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31.エルフは、なんで暴走してんの?

空は曇り、まるで戦いの始まりを告げるかのように重たい空気が辺りを包み込んでいた。

漆黒の魔王城に向かって、銀の甲冑に身を包んだエルフの軍勢が一斉に突撃を開始した。


号砲もなく、ただ風を切る矢の音と、地を蹴る足音だけが響く。


だが、魔王城も黙ってそれを見てはいなかった。

巨大な門がきしむ音と共に開かれ、魔族たちが次々と姿を現す。

地面を揺らしながら飛び出してくる異形の軍勢。

その数は計り知れず、まるで地の底から湧いて出るかのようだった。


サクナ「……父様は、エルフの王を説得できなかったみたい」

魔王城を見上げながら、サクナが静かに言った。

その瞳に浮かぶのは、覚悟。


アイカは眉をしかめ、小さく息をついた。

アイカ「……やっぱり無理だったか。交渉は失敗」


そのとき、前方で戦うエルフたちの一部が、

魔族の圧倒的な力に倒れていく光景が目に入った。

マイはその惨状を目の当たりにし、思わず足を止めた。

両足が震えている。目の奥に、恐怖が広がっていくのが見てとれた。


そんなマイのそばに立ったのは、バイオレットだった。

バイオレット「お前は……俺が守る」


力強い声で言い切る彼に、マイはかすかに笑った。だがその声は震えていた。

マイ「……だから、震えてるの」


バイオレットの顔が一瞬、驚きに変わった。

バイオレット「なっ……おい! おい、マイ!」


サクナはそのやり取りに一瞬だけ視線をやり、すぐにアイカを見つめ直す。

その眼差しには、決意と誇りが宿っていた。

サクナ「……アイカ、前回とは違うよ。今回は、私たちがここにいる」


アイカはそんな彼女を見て、口元に笑みを浮かべた。

アイカ「……ああ、そうだな」


その声には、自信と仲間への信頼がにじんでいた。


アイカはこぶしを握り締めて、仲間たちに向き直って声を上げた。

アイカ「サクナ、お前は俺と前衛で戦え!」


サクナは信頼しきた顔で、

サクナ「はい!」とうなずいた。


アイカ「バイオレット、後ろは任せた!」


バイオレットは自身に満ち溢れた顔で、

バイオレット「了解!」と返事した。


アイカ「マイ、回復を頼むぞ!」


マイは不安そうに、

マイ「う、うん……!」とつぶやいた。


アイカの目が鋭く光る。

アイカ「行くぞ!!」


その一声と共に、仲間たちは駆け出した。剣が、魔法が、叫びが戦場を駆ける。


魔族たちは確かに強かった。だが、アイカたちもまた、それ以上の意志と力を持っていた。


サクナの剣が敵の前線を吹き飛ばし、アイカのこぶしが魔族をなぎ倒す。

バイオレットはマイを守りながら、魔法を敵を的確に攻撃する。


エルフ「おい、援軍だ! 援軍が来てくれたぞ!!」


戦場の端で、ひとりのエルフ兵が叫んだ。その声に、疲弊していたエルフの戦士たちの目に光が宿る。


エルフ「……これは……!」


エルフ「援軍が……!? 人間が、魔族と戦っている!?」

エルフ「きっと、勇者様だ」


次々とエルフたちの顔に希望が広がっていく。

絶望の淵に差した、一筋の光――それが、アイカたちの存在だった。


魔族の猛攻に対して、彼らの剣と魔法が切り拓く道があった。



魔王城から魔王が現れた。

運命の決戦が、今ここに始まった。

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