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第4話 「仰るとおりです」

「これはまた……見事だね」

 漣の言葉に、私も無言で頷く。

「偶像崇拝と宗教美術の過渡期くらいなんだろうね」

 大広間の壁には巨大な絵画がかけられ、その周囲をレリーフが囲んでいる。

 そう言えば、私たちが見慣れた絵画などは、経年劣化して色が変わってしまっているものが多いと聞いたことがある。

 今私の前にあるのは、恐らく極最近信仰と共に製作された『新作』だ。

 何とも鮮やかな色彩の中で、主神らしき男が天から降臨する様が描かれていた。

「彼がフォウンフォーブ?」

 絵から目を離さず、漣が呟く。

「左様でございます。我らが父にして、福音をもたらす救世の神。病める者を癒し、奢るものを嗜める。光の神です」

 心なしか、フェルナンドの口調が固い。神の御前では口調も改まると言うことか。

 そうこうしているうちに人が広間に揃い、私たちはそれぞれ、会議室のような机に向かって腰をおろした。

「レン様は戸惑われていないようですな。過去、同様にこのファウナの地にもたらされた勇者は、皆最初は戸惑い、時には塞ぎ込んだと伝え聞いておりますが」

 そりゃあ、突然知らない世界に召還されて、勇者だなんだともてはやされ、死地に放り込まれれば戸惑いもするだろう。私だって一人ならそうなるに違いない。

「いや、充分に戸惑っていますよ。ただ、今騒いだところで僕の運命が変わるわけではない。それよりも、折角の機会なのであなた方の知ることを僕に教えてください。その内容次第では、僕にできる限りのことをさせていただきます」

 そうか、漣も戸惑ってるのか。でも、そんなそぶりがまったく見えない辺り流石だ。

「それでは、どの道我々はレン様方には辛いお願いをせねばならぬのです。すべて、お話いたしましょう……」

 そして、フェルナンドが語った話を、私の頭で理解できるレベルまで噛み砕くとこうだ。

 この世界は、最初混沌の中より生まれた。その煮えくり返った万物のごった煮の中から、一粒の泡が膨らみはじける。その中から生まれたのが、フォウンフォーブ。

 そして、彼はファウナに一つの大陸を作った。それがこのファウナ。世界の果てには海があり、海の外には原初の混沌が広がっている。

 言わば海ごと混沌に浮かんでいるこの大陸に、沁み込んで湧き出した混沌の一部、それが魔族と呼ばれている。


「それで、一定周期に一度、その言わば『混沌溜り』の中から魔王が生まれる、と?」

 あ、話続いてたんだ……。何回か時間旅行した気がする。未来向きの一方通行だが。

「左様。混沌はその名の如く秩序を持ちません。秩序の徒たる我々の宿敵と言えます」

 フェルナンドが、経典らしき本を指差しながら答える。角で叩いたら人のひとりや二人殺せそうな分厚さだ。

「まあ、なんとなくわかってるんですけど、僕らの前にも勇者として呼ばれた人たちが居たんですよね?」

 漣が頬杖をついて尋ねる。

「そうです。染み出した混沌を退けるため、フォウンフォーブ様はこの世界の外側から戦士を召し寄せるのです」

 まあ、よく聞く話だが、普通は神の声が聞こえたりしないんだろうか。あれじゃあ召還ってより拉致だと思うが。

「しかし、僕らみたいに呼ばれた連中が皆あなた方を助けるために無償で戦うとも思えないんですが……」

 漣がちくりと棘を忍ばせて呟く。

「いずれの折にも、勇者は託宣の巫女と恋におち、彼女を通してこの世界を愛し、戦いに旅立ったと記されております」

 フェルナンドの隣で話を見守っていたロクレアが俯いた。心なしか頬が赤らんでいるが、今回は巫女の方が恋におちてしまっているようだ。いいのか? フェルナンド。色仕掛けで勇者を手なずけるテは使えなさそうだぞ。

「なるほど。それは結構。そして魔王を倒した暁には、勇者は巫女と結ばれ、末永く幸せに過ごしましたとさ、ですか?」


「仰るとおりです」


「……なるほど、よくわかりました。ところでもう一つ、召還された勇者たちは皆屈強な戦士だったんでしょうか? あまり腕力には自身が無いんですが」

 一つ深呼吸をして、漣が話題を変えた。

「いえいえ。勇者として招かれた者には、フォウンフォーブ様から加護を授かります。ある者は鋼を叩き斬る剣の素養を、ある者は風の如く野を駆ける脚を、そしてある者は砦をも吹き飛ばす魔力を。何れも、戦いの中で磨けば更なる光を放ち、やがて世界を変える力になったと伝えられています。レン様に与えられた能力も、この後お調べいたしましょう。」

 なるほど、チート性能ってやつか。しかし、漣の場合はもともとが規格外だし、そうそう真っ当なチートでは目立たぬだろう。それにしても、笑いながら魔法で砦を吹き飛ばす恋人のイメージが頭から離れない……。

「梨緒、何か失礼なことを考えてない?」

 おっと、こいつは人の心も読めるのか? それは知らなかった。

「君の瞳は正直すぎます。誰でも読める」


 思わず目を閉じてやった。

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