眠りネズミと幼いユスリカ
虫とか、少しグロめなので、ご注意ください。
「どうしようもなく、眠いの」
ひとり言のように呟く。
目をしぱしぱ瞬きさせ、くあ、とあくびを一つする。
あくび姿萌え~、と言うのは二次元だけです。
「授業中は眠いよねー」
なんて、目の前の友達は笑うけど、この眠たさは尋常じゃない。ましてやたかだかいつもの眠たさと同一化するなんて!
それにしても、こんなに眠たいのは初めて。
数学と生物以外、全部の授業で爆睡。挙句の果てにはちょっと涎でた。ちょっと出ちゃった。
一学期の私なら寝たとしても一つか、二つの授業程度。それが五つになるなんて……! 絶対、見つかってる。呆れられている。ああもう評価は絶対最低だ。
高校生にとって、内申書は脅威だ。推薦入試が受けれるか否かもこれ次第。
そう言えば、中学生のときに先生が内申書の評価を盾に生徒を脅してたなぁ。なんて。くだらない。たかだか中学ぐらいなら、いい成績さえ取っとけばなんとかなる。まぁ、脅してた先生が音楽の先生だったんで、そこは質が悪いなぁ。と思う。
と言うか、話がずれている。
私は眠たいの。
私は眠たいの!
眠りたい。あー、眠りたいっ!
授業時間も、休み時間も寝た。それでも眠たい。眠りたい。
「眠たいの…………」
「じゃあ、もう寝ちゃえば? 私、部活の打ち合わせ行ってくるし」
昼休みまで、部活の打ち合わせ? ごくろうさまです、私には到底できません。
そのまま友達は教室を出て行った。
私は自分の机の上に突っ伏した。
寝よう、寝ちゃおう。授業始まったら誰か起こして。
カリカリと、音がする。
何かを削るような音。
自分の下から聞こえたので、頭を上げてみると、机の表面がえぐれていた。
うわ、なんで。これってもしかしなくても私が弁償パターンですか?
ってか、誰もいないし。
教室の中には誰もいない。私だけ。
夕暮れの教室、紅い陽光をあびて一人机に突っ伏して寝ている少女。
なーんて、言うとなんか青春ドラマって感じ? きっとこれからボーイミーツガール? ガールミーツボーイ?
阿保らしい。
んなことあるわけない。
実際の状況を素直に言ってみよう。
放課後の教室で、爆睡しているバカ一人。誰にも起こされずに、のんきに寝ちゃって…………。教室内というか、校舎内にも人の気配はない。ひあ、明日には私絶対に笑い物。
それにしても、よく寝たはずなのに全然まだ眠い。
もー、何これ。
いらいらする、いらいらする。なんでこんなに眠たいの! 睡魔に打ち勝てなかった自分にもむかつく。
がじがじと私は指をかむ。骨がちょうどいい固さで、前歯が削られるのが分かる。
今の私は眠りネズミ。
長い尻尾があちこちの机に当たるのが気になる。
きぃ、と小さなネズミが教室の至る所にいる。ちろちろ動き回る様子が愛おしい。
ネズミがぐるぐる私の周りを回る、回る。
「私は、眠たいの。眠りたいの。家に帰って眠りたいの……」
ネズミが足をすくおうとする。待って、待って。せめて鞄。
鞄にいろいろ詰め込んで、もういいですよ。仰せのままに。ネズミたち。
とは言え、私もネズミだけど。
「ちゅう」
なんて、鳴いてみたり。
ネズミたちに連れて行かれた先は屋上だった。
なんか、扉破壊されてる。鉄製の扉破壊されてる!
ネズミたちは私を屋上に向かってぐいぐいと押し出そうとする。
痛い痛い。引っかかってる、鉄のとこ。
結局無理やり感あふれる感じで屋上に放り投げられた。女の子なのに。ああ、男女平等社会ですか。
屋上。
いつもは立ち入り禁止のそこは、なんだか特別な感じがした。真っ赤に染まった屋上はそれだけで青春ドラマ感がある。
けれど、そこに立つのは青春ドラマに登場するような女子高校生ではない。
ただの一匹の眠りネズミ。
そして幼いユスリカ。
えー。
えぇー。
ユスリカの幼虫。
赤くてうねうね。ミミズっぽい。確か釣りの生餌だっけ。
しかも大きい。
私の大きさと同じぐらい。
ちなみに私はネズミと言っても十分大きい。人と同じぐらい。
さてさてうねうね。
ああ、眠い。
眠い、眠たい。寝たい、寝たい。
眠いのに、寝たいのに。家に帰ってふかふかの布団にくるまって寝たいのに。
幼虫のせいで、寝れないの?
私は無性に腹が立つ。がじがじと指をかむ。左手の人差し指がお気に入り。
幼いユスリカは、ぐねぐねと気持ちの悪い動きでのたうちまわっている。丸まったり、かと思うと伸びたり。口を開閉しながら動くのは気味が悪い。クラスの女子なら五秒で悲鳴を上げるだろう。
普通のネズミは気持ち悪い、とか考えるのだろうか?
兎に角、眠りネズミにはそんな感覚はなかった。
気持ち悪い? どーでもいい。
私はボールペンを迷わずユスリカの幼虫の頭部へ突き刺す。ぶつりとユスリカの中にボールペンが入る。けれど、ボールペンの長さは全然足りない。
ならばと私は給水塔の方へ登るための梯子を取り外し、ユスリカの頭部、さらに貫通して床にのめりこむ。眠りネズミの力で、こんなことができるとは思わなかった。
「生物の解剖やったなー。唾腺染色体だっけ……」
記憶が曖昧。ネズミだもん。
頭から数えて五節目らへんを左手で持つ。右手はもう少し尻尾らへん。うん、これでまっすぐ。剥がしやすい。
「せぇーの…………」
思い切り引っ張ると、ぷつりと皮が切れて大量の透明な赤い液体が出てきた。さらさらめな感じ。すぐに幼いユスリカは動かなくなった。
「あーあ」
私の眠気は少しだけましになった。
それでも私は眠りネズミなのだ。
初めて挿絵をつけてみた。
玖月です。
適当感あふれるネズミ。ネーズーミー。
眠いのは、玖月自身です。眠くて仕方ないから小説書いた。
とりあえず……、寝ます。
それでは。