表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に残った、ただ一人  作者: 梅道
第1章 魔王退治
15/40

15.サクナの誓い

町の通りは活気に満ち、賑やかな声がそこかしこから響いていた。

そんな中、タイガーとサクナは肩を並べて歩いていた。


タイガー「……ここ、魔界だな。」タイガーが足を止め、周囲を見回す。

サクナは眉をひそめた。「人間が魔界にいたら、危ないよなぁ。見つかったらどうするつもり?」

タイガーはにやりと笑ってみせる。「まぁ、でもさ。魔界に住んでる魔族たち、人間を実際に見たことなんてほとんどないだろ? だったらバレないんじゃねぇかな。」

サクナはため息をついたが、その目にはどこか不安が浮かんでいた。


一方その頃――。

静かな丘の上、風に揺れる草花の中に、ひとり佇む少年の姿があった。アイカはナギの墓の前で、ぼんやりと空を見つめていた。


何も語らず、何も動かず。ただ時間だけが流れていく。


ふと、少年の瞳が細められる。記憶の奥底に眠っていた何かが、脳裏に蘇ってきたのだ。


アイカ「未来の俺が、魔王に倒された。」

アイカ「……この世界には、過去に戻る方法があるんだ。」

ぽつりと呟いたその声には、確かな意思がこもっていた。


アイカは静かに立ち上がる。

その瞳に宿るのは、悲しみでも、絶望でもない。生きる力――未来を見据える者の光だった。


物語は、静かに動き始めていた。


タイガーは両手いっぱいに食材を抱えて戻ってきた。

タイガー「食材、買ってきたぞ! 今日は俺のおごりだ!」

陽気な声に、少し張り詰めた空気がほぐれる。


アイカが、ふいに二人に視線を向けた。

アイカ「タイガー、サクナ……過去に戻る方法を知っているか。」


サクナは首を横に振り、冷めた声で答える。

サクナ「そんなもの、あるわけないよ。……」


しかしタイガーは腕を組み、何かを思い出すように眉を寄せた。

タイガー「いや、魔界のどこかに“時間を遡る時計”があるって噂を聞いたことがあるな。」


アイカの目が揺れた。

アイカ「本当か?」


タイガー「噂だぞ、あくまでな。」タイガーは苦笑する。


アイカは拳を握った。

アイカ「未来の私が、この時間にいたんだ……。きっと存在するはずだ。」


そして小さく息を吸い、二人に向き直った。

アイカ「タイガー、サクナを人間界に戻した後に……探すの、手伝ってくれないか。」


サクナは言葉を失い、寂しげにアイカの名を呼ぶ。

サクナ「……アイカ……。」


タイガーは腕を組み、天を仰いだあと、にやりと笑った。

タイガー「そうだなぁ。魔王様のところに戻っても殺されるだけだしな。それにナギちゃんは俺にとっても友達だ。……了解! 付き合うぜ。」


アイカの表情が少し和らいだ。

アイカ「人間界に戻るには、どこへ行けばいい?」


タイガー「魔王城が一番人間界に近い。」

タイガー「そこからなら、人間の住むところに帰れる。」


アイカ「魔王城に向かおう!」アイカの声が強く響いた。

アイカ「それでいいよね、サクナ。」


サクナは胸を押さえ、俯いたまま呟いた。

アイカ「アイカ……一緒に人間界に帰ろう。」


そして顔を上げ、

サクナ「君は、頑張ったよ。過去に戻ってナギちゃんを助けても、君が報われるとは限らないんだよ。きっとその世界線のアイカとナギが幸せな家庭を持つ……そういう未来になるんだ。」「アイカは幸せになれない」

サクナは手を差し伸べる。

サクナ「私たちの国で……一緒に暮らそう!」


アイカはその手を見つめ、寂しそうに微笑んだ。

アイカ「……もう、決めたことなんだ。」


サクナはそれでも優しく笑い、首を横に振る。

サクナ「きっと“過去に戻る時計”は見つかる。そして過去に行ける。でも、君は一人じゃ魔王に勝てない。」


アイカ「……ああ。」アイカは頷く。


サクナは一歩踏み出し、さらに手を伸ばした。

サクナ「アイカ。“俺に付いて来い”って、そう言ってほしいんな。」

サクナの声は強く、しかし優しかった。

サクナ「今度こそ、ナギちゃんを助けて……一緒に魔王を倒そう!」


アイカはその手を強く握った。

アイカ「……ありがとう。」


風が二人の髪を揺らし、決意の影がその瞳に宿る。

旅は、再び動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