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第20話 「お帰りなさいませ!!」

 帰還した私たちは、一躍ヒーローとなっていた。

 神殿の連中はともかく、近隣住民たちが総出で出迎えてくれたのはちょっと、いやかなりびっくりだ。

 沿道にんだ観衆は、感嘆と好奇の目がおおよそ半々だった。そりゃ、四人で魔物退治して無傷で帰還、となればなかなかの偉業なのかもしれないけど……うちの彼氏様はともかく、一般小市民の私はちょっと気後れする。

「大丈夫。にっこり笑ってればいいから」

 王子様スマイルを浮かべた漣に促され、口角を吊り上げる……うう、釣りそう。


 そんなこんなで神殿に逃げ込んだ私。ああ、恥ずかしい。

「お帰りなさいませ!!」

 こちらではロクレアが飛び出すように出迎えてくれた。怪我は無いかとか、魔物はどんなだったかとか、色々と質問が飛び出してくる。

「土産話は後ほどゆっくりと。まずはフェルナンド殿に報告をしたいね」

 やんわりと興奮したロクレアを押し留め、漣。

 歩きながらも、ロクレアは落ち着きが無い。会ってまだ1週間少しだというのに、この男の中毒症状が出ている気がする。

「ロクレア、おーい」

 一応、熱に浮かされた様子の彼女に話しかけてみるが、クールダウンする様子は無し。「勇者様ラブ」と両目に映りこんで見える。「もとの世界」で同じ病を発症した少女たちを幾人も見てきたが、こうなったらおしまいだ。処置なし。この男に手を出してはいけない。ダメ。ゼッタイ。

「人を薬物か何かみたいな目で見るのをやめてほしいな」

 当人は不本意そうにこちらに視線を投げる。私も、思考を読まれるのは不本意だよ。


 くるくると辺りを走り回るロクレアをなだめながら、フェルナンドの執務室へ。重厚な木の扉を開けると、想像していたよりも狭目の部屋に、総主教が待っていた。

「お疲れ様でございましたな。ケイロムの話では、さしたる苦労もなく魔物を退けられたとか……」

 好々爺然とした様子で、応接用だろう高そうなソファに通される。

「苦労なく、というわけには行きませんでしたが、なんとか怪我もなく戻ってくることが出来ました。あれが魔物なのですね。興味深いです」

 帰途に散々瓶の中を眺めていた漣だ。もう魔物という存在の一面くらいは解き明かしているかもしれない。

「歴代の勇者様方も、最初の戦いは苦戦され、その経験は長らく悪夢となって彼らを苦しめたといいます」

 そりゃあ、私も漣が居なかったら同じだろうなあ。いや、漣が居なければ私は召還されて無いか。

「ところで、先ほど国よりお二人に招待状が参りましてな」

 フェルナンドは言いながら、蝋封された手紙を差し出した。文字、読めるかなぁ。

「失礼します」

 蓮が受け取り、慣れた手つきで封を破いた。私蝋封なんて初めて見たよ。

「ああ、文字も読めるな。梨緒も見て御覧」

 そう言って見せられた文面は、見たことの無い文字の羅列であったが、不思議とその意味するところが頭に浮かんできた。この能力が元の世界に戻っても残ってたら、語学関係は随分楽になるんだろうけどな。

 ちなみに、内容は私たちの戦勝を祝うものと、王宮にて勇者のお披露目も兼ねた夜会を行うから出席して欲しい、というものだった。

「面倒だな」

 小声が漏れてしまった。

「王宮、というと、あの筋肉達磨みたいなのも居るんでしょうね」

 漣も眉間にしわを寄せて尋ねる。

「軍部上層の人間は皆貴族でございますゆえ、邂逅は避けられぬでしょうな」

 フェルナンドも困ったように答える。ああ、こうなるのであればもう少し友好的にしておくべきだったか?

「ごめん。私がもう少し堪えていれば、関係が悪化することはなかったかもしれない」

 小僧呼ばわりに腹が立ったなんて今更言えないが、大人な対応だったとは言いがたい。

「いや、梨緒がやってなければ僕が殺ってた。梨緒は悪くないよ」

 おーい、ちょっと漢字がまずい字だったような気がしますよ、恋人様?

「蝋印も王城正規のもの。辞退は難しいでしょう。遅かれ早かれ御身の立場からすれば訪れなければいけない場所。我々も同行いたしますゆえ…」

 フェルナンドが少し申し訳なさそうに言った。やはり、神殿と国の関係は一枚岩ではないようだ。

「ええ。僕は構いません。正装は用意していただけるんでしょう?」

 正装……漣の御貴族様的正装……。うん、王子様にしかなりえない。

「もちろんです。それに、お二方には魔物討伐の報奨金もございますゆえ」

 そう言えば、馬車の中でケイロムが言ってたな。天災のような魔物に対抗する者には、国から報奨金が出るということだ。それで生活する賞金稼ぎのような人たちも居るそうだし、額は結構あるのかもしれない。

「それも国から出る以上、行かないわけにもいかないな」

 私も腹を決める。腹の探りあいみたいなドロドロは漣に任せて、私は護衛として黙ってればいいや。報奨金入ったら服を買い揃えたいな。流石にジャージと制服だけの着まわしは無理があるし、何より下着が……。

 そんなこんなで、私たちの最初の冒険は終った。しかし、私の想像通り、王宮は荒野などよりもよほど有象無象が跳梁跋扈する魔窟だったのだ。

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