7幕 食べる=生きる
更新遅れてゴメンナサイっ!
これからも更新ペース遅れそうですがどうかご勘弁!
それはさておき、物語の舞台は国の南へ。
起床。
窓の外を見る。
日は昇っていないものの、東の空が朱に染まっている。
ソファの上で体を起こす。
ベッドではアリーネがすぅすぅと寝息を立てていた。
……昨夜も思ったことだが、何でダブルベッドなんだろうな?
宿の人が俺達を見てどう思ったか、シングル二つの部屋ではなく、このバカでかいベッドの部屋に通されたのである。
おかげで、ベッドの譲り合いに5時間もかけてしまった。
「…っ…腰痛ぁ…」
低反発のソファなら良かったな、と思いつつ背中を叩く。
…気分転換に、外でも歩くか。
アリーネに向けて書置きを残し、シャワールームで着替えて、宿を出る。
今日は9月19日。 半日かけて来たのはアルベダ国の南に位置する街、ヤナケ。
治安の良さで有名な街だそうだ。
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総勢人口4千万人、アルベダ国。
中央に王城を持ち、東西南北に4つの街を並べている、この世界でも有数の大国だそうだ。
その南を占めるのがここヤナケ。
唯一海に面しているこの街の朝は、なんだか潮の匂いが鼻につく。
が、嫌いじゃない。
(俺北出身だったから、あんま泳ぐ事多くなかったんだよなぁ…)
自分の故郷を思い出す。
…雪だの寒気だのの影響を受けやすい地域だったから、こっちの環境の良さはいささか体に優しいな。
そんな事を思いながら街を歩く。
海に面しているというだけあって、魚介類をウリにしている店が多いようだ。
商店街に来る。
イタリアっぽい街並が朝陽で徐々に明るんでいく。
まだ早朝という事で人影は無い。
さて、これからどうした物かと思ったその瞬間。
――――ズキィィィイイイッ!
「なっ――」
脳に激痛が走る。
視界がゆらゆらと揺れ、やがて黒に染まった。
口に蹉跌と土の味。どうやら顔面から地面に伏したようだ。
立ち上がろうにも四肢に力が入らない。
何だコレ…。
ヤベ、意識が…。
最近こんなんばっかだな、と思いながら、意識は沈む。
そして…。
「ねー大丈夫ー?」
頭上から声が聞こえる。
ぼんやりとした頭に通るその声は、女性らしいハスキーなモノだった。
アリーネ…じゃねぇな…。
一体誰…?
「ねーねー大丈夫ー? ねーねー」
返事をしようにも、舌が回らない。
くそ、せめて顔が見れれば頷くかなんかで意思疎通はできるのに…。
「起きろってんでしょうがっ!!」
ガスンッ!
あ、頭からしちゃいけない音がぁぁぁああああああっ!
蹴りを入れられたらしい。
その反動で自分の顔が上を向く。
空には既に日が昇っていた。
通行人が訝しげに此方を見ている。カーチャンあれなぁに? 見ちゃいけません! 的な。
そして俺の後頭部を蹴っ飛ばしたのは…。
「ったく…返事くらいしなさいよね…」
「できねぇんだよっ…!?」
「…? アンタホント大丈夫? あ、もしかして私がタイキックをかましたからかしら…?」
「きっとその所為ですねぇっ!
アンタ人の頭に何殺人級の技放ってんだよ! 死ぬわ!」
「ふむふむ…そうなると、何かお詫びをしなきゃいけなくなるわね…」
顎に手を当てて、思慮深く呟く女性。
黒髪のセミロング。どこかボーイッシュさを醸しだす快活な表情。
だけど体のラインは完全に育ち盛りっていうか、その…ええいけしからん! な感じで。
どこかつかみ所の無いような、不思議な女性。
…もしかして、面倒な事になってないか?
「あーっと…ホント、心配してくれてアリガトな!
じゃ、コレで!」
愛想笑いを浮かべて、急速クイックターン。
そして全力でその場を去ろうとして。
ガシッ、と。
襟首を掴まれた。
「おじさんとおばさんの教えも守らなきゃだし…」
「オ、オネエサン?」
「そうね、アンタ、ちょっとウチで飯でも食っていきなさい!
なに、御代はいらないわ! これも何かの縁なんだし」
それは構わない。というか嬉しい。
しかし、こんなにも力強く俺を引き止めなくてもいいんじゃないかなぁ?
