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第19話 「ゆうしゃ様!」

前話投稿から、随分と間が空いてしまいました。

また、お付き合いいただければ幸いです。

 獣型の魔物を倒した私たちは、しばらくの休息の後、事後処理に乗り出した。

「染みこんだ魔物の体液は長い時間をかけて大地を腐らせます。とりあえず大元は私が浄化しますが、他は地元の神官に任せましょう」

 ケイロムが杖を構え、祈りの言葉を呟く。

「なるほど。先ほどまでの魔法とは構成が若干違うんだね」

 何かが見えている漣は興味深そうに顎をさすっていたが、私に見えているのは太陽のような暖かな光が黒い染みに降り注ぎ、徐々に薄まっていく様だった。

 やがて、砕けた岩から穢れが一掃されると、ケイロムは額の汗をぬぐった。かなり疲れてるみたいだな。

「手間をかけて済まない。こうなるとわかっていれば、もう少し一点に固めたんだが……」

 私が派手に立ち回ったものだから、黒い液体はこの渓谷一体に飛び散ってしまっている。これを同じように処理して回るのは手間だ。

「いえ。普通の戦い方をすれば、損害はこの比ではありませんよ。むしろ、誰も傷ついていないことが奇跡です。いい土産話ができました」

 神官は満面の笑顔で言う。まあ、事前の話と比べればね。軍隊が出て行って死人が出て、という話よりはあっさりした幕切れだったと言えるだろう。

「さて、これで帰れるのかな?」

 漣がくるりと重そうな杖を回転させると、それは空中に溶け込むように消え去った。絶対隠れて練習した動きだ。


 そうして、私たちは避難民たちの集落を解放し、帰路に着く。

 元の暮らしに戻っていいと知った村人たちの喜びは、歓声になって私たちに届いた。


「ゆうしゃ様!」

 小さな娘が漣と私を見上げ、花が咲いたように笑った。可愛い。


「まものをたいじしてくれて、ありがとう!」

 あ、まずいな。

「当たり前のことをしただけだよ。元気でね」

 ぽん、と赤毛の髪を撫でてやると、目を細めた娘が答えた。

「はいっ!」

 これ、はまりそう。


「その顔は、『勇者も満更じゃない』……かな?」

 馬車の中、穏やかに微笑んだ漣が尋ねてくる。

「さっきのは、ちょっといいな」

 討伐も終わったため、リラックスしきった私たちは馬車の中に毛布を広げ、転がっている。両手に頭を乗せ、足をブラブラとさせる漣は反則的に可愛すぎて、思わず撫で回そうと出る腕を抑えるのに苦労する。

「梨緒も好きだもんね。ああいうの」

 そう。私と彼の共通点がヒーロー好きだということ。好きな作品こそ違うものの、コンセプトというか、とにかく紋切り型の正義に弱い。

「……」

 ごろん、と漣の横に転がり、小声で呟く。

「思う壺かも知れないけど、死なない程度に勇者様するのもいいと思った」

 この世界の思うとおりに動くのは癪だけど。

「梨緒がそれでいいなら」

 予想通りの言葉に、少し不安になる。いつもそうだ。私が決めたら、彼は反対せずに助けてくれる。

「漣はそれでいいの?」

 幾度目かの問い。私は彼を束縛している。

「それがいいの」

 ばちんっ、と音がしそうなウィンクを投げて寄越す。ああ、またこうやって私を甘やかす。

「・・・・・・マゾ」

 思わず、照れ隠しに罵倒した。ごめんなさいと心の中で謝罪して。

「梨緒にだったら叩かれたり縛られたりもいいかもなぁ」

 前言撤回。クネクネする変態を、手始めに蹴っといた。


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