16.時を遡る時計
五年後、ある古びた酒場にて
夜も更け、酔いどれた人々の声が騒がしく響く中、
その隅っこで一人、泥酔した男が酒瓶を抱えていた。
アイカ「どうせ、俺なんて……俺なんてさ……」
テーブルに突っ伏しながら、アイカは虚空に向かってつぶやいた。
隣に座る金髪の女、サクナは深いため息をつく。
サクナ「また始まった……」
すると、後ろからタイガーが現れ、困ったように言った。
タイガー「おい、アイカ。時計が見つからないからって、
ネガティブなこと言うなよ。こっちもしんどくなるだろ」
アイカは虚ろな目で顔を上げたかと思うと、急に椅子を蹴り立ち上がった。
アイカ「……あ? 表、出ろや」
タイガーは一瞬唖然としたが、肩をすくめて笑った。
タイガー「しゃあねえな、ぼこぼこにしてやるよ」
二人はどたどたと酒場の入り口から外へと出ていった。
サクナは残されたグラスを見つめながら、ぽつりとつぶやく。
サクナ「アイカ……昔はかわいかったのになぁ」
アイカは身長が伸びて、180cmを超えになっていた。
外ではすでに取っ組み合いが始まっていた。
タイガーの拳がアイカの頬を捉える。
タイガー「ぐぅっ……!」
タイガー「……いててぇ!!」タイガーは拳を振って痛みに顔をしかめた。
タイガー「手がいかれてしまうぜ、お前何でこんな硬ぇんだよ」
ふらふらと立ち上がったアイカは、ふと空を見上げてつぶやいた。
アイカ「なぁ……時間を遡る時計って、どこにあるのかなぁ……」
タイガーは目を丸くして「あっ!」と叫ぶ。
タイガー「そういえば、オラが小さいころ、じいさんが時計の場所教えてくれてたは!」
アイカは激昂した。
アイカ「おい! 俺たちの五年間!! 何だったんだよ!!」
アイカ「ごめんね☆ てへぺろ♪」
そして――時の神殿へ
タイガーの案内で、三人は古の神殿「時の神殿」へとたどり着いた。
その入り口に立った瞬間――。
ゴォン!
タイガーの身体が、目には見えぬ何かに弾かれた。
タイガー「ぐわっ!」
アイカとサクナは慌てて戻る。
タイガー「どうしたんだよ、タイガー!」
タイガー「……入れねぇんだ。なんか、バリアみてぇな壁に跳ね返された」
サクナは顔を曇らせる。
サクナ「もしかして……魔族は入れないのかもしれない」
アイカ「は? ……お別れだぁ、じゃあなぁ!」
アイカはそう言い放つが、タイガーはどこか寂しげな顔をした。
その様子を見たサクナは、ぴしゃりとアイカを叱った。
サクナ「アイカ、それは……人としてダメだよ」
そして、やさしくタイガーに向き直る。
サクナ「タイガー、ここで待っててくれる? 私たち、神殿の中を調査するから」
タイガーは小さくうなずいた。
タイガー「ああ……了解だ」
神殿の奥、時を司る間にて
重く閉ざされた扉を越え、アイカとサクナは神殿の中心へとたどり着く。
その部屋の中央に、荘厳な時計が佇んでいた。
その瞬間、どこからともなく声が響く。
謎の声「――勇者とサクナ姫よ」「汝ら、過去へと戻り、魔王を討つのだ」
時計の針が、キィ……と音を立てて逆回転を始める。
サクナはその光景を見ながら、ふとつぶやいた。
サクナ「……タイガー、まだ外で待ってるのに……」
額に汗をにじませながら、サクナはそっと目を閉じた。