言葉だけならさぞふわふわした状況のように見えるが、実際は猟師が兎を仕留めるソレと全く同じだ。
女性は笑顔を浮かべる。
冷や汗を掻く。
「そうと決まったら、早速行くわよ我が店に!」
「ギャーー! 痛い痛い首痛い窒息するぅっ!」
「全は急げ、ね…。よし、もっと強く引っ張ろう」
「冗談抜きで死ぬわ! っていうかどこ行くんだ!」
「そんなの、決まってるじゃない」
女性は俺をズリズリと引っ張りながら、随分明るくなった街並を闊歩する。
そして、どうどうと宣言した。
「私の、ヤナケ定食屋よっ!」
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「うめぇっ!!」
「ふふーん。恐れいったか!?」
「明らかに三下セリフです本当にありがとうございます」
「…ケンカ売ってる?」
「キャー! ゴメンナサイゴメンナサイ体の全身から変な汁が出るまで謝るんでその黄金の右足はお控え候!」
いや、まぁ、旨かったけどさ。
俺が引っ張り込まれたのは商店街をいくつかの通りを挟んで離れたとある店。
まぁ、有り体に言うと、定食屋である。
少し錆びれた内装に幾つかのテーブル。
その一つに俺と女性は向かい合うように座っている。
因みに彼女が作ったと言う料理はここらへんの魚介類を丼からこぼれるほどに使った海鮮丼。
新鮮な魚介類の脂がお米の上で絶妙なハーモニーを醸しだす素晴らしい一品だったとさ。
茶を啜り、ほっと一息。
女性は満足そうに笑い、自己紹介。
「私はスピナル。この店の看板娘よ」
「…それって自分で言う事じゃない…っあぁそうです若くてお美しい看板娘さんですホントだから足を振り上げないで!」
「んで、貴方どこから来たの?
見たところ、この街の者じゃなそうだけど…」
「中央からの旅人さ。世界を巡る旅をしてる」
まぁ、だいたい合ってる。
というか一々詳細に説明してたらキリがないし、何より俺が勇者だっていうのは内密だ。
断片的な内容で十分だ。
現にスピナルは納得のいったように頷いた。
「まだ若いのにねぇ…立派なモンだわ」
「…その発言は自分が若くないみたいな…いえ、ほんの戯言ですのでお構い無くっ!」
「あらそう」
そう言っていつの間にか握られた包丁を下ろす。
…次にボロ出したら殺されかねない。
背中に感じる冷や汗を抑える為に話題転換。
「ス、スピナルは1人で店を切り盛りしてんのか?」
「そうよ。毎日大変でねー」
「何でまた…」
スピナルは目線を俺からその頭上の壁に向ける。
俺も其方を見る。
そこにあったのは、額縁に入った書写。
『食う者拒まず、食わぬ者在らず!』
「私を拾ってくれた、おじさんとおばさんの口癖」
スピナルは懐かしむように話し出す。
見惚れるほど、柔和な表情だった。
「ちょうど二年前、かしら。
戦争によってボロボロになったとある街から生き延びた超可愛くて美しい子がいたの」
「……」
「(シャキンッ)」
「まだ何も言ってない!」
「…まぁいいわ。
その子はもう死にたい、って思ってたのよ。
何たって、3週間は何も口にしてなかったからねぇ。流石に胃が捩れるわ」
「…3週間、誰とも会わなかったのか?」
「会ったわよ。頭蓋骨丸見えのガリガリの死体となら」
ゾッとした。
スピナルは続ける。
「何も出来ないまま、その場に倒れてね。
で、もう死ぬんだって悟った、その時だった」
カラカラと、馬車のタイヤが地を弾く音。
それは紛れも無い、希望だった。
「その馬車に乗って物資を届けに来たのが、当時このヤナケ定食屋を切り盛りしてたおじさんとおばさん。
本当に凄いのよね。
戦時中の最前線で、吹き飛んだ街にごはんを届けに来るのよ?
生きてる人がいるかも分からないのに、体一つ張って、二人は来たの」
その時、生きていたのは少女だけだったそうだ。
夫婦が少女を目にしたのは、小さな廃屋の中。
差し出された手に、少女は物凄い剣幕でそれを振り解いたらしい。
疑心暗鬼で、何も信じられなくて。
ただ、蹲る事しか、出来なかったのだ。
でも。
「おじさんとおばさんは、強引に手を取って、言うのよ。
『いいから食え! 話はそれからだ!』
呆然したわよ。いきなり馬車に連れ出されて、パンやらスープやら胃に収めさせられて。
もはや拷問だったわ。胃が爆発して世界中に消化中の肉を撒き散らすんじゃないかってくらい。
で、出されたもの全部食べて、二人は笑うの。
『美味かったか?』って。
少女は泣いたわ。
泣いて、泣いて、泣いて。ありがとうと頭を下げて。
そして、身寄りの無い少女は、二人の国のヤナケという街に連れて来られました、とさ」
「……」
「…どしたの、黙って」
「いや…」
イイハナシダナー。
本当に良い話すぎて、感極まってしまった。
食のありがたみ、食べられる物がある幸せ。
そこにある平凡の大切さを、教えられた気がした。
スピナルには悟られないように目頭を拭う。
スピナルはニコッと笑みを浮かべ、そして自分に人差し指を向ける。
「その超絶ビューティフォーでパーフェクトな少女こそ、この店の看板娘の私、スピナルなのよッ!」
「気付いてますけどッ!?」
「何ですって!? その理解力、貴方賢者か何かなの…?」
「賢者馬鹿にしてんのか!? いや賢者の友達はいないけど!」
「まーまー、落ち着いて。お茶でも入れてあげるから」
「物で釣れるのはガキだけだッ!」
5分後。
「茶うめぇ…」
「最高級の茶葉使ってるからね。さぞ美味いでしょうよ」
あー癒される…。
日本人だもん、緑茶がいいよ、やっぱり。
紅茶とか洒落た物はなんつーか体に合わん。
っていうか、こっち日本茶あるのか。もう完璧異世界じゃない気がしてきた。
一息つき、もう一口お茶を含んだ瞬間、スピナルが喋る。
「おじさんもおばさんも、3ヶ月前に死んじゃったけどね」
「ブッッ!!」
盛大に茶を吹く俺、イン・ザ・飲食店。
実際に公衆の面前でやったら張り倒されるだろうな。
咽る俺にスピナルがタオルをよこしてくれる。
それで顔を拭き、困惑するスピナルの方を向く。
「ど、どうしたのよ…」
「タイミング考えろや! 一段落した瞬間に急にシリアス持って来られても!」
「あらそう、ごめんあそばせ」
「反省の色無し!? っていうかお前仮にも…!」
バタンッ!
