56.サクナ姫は、なんで未来をみてんの?
サクナは静かに、しかし確かな決意を秘めて、エルフの王ゼルディスに向き直った。
サクナ「魔族狩りを法律で禁止してくれませんか。」
その言葉に、ゼルディスは一瞬、動きを止めた。王の瞳に影が差す。
ゼルディス「……条件がある。」
重々しく口を開いたゼルディスは、目を細めながら告げた。
ゼルディス「魔族たちが集まってできた革命軍を解散させることだ。」
ゼルディス「革命軍の目的は――魔王復活だ。」
その一言に、空気が凍った。アイカとサクナは、互いに顔を見合わせる。
やっとの思いで倒した魔王。奴が――また復活するというのか。
アイカ「魔王、復活しすぎじゃないですか……。」
冗談のようでいて、どこか本気の言葉だった。ゼルディスは小さくうなずく。
ゼルディス「そうだな。わしの記憶では、魔王は一度滅びれば百年は蘇らぬはず……。」
ゼルディス「だが、こうも続けて復活するとなれば、何か秘密があるのかもしれぬ。」
サクナ「絶対、あいつだけは復活させてはいけない。」
その声には、怒りと憎しみが宿っていた。ゼルディスはそんなサクナを見て、微笑んだ。
ゼルディス「あなたに怒りは似合わないぞ、美しい人間の姫よ。」
からかうようなその言葉に、サクナは静かに目を伏せた後、まっすぐにゼルディスを見据えた。
サクナ「ゼルディス王、魔王復活阻止の件、承知しました。」
サクナ「わたし、サクナと――勇者アイカが、それを阻止してみせます。」
ゼルディスはその場で手を打った。満足げな笑みを浮かべる。
ゼルディス「すばらしい!」
そして、ゼルディスは一つの赤い果実をサクナへと手渡した。
サクナ「この果実は……何ですか?」
ゼルディス「それは、我らエルフの国にしか実らぬ果物だ。」
ゼルディス「食べれば、その者が見る未来の光景が見える。」
躊躇なく、サクナは果実を口にした。
――瞬間、視界が揺れ、未来の幻が流れ込む。
そこに映ったのは、アイカとタイガーが戦う光景だった。
ゼルディス「……未来は、見えたかな?」
サクナは黙って、首を縦に振った。
アイカ「どんな未来だった?」
サクナ「……アイカがタイガーの心臓を突き刺す、光景が見えました。」
その名を聞いて、ゼルディスは頷いた。
ゼルディス「タイガーといえば、革命軍のリーダーの名だな。」
言葉と共に、口元には意味深な笑みが浮かぶ。
ゼルディス「勇者アイカ、そしてサクナ姫。」
ゼルディス「どうか、世界の危機を――もう一度救ってほしい。」
そう言って、王は深く頭を下げた。




