日傘をさしていただけなのに婚約破棄されてしまいました。〜なんだかんだでハッピーエンド〜
ある晴れの日のこと、日傘をさして歩いていたところ婚約者ガオーンが目の前から歩いてきて。
「お前、何だそれ。日傘さすとか。……うっわ、あり得ねぇ。いきりかよ。あー、ないわぁ。かっこつけてやんの」
そんな悪意あることを言ってきたうえ。
「ま、いいわ。お前との婚約は、今この時をもって破棄、な! 絶対だ。何があっても絶対! 絶対! 絶対! もう決めたからな!」
身勝手極まりない宣言までしてきた。
「……本気で言っているの?」
「もっちろん!」
「どうして。急すぎるわ、あり得ない。一体何を言っているのよ」
「日傘さす女とかダサいんだよ!」
「……それが婚約破棄の理由?」
「そーだよ! それが理由! 全部全部全部、お前が悪いんだ! くっだらねーぇ、セレブ気取りしてっから!」
一体、何を言っているの?
私には理解できなかった。
日傘をさすなんて普通のことなのに、それを理由に婚約破棄だなんて、そんな話は聞いたことがない。
「それは正当な婚約破棄の理由にはならないわ」
「俺が決めたら絶対なんだよ!」
「そう……では、後ほど改めて、親も挟んできちんと話し合いましょう」
するとガオーンは急に挙動不審になり「は、はぁ!? なんだそれ! 親を出してくるとか卑怯だぞ!? 卑怯だ! そんなやり方!」などと喚き出す。
「婚約破棄したいのでしょう? ならば話し合いは必要よね」
「ま、待て! 卑怯者! 魔女か! 最低だなお前!」
その後、互いの両親も交えて話し合いの場が設けられ、正式に婚約破棄となった。
向こうの両親は「そんなつもりはない」と言っていたけれど、こちらの親が「いい加減な形で婚約破棄するなどと言い出す人に娘は託せない」と言い、話し合った結果婚約は破棄とすることが決まったのだった。
ただし、ガオーン側に非があった、という形での婚約破棄である。
正式に婚約しておきながら、身勝手な理由で婚約破棄などと言い出した。そんな人を信頼して共に生きていくことはできない。
……この婚約破棄の原因を作ったのはガオーンである、ということだ。
そのため、慰謝料を支払ってもらうこともでき、私の経歴に傷がつくことはなかった。
ガオーンは最後まで謝らなかった。ただ、彼の両親は謝ってくれた。なのでひとまずそれで話は終えることとして。終わった関係ばかりに目を向けるのではなく、新しい未来を信じて歩み出すことにした。
その後ガオーンは実の親から勘当を言い渡されたようだ。
◆
あれから数年、私は、資産家の青年と結婚した。
おかげで今は苦労はない。
過剰な贅沢はしていないけれど、快適な環境で暮らせているので、そんな日々を与えてくれている夫には深く感謝している。
穏やかな日々の中で楽しんでいるのは、野菜を育てることだ。
庭が広いので、好きに使うことができ、育ててみたい野菜を好きに植えることができる。そんな事情もあり軽い気持ちで始めたのだが、次第に範囲が広がり、今ではすっかり野菜を育てることが好きになってしまった。
打ち込めば打ち込むほどに見えてくるものがあるこの世界は、とても奥深く、とても楽しい。
もちろん失敗することもあるけれど、それもまた経験となり、明日の私を支えてくれる。
この趣味はいつも、無意味なことなど一つもない、と教えてくれる。
ちなみにガオーンはというと、実家を追い出された後路地裏を彷徨っていて不審者に刺され落命してしまったそうだ。
彼の最期は呆気ないものだった。
そして、同時に、孤独を絵に描いたかのようなものだったようである。
ガオーンの最期、彼の命の終焉を、傍で寄り添いながら見守る者はいなかった。
◆終わり◆