店の扉が開き、俺もスピナルも其方を向く。
そこには一人のスーツの男性。
イカツイ面提げてドシドシと店内に足を踏み入れる。
…何だコイツ。ただの客じゃない、よな…。
つか、似たような奴見た事ある気が…。
「いい加減にしてくれや、スピナルちゃんよぉ…」
「あら、ちゃん付けなんてしなくたっていいのよ? 呼び捨てでも構わないわ」
「冗談じゃねぇんだ。もう結構払ってないだろ?
そろそろ本当に払ってくれないと、兄貴も動かざるを得ない。
その前に事を済ませたい。金を払うだけでいいんだ」
「そんなお金無いわよ。この店の現状見れば分かるでしょう?」
二人が親しげ…いや、間にバリアを張りながら、それでも必死にコミュニケーションをとってる感じ。
スピナルの知り合いか?
完全俺置いてけぼりの図である。
男は明らかに苛立ちながら、テーブルに手を置く。
「……どうしたんだよ、一体…。
あれ以来、本当にやる気が無いみたいだな、お前…」
「それがどうしたのよ。いいから帰って。
これから店を開けるんだから」
「そういうわけにもいかん。
すまないが、連れて行くぞ。
事情を聞きだすまで、楼月館にお前を閉じ込める」
そう言って、男がスピナルの肩に手を伸ばす、が。
その手が止まるのは紛れも無く、俺が間に入り、男の腕を掴んだからだ。
男は訝しげに此方を見る。
「何だ貴様…邪魔をする…な…ガハッ!」
有無を言わさず、その腹に拳を叩き込む。
そのまま肘、裏拳、回し蹴りと技を重ねていく。
校内ケンカランキング一位だ、舐めて貰っちゃ困る。
こう見えても結構やんちゃな青年ですぜ、俺は。
殴りながら、言葉も乗せる。
「邪魔をしたのはアンタだろう? せっかく人が気持ちよく食事してたってのに。
そして何より、女性に何も言わずに手をかけるのはちょっとマナーがなってねぇんじゃねぇか?」
上段2段、踵落とし、両拳。
体勢の低くなってきた男に、止めの回し蹴り。
いつの間にか店外に出ていた俺と男、後ろにはスピナル。
回りには幾人かの見物客。見世物じゃないんだがな。
まぁ、大通りから外れているとはいえ、商店の並ぶ通りだ。通行人もいるだろう。
人ごみの中央に男が大きく吹っ飛び、仰向けに倒れる。
…最近思うんだが、俺…。
と。
カチャッ。
「え?」
こめかみに、ズッシリした感触。
ハイ、どう見ても拳銃です。
それを構えるのはまたしてもスーツの男。
…よく見たら、総勢二十数人のスーツに俺は囲まれていた。
え?
「テメェ、ちょっと来て貰おうか」
「え?w」
「笑うんじゃねぇ。ぶっ放すぞ。
テメェら! コイツ運ぶぞ!」
『ういーっす!』
拳銃を構える男は周りのスーツに命令する。
どうやらコイツは他の奴より格上らしい。
え?
「連れてくって、俺、いずこへ?」
「? テメェ、俺達が誰だか分からねぇのか?
泣く子も黙る、楼月組だぞ?」
どうも、フィアです。
本当に更新遅れて申し訳ないです…。
物語を考えて考えている内に、時間はどんどん過ぎていって。
気付けば2週間。時が経つのって早いねっ! アホか俺は…。
今回の話でもフラグをばら撒いてます。
ここら辺のはすぐ回収しますけどね。
因みに今回出てきた“ケンカランキング”ですが、ネル君は俺の別作品の設定の、第一位、という事です。
本来コイツはそっちで出るはずだったんですけど…まさか主人公に昇格するとは…。
ここ数ヶ月そっちの更新は止まってますが、何時か再始動させたいです。