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第6話 「それはそうと、私の立ち位置はどうすればいい?」

 かすかに聴こえた耳鳴りの後、急に世界が静かになった。

 自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえ、息苦しく感じる。

「音が消えた?」

 と、言った私の声は聞こえる。漣にも通じているようだ。

「魔法でこの部屋と外との空気の振動を遮断したんだ。流石にまだ手の込んだ偽装はできないから、手短に済まそう」

 やはり、この男はあの短時間で魔法の何たるかを理解してしまったようだ。

「多分梨緒も使えると思うんだけどね。そうなると梨緒を狙うやつが現れかねないから、あの水晶も破壊しといた。これはオフレコだけどね」

 わざとか。

「さて、僕の魔力は多分桁外れだ。魔王がどの程度のものかは知らないが、別にこの国から生きて逃げ出すことくらいはできるだろう」

 ああ、確かに聞かれるわけには行かない内容だ。

「ちなみに、梨緒には魔力が見える?」

 尋ねられたが、何のことか分からないので首を横に振った。

「そうか。僕はこっちに来たときから、魔力が目に見えるようになってるんだ。梨緒は金色に淡く輝いて見える」

 ほう。自分ではさっぱりわからないが、私はそんなオーラを纏った存在なのか。

「漣は?」

 私が見る限りでは相変わらずのキラキラ美少女男だ。ある意味少女漫画的なオーラを幻視することはあるが。

「こっちにきてからまだ鏡を見てないけど、どうも銀色みたいだね。ただ、思ったとおりに色が変わる。フェルナンドが言ってた何物にもなる、って言うことなんだろうね」

 言いながら、こともなげに掌から炎を出す漣。

「便利なもんだな。攻撃魔法とかも撃てるのか?」

 やはり、ファンタジー異世界に来たらファイアボールとか光の剣とか使いたい。

「問題は無いと思う。ちょっと加減ができるかわからないけど。ここで試すわけにも行かないし」

 もっともだ。それこそ、ロクレアが飛んでくるだろう。

「とにかく、あんまり騒がれても煩いし、暫くは魔法は使えないことにしておく。でも、これでなんとか梨緒を護れそうだ……安心した?」

 そういって、私の頬に手を滑らせる。

「ん。別に心配はしていない」

 私一人だったなら、パニックに陥って大変だったかもしれないが、漣がいる限りは大丈夫だ。そう確信して言える。私がどんな状況になったって、常識はずれな力で救ってくれるだろう。

「よかった。いきなりこんな所に飛ばされてきたからね。それだけが僕の心配だった」

 頭の後ろに手が回り、くい、と引き寄せられた。抗わず、漣の胸元に身を預ける。いつもの彼の香りがして、自然と口元が緩んだ。

「あんまり音を消しっぱなしにすると怪しまれそうだし、そろそろ戻すね」

 彼が芝居がかった動作で指輪鳴らすと、一気に雑音が押し寄せてきた。

「案外、日々の喧騒ってのは気付かないものだね。こうやって消し去ってみて、はじめて意識できる」

 呟いた漣に、小さく頷く。なんだかんだで疲れた。先ほど『仮眠』をとったので眠気こそ無いものの、身体がだるい。もしかすると、世界間の移動で身体に負担がかかっているのかもしれない。

 とっとと夕食にありつき、お風呂で汗を流して休みたいものだ。そういえば、この世界に温浴の習慣はあるのだろうか。

「今夜は一緒に寝ようね、梨緒」

 あ、ベッド一つしかないのか……。多分召還されてくるのは一人だと思ってたんだろうな。私はオマケかついでなんだろう。これからはどういうポジションで扱われるのだろうか。フェルナンドには男だと思われているようだし、勇者の従者扱いだろうか。

「やっぱり夜も音消そうか。梨緒の可愛い声を他人に聞かせるなんてもってのほかだしね。まあ、壁一枚となりに他人がいるのに……ってのも燃えるかもしれないけどねぇ。梨緒はどう思う?」

 何を妄想してクネクネしているのかは知らないが、とてもロクレアには見せられない姿だ。倫理的にも教育的にも、彼女の感情的にも。

「それはそうと、私の立ち位置はどうすればいい?」

 先に聞いておかないと、勝手に話を進められそうだしな。

「今のところは僕と同郷の剣士、ってことにしておこうか。そうすれば無理に引き離されることは無いだろうし。突っ込まれてもスキル上問題ないしね」

 私の数少ない誇れる要素が、剣術の腕だ。祖父に仕込まれた『道』でない剣術は、自慢じゃあないがエモノを持って人に負けることは無いと自負している。

「竹刀も木刀も無いけどな」

 調達しようにも、こちらの世界では西洋剣メインな予感がする。

「大丈夫。ちょっと待って」

 漣がそう言って目を閉じると、彼の胸元の空間がぼう、と光を帯びる。まばゆい光は徐々に金属光沢を帯び、さらに別の光が絡みつくように舞い踊る。

 珍しく眉間にしわを寄せて集中している様子の彼に、私も声をかけるのが躊躇われた。

「よし、あとは固定……と」

 おおよそ一分ほどの集中だっただろうか。漣が腕を振ると、一振りの太刀が現れた。

「銘安綱附糸巻太刀。一度見た限りだから、切れ味はパチモンだけどね。拵えはお菓子のオマケを参考に。使い難かったらカスタマイズできるよ」

 そういって渡された太刀はずっしりと私の手に馴染んだ。しかしこの銘、どこかできいたことがあるような……。

「ん? 安綱……? 童子斬!?」

 思わず鼻息が出てしまった。源頼光が酒呑童子を成敗した名刀。罪人の死体六体を両断し、台座をも傷つけたという凶刃。

「まあ、イメージだよ。魔物を斬るならそれくらい箔の付いた刀の方がいいかと思って」

 誇らしげに解説する恋人を尻目に、私は童子斬レプリカを抱きしめてソファに寝転がった。今夜はこいつと寝よう。


 いい夢が見られそうだ。

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