいでしょう。

「これが最後のお願い。ね?」

 彼女は、ビクターの犬のようにこちらを見ている。

「これが終わったら種明かしするから……」

「……本当だな?」

 艦長、降参です……。

 

「きちんと祐子って呼んでね」

 悪魔が微笑んでいるような気がした。

 

 

 レストラン中が俺に注目しているような、そんな錯覚をおぼえた。非常に居心地の悪い時間だった。もう二度とこんなことはごめんだ。

 その元凶はニコニコしながら、左手を本当にうれしそうに眺めている。アイスクリームがとろけそうだ。

 そんなにうれしいもんかね、と心で毒を吐きながら、俺はデザートを平らげた。

 

「うれしいわよ、やっと、彼氏が選んでくれた指輪をはめてもらえたんだもん」

「ハイハイ、それじゃ、種明かしといこうか」

「相変わらずムードないなぁ。待って、食べ終わるから」

 苦笑いしながら、嫌味のように彼女はゆっくりゆっくりスプーンを口に運んでいた。

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