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4 オバサンなんて呼ばせないもん

 百貨店を出て通りを歩いているとき、俺の腕に手を絡ませながら、彼女が言った。

「これでちょっとは似合いのカップルに見えるようになったかな?」

 

 本気かオバサン? いったい何を考えているんだ?!

 心の中で突っ込んだ時、すかさず彼女がこう言った。

「今、遼クン、本気かオバサンって考えたでしょう!?」

 艦長、わかりました。コイツは妖怪サトリです!

 

「ペナルティー! 今から私のこと、祐子って呼ぶこと!」

「はぁあああ?!」

 俺は鼻から息を吹き出した。エクトプラズムも出たかもしれん……。

「嫌ならユウチャンでもいいけどぉ?」

 オバサンなんて呼ばせないもん、とブツブツ言っている。

「……祐子さん……」

 俺は必死に声を絞り出す。血液が逆流しそうだ。

「だめー、祐子チャンって呼んでみて?」

「…………祐子……」

「ふふーん、ヨクデキマシタ」

 俺は彼女の顔を見ることができなかった。

 

 駅前のコインロッカーに俺の愛用衣料の入った紙袋を入れて、俺たちは電車に乗り込んだ。

 今や気分は矢沢永吉だ。マイクでもタオルでも振り回せそうだった。

 

 だめだ、こんなことでは。すっかり彼女に主導権をとられてしまっている。冷静にならなくては。いつもの俺を取り戻すんだ。

 

「ところでどこに行くんだ?」

 この女、東京初めての割には迷いがないよな。

「神田の古本屋街」

 即答したな?

「こんな格好で、行くのは古本屋街?」

「うん。おいしい焼き林檎を出してくれるロシア料理があるのよね? お腹空いたでしょ、お昼にしましょうよ」

 

 確かに焼き林檎を出してくれるロシア料理の店はある。俺も一度行ったことがある。おいしかった。俺は林檎が大好きなんだ。でも、どうしてこの女が知っているんだ?

 

「その後はどうする?」

「んー、ぶらぶら冷やかしながら見て回りましょうよ。お勧めのお店教えてね」

「アンタ、俺が神田に詳しいってどうして知ってるんだ? それに東京は初めてじゃなかったのか? やけに詳しいじゃないか」

「アンタじゃなくって、祐子よ。ユウコ。呼んでみて?」

「……」

 

 はぐらかしたな。

 警戒レベルがイエローゾーンに突入したのを感じながら、俺はだまり込みを決め込んだ。

 

 

「焼き林檎屋さんってどこにあるの?」

「アンタが知ってるんじゃないのか?」

 艦長、焼き林檎屋じゃなくてロシア料理のお店です。焼き林檎は食後のデザートです。それにこの女、自分の行きたいところの場所も知らないのに、俺を誘っています!

 

「アンタじゃなくて祐子よ。今度アンタって呼んだらペナルティね。それから私、お店があることは知ってるけど、場所は知らないわよ。私、方向音痴だもん。連れてってくれるのは遼クンのお仕事デス」

 

 平常心を取り戻すのにしばらく間が空いた。

「……ロシア料理の店には連れていけるが」

「さっすが遼クン! さ、早く行きましょう。お腹空いちゃった」

 そう言って微笑む女の顔を何故か見られず、俺は目を反らしてしまった。

 

 何故俺はこの女の言うことをきいているんだろう。

 洋服を買ってもらったからか?

 もともと欲しくも何ともなかった洋服だけど。

 

 親戚で年上だからか?

 顔も知らない他人同然の付き合いしかなかったけど。

 

 親友でも知らないような俺のことを知っていたからか? 

 確かに気味は悪い、謎解きはしたい。

 

 でもどうして俺は今ここにいる? 気味が悪いような女につきあって?

 面白がっていたはずなのに、俺の心のなかに他の理由があるようで、なぜか深く突っ込んで考えるのが怖かった。

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